「時代劇」というジャンルに対して、正直に言えば「古臭さ」を感じる方も少なくないのではないだろうか。無論「時代劇」というジャンルで多くの名作が存在するいっぽう、なんとなく“今っぽさ”や“新鮮さ”は感じづらい。
しかし、『Rise of the Ronin』は時代劇として「幕末」をかつてなくカッコよく、現代に通ずる美意識で描いている。筆者の持っていた時代劇への印象は、プレイしてすぐに砕け散った。それほどに、本作はクールに歴史を楽しめるエンタメ作品に仕上がっているのだ。
このたび、『Rise of the Ronin』の冒頭をひと足先にプレイする機会をいただいたため、本作がいかに「時代劇」というジャンルながらもクールなアクションRPGになっているのかを紹介していこう。
体験プレイで感じた本作の魅力を追っていくにあたって、史実に基づいたリアル調の要素はもちろんのこと、フィクショナルながらも「本当にあるかも」と思わせる絶妙な脚色にも注目してほしい。
登場人物や物語、アートワーク、アクションなどあらゆる要素に現代風のチューニングが施されることで、本作を「フレッシュな時代劇」として成立させているのだ。
また、本作は『NINJA GAIDEN』や『仁王』シリーズ、『Wo Long: Fallen Dynasty』などを手掛けた「Team NINJA」が手掛けており、『仁王』で“戦国死にゲー”を生み出した同チームが「オープンワールド」の作品として本作を制作した点も気になるところ。
結論から言えば、本作の戦闘はTeam NINJAらしい緊張感のある戦闘に、ガンアクションやワイヤーアクションが加わることで、「硬派」と「スタイリッシュ」を両立させている。
オープンワールドらしい立ち回りや探索の自由度、アクションの奥深さ、そして難易度選択が追加されることで、かなり幅広いユーザーが楽しめるところもポイントだろう。
本記事の末尾では開発を手がけたコーエーテクモゲームス プロデューサー早矢仕洋介氏と、開発プロデューサー兼ディレクターである安田文彦氏への合同インタビューの様子もお届けする。
長い年月をかけて制作された本作のバックグラウンドや、「ただの侍ではないが、壁を走ったりはしない」といった絶妙な塩梅のエンタメ性についてなど、さまざまな面から『Rise of the Ronin』について語っていただけたので、ぜひあわせてチェックしてほしい。
それでは、クール過ぎるうえに、懐の広い「幕末」の正体に迫っていこう。
聞き手/りつこ・豊田恵吾
撮影/増田雄介
『仁王』で挫折した人もウェルカム、難易度選択が救う命もある。
『Rise of the Ronin』は黒船が来航し、戦争、疫病、政治不安による大混乱に陥る幕末の日本を舞台に、名もなき‟浪人”の主人公として戦い生き抜いていくオープンワールドのアクションRPGだ。
主人公は主無き浪人であり、歴史上で重要な人物を暗殺するのか、守り抜くかなどの重大な決断を下していき、自分だけの歴史を築いていく。
本作のゲームプレイは、キャラクターの成長によるRPG的要素、60FPSによるシンプルながらも奥深いアクション、密度あるオープンワールドを探索する自由度の高さと隙のない内容。
体力及び回復薬や遠距離武器の弾薬を補充してくれる「旗印」(『ソウル』シリーズにおける篝火、『仁王』における社)を頼りにしながら探索やバトルを行う形式がベースになっている。
舞台は幕末らしく和洋が入り混じったオープンワールド。広さだけではなく高さもしっかりとあり、美しさはもちろん、探索する楽しさがしっかりと味わえる。
Team NINJAのアクションゲームと聞くと、高難度なアクションが苦手な方は速攻でブラウザを閉じてしまうかもしれない……が、すこし待ってほしい。なぜなら本作にはイージー、ノーマル、ハードと3段階の「難易度選択」があるからだ。
まさに筆者も複数の高難度アクションゲームを途中でほっぽり出すド下手クソだが、試遊にてゲームの難度を推しはかる都合上「ノーマル」でプレイすると、基本的なシステムに慣れれば「何十回と同じ敵に挑む」といった場面は訪れなかったし、システムに慣れればハードでも顔を真っ赤にしながら楽しく遊べた。
もちろんノーマルにおいても複数回敗北してしまう場面はあったが、明確に反省点を理解することができる。言うなれば、ノーマルでも「そこそこ死ぬけど涙は出ない」塩梅である。そして同じ敵とイージーで戦えば、戦闘の醍醐味はそのままに、少し余裕を持って楽しめた。
本作にはバトルを重ねて得たポイントでキャラクターを強化する育成要素もあるし、「倒せる強さの敵」との戦いを重ねるなど、プレイのやり方次第で難度を調整することもできる。
なので、「設定や雰囲気は気になるが絶望は求めていない」という方も、安心して『Rise of the Ronin』の世界へ飛び込んでほしい。
パリィにあたる「石火」やワイヤーアクションなど、近接武器だけではない、間合いの妙や演出がスパイスに
本作の戦闘システムは、攻撃や回避を行うシビアなタイミングが勝敗を分けるオーソドックスな高難度3Dアクションの形式だ。
武器はモダンな‟銃剣”などを含む8種が用意されており、「天・地・人」の種類(型のようなもの)を持つ、実在した流派を切り替えながら戦うことが可能。
流派はゲームを進めたり、新たな登場人物と「因縁」が生まれることで習得可能。各流派の「天・地・人」は、敵の武器との相性があり、分類によって有利/不利の関係性を持つ。相性が有利であれば、後述するパリィにあたる「石火」で敵を大きくのけぞらせられる。
アクションの要はいわゆる‟パリィ”にあたるアクション「石火」。「石火」は通常攻撃はもちろん、致命傷となりうる赤い殺気を放つ「武技」も無効化できるほか、敵を一時的に「動揺状態」にできる。動揺状態中の敵を攻撃すると、気力上限を大きく減らせるほか、動揺状態の敵はのけぞりやすくなるので、一方的に攻撃できるチャンスとなる。敵の気力をゼロにしてダウン状態にすれば、大ダメージを与える「追いうち」が可能。
つまり、「石火」は強力な防御であり、大ダメージを与えるチャンスをのきっかけにもなっている。本作にはスタミナゲージが存在するなど仕様は異なるが、ニュアンスとしては『SEKIRO』や『Wo Long: Fallen Dynasty』のテンポ感を‟地に足の着いたスピード”にシフトさせた感触だ。
いわゆる‟時代劇”的なアクションと言えば、お互いに刀を構えたまま、暫く静かに見つめ合った末に、何かが爆発したように突発的に刀を交える。そんな静と動の劇的なリズムを持っているイメージがないだろうか(少なくとも筆者はそうだ)。
本作の戦闘は、構えが象徴する相手の流派、相手の攻撃パターンや「石火」を行うタイミングを読み取る「受け身なフェーズ」を経て、一定の間隔で訪れる攻め時に気力を削るべく叩みかけていく形式になっている。
この「攻め時」を冷静に待ち、いざ訪れた攻め時に一撃をカマしていくリズム感は、上述した「時代劇の戦い」のイメージを想起させる。また、時代劇といえば武器についた血を払うシーンが印象的だが、本作では武器に付着した血を払うことで、気力を回復できる。つまり、攻撃後に血を払うことで、より多彩な行動が可能というわけだ。
さらに、主武器は2種類装備できるほか、攻撃中に武器の切り替えが行えるため、流れるように武器を切り替え、スタイリッシュに戦うことができる。
とはいえ、本作の戦闘は「石火」を絡めたシビアな判断をエンドレスに繰り返す戦闘機械野郎向けのハードコア仕様ではない。確かに硬派な緊張感はあるものの、むしろ‟遊び”を積極的に取り入れている。
その‟遊び”のひとつは鍵縄だ。
鍵縄はゲーム開始時からいつでもワンボタンで使用可能である。戦闘においては、地上では敵を転ばせつつ引き寄せ、空中で使えば対象に向かって空中からダイブをすることができる。
加えて、フィールド上にオブジェクトがあれば敵に投げつけることができ、所持しているスキルによってはダイブしながら敵に切りかかることもできる。決して万能ではないが、適切な場面で使えばちょっとしたチャンスをもたらして、本作のバトルに余裕を与えてくれる。
フィールド上にはしばしば「鍵縄」で登れる場所が用意され、敵と戦うマップにおいても高所が配置されている。
これにより鍵縄を活用した立体的なヒット&アウェイやステルスキルといった戦法で、戦闘の楽しみを広げている。高所を取った際には銃や弓といった遠距離武器が優秀で、近接で戦わなくてはならない敵を確実に減らしていく戦略的なゲームプレイが楽しめるだろう。
また、本作には「幕末」を舞台にした設定にちなんでエイムが不要の中距離武器「短銃」が副武器として実装されている。
「短銃」のダメージはほどほどだが、敵が攻撃するタイミングで打ち込むことでスキを作れる。すでに公開されている映像では、相手の強攻撃へ向けて連発してキャンセルし、大きなチャンスを作っている場面が伺えた。スキルを習得すれば、剣劇で追い詰めた後短銃でズバンとトドメをさすことも出来る。
しかるべきタイミングで使用する必要があるが、うまく使えばちょっと「ガン・カタ」みたいなお洒落な攻撃ができる。ゲーム冒頭では触れられなかったが、本作に登場する銃剣にも近しい性質を期待したいところだ。
このように、本作の戦闘は時代劇にマッチした硬派さと共に、ワイヤーアクションや、「ガン・カタ」を思わせるお洒落かつフィクショナルな要素が組み込まれている。そんな綱渡りをするようなバランス感が「クールな幕末剣劇バトル」を実現していると感じた。