『FGO』は歴史に興味をもたせてくれた。そして俺はオタクになった
先述したように、『FGO』には史実に記録されている英雄や神話の登場人物をもとにしたキャラクターが多く登場する。この項目では、ひとりのユーザーがそれらのキャラクターを好きになったひとつのケースを紹介したい。
話は、私がまだ『FGO』をはじめて間もない初心者だった頃に遡る。2016年1月22日、出勤中にふと気まぐれに引いた召喚(ガチャ)で、ランスロット(バーサーカー)に出会う。

彼は、私がはじめて出会った高レア度の英霊だ。
彼との出会いは、私の『FGO』との関わり方を大きく変えた……いや、すべての『Fate』シリーズに興味を持ったきっかけともいえるかもしれない。大げさに言うと、私の人生を狂わせた英霊だ。
このゲームに登場する英霊には複数のクラス【※】が存在するが、「バーサーカー(狂戦士)」は大抵のクラスに対して弱点への攻撃が可能という優秀なもので、ランスロットは敵全体に攻撃したあとに強力なクリティカル攻撃を繰り出す、というシンプルな戦法を得意としていた。
※ クラス
英霊の能力を象徴し、それぞれが異なる能力を有する。セイバー(剣)、アーチャー(弓)、ランサー(槍)、ライダー(騎兵)、キャスター(術師)、アサシン(暗殺)、バーサーカー(狂戦士)の7騎にくわえ、『FGO』ではルーラー、アヴェンジャー、ムーンキャンサー、アルターエゴ、フォーリナー、プリテンダー、ビースト、シールダーと多数のクラスの英霊が登場し、攻防の相性も存在する。
2026年の1月時点ではランスロットよりも強力なサーヴァントがゴロゴロと登場しているが、当時の筆者にとってはそもそも高レア英霊を所有していること自体が稀な状況だったので、ランスロットの高火力は『FGO』の攻略を非常にスムーズにしてくれた。

漆黒の鎧に身を包み、なぜか戦闘機に乗って“ガトリング”を乱射し敵を蹂躙する狂戦士。バーサーカー(狂戦士)というだけあってか、発する言葉は「アー」とか「サー」ばかり。
それでも武芸が衰えることはなく、精密な動作で戦うことのできる能力。そのミステリアスな部分も含め、どういう経緯でランスロットが狂ってしまったのか、興味を持ち始めた。
当時の私は、軽くネットでランスロットについて調べてみた。すると、彼はブリテンでも“最強の騎士”と歌われるほどの英雄であったが、アーサー王の妻である王妃ギネヴィアと両想いになってしまい、ブリテン国の破滅を招くきっかけの一つとなってしまった人物であることがわかった。
王に忠義を誓う騎士でありつつも、ひとりの男として不義の恋に陥る罪悪感に苛まれていた人物としてさまざまな物語で描かれている。
次に『Fate』シリーズにおけるランスロットの登場作品を調べた。そして、虚淵玄氏の書く『Fate/Zero』という作品にたどり着く。
7人の魔術師(マスター)が英霊を召喚し、万物の願望を叶えるという「聖杯」を巡り熾烈な戦いを繰り広げる……という内容のもので、TYPE-MOONの手がける『Fate』シリーズの原点である『Fate/stay night』の前日談的なエピソードが描かれている。
『Fate/Zero』でもバーサーカーとして登場。狂化してなお武芸の冴えは損なわず、ひろった木の枝だけで勝利したという逸話が具現化した宝具「騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)」により、ランスロットが手にしたものはそれがなんであれ「宝具」として扱えるという設定だ。
『FGO』の作中で戦闘機やガトリングを用いていたのは、『Fate/Zero』にてランスロットがそれらの兵器を能力で支配したことがあるから……と納得できた。
また、『FGO』のサブストーリーでは、ピクニック中に襲撃を受けて割り箸で敵の攻撃を受け止め、丸太で撃退する荒業も披露。『彼岸島』じゃねーか一気に彼が好きになった。

以降も、ランスロットはうちのカルデアでは少なくとも第2部5章「星間都市山脈オリュンポス」まではレギュラーメンバーとして大活躍。世界を救うための私の旅路はランスロットと、彼の強奪した戦闘機F-15Jと共にあったと言える。
ともあれ、筆者はここで「『FGO』や『Fate』シリーズは、伝説や史実に名を遺した人物が英霊として召喚される世界」と理解した。
私にとって、『アーサー王物語』などの資料を読み漁り解像度を高める楽しみ方ができるようになった瞬間だ。
これが楽しくてしょうがない。キャラクターに対する解像度が高まれば高まるほど、『FGO』を作った人たちが、いかに愛情をもってキャラを作っているのかが伝わってくるかのようだった。
何か問題があるとすれば、トマス・マロリー氏【※】の『アーサー王物語』だけでも合計すると全503章で構成されているので、やはり人生が足りなくなるということくらいか。
(しかも、トリスタンの部だけで88章もある。長い)
歴史の勉強を疎かにしていた10年前の自分に、教えてやりたい。
「お前は将来、騎士の不倫関係を調べるために図書館へ走ることになるんだぞ」と。
※トマス・マロリー氏(1399年頃~1471年)
『アーサー王の死(Le Morte d’Arthur)』の著者として世界的に知られる。バラバラだったアーサー王伝説や円卓の騎士の物語を一つの長編としてまとめ上げた人物で、現代に至るまでのアーサー王像の基礎を築いた人物とされている。
「邪ンヌは俺の嫁」『Fate』の華である“お別れ”を改めて味わった

「邪ンヌは俺の嫁」
ユーザーに、ゲーム内のキャラに対して「こいつが俺の嫁」と断言させてしまうのが『FGO』だ。それも、ただの嫁じゃない。約10年連れ添った熟年の夫婦だ。年季が違う。
多くのユーザーにとって『FGO』は、彼女と過ごした日々でもあった。
メインヒロイン格のサーヴァント“ジャンヌ・ダルク・オルタ”ちゃん。通称、邪ンヌ。『FGO』で私の推しキャラについて語る際には、彼女をはずすことはできない。
彼女はほかにもさまざまなゲームにも登場しまくっている高名な聖女ジャンヌ・ダルクとは異なり、己を見捨てた祖国や国民すべてを憎悪しており、復讐の念を全開した状態で登場する。

最初はメインシナリオの第1部1章「邪竜百年戦争 オルレアン」にて、彼女を偏愛するジル・ド・レェによって作り出された敵として主人公の前に立ちはだかる。
以降は色々あって、正式に主人公のサーヴァントとして採用。新宿、水着イベント、そしてメインストーリーでも頼もしい味方として人理を守るために活躍してくれた。
最初はツンケンしていた態度も次第に軟化。主人公のことを「マスターちゃん」とちゃん付けで呼び、「ハンカチを無断で使う」とわざわざ声をかけてくるまでになった。マジヒロイン。マジ嫁。

ところが、奏章Ⅱ「不可逆廃棄孔イド」にて、ついに邪ンヌとお別れすることとなる。
これだよ……
『Fate』シリーズには、必ずお別れが訪れる。
さんざんヒロインムーブをぶちかまされて、すっかりほだされてこちらも半ば嫁扱いをしていたはずが、まさかユーザーを未亡人にするとは……
そう、『FGO』はユーザーに推しキャラを作らせるのが異常に上手い。豪華イラストレーターや声優陣、史実をベースにした緻密なキャラ設定、シナリオでの大活躍っぷり。そして、お別れである。
そういう作品なのは、『Fate/Zero』以降もさまざまな『Fate』シリーズに触れてみて、理解していた。
『FGO』でも変わらず、出会いがあれば、必ず別れも訪れるということを教えてくれる。
この別れがあるからこそ、共に旅をする時間が貴重に感じられるし、尊いものになる。
とはいえ……この時、私の邪ンヌは宝具5を超えて6体目まで召喚した直後だったので、なかなか堪えた。
いつか来るであろうことは誰もが予想していたことだろうが、やはり実際に対面すると寂しいものだ。だから、ガチャを引くのだが

さて、このジャンヌ・ダルクも伝説に名を刻む人物であることは疑いようもない。
資料によると、彼女は1400年代に生まれたフランス農家の娘であったという。百年戦争で敗北寸前だったフランスに、「天の啓示を受けた」という娘ジャンヌが現れたのだ。
彼女は王太子シャルル7世の信頼を勝ち取り、軍の指揮権を得て戦地へ向かう。鉄壁の要衝オルレアンの包囲を瞬く間に解いた彼女は、その勢いのまま戴冠の地を奪還。シャルル7世を正式なフランス王として即位させ、軍の士気を爆発的に高めたという。
しかし、その後の軍事作戦で敵対勢力に捕らえられると、政治的意図の絡んだ「異端審問」にかけられる。不当な裁判の結果、ジャンヌは19歳の若さで火刑に処された。死後、彼女の名誉は回復され、現在はフランスの守護聖人として広く愛されている。
(画像は『FGO』のプレイ画面より撮影)
そして、ジャンヌと共に戦い“救国の英雄”とも呼ばれたジル・ド・レェは殺人鬼と化し、『FGO』にて邪ンヌを生み出した運びだ。興味深いことに、ジル・ド・レェは筆者の推し作品『Fate/Zero』にも登場する。
さらに言うと、バーサーカーのランスロットも『FGO』にてジャンヌ・ダルク・オルタ側の陣営について登場する。推しキャラと推しキャラの共演だ。他作品同士の繋がりを感じられる瞬間は、何とも気持ちがいい。
このように、実装された英霊の史実や伝承を深く掘り下げるたび、キャラクターの見え方がより明確になってくる。それは、キャラクターの背後にいる製作サイドと、歴史を通して会話しているような感覚だ。
(画像は『FGO』のプレイ画面より撮影)
「なぜ、このキャラにスキルを与えたのか」 「なぜ、あの時この台詞を言わせたのか」「どのような想いを抱えて召喚されたのか」など。
部分的ではあるが、気になった英霊のことを歴史や物語から読み解き、解釈する。そして、『FGO』で綴られた物語や登場人物に対しての解像度が増していく感覚がそこにある。
作家さんがそこに込めた祈りや、英霊たちに対する敬意を受け取った時、『FGO』はさらなる沼へと引きずり込んでくる。いや、引きずりこまれるッ!豊富な世界設定やキャラ設定が滝のように降り注いでくるッッ!!
でも、推しに対する解像度は高めたいし、高まった状態でシナリオを振り返るとまた違った視点で楽しめるし……うん、やっぱこれ、人生が足らねぇなぁ!!!
友人に『FGO』をすすめる愉悦に目覚めたら、もう終わり
最後に、『FGO』を友人におすすめしたらどうなったのか、その末路をお伝えする。
ある日、友人から「『FGO』に興味はあるが、膨大な専門用語と歴史の重みに尻込みする」と言われた。そんな友に対し、私は聖職者のような慈悲深さで隣に座り、オープニングから丁寧に用語を解説していった。
そして、440体を超える英霊の一覧を見せ、こう囁いた。
「見てごらん。名だたる英雄だらけだ。まずは見た目から、直感で気になった人物を選ぶといい。ええ、いつかきっと会えますとも。間違いなく」と、笑顔を見せて……。
友人は迷い、そして指を止めた。
「……この、オベロンっていうキャラが気になる」

友がそう囁いた瞬間、私は心の中で「勝ったぞ」と確信しガッツポーズをとった。妖精王、オベロン。性能面ではゲームバランスを左右する屈指の強キャラであり、物語面でも重要な役割を担う超人気キャラだ。しかも、イラストレーターはマンガ家の羽海野チカ氏が担当するという豪華ぶり。
そこに真っ先に目を向けるとは、実に見どころがある。
まんまと私の術中にハマった友人は、彼に会うために長い長い旅路へと出発した。
本来、マスターたちが約10年という歳月をかけて一歩ずつ刻んできた物語の道程を、友は数ヶ月という短期間で強行突破した。もちろん、オベロンは宝具ランクも最大限強化し、絆レベルも15(最大)まで上げていた。
そして、大晦日の12月31日。ギリギリのタイミングで第2部終章まで辿り着いたのだ。

熾烈なレイシフトの連続を乗り越えた友の姿は、まさに壮絶の一言だった。英霊たちを育成し、最前線を駆け抜けるために繰り返された数多の周回───その後遺症で両腕は痺れ、目は霞み、意識の灯火も消えかかっている。
友人は、息も絶え絶えに私を罵倒した。
「お前のせいだ……! お前が誘ったから、こんなことに……!」
容赦なく浴びせられる、怒号。
しかし、その表情は言葉とは裏腹に、見たこともないような満面の笑みだった。
それもそのはずだ。友は愛する「推し」に出会い、共に壮絶な旅を遂げ、その果てにある景色をその目に焼き付けたのだから。『FGO』という膨大な夢を喰らい、友は「こちら側」の住人として完成してしまったのだ。

自覚がなくとも、魂というものは本能的に愉悦を追い求める。
私にとっての“愉悦”とは、自身と同じ苦しみを味わい、妄執し、そして最後にすべてを投げ打ってでも「それ」を選んだ自分自身を肯定せざるを得なくなる様子の人物を見届けることだ。
私は、教会を思わせる建物の高みから、笑顔で叫び、嘆き、そして悦びに震える友を見下ろしている。手元には、極上のワイン。これほどまでに美味と感じる酒は、後にも先にもないだろう。
友よ、君が今感じているその「怒り」こそが、私にとって何よりの福音だ。
君の心は、すでに元には戻れないほどに汚染されている。もはや手の施しようはない。
それらすべての体験を第2部終章のエンディングを見て受け入れた瞬間、君は完成する。喜べ、友よ……君の願いはようやく、その身を焼き尽くす形となって叶うのだ。
ソーシャルゲームという聖杯の中で共有されるこの煉獄こそが、最高の祝福。……そうさ、こんなに甘美な酒であるのなら……
ひとりで味わうには、あまりにも罪深いと思わないか?
最終的に私が求めたのは、同じ毒を啜り、同じ泥にまみれ、同じ深淵を見上げる同志だったのだ。
『FGO』は約10年に渡りサービスを運営し、ユーザーを第2部終章の閉幕まで見事に導いた。いつかこのレイドバトルは後世に語り継がれ、「その時、その場で戦っていたマスターのひとりなんだ」と武勇伝を語る者も現れることだろう。
正直に述べると、筆者は第2部終章を終えた段階で寂しい気持ちに打ちひしがれていた。『FGO』とお別れするの、寂しいな……と。そんな時、あるお方の言葉が脳裏によぎる。
「余はちゃんと終わってくれる作品が好きだな。『FGO』は話がいったん終わりそうになる点がいい」
終わりがあるからこそ、常に新しい世界を見ることができる。
そう教えてくれたのは、私が以前インタビューを担当させてもらったプロレスラー、グレート-O-カーン氏だった。オーカーン氏の言うとおり、『FGO』は第1部でそうしたようにソーシャルゲームでありながら第2部終章の閉幕までユーザーを導いてくれた。
また、みんなに会いたいな。
そんなことを思っていたら、2026年1月7日に新たなストーリー「???」が唐突に追加された。
【カルデア広報局より】
— 【公式】Fate/Grand Order (@fgoproject) January 7, 2026
『???』開幕!
開放条件は「第2部 終章」のクリアとなります。
▼詳細はこちら▼https://t.co/0OuZ3r5giP
※開始にともないデータ更新をおこないました。https://t.co/3OJOTfedNw#FGO
公式サイトの告知によると、その内容は第2部終章をクリアした後に読める内容であるという。
……これは、“『FGO』はまだまだ終わらない”という、奈須きのこ氏のメッセージと受け取ってもよいのだろうか?素直に、喜んでいいの?
……ああ、でも、待てよ。シナリオが追加されるってことは当然、英霊も登場するよな……。これは、さらに人生が足りなくなるってことでOK?
受けて立つとも。




