冬の朝は憂鬱だ。目覚ましで無理やり起こされて目を開けると、首に当たる布団の外の空気がすでに冷たく、起き上がるのが億劫だ。それでも日々をやっていかなければならない我々は、なんとか起き上がってその日を始める。
それは画面の中の彼女も同じ。プレイヤーは部屋の中をクリックして彼女の身支度を進めさせて、遅刻しないよう出発させる。手描きのグラフィックで描かれる「朝」は身近なシチュエーションで共感に満ちている。朝のひんやりとした空気と寝起きの頭のぼんやりとしたムードを感じさせるような、青一色の画面は生活の一場面でありながらもスタイリッシュだ。
本作は、そんな「当たり前の日常を送る人を描いたポイントアンドクリックアドベンチャー」──ではない。
支度を終えて無事出発!と思いきや、出発後に事故のような「ガシャン!」という大きな音が鳴って画面が暗転する。
何事だ。呆然とするプレイヤーを置き去りに画面がズームアウトし、先ほどまでのどこかあたたかみのある可愛らしいプレイ画面とは対極の、3Dグラフィックが現れるのだ。
「当たり前の日常を送る人を描いたポイントアンドクリックアドベンチャー」は画面内のパソコンに表示されている。先ほどまでプレイしていたのは本作ではなく、『(More)Perfect Day』の画面の中の出来事だったのである。
プレイを初めてすぐ、劇的な展開を迎える本作。itch.ioにて配信中のものと同じバージョンを1月20日・21日(土・日)に開催された「東京ゲームダンジョン 5」にてプレイすることができたので、その特異な体験をお伝えしていく。
文/anymo
運命を捻じ曲げる謎の仕事を謎の存在に指示されながら進める
これを理解すると同時に、間髪を入れずに電話がかかってくる。先ほどまで操作していた女の子がかけてきたようで、「とにかく、何があっても家から出さないでください」という依頼をされる。方法は謎だが、事故に遭わないよう運命を捻じ曲げるよう頼んできたようだ。
プレイヤーは謎の存在の導くまま、「仕事」のチュートリアルとして冒頭の女の子をなんとか家から出さないよう、電波妨害で目覚ましを壊したり、彼女が最下位の占いをテレビに流すなどのさまざまな不幸を人為的に起こしていく。こうして家を出る気力をしっかり削いだところで、彼女は家を出ることを諦めてくれた。
ゲームの場面が自分の経験と接続される
本作のユニークなポイントは、彼女に起こしたひとつひとつの小さな不幸が「あるある」である点だ。どう考えてもここに置いたはずの鍵が他のところを探して戻ってきたらひょっこりと出てきたり、絶対にかけたはずのアラームが鳴らなかったり。こういった出来事がもし、我々の知覚できない存在に操作されているのだとしたら?
プレイヤーも一度は感じたことのあるような日常の「あるある」が盛り込まれていることで、「もしかしたら自分が体験したあの出来事も……」と不思議な感覚に陥る。この世界が仮想現実であるという思考実験を思わせる、哲学的なテーマに呑まれるプレイ体験が楽しめた。
彼女を救えたと安心するのも束の間、次の展開ではこの世界のとあるルールとより大きな目標が提示される。果たしてこの行為は正しいことなのだろうか、プレイヤーのしている「仕事」とはなんなのか、なぜ画面の向こうに干渉できるのだろうか。ゲームとプレイヤーの関係にも似たようなメタ構図で描かれる本作は、プレイ後に思考を巡らせずにはいられないエッセンスで構成されていた。
「短編SF小説のような」体験ができる本作は、東京藝術大学の学生が手がける作品とのこと。itch.ioにて無料で公開中だ。
また、亡くなった人をAIとして復活させる架空の企業をモチーフにした3作品を収録した『Living as me, and dead as it.』も同じく無料で公開されているので、ぜひあわせてチェックしてほしい。