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『学マス』コミュの総数は“2000話”以上!毎月約100話以上を制作する、量産とクオリティを両立させる技法。1話目で「人となり」がわかる特別なカットを採用することで、アイドルの個性を取りこぼさず表現【CEDEC2025】

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『学園アイドルマスター』(iOS、Android、PC)のストーリーパート「コミュ」には、縦画面で描かれる「親愛度コミュ」(※アイドル、サポート、イベントの3種を主とするもの)と、横画面で描かれる「初星コミュ」が用意されている。

2025年7月時点で、これらのコミュは何話分が実装されているのか?

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答えは「親愛度コミュ」が2000話以上、「初星コミュ」」が全66話だ。

ちなみに2024年5月のリリース時点における「親愛度コミュ」には、およそ800話が実装されていた。そこから毎月平均100話以上のコミュが制作され、現在の実装数になっているという。

なんとなく多そうなことがイメージできる……という以前に多すぎである。

そして、実際に実装されたコミュを見れば分かるように、どれもコンスタントに提供されつつも高いクオリティが保たれている。

なぜ、そのような迅速な制作が可能なのか? 制作現場では、コンスタントな提供を実現するためにいかなる工夫が行われているのか。

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実は「親愛度コミュ」も「初星コミュ」も、極めて厳しい表現上の制約の中で作られていたことも明かされたゲーム業界の開発者向けカンファレンス「CEDEC2025」での講演「「学園アイドルマスター」のコミュができるまで 〜制約の中で光る演出術と制作システムの工夫〜」の模様をレポートする。

※本講演の映像事例には一部、コミュのネタバレを含んだものがあります。

文/シェループ
編集/anymo


「量産とクオリティ」のバランスをとる、「効率化のための工夫」と「物語とアイドルを引き立たせる工夫」

講演にはバンダイナムコエンターテインメントと共同開発を務める株式会社QualiArtsの宇野雅視氏杉村貴之氏山城悠太郎氏の3名が登壇。

宇野氏からは「親愛度コミュ」、杉村氏からは「初星コミュ」、山城氏からは各コミュ制作を支えるシステム紹介が行われた。

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最初に「親愛度コミュ」だが、冒頭でも言及したように2025年7月時点の実装数は2000を超え毎月およそ100話以上のペースで新作が提供されている。

このペースの維持に当たっては、「量産とクオリティ」という相反する価値のバランスを取るため、「効率化のための工夫」と「物語とアイドルを引き立たせる工夫」の2つを徹底しているという。

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「親愛度コミュ」は、縦画面ゆえに情報量が限定される。そのため、カメラ設定を「引き状態」「寄り状態」の2つに、立ち位置もアイドルの身長に応じて固定する措置を取って統一化を図った。また、背景の表示にも明確な基準を設け、構図的な違和感を避けつつ厳選の上で決定しているという。

これにより、一定のクオリティは担保される……が、ルールに縛られすぎると各アイドルの個性などを取りこぼしかねない。それを防ぐため、一目でアイドルの人となりが伝わるような特別なカットをコミュの1話目において採用

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例えば十王星南なら、アイドルの才能を見抜く特技にちなんで専用のエフェクトを導入したりと、個性を表現するのに必要な箇所には手間をかけているとのことだ。ほかにも既存モーションの用途工夫、エフェクトの追加なども図って、制約下で可能な限り物語とアイドルを引き立たせる取り組みを行っていることが紹介された。

「親愛度コミュ」とは対照的に、「初星コミュ」は横画面ならではの多彩なカメラカットでテンポ感を演出できる。だが、こちらにも厳しい制約がある。

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同時に描画できるキャラクターは3人まで。プロデューサーの姿を描写する演出は禁止。演技に至っては短い汎用モーションの組み合わせ限定。カメラアニメーションも開始点と終了点の2点間の直線的なアニメーションに絞られている。

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このような中で、制作チームはカメラワークやセリフ間のタイミングを調整するなどして豊かで臨場感のある演出を実現。

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例として花海咲季と藤田ことねがダンス対決するシーンは、カメラワークを活用して実力差を表現。実は双方、ダンス時のモーションは全く同じなのだが、それを演出によって違うように見せている。

杉村氏によると、「初星コミュ」の演出では「伝わる演出を心がける」「「テンポの良さ」を大切にする」を方針として設定しているそうだ。

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特に「伝わる演出」に関しては、上がってきたシナリオの内部に存在する意図、強調するポイントなどを入念に汲み取り、中身がぼやけないよう、制作時においては綿密な調整と検討を重ねながら制作しているとのことだ。

厳しい制約下でも、アイドルたちを活き活きと描き、プレイヤーにその魅力を伝えることへの強い信念とこだわりを感じさせられた。

独自ツールなどを活用したコミュ制作

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映像制作環境は当初、「初星コミュ」は映像再生方式「親愛度コミュ」はインタラクティブ方式と別々に分けることを想定していた。

これは、時間を厳密に管理する必要のある映像再生方式と、演出の時間が動的に変化するインタラクティブ方式との相性がよくないことや、本作を手がけるQualiArsの既存タイトルで開発実績があったことに由来している。

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しかし、開発効率が良くないなど複数の課題が上がったことから、最終的に映像制作面で利点の多いタイムライン方式を採用

タイムラインをベースにしたシステムで、「親愛度コミュ」のタップ操作を要求する待機、そこからのイベント分岐などのインタラクティブな挙動を実現する方法を模索することになった。

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結果、タップ操作が要求される場面における待機で、演出の時間を無限に引き伸ばし、タップした瞬間に正確な時間に戻すという仕組みを作り上げたとのことだ。

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このほかにも量産体制を想定し、スプレッドシートで管理されたシナリオをそのままインポートするだけでスクリプトが自動生成されるシステムや、シナリオとスクリプトのセリフに差分がないかをチェックする機能も導入。

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各種映像の制作も複数の独自ツールを用意し、極力負担を減らすための効率化の方法が紹介された。

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実は思った以上に厳しい制約がある中で、制作チームが知恵を振り絞って各種コミュの映像を作り上げていたというのには、『学園アイドルマスター』本編をプレイ中の人ほど驚かされるだろう。同時にこれまで実装されてきた各種コミュの映像、演出に対する見方も変わるかもしれない。

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講演では各種コミュの制作フローなども詳しく語られている。まさに舞台裏とも言える実態が気になる方は、タイムシフト視聴で確認してみてほしい。

なお、冒頭でも触れたとおり本講演の映像事例には一部、コミュのネタバレを含んだものがある。未プレイの場合はあらかじめご注意いただきたい。

ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

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