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『ベルセルク』モズグス様みたいな「異端審問官」になれるゲーム『ジ・インクイジター』が思ったよりブっ飛んだ世界観だった。「暴力万歳なキリスト教」世界では復讐こそが善であり、慈悲深きは罪である

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異端審問【いたん‐しんもん】──「(inquisition) 13世紀以降、カトリック教会で、異端者の摘発と処罰のために設けた審問制度。ローマ教皇直属の機関で、徹底した密告制度と拷問を伴う尋問を特色とした。のち、プロテスタントも採用。」(広辞苑より)

みなさんは「異端審問官」をご存じでしょうか。
そうですよね、あまり聞き馴染みはありませんよね。実際私もよくは知りません。

広辞苑には上述したような説明がありますが、これだけ聞いてもピンとこないんじゃないでしょうか。
ということで、私がよく知る高名な異端審問官の方をご紹介したいと思います。

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モズグス様です。

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もちろんみなさんご存じかと思いますが、念のためモズグス様について説明しておきます。
彼は漫画『ベルセルク』の登場人物で、作中世界の宗教の司教であり、異端審問官の職についています。

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普段は敬虔なる司教であり、温厚な振る舞いをするモズグス様。

「頂礼」と呼ばれる、全身を床に叩きつける過酷な礼拝を、1日1000回、10年間続けるほどの篤い信仰心を持った敬虔なる神の使いです(ちなみに顔が真四角なのはこの頂礼によるもの)。

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そんなモズグス様も、異教徒・異端者(とモズグス様が認定した者)に対しては豹変。恐ろしき異端審問官へと姿を変え、惨たらしい拷問や処刑の裁きを容赦なく下します。500人以上を極刑に処してきた彼に付けられた異名は「血の経典のモズグス」。作中世界で最も有名で恐れられている異端審問官です。

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さて、モズグス様の活躍を通して異端審問官という仕事の一端が分かったところで、本題に入りたいと思います。何故こんな話をしたのかというと、実はそんなモズグス様のように異端審問官としてプレイできるゲームがあるんです。

ということで本稿では、2月8日発売の断罪アドベンチャー『ジ・インクイジター』について紹介していきます。神を忘れた不信仰者に慈悲を与えるのか、あるいはモズグス様のように苛烈な異端審問官(インクイジター)として無慈悲なる裁きを下すのか、すべてはあなたの選択次第です。

なお、モズグス様の活躍について詳しく知りたい方は、『ベルセルク』第17巻~21巻に登場していますので、ぜひそちらをご覧ください。

文/Grezzz

※この記事は『ジ・インクイジター』の魅力をもっと知ってもらいたいKalypsoMediaさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


ブッ飛んだキリスト教の設定がスゴい。十字架から地上に降り立ち、迫害者たちへ自ら復讐を果たしたイエス様

まずは本作の特徴である独特の宗教観について説明しておきましょう。『ジ・インクイジター』の世界では、私たちがよく知るものとは異なるキリスト教の姿が描かれています。

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本作中のイエス・キリストは、「磔にされたものの殺されることなく、十字架から地上に降り立ち、自身を迫害した者たちへ血まみれの復讐を果たした」という割ととんでもない設定になっています。我々が知る、「慈悲深きキリスト」とはまったく異なる、無慈悲なる存在。それが『ジ・インクイジター』におけるイエス・キリストです。

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▲作中の宗教観がよく分かるセリフ。慈悲深きは罪である

このキリスト教観のもとでは、すべての価値観が逆転しています。「慈悲」を与えるような行為は罪であり、暴力による「復讐」こそ善行とされています。

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▲歪んだ十字架がこの世界のキリスト教のシンボル
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▲剣を持った勇ましいキリスト像

この独特の宗教観は、ゲーム中のあらゆる場所にその影響を及ぼしています。「いびつな壊れた十字架」は、「キリストが死なずに十字架から降り立った」という宗教的シンボルであり、復讐者としてのイエスは「剣を手にしたキリスト像」としてあちこちに設置されています。

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また、作中ではキリスト教が強大な権力を振るって社会や政治に多大な影響力を与えており、それは貧富の差としても現れています。開発者によれば、陰鬱で暗い街並みと対照的に豪華で壮麗な大聖堂が、この権力構造を象徴しているとのこと。

現実の宗教が元ネタになっていることもあり、「いろんなところから怒られたりしないか?」と心配になってしまう挑戦的な設定ですが、開発者によれば「ある程度議論になることは織り込み済み」であり、「バランスを取るということを重要視した」とのことでした。

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▲なお、ゲームロード画面の左下には、こうしたメッセージがランダムで表示されます。これらはオリジナルではなく、本当にある聖書の一節。ゲームの雰囲気に合ったものを引用しているようで、これらの聖句は、プレイヤーがゲームの重厚な世界観に浸る手助けとなり、また物語の宗教的なテーマを反映していると言えるでしょう。

インクイジターに課せられた使命。秩序と信仰のため、暴力により断罪せよ

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主人公は、ヘズ・ヘスロンの大司教から叙任された異端審問官(インクイジター)モーディマー・マダーディンです。架空の都市、ケーニヒシュタイン市で目撃されたという、ヴァンパイアの噂について調査するため聖府から派遣されました。

インクイジターの使命とは、秩序と信仰を守るため、不信仰者・異端者たちをを断罪すること。ただし、それは先程説明したような、暴力による宗教となったキリスト教の元で行われます。

 

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ヴァンパイアの噂を調べる中、突如起こる殺人事件。街の有力者たちによる権力闘争と陰謀。ケーニヒシュタインに渦巻く闇に巻き込まれていくモーディマー。果たしてヴァンパイアは本当に存在するのか? どちらの陣営に付くべきか? インクイジターとしてどう振る舞うべきか?……というのがゲームの概要です。

ゲームの基本は「聞き込み」「捜査」「尋問」です。ケーニヒシュタインの市民たちとの対話を通して、ヴァンパイアの情報を集めつつ、巷で起こる奇妙な出来事や殺人事件などを追っていきます。

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▲盗み聞きも重要な情報源。ハズレなことも多いが……
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▲殺人事件の現場検証もインクイジターの仕事
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▲暴力=正義の世界観ではこうした尋問はむしろ善行となる

プレイ当初は、「モズグス様のように異端審問官としてバリバリ異端者を吊るし上げるぞ!」と気合を入れていたのですが、どちらかというと事件を追う「刑事」のような仕事が多い印象でした。

次々と起こる事件に対して街中を奔走して捜査する。異端審問官って意外と「足」で稼ぐ仕事なんですね……。

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ちなみにこのゲーム、探偵稼業ばかりではなく、ちゃんと戦闘もあります。とはいっても難易度はそこまで高くなく、わりとボタン連打でゴリ押しができるレベルなので、アクションが苦手という人もご安心ください。

どんな異端審問官になるかはあなたが決める

尋問の方法を始めとして、本作ではモーディマー、つまりはプレイヤーに対して様々な選択肢を迫られます。実は、モーディマーの信念や性格などに明確な設定や誘導があるわけではなく、ゲーム中でどのように行動するかは基本的にプレイヤーの選択次第となっています。

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▲徹底的に追い詰めた結果、こうなる

例えばゲーム冒頭、インクイジターのことを「聖府の犬」と陰口を叩く不信仰者の警備兵。あなたは聞こえなかったことにしてスルーしても良いし、ムカついたのなら徹底的に追い詰めることもできます。

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▲いきなり処刑はぶっ飛び過ぎだろう……という感じですが、これがインクイジターです

「尋問」は事件調査のための重要な手段ですが、これをどのように行うかもプレイヤー次第。穏便に協力をお願いするのも、徹底的に暴力に訴えて脅すのも、すべて自由です。

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▲裁判官であり死刑執行人でもあるインクイジターは、生殺与奪の権利も持つ

モーディマーに手を出してきた犯罪者をどう扱うかも、重要な選択肢です。裁判官であり死刑執行人でもあるインクイジターとして、生か死かという重い選択に迫られる場面も。

プレイしていると、とにかく本作ではこうした道徳的な選択が連続して訪れます。多様で複雑な選択を重ねることにより、プレイヤーの倫理観や価値観などを、自身の分身であるモーディマーに忠実に反映させることができるのが本作の魅力の1つと言えるでしょう。

なお選択肢には、その場限りの演出が変わる影響度の低いものから、シナリオ全体の進行やエンディングの分岐にまで関わってくるゲーム全体を通しての重大な決断も含まれています。

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ここで1つ思い出してほしいのが、「暴力による復讐こそ正義であり、慈悲は罪である」という本作のキリスト教観です。ひたすらに無慈悲で狂信的に神の代理人として罪深き者たちに厳罰を下すことこそ、インクイジターとしての善行となります。逆に、他者に共感や慈悲の心を示すことは、神の御意思に反する悪行なのです。

私がオススメするのは、とにかく「自分がこうだ!」と思った選択肢を直感で選んでいくこと。自身がどういった異端審問官になりたいのか思い描き、それに沿うような選択をしていくことが、もっともストーリーを楽しめると感じました。

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ライター
物心ついたころからFFとドラクエと共に育ち、The Elder Scrolls IV: オブリビオンで洋ゲーの沼にハマる。 ゲームのやりすぎでセミより長い地下生活を送っていたが、最近社会にリスポーンした。 ローグライクTCG「Slay the Spire」の有志翻訳者。
Twitter:@Gre_zzz

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