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『逃走中』『ノイタミナ』を生み出したプロデューサー・高瀬敦也氏が語る、AI時代に食いっぱぐれないためのスキルとは。「あせらずに現有戦力でやっていく」など、ユニークかつ“優しい”(?)仕事術を訊いた

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大人気番組「逃走中」の“思わず見てしまう”画期的なシステム

梅田:
僕はゲームクリエーター、ゲームプロデューサーなので、やはり一番気になるのは「逃走中」なんです。本当にすごいスキームですけど、そもそもどういう発想から始まったんですか?

高瀬:
もともとはテレビのサッカー中継を見ていて、当時は画面の端に表示されている残り試合時間がカウントダウンだったんですよ。興味のない試合だったんですけど、残り2分ぐらいだったからつい見ちゃったんです。まあ、試合終了のホイッスルが鳴るまでは見よう、と。

その時「あっ!」と思って。バラエティの番組でも、たとえば60分番組だったら「60分間ずっとカウントダウンしていたら、視聴者は見ちゃうんじゃないか……?」と思ったのがきっかけです。

梅田:
それを「鬼ごっこ」というゲームと繋げたのはなぜですか?

高瀬:
最初は「渋谷で鬼ごっこする」という設定だったら話題になると思ったんですよ。“テレビだからできるあり得ないこと”をすごくやりたかったんですよね。

もうちょっと理屈っぽく言うと、カウントダウンをするには何か新しいゲームを考えないといけない、でも新しいゲームをやっても誰も見てくれない。それなら、みんなが知っているルールで分かりやすいことをやろうと思って鬼ごっこにしたんです。

梅田:
「みんなが知ってるルール」というのはアドバンテージがありますよね。

高瀬:
じゃあ、どこで鬼ごっこをやるのか。僕は渋谷区で生まれて育ったので、あの渋谷の早朝のなんとも言えない空気が好きだったんです。それまでの深夜の喧騒がウソのような、異世界転生したようなヘンな感じじゃないですか。

最初の企画書は「51分45秒」というタイトルでした。パイロット版を放送しようとしていたBSの放送枠がCMを除くと51分45秒だったからです。

梅田:
「逃走中」は他にもスゲぇなと思うことがたくさんあって。たとえばハンターのシステムですよね。あのハンターの格好は何から発想したんですか?

高瀬:
ハンターを作る前に、まず逃げることに特化した番組にしようとしたんです。普通の鬼ごっこなら、追っ手側も描きたくなるんですけど、あえて逃げ手に特化していて。

僕ら制作陣の考えでは、あの番組はゲームショーではなくドキュメンタリーなんです。逃走者の心の内を見る“心理逃走劇”というキャッチコピーを使っていましたけど、まさに逃げ手の心理を描くドキュメントショーという認識でした。

梅田:
ドキュメンタリー観ている感覚になりますよね。「逃走中」って。

高瀬:
それなら「追っ手は極端にキャラづけしないほうがいい」と思ったんです。でも、ひと目で視覚的にあのキャラが出ているのは「逃走中」だよね、というアイコニックなものを作らないとダメで。そこでハンターという異質なキャラを作ろう、と。

でも、最初のBSのパイロット版をやる時は予算がないので、金がかからなくて違和感を出そうとしたら、古来からあるサングラス&黒スーツになった、という。洋服の青山に行けば2着2万円とかで買えるから(笑)。

梅田:
ハンターの衣装は洋服の青山で揃えられる(笑)。

高瀬:
金があったらもっとゴテゴテした衣装にしたと思いますよ。ハンターのビジュアルもそうですけど、僕は番組タイトルって基本的には覚えてもらえないと思っているので、「逃走中」という名前は「いま誰かが逃走しているんだよ」っていうテロップ的な説明なんですよね。

梅田:
いや、ネーミングのセンスが半端ないと思います。「逃走中」ですよ。それ以外考えられない、めちゃくちゃなハマり方をしてるな、と。

『逃走中』『ノイタミナ』を生み出したプロデューサー・高瀬敦也氏が語る、AI時代に食いっぱぐれないためのスキルとは_011

100万本以上売れたゲーム「逃走中」でこだわったのは“疑似体験”

梅田:
あと、「逃走中」ってヨーイドンで始めたらあとは筋書きがないドラマじゃないですか。その場合、キャスティングが重要になると思いますが……。

高瀬:
まさに梅田さんの想像通りでキャスティングがカギなんです。筋書きはないけど、制作の意図はあるわけで、キャストはその意図をちゃんと汲んでくれるかどうか。だから芸人さんをいっぱい入れないとダメな番組なんです。

かつ、基本的にはひとりにつきカメラ1台のワンショットショー。だからワンショットで画を持たせられて、トークで面白いフリが作れないといけない。そこはやはり芸人さんの能力ですよね。「スポーツ選手限定大会とか、役者さん限定大会もしなよ」といろんな人に言われましたけど、絶対ダメです。芸人さんが最低でも2/3はいないと成立しないんですよ。

梅田:
そういえば筋書きのないドラマの中で、たまに炎上気味になることもあったじゃないですか。一番多かったのは、リタイヤのシステムにまつわる炎上ですよね。あれはプロデューサー目線からするとおいしい展開だと思うんですけど……。

高瀬:
もちろんです(笑)。最初のきっかけはドランクドラゴンの鈴木(拓)さんでしたね。鈴木さんのリタイヤは本当にありがたかった。あんなにコストがかからないプロモーションはないですよ。勝手にYahoo!ニュースになりましたから。

梅田:
ゲームとしてリタイヤできるルールなのに、「リタイヤして炎上って何だよ!」って思いますけどね(笑)。

あと、「逃走中」はゲームが100万本以上売れましたよね。ゲーム業界からしても大ヒットなんですけど、番組を企画する時にゲーム化することもイメージされていたんですよね?

高瀬:
もちろんです。僕はゲームで育った世代ですし、そもそも番組の画づくりからしてゲームを意識していましたから。

『逃走中』『ノイタミナ』を生み出したプロデューサー・高瀬敦也氏が語る、AI時代に食いっぱぐれないためのスキルとは_012

梅田:
ドキュメンタリーショーとビデオゲームの一番大きな違いってどこだと思いました?

高瀬:
それは正直考えたことがなかったですね……。

梅田:
僕が想像するのは、インタラクションの部分です。「ユーザーが介入できる」というゲームの特徴を高瀬さんがどう感じたのか気になるんです。

高瀬:
各論のゲームづくりのテクニックは素人なので分からないです。ただ、「Numer0n」もそうなんですけど、テレビの最大のメリットって簡単に疑似体験できることだと思っていて。家で鼻クソほじりながら見ているだけで体験できる、そのお得感。

「逃走中」のゲーム版は、テレビよりもっと疑似体験したいという気持ちが喚起できれば、絶対に売れると思ったんです。テレビは客観の部分があるし、やはり主観で主人公なれるのはゲームかなって感じですね。その視点でテレビ番組を作れば全部ゲーム化できるし、ワンチャンものすごいヒットが生まれるかもしれないけど……。

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物事の優先順位は「どっちが後で大変か」を4次元的に考える

梅田:
書籍「スキル 仕事で使える変な力たち」は電ファミの読者のみなさんにもおすすめなんですけど、僕が具体的なところで刺さったのが、第3章「身を守る」の「優先順位力」という項目。「優先順位は4次元的に考える」という言葉があって、すごく面白いし、めちゃくちゃ重要な力だと思ったんですよ。

高瀬:
えー、うれしい。

梅田:
僕はゲーム開発の場面がまず思い浮かんだんです。本来なら先にやらなきゃいけないことがあったとしても、ゲーム開発の2年というスパンで考えたときに、Aという主力スタッフのモチベーションを上げておかないと、1年後にAが辞めちゃって、トータルの開発に3年かかるということも起こりうるわけで。

高瀬:
そうそう。

梅田:
 4次元的に考えたら、いまやるべきなのはAの話を聞くことになる。高瀬さんが優秀である理由のひとつだな、と思いました。

高瀬:
日々の生活もそうじゃないですか? たとえば、僕はいま子育てをしていますけど、仕事もしなきゃいけないし、掃除もしなきゃいけないし、子どものメシも作らなきゃいけない。超カオスなんですよ(笑)。

優先順位の話で言えば、子どもが泣いてしまったとき、このまま泣かせておいて別のことをしていいのか、すぐに泣き止ませるべきか……。結局は「どっちが後で大変か」ですね。

梅田:
みんな目の前のことを気にするけど、そんなに目の前のことばかり気にしなくてもいい、みたいな。

高瀬:
別にリスクがないなら、放っておいてもいいじゃないですか。

梅田:
これはゲーム開発においてもめちゃくちゃ役に立つ考え方だと思います。だから、4次元的に考えるという表現がめちゃくちゃ僕にはハマったんですよね。

あと、第1章の「人を動かす」で、「リーダーシップ力」について言及されているんですけど、結局は「リーダーシップ力なんていらねぇよ」みたいな結論に近いですよね?

高瀬:
もっと言うと、人に動いてもらう、ということです。人を動かすんじゃなくて。

梅田:
この考えが高瀬さんらしい。みんなリーダーだからと言って肩肘張らなくてもいい、そのままをさらけ出したほうが好かれるんだから、それでいいじゃん、ということも書いてあって。

高瀬:
僕はよく言えば合理的だけど、悪く言えばとにかく面倒くさがり屋ですね。現在も、将来にも余計なストレスは排除したいというだけ。本当にそれだけです。

梅田:
この本にはいろんなスキルが書かれていますけど、いまの時代の人も僕らぐらいの世代の人も、なにかスキルを身につけなきゃいけないと焦ることもあると思います。でも、たぶん高瀬さんが言いたいのは、焦らないスキルも大切だということなのかな、と。

高瀬:
そう、“学ばないスキル”ですね。あと、「現有戦力でやっていく方法」ですかね(笑)。

梅田:
新しいスキルを身につけたり、パワーを手に入れるより、あなたはすでに持ってるでしょう、と(笑)。

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人間社会で生きることに前向きであればAI時代でも食いっぱぐれない

梅田:
今日、最後にお聞きしたかったのがAIについて。いまAIの時代になって、生成AIがこれだけ盛り上がっているなかで、コンテンツを作る人はAIとどう向き合うのか……。

高瀬:
結論から言うと「どうなるか分からない」です。みんなちょっと前まで生成AIのことを考えていたけど、AGI(汎用人工知能)が盛り上がってきて、そうなると生成ですらないですから。だから、とりあえずいま便利なものを使うしかない。

これはAIに限った話ではなくて、新しいものが出たら興味を持って、利用してみるというスタンスです。カッコつけているワケじゃなくて、分からないなら考えても無理じゃん、と。

梅田:
「分からないから考えても無理」って高瀬さんらしいですね(笑)。

高瀬:
そこで「クリエーターの仕事って何?」となった時に、一見すると超厳しくなりそうな気もするけど、たとえば棋士はAIに将棋で勝てない時代になっても、藤井(聡太)さんの8冠は賞賛されるわけじゃないですか。車が発明されても、乗馬を楽しんでいるわけで。人間が作るクリエイティブ自体にも価値が出るのかもしれない……と考えていたりします。

梅田:
AIやテクノロジーが発達しても人間のクリエイティブの価値が下がるわけではないと。

高瀬:
あと、仕事として稼ぐという意味で言うと、クリエイターのやっているいわゆる実務的な工程はAIができるとしても、偉い人やお金を持っている上位階層の人たちがAIを使うわけではないじゃないですか。AI、AGIに対するコミュニケーションは誰か他の人間にやらせるんですよ。それならクリエーターがAIを使えばよくて、そこの解釈だったり、指示出しだったり、もしくは選別だったりというのは結局クリエーターに委ねられるので。

だから、普通に「気のいい兄ちゃん、姉ちゃん」として仕事をしていれば、食いっぱぐれることはないんじゃないですか。

梅田:
あぁ、その考え方はとても面白いですね。

高瀬:
もちろん。コミュ力が必須ということを言いたいわけじゃないんだけど、人間社会で生きることに対して前向きであることは大事かもしれないですね。まあ、いろいろ言いましたけど、結論は「分からない」ということです(笑)。

梅田:
ということは、高瀬さんは悲観はしてない、と。

高瀬:
僕も古い人間なので、古き良き世界観は好きです。たとえば看護師さんの存在ですね。機械じゃなくて人というか、病んだ時にはやっぱり看護師さんにいてほしいじゃないですか。そういうことです。それはビジネスの場面じゃなくても同じ。

梅田:
本を読んでいても思うですけど、なんか高瀬さんは優しいですよね。この新刊を読んで、高瀬さんのことがもっと好きになりましたもん。

高瀬:
えー、うれしい(笑)。今日は非常に気分良く、自己肯定感も爆上げの時間だったので、コスパのいい体験でした。

梅田:
僕にとってもコスパのいい体験でした。ありがとうございました!

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[対談後記]

あの「逃走中」「ノイタミナ」を生み出した高瀬さん、敏腕TVマンから起業されたその経歴のイメージから想像していた人とはちょっと違っていて、とても温和で優しい感じの方なんですよね。「スキル 仕事で使える変な力たち」もそんな高瀬さんの人柄が滲み出ている、優しいビジネス本なんです。

今回のインタビューで高瀬さんのお話を聞いて思ったのが、エンタメのプロフェッショナルである高瀬さんはきっと自分や自分の作ったコンテンツと関わって、人が残念な想いをするのが嫌なんだなということ。最後、良い気持ちになってほしいという気持ちがものすごく強いんだなと思いました。話をするときにまずハードルを下げるっていうのも、きっと話し終わったあとに残念な想いで終わらないような気配りなんだと思います。それを徹底している高瀬さんって優しいと同時にやっぱり凄いエンタメコンテンツクリエイターで、期待値よりも常に最終的に上に着地させることを考えているとも言えます。ポイントだと思うのは、着地点における満足度の絶対値と相対値を両方上げることを意識されている点です。

絶対値をあげるための武器、たとえば「スキル」みたいなものは基本的に無茶苦茶すごい武器をすぐに手にいれるのは難しいから、いま持っているものを発想を転換することにより武器に変える、そして最終の満足度をあげるためのスタート地点を工夫することから始める。そうすることで勝率と勝ち幅を増やしている気がします。経営者として興味深いのは、敏腕TVマンで順風満帆に見える高瀬さんがフジテレビを辞めて起業している点です。これも4次元的にみたらそちらのほうが高瀬さんにとって良い結果になる可能性が高いということなんだと思います。

 高瀬さんがいま多くの人とさまざまな取り組みをされているなかで、近々、とんでもなくすごいビジネスなどが生まれていく気がしています。 


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インタビュアー
株式会社イザナギゲームズ プロデューサー 兼 CEO。「デスカムトゥルー」「ワールズエンドクラブ」「冤罪執行遊戯ユルキル」などをプロデュース。また、ゲームのみならず、WebトゥーンやMCバトルなども手掛けている。アニメ作家谷口崇がデザインしたコン梅田というキャラクターで活動することが多い。 Instagram: @kon_umeda
Twitter:@umeizanagi
ライター
1989年生まれ。編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、フリーランスに。映画、ドラマ、ラジオなどエンタメジャンルを主戦場に、書籍・雑誌の編集、インタビューの取材・執筆を担当。直近の担当書籍に『The Art of Ron Cobb コンセプト・アーティスト ロン・コッブの仕事』『タローマン・クロニクル』など。
Twitter:@h_ymsk

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