原典や現実世界も参照し、デザインやモーションを作りこむ。開発者インタビュー②
続いて、シニア・アートディレクターのGrant Hollis氏とシニア・アニメーションディレクターのBrian Wyser氏へのインタビューをお届けする。おふたりの専門であるアート・デザインやアニメーションの分野に関して、本作へのこだわりを聞かせて頂いた。
○インタビュイープロフィール
Grant Hollis氏:
Insomniac Gamesのシニア・アートディレクターとして『Marvel’s Wolverine』に携わる。20年以上PlayStation Studiosで務めており、『Resistance 3』『Sunset Overdrive』『Marvel’s Spider-Man』と『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』にてアート・ディレクターを務めた。Brian Wyser氏:
『Marvel’s Wolverine』のシニア・アニメーションディレクター。2013年にInsomniac Gamesに入社してから『Marvel’s Spider-Man』シリーズや『Sunset Overdrive』などの作品に貢献してきた。
左:Grant Hollis氏、右:Brian Wyser氏。
──まず、カバーに描かれているコスチュームについてお聞きしたいと思います。現代的な質感と古典的なデザインとのバランスが取れていると感じました。このデザインにどのようにたどり着いたのか教えていただけますか?
Grant Hollis氏(以下、Grant氏):
『Marvel’s Wolverine』の開発を始めた当初、私たちはローガンのコスチュームについて独自の解釈を作りたいと考えていました。
そして早い段階から、イエローとブラックが自分たちのカラーになるとわかっていましたし、その色のバランスを正しく取りたいと思っていたんです。
その作業をしていたとき、これはタクティカルスーツになるだろうということもわかっていました。ですから、現実の軍用アーマーやボディアーマー、そしてSF系の映画などに出てくるものの両方を参照して、私たちのローガンのアーマーを作り上げました。
その多くは、「もし自分がスーパーヴィランと戦う特殊部隊の兵士だったら、何を着るだろうか」を突き詰めていくところから生まれたものです。
──マスクの白い目も特に印象的で迫力があり、ほとんど怒りの表現のようでもありますね。
Grant氏:
初期に白い目を使わないバージョンも試しました。ですが、白い目があったほうが少し目立つようになり、マスクをかぶっているときの彼の感情がより謎めいたものになると感じたんです。
──ウルヴァリンの顔の半分はマスクに隠れています。そのうえで、口の動きを通して彼の複雑な感情を伝えるために、どのようなデザインやアニメーションの手法を用いたのでしょうか?
Brian Wyser氏(以下、Brian氏):
とても良い質問ですね。このゲームでは複数のスーツを使ってプレイできます。ですから、マスクのないスーツでプレイしている可能性を考えて、マスクの下の顔も完全にアニメーションさせています。
つまり、マスクの下でも完全な演技が行われているんです。そして制作中には、マスクは顔と一緒に動くべきなのか、それとももっと硬質な素材として顔の動きが伝わりにくくなるべきなのか、という議論を数多く重ねました。
ただ、Grantと私の仕事の仕方としては、原典の資料やリサーチ、そして「そのヒーローにとって何が真実か」を見ることに多くの時間を費やします。
コミックを見ていくと、ウルヴァリンのマスクはほとんどの場合、非常に表情豊かです。眉や全体が一緒に動きます。そこで制作の後半になって、マスクを被っているかどうかにかかわらず、彼の顔の演技をできるだけマスク越しに伝えるようにしよう、という選択をしました。
──感情を表現するという点で、パフォーマンスキャプチャの技術はどれくらい有用でしたか?
Brian氏:
パフォーマンスキャプチャは素晴らしいものですよ。パフォーマーとステージで作業し、その空間の中で彼らに演じてもらい、想像してもらうというのは、本当に素晴らしいことです。
ただ、それをゲームに落とし込む作業は単純ではありません。役者による演技は私たちのパフォーマンスの土台であり、アニメーターとしての私たちの目標はその「理想化されたバージョン」を見つけることだ、というのがいちばん良い説明だと思います。
ときには、俳優が眉の動きや表情で表現したことをそのまま一致させることもあります。またあるときには、シーンの中で狙っていた感情に届かせるために、私たちが演技を強めたり変更したりすることもあります。
それは俳優がやったことからの逸脱ではなく、それを強化し、改善し、増幅しているのです。ですから、アニメーターたちは、収録されたものを受け取ってそれを仕上げていく作業に多くの時間を費やしていると言えます。
短く言えば「ゲームに落とし込む」ということですが、その過程にはさまざまなことが含まれています。

──前のインタビューでも同じ質問をしたのですが、ウルヴァリンの体毛の濃さも強く印象に残ったディテールのひとつでした。これは、キャラクターとしてのウルヴァリンをデザインするうえで不可欠な要素だとお考えですか?
Grant氏:
そうですね。それについては、私が子どもの頃にウルヴァリンのコミックを読んでいたという点が大きいと思います。彼はいつも毛深い人物として描かれていました。
ですから私たちは、これをゲームの中で、しかもリアルタイムで芸術的に成立させられるか、そして自分が育った頃のコミックにいた「毛深いカナダ人」だと感じられるようにできるか、と考えました。
それに加えて、ウルヴァリン役のリアムは立派な髭を蓄えていますので、そこにも忠実でありたいと考えました。私たちの頭の中にある「ウルヴァリンとはこういう人物で、どれくらい体毛があるはずか」という像と、実際の俳優がどれくらいの体毛を持っているかという現実、その両者の隔たりをどう埋めるか。そして、どこで中間点を見つけるか、ということを考えています。
──彼の体毛をどうするかは、スタジオ内で大きな議題になったのでしょうか?
Brian氏:
本当の意味で議論になったとは思いません。全員が同意していたと思いますから。
原典の資料に基づいて彼を私たちのビデオゲームで正当に表現するには、毛深くする必要があると、全員がわかっていたと思います。ただ、その「量」については確かに議論されたはずです。
Grant氏:
そうですね、量は間違いなく議論されました(笑)。
私たちは非常に反復的な作り方をするスタジオなので、あるバージョンが上がってくると、「この量の体毛をランタイムで許容できるのか」「パフォーマンス上はどうか」「あるいは逆に体毛が足りないのか」といった話になります。十分にあるように見えるか、ということですね。
とはいえ、スタジオ内で大きな論争になったわけではありません。どちらかというと「体毛はやる。ではどうやってやるか、そして適切な量はどれくらいか」という感じでした。

──このゲームは、ウルヴァリンの怒りや動物的な側面に踏み込んでいると感じます。戦闘のアニメーションも、同じ意図を念頭に置いて設計されたのでしょうか?
Brian氏:
まさにその通りですし、そこに気づいてもらえたのが嬉しいですね。アニメーターとしてプロジェクトに入るとき、私たちは必ずそのキャラクターを“探ろう”とします。
自分たちなりの初期アニメーションをいくつか作り、解釈に基づいてどうなるかを試し、そのうえで他のメディアも見ていきます。そして、私たちがウルヴァリンに注ぎ込んだと感じているInsomniacらしい特徴のひとつが、「動物的な敏捷性(animalistic agility)」と呼んでいるものです。
動物的な側面に本気で踏み込み、それを彼の動き方で表現しようとしているんです。建物をどう移動していくかや、よろめいてから走り去るときの動き、あるいは戦闘の動きの一部にもそれが表れています。
このバージョンのウルヴァリンでは、彼がコミックの中で確かに持っているそうした特徴を出したいと強く思っていました。コミックの中では静止したポーズであり、動きとして見ることはできませんが、私たちはその一部を動きとして持ち込みたかったのです。
Grant氏:
戦闘中に彼が四つん這いになることがあります。デモでも見られるはずですが、あれが本当に格好良くて、私にとってはまさに動物的な部分を表現していると感じます。
──リサーチをたくさんされたとのことですが、どのような目的で数多くのコミックや映画を参照していたのでしょうか?
Grant氏:
アートの観点からは、コミック、映画、さらに現実世界も参照しました。私たちには素晴らしいコンセプトアーティストのチームがいて、短い説明をもとに、さまざまなスーツのアイデアやコスチューム、敵のデザインを出してくれます。
ですから探求するのはとても好きですし、私たちが重視していることのひとつは、原典に忠実でありながら、『Marvel’s Wolverine』はどうあり得るかという自分たちのバージョンも作り上げる、ということです。
Brian氏:
アニメーションの側でも、熱心なファン、子どもの頃からウルヴァリンを知っている人に刺さる瞬間をゲームの中で見つけてもらうために、多くの時間を費やしています。
ですからゲームをプレイしていくと、アニメーションを通じて、コミックの表紙や象徴的な瞬間をオマージュしている場面、多くの人が知っている彼の行動に似たアクションなどが、いくつも出てきますよ。
私たち自身もこのキャラクターのファンです。そして、人々が見たいと思っているであろうものを、いくらか提示したいと考えています。
──コスチュームのバリエーションが多いことにも気づきました。ゲームに採用するデザインは、どのように選んだのでしょうか?
Grant氏:
一部のデザインはストーリー上の展開に基づいたもので、ゲーム内でローガンがどこにいるか、その場面で何が必要かに応じた固有のコスチュームになっています。
もうひとつ考慮しているのは、オマージュ的なもの、つまり歴史上のさまざまなバージョンです。『Marvel’s Spider-Man』でも似たことをやっていて、コミックに基づいたスーツや映画に基づいたスーツなどを用意しました。
ウルヴァリンでも同じことをやったわけです。コミックや映画から記憶に残っているスーツをいくつか入れられないか、ということですね。
それからもうひとつ、これも以前やったことですが、コミックのアーティストにこのゲームのためだけにデザインしてもらったものもいくつかあります。有名なコミックアーティストによる、このゲーム専用の特別なスーツが数着あります。
──爪のカスタマイズもありますね。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
Grant氏:
あれはゲームディレクターがある時点で「爪を付け替えられるようにしたい」と言ったのが始まりだったと思います。開発の初期から金属の爪と骨の爪のふたつがありました。それは私たちがいろいろ模索していたからで、「この2つは入れたい」という話になっていました。
ですがそのうち、コミックでは特別な爪を持つスーツや、独自のもの、カスタムのものがある、という話になりました。そこで、「どのスーツにどの爪が付くのか」を考え始めたのです。プレイヤーの自己表現は私たちにとって重要ですので、プレイヤーが自由に組み合わせられるようにしたいと考えました。たとえば骨の爪を特定のスーツと組み合わせたいと思えば、それができるようにしています。
──おふたりが個人的に好きなコスチュームのデザインを教えてください。
Grant氏:
私のお気に入りは「バトル・リボーンスーツ」【※】ですが、もうひとつ好きなのは、デモにも出ていた、髪と体毛が大きく描かれたジャングルの衣装のようなものです。イエローとオレンジのスーツで、部族的な意匠が入っているものですね。これは体毛が好きだからという理由が大きいのですが、とにかくあの毛が大好きなんです。子どもの頃にコミックで見た、あのものすごい毛量を思い出させてくれますから。
※バトル・リボーン……本作のデフォルトスーツ。ちなみに、マーベルの対戦格闘ゲーム『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』にも本作にインスパイアされたウルヴァリン用コスチュームとして「バトル・リボーンスーツ」が9月1日より登場すると予告されている。
Brian氏:
私も「バトル・リボーン」の大ファンです。私にとってはあれがウルヴァリンを体現していますし、しかもアップデートされたバージョンになっています。長年読んできたすべてのコミックを踏まえて、あれが私たちなりのバージョンとして正しいと感じています。
Grant氏:
コミックではいつもブラウンとゴールドのスーツでしたからね。ですからこれが、私たちなりのバージョンだと考えています。





