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縦横無尽な「空中アクション」が爽快な『ボウと月夜の碧い花』は、中毒性抜群の2Dアクション。「敵を攻撃したらジャンプ・空中ダッシュが補充」されるので、足場のないステージも攻撃を駆使して飛び回れる超独特な仕様がおもしろい

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よく練られたマップ構造、非常に優れたレベルデザイン、魅力的な世界観。まさに質実剛健なメトロイドヴァニアの『ボウと月夜の碧い花』。もちろんそれだけではない。本作には、これらの素晴らしい要素を内包しながらも2Dアクションとしての「独自性」がある。

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それが、「縦横無尽な空中アクション」だ。これは本作の一要素ではなく、間違いなく空中での戦いを主軸として設計されており、その証拠にプレイ中のほとんどは浮いている

本作のジャンプと空中ダッシュは攻撃することで回復するという性質を持つ。つまり、空中に存在する敵を攻撃してジャンプや空中ダッシュを繰り返すことで、足場のないステージを進んでいくことができるのだ。これによって、本作は精密な操作を必要とする高難易度プラットフォーマ―としての一面を見せる。

ある時は空を飛び回り敵をなぎ倒す爽快なバトルアクション、またある時には、足場のないステージを限られたジャンプ回数で乗り越えるスリリングなプラットフォーマ―アクション。このふたつの側面が、絶妙な緩急で配置されているのだ。

本稿では、本作のもっとも大きな特徴である「空中戦」にフォーカスしつつ、高難度であってもプレイヤーを夢中にさせるノンストレスな設計についても紹介していく。

文/植田亮平


本作ならではの唯一無二で縦横無尽な「空中アクション」。連続ジャンプ、空中ダッシュで不可能を乗り越えていく

本作の特徴的なポイントは縦横無尽に動き回る「空中アクション」だ。

ジャンプや空中ダッシュなどの基本動作とあわせて、『ホロウナイト』などに見られる「下方向への攻撃をヒットさせれば少しだけ上に浮く」という仕様も存在している。

だが、特筆すべきは「ジャンプと空中ダッシュが攻撃で復活する」という部分だろう。つまり、空中で敵に攻撃を当てるとジャンプと空中ダッシュがもう一度使えるようになる。この説明だけでは伝わりきらないとは思うが、このシステムこそが本作の魅力の根幹となっている。

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この仕様によって、本作は「メトロイドヴァニア2Dアクション」から「高難度系2Dプラットフォーマ―」へと姿を変える

例えば地面に大量のトゲがあったり、目の前にジャンプでは越えられないほどの高さの崖があるとする。そんなクリア不可能にも見える地形やギミックのほとんどを、「空中に浮いている敵」を攻撃してジャンプと空中ダッシュの回復をしながら進むことで乗り越えられるようになっている。道中の敵が『Celeste』のクリスタルのような役割を果たしているのだ。

自分がジャンプできる回数と道中の敵を見ながらルートを組み立て、何度もトライアンドエラーを繰り返す。反復によって、プレイが上達していく過程を実感できるのだ。

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このゲームデザインを明確なものにするため、本作には他の作品と決定的に異なる点がある。

それは、このゲームでは空中に設置された「足場」が極端に少ないということだ。

メトロイドヴァニア作品におけるマップでは、縦に長いステージ構造がよく見られるが、そのようなマップに配置されるべき足場はほとんど存在していない。

その代わりに、空中にはプレイヤーが攻撃できる敵やオブジェクトが無数に配置されている。なにもアクションを起こさなければ真っ逆さまに落ちていくという極端なデザインだが、逆に言ってしまえば足場が無くても、攻撃できるものさえあれば無限に空中に留まることができる。このピーキーさが、本作をスリリングなプラットフォーマーアクションへと昇華させているのだ。

ボス戦でも空中アクションが重要に。攻撃と回避のルートを組み立てる「パズル的」なプレイも求められる強敵

「無限に空中に留まれる」という仕様は、戦闘においても重要な役割を果たしている。

前提として、本作の敵は地上での攻撃だけでは対処し辛いものが多い。攻撃を当てたときのノックバックが少ない敵や空中に浮いている敵などが多いほか、先述のとおり「足場」としての役目もあるため、そのほとんどは耐久力が高く設定されている。

そういった敵に対して安全に立ち回りつつ連続してダメージを与えるためには、必然的にプレイヤーも攻撃とジャンプを繰り返してホバリングのように攻撃を叩き込む必要がある。

また、本作のコンボ表示は空中攻撃のみに適用される。これは本作の戦闘が空中を舞台にして繰り広げられるものであることをもっとも端的に示していると言えるだろう。

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本作には多数のボスが登場するが、それらもほとんどが空中戦メインで設計されている。
攻撃できる部分がプレイヤーの頭上高くにあり、地上にいると避けられないギミックが多数仕掛けられている。プレイヤーは「どうやってボスに攻撃を入れるか」、「どうやってボスの攻撃を避けるか」を、周囲の足場(敵)を確認しながら組み立てていく必要がある。

空中戦と聞くと手元の忙しさを想像しがちだが、実はボス戦ではそういった「パズル的な頭を使う部分」の方を強く感じ、これがハマったときがすごく気持ちいい。(もちろん、手元が忙しくないわけではない!)

また、ここまで何度も述べている通り、本作のメインは空中戦であり、ゲーム体験においてプレイヤーは空中にいる時間の方が長い。その中でも、特に本作の空中でのプレイ体験を印象づける部分を紹介したい。

ひとつはゲーム序盤から中盤に向けて展開される、強制スクロールで駆け抜けるシークエンスだ。

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本作の中でも非常に特徴的なパートであり、それまでの攻撃を軸にしたアクションから一転して、「エンドレスランナー」のようなゲーム体験に一気に様変わりする。

面白いのは、このゲームプレイのスムーズな転換に対して、プレイヤー自身もスムーズに対応できる点だ。

本作の序盤から、プレイヤーは空中にいる敵に対して効果的にダメージを与えるため、空中でのジャンプの補充と使い方を学習する必要がある。

もちろんそれはプラットフォーマーアクションのステージデザインで学ばせることも可能なのだが、本作においてはもっぱらボスとの戦闘や、敵を倒しながらステージを進む経験によって「頻繁に」学ばせる。

そしてプレイヤーがほのかに感じる「これを応用すれば、地面に着地せず移動することが可能なのでは?」という感覚が、このゲームプレイパートで初めて実践されるという流れになっているのだ。

そして、このエンドレスランナーは後のボス戦に繋がる重要なチュートリアルとなっている。

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ふたつめは、中盤以降にプレイヤーが学ぶ移動術をフルに活かしたボスとの戦闘だ。攻撃→ジャンプ→攻撃という一連の流れをそれまでのステージで存分に学習したプレイヤーは、ボスが放ってくる弾を足場にしながら敵を攻撃するという、ともすれば半端なく難しいゲームプレイにもすぐ馴染むことができる。

このふたつのゲームプレイが完璧なバランスで相互に入れ替わり、それぞれが別のゲーム体験を学習するための足がかりとなっているのが、本作の最も優れた部分だろう。一方では爽快感に溢れた戦闘が、一方では工夫を要するジャンプアクションに目まぐるしく入れ替わることで、本作は多彩な面をもった奥深い2Dアクションになっている。

難易度高めでやり応えバッチリ。もちろん救済措置も搭載、超絶妙なチェックポイントでノーストレスに何度でもトライできる

勘づいている読者の方もおられるだろうが、このゲームの難易度はそれなりに高い。どれくらいかというと、同じボスに3時間ぐらい平気でかかる程度には難しい。ジャンプと空中ダッシュを連続で繰り返すアスレチックステージも、踏破するまでにかなりの時間を要する。

先ほど紹介したエンドレスランナーのようなパートはその一例だ。足場のないステージをジャンプと空中ダッシュだけで乗り越える箇所が連続し、筆者の場合は同じ場所で10回リトライする場面もあった。

また、道中に存在するトゲ付きの壁や床などは触れた瞬間に直前に立っていた地面へ戻されるため、このミスが「1ミス」としてカウントされるのも大きい。

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それほどの難しさを持っていながら私が本作を楽しくプレイできたのは、親切できめ細やかな設計のおかげだ。さらに具体的に言うと、こまめなチェックポイントと豊富なサポート機能のおかげだ。

本作のチェックポイント(セーブポイント)の配置は絶妙だ。ボスやトゲの床が連続する難所ポイントはもちろん。マップの分かれ道が集中する結節点にも置かれている。これによりリトライ時の徒労感が全くと言っていいほど無くなっており、非常に手軽なリトライが行える。

それでも無理!という方のためにも、「体力の回復制限がなくなる機能」「キャラクターが無敵になり、チェックポイントまで巻き戻されなくなる機能」の2つのオプションが用意されている。かなり難易度の高い作品なので、アクションゲームが苦手な方や途中で行き詰った方は、積極的に活用することでより快適にプレイできるだろう。また、本機能にはペナルティもないので気軽に使うことができる。

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「天の御使い」の主人公が旅する和風の世界。息をのむほどに美しい桜舞い散る城下町、満月が照らす橋など思わずスクショしたくなる風景

トレーラー公開段階から注目を集める、和風の世界観も紹介させてほしい。本作の主人公は、神から恩寵を受けた「天の御使い」で、主人公が常世と幽世が交じり合った壮大な神道世界を冒険していく──という物語が展開する。

本作のアニメーションを含めた表現はこの世界観と非常にマッチしている。木漏れ日の射す森や、桜舞い散る城下町、満月が照らす和風建築の橋。どれも息をのむほど美しい。そして、日本の文化に馴染み深いプレイヤーであるならどこか懐かしい、遺伝子レベルで刻まれた「原風景」のようにも思えるのではないだろうか。

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個人的に、狐、狸、兎など絵巻物に登場するポピュラーな動物をはじめ、相撲取りのカブトムシや予言を行うカラスなどキャラクターデザインも気に入っている。どれも非常にかわいらしく、ハードなゲームプレイの中の癒しとなってくれるだろう。

いくつかの場面では、日本文化を大きくクローズアップした描写も存在する。例えば嫁入りを巡る狐夫婦の物語や、相撲を取るカブト一門の道場、竹取物語をフィーチャーしたクエストなど、幅広いモチーフが登場している。また、先ほど紹介したキャラクターデザインを含め、思わずスクショを撮りたくなるような「スクショ映え」する場面も多く見られ、プレイだけでなく視覚的な楽しさも感じさせる。

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本作は『ホロウナイト』や『Celeste』などのゲームデザイン的なリファレンスからも感じられる通り、やはり高難度な2Dアクションゲームを目指して作られたものだろう。だが、決してその点に臆せずプレイしてほしいと強く感じる。

サポートオプションや高いリトライ性を始め、本作にはそうした難易度が全く気にならない仕掛けがいくつも用意されている。そしてそれ以上に、本作の空中アクションを主軸においたゲーム体験は、難易度が高いということを忘れて夢中になるほど、爽快で病みつきになるものだ。

操作量は一般的な2Dゲームに比べて多いが、記事中で紹介したレベルデザインの妙技が、そうした混乱を上手く回避させてくれる。

もちろん、高難度な作品を求めるゲーマーにもおすすめだ。ゲーム攻略の導線が途中で一本ではなくなるので、最適解を探すRTA的な楽しみ方も十分可能だろう。美しい和風の世界で、攻撃とジャンプを繰り返して次々とコンボを決めていく爽快な体験が味わえる、唯一無二の作品に仕上がっている。

『ボウと月夜の碧い花』はマーベラスからはNintendo Switch、PlayStation5で、HUMBLE GAMESからSteam、XBOX版で発売中だ。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。

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