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『鉄拳』原田勝弘氏が語る格闘ゲーム界の未来と「コミュニティを育てる」重要性。早くからコミュニティの支援に力を入れてきた『鉄拳』、そんな原田氏の夢は「すべての格ゲーが集まる仮想ゲーセン」!?【CEDEC2024】

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コミュニティの育成の大事さ。数千人規模まで集まる大会を作り上げるために必要なこと

ふたつ目に挙げられたのが“コミュニティを育てる、コミュニティの変化を常に意識する”だ。まず初めに原田氏は、現在および過去の日本のゲーム業界のヒエラルキーを図式したものと、現代の欧米型のゲーム業界ヒエラルキーを比較した図を紹介した。

この図によると日本の場合は「版元・パブリッシャー」が非常に強く「ファンコミュニティ」が弱いが、欧米はその逆で「ファンコミュニティ」が一番上にあり、「パブリッシャー」が一番下に位置する点が違いとして示されている。

これは、ファンやユーザーがSNSでの発信や「Metacritics」のユーザースコア評価、コミュニティによる集団訴訟などを起こすことができる権利があるという背景があり、くわえて欧米では返品制度が根強く残っている影響も大きいという。

仮に発売されたゲームが面白くないとしてユーザーがレビューを下げると、流通や小売店がパブリッシャー側にマークダウン(値下げ)をするか返品するかの2択を迫られることになり、値下げを認めざるを得ない状況に陥ることもあるそうだ。

なので海外のパブリッシャーは流通に流して終わりではなく、その後もコミュニティを育てて、変化を見守る必要があるという。こうした動きはSNSの発展によって加速している傾向にあり、原田氏もコミュニティを軽視することなく常に変化を意識するためにSNSを活用しているとのこと。

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これまでのコミュニティの歴史的な変遷でいうと、日本やアジアの格闘ゲームは特にアーケード拠点型のコミュニティ形成、欧米を中心とした海外はLAN Partyや地域大会やトーナメントを中心としたコミュニティ形成を行い、SNSなどネット上のコミュニティは世界共通だという。

四半世紀前の欧米などの海外コミュニティトーナメントは、1タイトル数十人来れば良いほうで、全体で100人に達しない大会も多かった。しかし今や1タイトルで数千人規模が集まる「EVO」のような大会が育っていく様子をみると、コミュニティをサポートして育てることの大切さを実感していると原田氏は語る。

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左が『鉄拳4(2002年)』の様子、右は現在の規模。多くのサポーターにより、規模が大きくなっていった。

かつて日本でも「闘劇」と呼ばれる当時世界最大級のゲーム大会が存在しており、先駆け的な存在だった。EVOや海外のコミュニティは闘劇に憧れ、手本にしていたという。原田氏はこのコミュニティが失われてしまったことに対して「もったいない」とコメントしている。

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今でこそ格闘ゲームはeスポーツとして大きく取り上げられ注目を集めているが、かつては参加人数も少数で、大会をサポートするメーカーも少ないのが実情だった。海外に直接足を運んでコミュニティをサポートする開発者は、原田氏ふくめ数人がいるだけでも際立つほどで、コミュニティマネージャーはともかくほかの開発者の方たちは現地にいなかったそうだ。

その中で『鉄拳』プロジェクト海外コミュニティ黎明期から開発メンバーが直接サポートした稀有な例であり、裏方的な仕事をしていた唯一のメーカーだったという。

現在主流となっている大会の8~9割が、もとは数十人規模の小さなコミュニティが育った結果大きくなっていったものであり、『鉄拳』プロジェクトが古くから開発者が直接現地に行ってコミュニティをサポートし続けてきた結果だと原田氏は語った。

90年代は公民館や大学のホールで行われていた大会が、21世紀初頭以降にはホテルのボールルームが主流となっていき、段々とeスポーツの原型が確立されていった。さらに『鉄拳』プロジェクトは、昔は慣習として無かった、大会で新作をファンに直接発表する手法を行った先駆けであった。

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左はパネルと呼ばれる発表会の様子。右には実際に筐体でテストプレイする原田氏の姿。

時代が進むにつれて段々と洗練されていくコミュニティイベント。次第に実況解説席なども設置されるようになり、『鉄拳』というタイトルひとつで凄まじい人数が集まるようになっていく。さらにコメンテーターがタレント化するなどの事例を、90年代・21世紀初頭を知る原田氏「考えられなかった」としつつ、これもコミュニティのひとつと捉えている。

コミュニティイベント黎明期の90年代から開発者自らがサポートし続けてきた『鉄拳』プロジェクトだが、実は社内外で評価してもらえないというのが現状だという。今でこそ大規模な大会が開かれるようになった『鉄拳』だが、その軌跡には原田氏含む開発者の方々が裏方として少しづつコミュニティを広げ、“eスポーツ”というキーワードと共に到達した場所であるということを忘れてはならないだろう。

また『鉄拳』には、コミュニティ観察によって生まれた仕様がいくつか存在する。その中のひとつが『鉄拳7』より実装されている、試合が決着する瞬間にリアルタイムに起こるスーパースロー演出。本来は『鉄拳5』の頃から実装したかったと原田氏はコメントしているが、本演出はコミュニティの盛り上がりなどを観察した結果実装された仕様のようだ。コミュニティを重視する『鉄拳』プロジェクトらしい取り組みだと言えるだろう。

『鉄拳』がどのように「暗黒時代」を乗り切ったのか。多方面に向けたターゲットの選定、マーケティングの考え方

続いて紹介された『鉄拳』プロジェクト第三の戦略は“ビジネスモデルの変革と価値の変化を見据えコンテンツ内容を変える”ことだ。旧ナムコでは、アーケードの筐体をどこに置いているか示すマップサービスを行っていたが、90年代後半あたりから21世紀初頭にかけて欧米でゲームセンターが急速に減り始めたという。

講演内では日本のアーケード店舗数と比較したグラフが紹介された。国内でも年月が進むにつれて店舗数が減少しているが、主に欧米のアーケード店舗数は日本の比ではないほどの速度で店舗数が減少している。日本で7000〜8000台売れていた『鉄拳5』の筐体が、同時期のアメリカではわずか100台程度にとどまったとのこと。

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続けて原田氏は世界のオンラインインフラの環境の普及のグラフを表示し、各年代ごとに「アーケード全盛期」「暗黒時代」「新時代」の3つの区分に分けて紹介した。

1990年代は格闘ゲーム黄金時代の「アーケード全盛期」、2000年~2010年はゲームセンターの減少、コンソール機のオンラインも未対応、インターネットインフラも世界的に環境が整っていないなど様々な理由が重なった結果、名だたる格闘ゲームが途絶えたり、発売されなくなった「暗黒時代」

2011年以降はインターネットインフラの普及、PC・コンソールの常時オンライン接続、eスポーツの台頭、ストリーミング実況や視聴の台頭し“良い時代”となった「新時代」を迎えている。

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ゲームセンターが急速に減少し始めたことにより、アップライトやテーブル筐体型のビデオゲーム市場は急激に家庭用市場へと移行し始めた。格闘ゲームは100円で3〜5分遊ぶことができるというアーケードビジネスにフィットする形で生まれたゲームシステム・ゲームデザインになっているため、そのままコンソールビジネスモデルに持ち込むことは無理だと判断したという。

なので『鉄拳』は家庭用ゲーム市場での拡大を早期から画策し、CGのフルレンダリングムービーやストーリー、格闘ゲーム以外のミニゲームなど「おまけ」と言われていたものをメインコンテンツに据えることで生き残りを図った。

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『鉄拳』はアーケード全盛期の頃から家庭用向けにコンテンツをシフトさせ、パッケージゲームとしての価値の向上を早めに察知し、欧米のアーケード市場の衰退によるビジネスモデルの変化に対応してきた。このことが同シリーズが「暗黒時代」も乗り切り、いつの時代も右肩上がりに成長することができた理由だという。

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続いて『鉄拳』プロジェクト第4の戦略として“「多国」「多地域」「多人種」「多思想」にターゲットする”ことが挙げられた。同シリーズは主に欧米をはじめ全世界的に販売されているタイトルであるため、各地域のコミュニティに刺さるようなキャラクターを考える必要があった。

我々日本人からすると疑問に思うキャラクターも、いろんなマーケットを分析しながらアプローチした結果であると原田氏は語っている。ターゲットの選定はまず新規市場性、既存市場拡大の可能性の分析から始まり、アニメが好き、ある宗教を信仰しているなど国境に関係ない「層」なのか、特定のの地域や国などを指す「域」なのか、あるいはそれらが組み合わさった「複合的」のターゲットなのか目星を付けていくという。

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発売後も様々なツールを使って市場分析を行い、地域別でどれくらいキャラクターが使用されているのか集計し、ハードごと国ごとなど多くのデータを用いて吟味するようだ。

『鉄拳』プロジェクトの最後の戦略として挙げられたのが“クリエイティブだけでなく「届ける=パブリッシング&マーケティング」を考える”ことだ。原田氏「我々はプロジェクトの開発側だけど意識している」と語り、タイトルを代表する「顔」として存在するスポークスマンの重要性が高くなっているという。

さらにコミュニティの信頼を得るには、いいことも悪いことも発信する“透明性”が大切とのこと。CMが配信される告知をSNSで発信するといった無難な対応では、ゲームファンからの信頼を得にくいそうだ。くわえてマーケティングストーリーとバジェット計画を意識し、あらかじめスタッフ内でストーリーを作るなどのシミュレーションも行っているようだ。

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ゲームは面白さやシステム面での評価だけが売り上げやゲームの評価に依存している訳ではない。原田氏「面白ければ売れる」世の中であってほしいと切に願いつつも、実際は面白さやクオリティの高さはある一定のライン以上では「当たり前」と思われていると語っている。

そこから先はパブリッシングやマーケティングによる差が如実に出てくる場面であり、『鉄拳』プロジェクトはその点をかなり重要視しており、パブリッシングやマーケティングによる“届ける力”で何ができるのかを意識しているという。

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原田氏が語る格闘ゲームの未来。新しいコミュニティ、新しい世代、AIの進化によって変わるものとは

講演の最後には原田氏が考える対戦格闘ゲームの未来について展望が語られた。大きく3つの項目に分けて紹介されており、まずひとつ目が「新しいコミュニティ形成」だ。

現在のあらゆる対戦格闘ゲームには、オンラインロビー、ラウンジが搭載されているが、原田氏「偶然ではないと思う」としている。これは、ある時期になりオンラインインフラも整備されたころ、オンライン上にもコミュニティを形成して居場所を作るという意識がユーザーや開発者の中であったからではないかと語っている。

続けて原田氏が語った夢の話では、各コミュニティごとに分断されている現状ではなく、将来的にはすべての格闘ゲームが共通でバーチャル空間におけるゲームセンターのような空間を共有するようになってほしいと願望も交えながら語っていた。

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ふたつ目が「アーケード&ローカル対戦の呪縛から解き放たれた世代」だ。現在のeスポーツシーンを代表する格闘ゲームは、すべて90年代に生まれ確立してきたタイトル。もし今から全く新しい格闘ゲームを作るとしたら根本的な作りから変える必要があると原田氏は見解を延べた。程語った「ビジネスモデルがゲームシステムを決める」ということも踏まえると100円で3~5分遊べるといったアーケードビジネスの縛りも存在しない。

さらに何かが挟まるたびに遅延するシステム面や、売れたタイトルとしてのテイストやプレイフィールを保たなければならないという呪縛が存在しないため、今の若い世代が作る格闘ゲームに期待を寄せているという。良い環境に、良いゲームモデル・ゲームシステム、コンテンツを含めた格闘ゲームの登場を心待ちにしているようだ。

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そして最後に語られた未来の展望は「AIの進化によって変わるもの」だ。『鉄拳8』では、格闘ゲームのジャンルの中で断トツに良いAIを搭載しているという。かなり早く正確にプレイヤーのクセを学習できることが特徴で、関連エピソードも語られた。あるプレイヤーが「亡くなってしまった弟のAIを残したい」と質問し、それに原田氏が直接答えたというエピソードだ。

原田氏は、人の想いやプレイヤーのクセや人格に近いものをAIに残せることは“ゲームを超えた価値”があるとし、「夢がある」と語っている。さらに対戦ゲームの面白さについて考えたとき、やはり同じくらいの腕前で競い合っている状態が一番楽しいと答えを出した。そのうえで、オンラインで対戦する同じくらいの実力の相手が必ずしも人間である必要はなく、AIが進化した先にはかなり良い役目を果たすのではないかと考えているという。

極端な話として原田氏は、格闘ゲームだけではなくMMORPGのパーティやギルドのメンバーの何人かはAIがベストな可能性もあるとしている。人間と見分けのつかないレベルの会話能力があり、プレイヤーをクエストやイベントに自然に誘導してくれるなら実は人間ではなくAIの方が面白い場合もあるのではないかと期待を寄せているようだ。格闘ゲームにおいてもその点がうまく融合してくると、未来の格闘ゲームの形も変化するとのことだ。

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最後に原田氏は、『鉄拳』が30周年を迎えて、今後どれだけ続けられるのかはわからないとしつつ「我々の世代は現役の開発者としてもう10年も残っていない」とコメントを残した。そのうえで、若い世代の人にも期待の持てるテクノロジーがまだまだ登場するはずであり、今後の格闘ゲームの発展原田氏自身願っているということ、そのためのサポートもしていきたいと語り、本講演を締めくくった。

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ライター
気になったゲームは古今問わず遊ばずにはいられない性格。シリーズ物も大好き。 中学生の時に東方Projectに触れてからゲーム音楽へ目覚め、アトリエシリーズと出会い覚醒。普段聴く音楽が9割ゲーム関連となってしまった。 幅広いジャンルのゲームを遊びながら、まだ見ぬゲーム音楽との出会いを求めて日夜探求し続けている。

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