CEDEC 2025で、『Clair Obscur: Expedition 33 ― 4人からなる少人数精鋭のプログラマチームとUE5による幅広い制作を支える技術的選択と課題 ―』と題された講演が行われました。
本作のプログラマーは、なんと、たったの4人しかいなかったそうです。開発会社SandfallのCEO兼クリエイティブディレクターであるギヨーム(Guillaume Broche)さんと、同スタジオのプログラマーであるトム(Tom Guillermin)さんが、その技術的なアプローチについて本公演で紹介しました。
本作は、もともとはギヨームさん個人の趣味として開発していたのが、半年後にトムさんが加入し、1年ほど2人だけで開発作業を進めていたと言います。
最終的にプログラマーは4名になりましたが、このような小規模チームでは、開発リソースがどうしても限られてしまいます。そこで、少ない開発リソースで開発するための手法を模索していったそうです。
具体的には、Unreal Engine上でビジュアル形式でプログラムを行う「Blueprint」を使うことで、プログラマーがプログラムを書かずとも開発できる環境を実現できたそうです。全体の95%近くがBlueprintで開発されたとのこと。
そのほかのUnreal Engineの機能やツールも活用しつつ、どうしても機能が実装できないときにだけ、プログラムのコードを書いたとトムさんは続けます。
そして、このような手法を選ぶメリットやデメリットについても語られました。
Blueprintはプログラマー以外のプランナーでも使うことができ、開発作業の効率化に大きく貢献できたそうです。ただ、その代わり、デバッグ作業が行いにくくなるなどの弊害もありました。
それでも、開発したデバッグツールを他の開発作業に応用するなど、開発期間内は常に効率化を追求していたとトムさんは語ります。
たとえば「ターゲットの取得機能」と「キャラクターの移動」は、同じツールで作られているそうです。パリィや回避が細かく作り込まれている本作においては、それぞれのシーケンス・UI・アニメーションのタイミングがピタリと合っているかどうか、常にチェックできる開発環境が大事だったとのこと。
また、Blueprintを用いて実装したシステムの具体例として、本作の“バフシステム” が紹介されました。このシステムではBlueprintを用いたスクリプトを使用しており、ターン経過などの条件によって、キャラに与えるデータを変えているといいます。
トムさんによると、状態異常・武器のパッシブスキル・キャラの固有スキル・属性を切り替えて戦う敵などにも、バフシステムと同じスクリプトが使用されているとのこと。
本作のゲームフローは、ゲームの状態によって有効・無効が切り替わる条件チェッカーなどによって管理されており、これにより「シーンが流れたか」「NPCに話しかけたことがあるか」「アイテムを持っているか」などが確認できるそう。
トムさんは、さまざまなゲームシステムにスクリプトを応用できることが重要だと強調します。
本作で実装されたそのほかのシステムも、同じ流れで作られているそう。再利用が可能なゲームライブラリのシステムを整備し、「Game Action Executor」によって管理やデバッグを行ったと、トムさんは言います。
セッションの最後にトムさんは、この手法を用いるメリットとデメリットについて、下記の内容を挙げました。
メリット:
・ひとつのスクリプトを様々なシステムに応用できる。
・ライブラリなどをいつでも確認できる。
・共通のAPIを用いるため、新しいアクションが簡単に作れる。
デメリット:
・トラッキングが行いにくい。
・UIが使いにくくなる可能性がある。
・プランナーが作ったカットからバトルへの切り替えが、綺麗でないことがあった。
4人という小規模なチームで多くのコンテンツを持つゲームを完成させるため、「プログラムをなるべく書かない」、「作成したスクリプトを別の用途に応用する」などの手法が取られた『Clair Obscur: Expedition 33』。
その独自のシステムと世界観は、小規模チームで制作されたとは思えぬクオリティであり、プレイヤーを惹きつけてやみません。本作を遊ぶときに、この講演でギヨームさんやトムさんが語った内容を思い出してみると、また違った面が見えるのではないでしょうか。