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気鋭のアニメスタジオ「FLAT STUDIO」の戦い方とは? “キャラクターと背景を馴染ませること”を目指すため、効率重視の業界に逆行する作品作りをしていた【IMART2023】

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自分の見方や考え方を「言葉にして伝えようとする人」と仕事がしたい

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鳥嶋氏の講演終了の後、再びFLAT STUDIOのloundraw氏と石井氏が登壇。ここから先は3名による鼎談の様子をお届けしていく。loundraw氏と石井氏の素顔、そして今後の展望について迫る内容になっている。
なお、進行役は「IMART2023」ディレクターの中山英樹氏が務めた。

──鳥嶋さんからこんなラブコールをいただくことはなかなかないと思いますが、おふたりは鳥嶋さんのお言葉をお聞きしていかがでしたか?

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loundraw氏:
ちょっと……マシンガンは……さすがに撃てないですが(笑)。熱いメッセージを感じました。

石井氏:
あまり褒められることがなかったのでうれしいです。去年ぐらいからようやく表立って「応援しているよ」みたいに言ってくれる方が増えたと実感しています。それまでは相手にされなかったので……。

鳥嶋氏:
(笑)。

石井氏:
鳥嶋さんにこのように言っていただけることは素直にうれしいです。

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鳥嶋氏:
さっき控室でも彼らが言っていましたけど、作っている作品やイラストのイメージから「FLAT STUDIOはすごくおしゃれなところに住んでいて、ちょっと斜め上の目線で物を見ているいけ好かない連中だ」と思われているって(笑)。だから、そのイメージを払しょくするためにも、今後はメディアの前に出て語ることをやりたいと言っていました。

僕は、半分は正しいと言ったんです。発信することは正しい。ただ、ここにメディアの皆さんがいる中で言うのは申し訳ないけど、メディアに合わせる必要はないんですよ。なぜなら作品や作品を作っていく過程自体が説明になってくるはずだから。だから、妙に合わせたりしないでね。

──先ほどワークフローの話がありましたが、普通に考えるとワークフローをプロジェクトごとに変えることはとても大変ですし、効率化を求めるならやらない方がいいと思うんです。それでもやってしまうところにスタジオの強いコンセプトを感じました。

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石井氏:
僕らではまだできないことが本当にたくさんあるんです。作品に対して「もっと行けたよね?」という話を毎回するんですけど、そういう意味で今の僕らが「完成」に達していると思えていないので、ワークフローを臨機応変に変えながら理想に近づけているという感じです。

loundraw氏:
本当に小さなスタジオで人数も少ないので、そういう形で頭を使わないと差別化すらできないと思っています。「ワークフローを変えてやりたい」というよりは「これしか戦い方がない」という。

石井氏:
背水の陣です(笑)。

──ちなみに今、スタジオには何人いらっしゃるのですか?

石井氏:
いまは25名くらいの規模になってきています。

鳥嶋氏:
ちょっとひと言、口を挟んでもいい?
さっきの講演を聞くと、FLAT STUDIOに入るには頭がよくて論理的思考能力がないと入れないイメージがあるじゃない? でも彼らから話を聞くと、決してそういうわけではないんです。たとえばFLAT STUDIOに入りたいと思った人が応募してきたとしたら、ふたりは「この人ほしいな」「一緒に働きたいな」というポイントをどのへんで見てる?

石井氏:
採用に関しては、クリエイティブ側から見るのと僕が見るのでは違うポイントがあると思います。(loundraw氏を見ながら)クリエイターとしてはどこを見てる?

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loundraw氏:
そうですね。僕は「作品の完成度」については正直なところまったく見ていません。というのも、テクニックよりもその裏にある別の感性というか、「考え方」の方が大切だからです。どれだけうまくても、いわゆるテンプレート的な処理だったり、ただ綺麗に収まっている絵は自分たちのポリシーには少し合わないことが多くて。むしろ今は技術がなくても、やりたいことが伝わってきて、これまでとは違う考え方を持っている人に会いにいきます。

鳥嶋氏:
ということは、妙に業界に染まってない人の方がほしいってことね?

loundraw氏:
そうですね(笑)。結果的にすごく若い人や、あまりフォーマットを知らないけど表現したいことがある人に会うことが増えています。

鳥嶋氏:
それを聞くと、僕らが漫画家の新人をスカウトする時の考え方と一緒なんです。妙に完成度が高くて平均点の人ってあとで伸びづらいからね。それよりも、例えば「目だけはすごく活き活きと描ける」とか「コマ割りは見やすくてうまい」とか、そういうなにかを持っている人の方があとで伸びやすい。そういう部分で共通するものを感じるんです。

石井さんは採用についてはどういうところを見ているの? あっ、さっきみたいなフローチャートでは言わないでね(笑)。一般論でお願いします。

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石井氏:
はい(笑)。ひとつのボーダーラインがあるとすればまず、強い気持ちがあってがんばれる人。最近は「根性ばかりじゃないよね」と言われる風潮にあるかと思うんですけど、やっぱり強い気持ちを持っていることは大事だと思うんです。パラメーターでいうと「スタミナがある」みたいなことでしょうか。

あとは、会話はできなくてもいいんです。その時点ではただ自分の視点で話しているみたいなことが重要で、それがないと「あなたである必要がどこにあるのか?」って問いが……

鳥嶋氏:
ちょっと待って。今のところ、重いポイントだよね。

石井氏:
そうですね。

鳥嶋氏:
単におしゃべりな人間を求めているのではなく、自分の見方や考え方が拙くても言葉にして伝えようとする人間がほしいということだよね。
 
石井氏:
まさにそうです。さらに僕が好きなのは、「退けない理由がある人」なんです。理由の種類はあまり関係なく、退けない理由があるというところが好きで、そういう属性の人たちが集まると「染まって育つ感覚」があります。

スタッフと1カ月間のアメリカ滞在で得た「作風と私生活」の繋がり

鳥嶋氏:
話を聞いていて思ったのは、FLAT STUDIOって部活的なんだよね。

石井氏:
たしかに部活っぽいですね(笑)。

鳥嶋氏:
何キロも歩いたり、飲み会を頻繁に開催したり、割と泥臭いことを小まめにやっている。それはどういう理由なの?

loundraw氏:
単純にみんな仲がいいので自然に集まることが多いです。作業したあとは「ごはんに行こうか?」という流れになり、お酒を飲むこともあれ飲まないこともあります。この部分の考え方は人それぞれですが、僕は仕事以外のそういう交流があることで「人となり」がわかるようになる部分もあると思っていて。

例えばミスをしたとしても、そのミスの原因って人によってさまざまなんです。単純に「技術がなくて描けない」のか「興味がなくて描けない」のか。あるいは、ほかのことが気になって結果として描けない人もいる。

そういうことってその人の傾向や考え方の癖を知らないと見抜けないと思うんです。そういう意味でもなるべく面と向かって話す機会や同じ時間を過ごしたいなと。

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鳥嶋氏:
ということは、loundrawさんはスタッフみんなの傾向や状況を把握しているわけだ?

loundraw氏:
はい、心がけています。

鳥嶋氏:
大変だねぇ……。

loundraw氏:
でも、作品を作っているなかで毎週のようにチェックをしていると「どこがうまくなったか」や「どこに引っかかっているのか」というのが結構わかるので、その都度コミュニケーションを取るようにはしています。

鳥嶋氏:
なるほどね。でもそれって、うまく伝わる時と伝わらない時があると思うんですけど、伝わらない時はどうします?

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loundraw氏:
伝わらない時はとにかく細かく話しますね。例えば「ここはわかる?」とか「ここは2パターンのやり方があるけど、どっちが好き?」という感じで。本人が認識できているラインまで細かく聞くと、そこを足がかりに説明できるので。

鳥嶋氏:
なるほど。そうするとスタッフひとりひとりの、いわゆる”カルテ”ができていくんですね。

loundraw氏:
そうですね。

石井氏:
それでいうと、つい先日までFLAT STUDIOのメンバーとアメリカに1カ月ぐらい滞在しまして。

鳥嶋氏:
ほう!

石井氏:
10人弱くらいのメンバーで一戸のシェアハウスを借りて1カ月くらい生活したんです。

鳥嶋氏:
みんなで!?

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石井氏:
みんなで(笑)。

loundraw氏:
楽しかったですね(笑)。

石井氏:
僕とloundrawくんと佐野徹夜は1カ月ほど滞在したのですが、それ以外のメンバーは撮影、作画、美術と1週間ごとに呼んだんです。つまり、1週間ごとに入れ替わりながらみんなで暮らしてみたんです。

そうしたら、一戸の空間に5人くらいがいるじゃないですか。すると、生活に作風がそのまま紐づいているのが見えてくるんです。loundrawくんはすごく気を遣ってくれて、「トイレットペーパー大丈夫ですか?」「水が切れますよ」とか(笑)。

鳥嶋氏:
3日で帰って欲しいやつも出てくるかもしれないな(笑)。

石井氏:
そうですね、共同で生活すると。僕は佐野さんと滞在中に喧嘩しました(笑)。もちろん仲はいいですけど。

そういうことがあって「私生活と作風ってこんなに連動しているのか」ということをみんなで暮らしてみて実感しました。なので、メンバーとはコミュニケーションを取る時間を持つように意識しています。

鳥嶋氏:
旅先で日常を過ごした方がわかりやすいってことだね。

石井氏:
22歳以下が集まるCANTERAの子たちは地方の子が多いんですけど、彼らにも会いに行って1日遊んだりしています。あるいはみんなを招いて1日過ごしてみたり。そうすると、「適切な距離感」というものが自分の中で図れるようになってきて、その結果が離職率の低さにも繋がっている気がしています。

プロに頼んでカメラを回してもらう「記録映画撮影」という取り組み

鳥嶋氏:
なるほどね。それは記録映画には撮らなかったの?

石井氏:
一応、撮っています(笑)。

──記録映画とはどういったものなのでしょうか?

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鳥嶋氏:
彼らは、仕事をしている風景や会議をしている様子をプロに頼んで撮っているんですよ。僕は仰天しました。「なぜ撮るの?」と聞いたら、トラブルが起きた時に振り返って「あの時にこういう議論をしたね」とか「あれはどう解決したのか」ということをちゃんと正確に把握してやり取りしたいから、と言うんです。

石井氏:
はい。もちろんそれもありますし、あとは「どれだけ早く成長するか」みたいなことを考えると「見られている意識」がすごく重要だと思ったんです。

鳥嶋氏:
なるほど。カメラが回っていると緊張感があるからね。

石井氏:
はい。さらにその映像が人様の目に触れることが重要だと思っています。たとえばloundrawくんは言語化がうまいんですけど、みんながそれをできるかというと決してそうではない。ただ、カメラが回っているなかで自分が発言する機会があると、意外と準備できたりするんです。それが成長に繋がっている節があるのではないかと思っています。

loundraw氏:
少数精鋭を目指すと言っても集団作業なので。例えば、僕はどうやっても自分が作ったものが世に出て、なにかしらの評価を受けます。ですが、作画や美術はどれだけ当事者意識を持っていても、極論「それ以外は自分がやってない」と考えることもできてしまう。どうしても役職上においての意識の差が生まれてしまう構造になっているので、それならカメラがあって「君もクオリティの一端を担っていて、いい意味でも悪い意味でも主役だよ」と向き合うことで、成長に繋がるのではないかと思うんです。

鳥嶋氏:
「君も主役」という言い方はすごくその通りだと思うんだけど、逆に言うと「逃がさない」ってことだよね(笑)。

一同:
(笑)。

石井氏:
たしかに魚拓みたいなところはありますね(笑)。

鳥嶋氏:
覚悟を迫るわけだよな。チャンスも与えるけど。

僕がFLAT STUDIOに感心したのは常に狙いが明確なところなんだよね。「なぜ?」って聞くと、必ず答えが返ってくるから。それって簡単なことのように思えるかもしれないけどなかなか難しい。この前の取材が終わったあと記事が載った電ファミ編集長の平くんと話したんだけど、「僕らが30代の頃ってあんなに賢くなかったよね」って(笑)。

だから「なんで彼らはこんなに頭がいいんだろう?」「彼らが作るものを見てみたい」と思ったんです。

石井氏:
ありがとうございます。

鳥嶋氏:
それともうひとつ驚いたのは「美術をやりたい」と入ったスタッフがloundrawさんのもとで仕事をしながら、たとえば数年後に「人物を描きたい」とか「ほかのことをやりたい」と言った時にやらせる可能性があると聞いて。実際はどうなんですか?

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石井氏:
それはむしろ、やってもらう前提で入ってもらっているところがありまして。アニメ作りは最初に作画と美術が走り、最後に撮影があるという流れが多いんですけど、作画と美術がアップしてしまうと撮影の時に手持ち無沙汰になってしまうんです。なので、「その後もコミットしてもらいたい」という意味があります。

鳥嶋氏:
でも、そうするとね。例えば、最初の数年間は美術をやりました。そして腕を上げ、さらに美術をやってもらえればもっとすごいものができるかもしれないのに「人物を描きたい」と言って、人物を描くようになる。それでも大丈夫?

石井氏:
その問題はのちのち起こると思っていて……(笑)。

鳥嶋氏:
(笑)。

石井氏:
正直なところ今はまだ「みんなでゴールに向かってがんばろう」というところで目線は合っているので、その先どうするかは考えるのをやめている状態ではあります。

鳥嶋氏:
でも「ほかのことをやりたい」と言われたらダメとは言わないわけね?

loundraw氏:
はい。基本的には言わないと思います。僕もいろいろやりたくてここに辿り着いているので、そういう意見を否定することはできないです。

ただひとつ現実として「やりたいこととそのスキルが伴っているか」という問題はあるので「今はこの3カットだけやってみよう」とか、あるいは「もしかしたら全部直されるかもしれないけど、やる?」みたいな話から入っていくと思います。それができれば、両方をできるスーパーマンになりますし、仮にそれで自分が合っていないとわかったら、もともと自分が担当していた作業に対するモチベーションも上がると思うんです。なので、機会は作っていくようにしたいと思っています。

鳥嶋氏:
必ず本人に納得してもらうやり方で仕事を発注するということだね。

loundraw氏:
そうですね。そうじゃないとみんなやる気が出ないので。

石井氏:
あと、「チームプレイも個人プレイもする」というのは最初に僕らが掲げたビジョンでもあるんです。日々の仕事をこなしていくことを蔑ろにするつもりはないですが、一方で「仕事だからやり続けて」とは言いづらいと思っています。

自分がやりたい仕事をやって、それがチームや組織に還元されればいいですけど、そのバランスを取るのはすごく難しくて。「やりたくないです」と言われたときに「仕事だからやってよ」と言うと、それを出した瞬間に関係は終わるという。

鳥嶋氏:
終わるよね。

石井氏:
そこまで言ったら終わりなので、その前にお互い合意が取れるようにする設計にしていかないといけないと思っています。

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