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『オクトパストラベラー』シリーズの「よく動く2Dドット絵」はどのように作られているのか。イチから全て描くのではなく、“ドット絵を多関節モデル”に分解してアニメーションを作ることで、効率的な制作が可能に【WePlay Expo 2023】

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ゲームソフトの進化スピードはすさまじい。

例えば、初代プレイステーションが発売されたのは1994年、いまから約30年ほど昔のことだ。当時としては最先端だった3Dグラフィックも、現代のものと見比べてみるとその差は歴然。もちろん過去の名作の面白さを否定するわけではないが、グラフィックだけを見ても恐ろしいほどの進化を遂げているのは間違いないだろう。

1999年の『立体忍者活劇 天誅』(以下、天誅)をデビュー作とするゲームメーカー・アクワイアは、ちょうどこの30年間を戦い抜いてきた開発会社のひとつだ。近年では『オクトパストラベラー』シリーズなどを代表に世界的にも高い評価を獲得しており、「独自性」や「奇抜さ」をキーワードに掲げたコンテンツの開発に取り組んできている。

今回、電ファミ編集部では11月17日から中国・上海で行われた大規模インディーゲームイベント「WePlay2023」の取材を行った。同イベントの一環として講演会「CiGADC」も実施されており、その講演のひとつとしてアクワイアの代表取締役・遠藤琢磨氏によるセッションも行われた次第である。

本稿ではそのセッション「『天誅』から『オクトパストラベラー2』まで、アクワイアのゲーム開発の変化」の模様をお届けしていきたい。

『オクトパストラベラー』シリーズの「よく動く2Dドット絵」はどのように作られているのか_001

『天誅』から『オクトパストラベラー』まで、アクワイア30年の歴史

講演ではまず、アクワイアの約30年にわたる歴史について『天誅』と『オクトパストラベラー』のふたつの作品を代表に挙げながら紹介された。

1999年に初代プレイステーションで発売された『天誅』は、アクワイアのデビュー作であり、同時に遠藤氏が会社を立ち上げて初めてディレクションしたタイトルである。世界販売本数は200万本と、当時としてはかなりのヒットを記録しており、ステルスアクションゲームの源流のひとつとなった。

『オクトパストラベラー』シリーズの「よく動く2Dドット絵」はどのように作られているのか_002

一方の『オクトパストラベラー』は第1作が2018年に新規タイトルとして発売され、すでに世界での販売本数は300万本を突破。ドット絵と3Dを融合させた古くて新しいビジュアル「HD-2D」を特徴とし、同作は中国でもかなりの成功を収めているという。

そして2023年に発売された続編が『オクトパストラベラー2』。同作はメタスコア86点と前作から10ポイント以上の向上を果たし、すでに100万本を売り上げたとのこと。『オクトパストラベラー』シリーズ2作については、どちらも「Unreal Engine」を導入し、効率的な開発ができたと語っている。

初代PSのスペック限界と戦った『天誅』の開発

今回の題材となるふたつの作品に関する紹介が行われたところで、トピックは『天誅』の開発にまつわる話題へと移る。本作が開発されていたのは1995年ごろで、当時のPC環境は原題と比べると非常に貧弱なもの。開発工程ではPCのフリーズによってやり直しになってしまうケースが何度も発生したそうだ。

さらに『天誅』のプラットフォームである初代プレイステーションのスペックの制約も厳しく、敵は4体同時に表示するのが精一杯。ゲーム中のステージマップも12メートル程度を描画するのが限界であり、その先は真っ暗になってしまう。

こうした課題を解決するのに、同作の「忍者」という設定は活躍を見せた。ステルスゲームであれば大量の敵と斬り合うシチュエーションを描く必要はないし、先が暗闇になっているのも“闇に紛れる”ようなイメージと噛み合っている。

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開発環境に由来する苦労は他にもあり、当時はテストプレイをする際にもいったんCD-ROMへゲームのデータを焼きつけなくてはならなかった。すぐに実行、検証できるプログラマーボードも存在はしていたものの、当時のPCと比べてもその価格は10倍ほどにおよび、運用できる数は限られていたという。

そこでアクワイアでは、デバッグ機で直接開発できるような仕組みを整え、テストプレイと調整をスムーズに行える体制を作り上げた。これにより、デバッグ機の中で敵を配置してすぐにテストプレイができ、調整が大きく効率化。さらに開発期間が少なくても致命的なバグを少なく抑えることもできたと語られた。

また、当時はプログラム中に直接データを置くのが主流のやり方であったが、アクワイアではプログラムとデータを分離する手法を採用。これもまた開発効率の向上につながったという。

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『オクトパストラベラー』のキャラクターアニメ開発秘話

1995年の開発にまつわるトークがひと区切りついたところで、トピックは『オクトパストラベラー』を題材とする現代の開発体制へと移行。まず『オクトパストラベラー』シリーズをはじめ、現在のアクワイアが手がける大型タイトルでは上でも挙げた「Unreal Engine」を運用する場合が多いと紹介された。

特に『オクトパストラベラー2』では、前作のヒットによって開発費も増え、開発規模は拡大。さらにゲームデザインがアクワイア側に一任されることによって時間のロスが減り、結果としてさらに品質向上に時間をかけられるようになったという。

『オクトパストラベラー2』で用いられた特徴的なツールのひとつが、ウェブブラウザ上でワールドを管理するツールだ。こちらでは細かなレベルデザイン、敵のパラメータ、配置データなどの設定が行えるようになっている。

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ブラウザはアートワーク面でも用いられており、キャラクターアニメーションなどの確認のために使われた。これによって開発チーム内でのイメージ共有が効率化されたと遠藤氏は語る。

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なお『オクトパストラベラー』シリーズのキャラクターアニメーションでは、多関節アニメーションをドットに起こすという方法を取っているとのこと。これには、もともとアクワイア自体が3Dポリゴン世代のゲーム会社であり、ドット世代ではないという背景があるそうだ。

その方法としては、まずドットでベースとなるキャラクターのビジュアルを制作する。それをツールを使って自動で多関節モデルに分解し、アニメーションをさせるという具合だ。この方法は全パターンのドットアニメーションを制作するよりも効率的で、多くのアニメーションを収録できる。その一方でドットとして破綻している場合もあるため、細かい部分についてはひとつひとつ手で修正しているとのこと。

会話のイベントシーンやアビリティの発動シーン、昼夜の切り替えなどには「Unreal Engine」のシーケンサーを使ってイメージを再現。特に昼夜の切り替えがいつでもシームレスに行えるというのは『オクトパストラベラー2』のこだわりポイントのひとつであり、この際BGMも切れ目なく変化するところに注目して欲しい、と遠藤氏は話した。

また『オクトパストラベラー2』ならではの開発の方針として、開発早期から作曲家を参加させ、BGMの再生や演出のタイミングにあわせた作曲を依頼していたという。一方で開発期間中に新型コロナウイルスの感染拡大を受け、Slackなどのコミュニケーションツールを用いた在宅ワークの体制を整える必要もあるなど、さまざまな苦労が語られていた。

この後はイベント参加者との質疑応答へと移る件となったが、その際にはなんと10月に発売されたばかりの『XALADIA: Rise of the Space Pirates X2』と、未発売の新作『Ancient Weapon Holly』の体験版Steamコードが会場の全員に配布。まさかのプレゼントに会場全体が少しざわめいたことは記しておこう。

質疑応答

──遠藤さんはもともと技術面の方向からゲーム開発に携わってきた方だと思いますが、今では社長という立場でお仕事をされています。社長として、技術とマーケティングのそれぞれに割くリソースのバランスはどう取られているんでしょうか。

遠藤氏:
確かに、いまは自ら技術面を先導しているわけではなく、マーケティングやマネジメントを主に仕事をしています。ただ自分たちの強みを理解しておくというのは経営者としても重要なポイントですから、技術者たちからその技術を学ぶようには心がけていますね。

──『オクトパストラベラー』は中国でも人気作のひとつですが、ずばり「RPG」というジャンルで一番大切なものはなんだと考えられていますか?

遠藤氏:
トータルで言えば“体験”ではないでしょうか。一本のゲームとしてどんな体験ができるのか、それが大切だと思います。もちろんストーリーや音楽、ゲームメカニクスも大切なところですが、それ以外の満足度も重要になってくると考えています。

──これまでのゲーム開発の中で、もっとも心がけてきたことは何でしょうか。

遠藤氏:
アクワイアとしては「新しいものを作りたい」という想いをもっとも大事にしています。ほかの会社と異なる作品になるかどうか、オンリーワンになれるかどうか、業界にインパクトを与えられるか……というところを気にしていますね。

──『オクトパストラベラー』を代表とする「HD-2D」のビジュアルは、今や広く知られて多くの開発者が使うようになってしまいました。この状況についてはどう考えられていますか?

遠藤氏:
そうですね、あまり言えることもないんですが……(笑)。我々としてはもう「HD-2D」の次の表現を目指して開発を進めています。

──私たちのチームでもターン制のRPGを制作しているのですが、まだ紙の上で作っている段階です。遠藤さんとしては、早くデジタルでの制作に移行した方が良いと考えられますか?

遠藤氏:
それは早くデジタルに移行した方が良いですね。実際にデジタルに落とし込んだとき、あらためて向き合わなくてはならない問題というのが必ず現れてきます。特に戦闘なんかはデジタルゲームにすると何度も何度も繰り返し遊ぶ要素になって来るので、プレイヤーさんに飽きられないよう対策を練る必要があると思います。

実は「RPGのバトルを最後まで飽きさせずに楽しませる」というのはすごく難しいことなんです。大手メーカーによる大作RPGでも、最初は楽しいけれどだんだん飽きてきて、後半は早くストーリーが見たい……というだけになってしまうケースは少なくありません。


「ハードウェアのスペック限界」というのは過去のゲーム開発を振り返る上で見逃せない話題のひとつ。『天誅』でも「忍者」という設定で敵やフィールドの描画の限界をうまく料理したというが、この方針には同じくステルスゲームというジャンルを開拓した『メタルギア』にも通じるものを感じられた。

また今回の講演で特に興味深かったのは、3Dポリゴン時代に起ち上がった「アクワイア」というメーカーが『オクトパストラベラー2』のアニメーションを手がけるうえでの工夫だ。「多関節アニメーションをドットに起こす」という方法は何とも現代的であり、“ドット絵と3Dの融合”という『オクトパストラベラー』の特徴とも深いつながりを感じる。

「新しいものを作りたい」という理念を掲げるアクワイア、しかしその裏には確かな経験に裏打ちされた技術があることは間違いないだろう。今回、体験版が配布された『Ancient Weapon Holly』をはじめ、今後同社が手がけるタイトルにも注目していきたいところだ。

ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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