136キロの“重量感”を表現するためにフレーム単位で調整。東京の描写は看板やテキストを入念にチェック
──コミックのキャラクターを3Dのビデオゲームの世界に持ち込むにあたって、デザインとアニメーションの両面で、どのような点を意識して作業されていますか?
Brian氏:
アニメーションの観点からですが、先ほども少し言ったように、私やアニメーションチームがまず最初に行うのは、そのキャラクターについて入手できるあらゆるメディアに飛び込むことです。そして、彼を地に足のついた存在にしているものは何かを見極めようとします。
ウルヴァリンは、この地球上に数百年生きてきた人物です。ですから現時点で彼は、あらゆる格闘技の訓練を受けていると理解されていますし、少なくともそう記述されています。その理解から出発して、格闘技の映像に入り込み、プレイヤーが自分のキャラクターの戦いを見ていて痛快だと感じられるような戦い方を学ぼうとします。私たちのリサーチの大半はそういうものだと言えますね。
これまでのウルヴァリンの実例が示してきたものを見て、それを現実に根ざしたものにしようとする。そして、それに相当する現実世界の例を探そうとするのです。私たちが作っているゲームでは、彼をより現実的で説得力のある人物だと感じられるようにしようとしていますから。
Grant氏:
アートに関しても、キャラクターを反映したものにすることに本当に力を入れました。ローガンはどちらかというとタンクで、少し荒削りなところがあります。ですから、彼の生きる世界のほうも少し汚れていて、くすんでいて、使い込まれ、酷使され、歴史を持っているようにしたいと考えました。
──このゲームの特徴である血の描写も強い印象を残しました。単なるエフェクトとは違うように感じられます。これはデザインとアニメーションの面でもこだわった点でしょうか?
Grant氏:
血の表現は長いプロセスでした。早い段階から、血がこのゲームの重要な構成要素になるとわかっていました。そして問題は、どうすれば血を生々しく、満足感のあるものにし、現実の液体が持つ粘性を持たせつつ、プレイヤーにとって手応えのあるものにできるか、ということでした。
本当にキャラクターを斬り刻んでいる、ダメージを与えている、血が見えている、しかもその血が壁に当たるだけでなく、壁を伝って流れ落ち、地面に落ちていく……そういったすべてです。ですから、その見た目を作り込むことにかなりの時間を費やしました。
Brian氏:
そして先ほども話に出たように、ゲーム開発ではすべてが反復的です。この種の体験にとってのちょうど良い塩梅を見つけるために、血の量については多くの反復を重ねました。
Grant氏:
ある時点では足りない、ある時点では多すぎる、という具合で、バランスの問題ですね。そしてその多くは、実際にプレイしているときにどう感じられるかにかかっています。
──このゲームは、過去作と比べてまったく新しい方向性を取りました。開発中にこの残虐で血なまぐさい方向性が最初に決まったとき、不安を感じましたか。それとも新しいことに挑戦できる機会に興奮しましたか?
Grant氏:
私は興奮しました(笑)。
Brian氏:
そうですね(笑)。スパイダーマンも大好きですが、私たち2人ともこのキャラクターの大ファンでもあります。
ですから新しいことに挑戦できるのは楽しみでしたし、必ずしも「暴力のための暴力」ではありませんでした。このゲームの暴力は彼という人物に忠実なものだと感じていますし、少なくとも私たちの考えでは、成熟した体験にしなければ、ウルヴァリンで語りたかった物語は語れなかったと思います。
──では、ウルヴァリンというキャラクターを描くうえで最も重要なことは何だとお考えですか?
Brian氏:
私がウルヴァリンについて好きなのは、視覚的な特徴ではなく、彼の複雑な過去です。彼は自分を突き動かしているものの多くを理解していません。どうやって骨の爪を得たのか、どうやってアダマンチウムの爪を得たのか、100年前の自分の人生がどうだったのか。その多くが消し去られてしまっているからです。
私にとっては、その側面こそがウルヴァリンの最も魅力的なところです。そして私たちが用意した旅と物語のなかで、彼が自分の抱える悪魔、内なる悪魔と闘う姿をいくらか体験していただけると思いますし、それはとても共感できるものだと感じます。
Grant氏:
さらにプレイヤーであるあなた自身も、ウルヴァリンと一緒にこの謎を解き明かしていくことになりますね。
──爪を使った戦闘は、コンセプトとしてはシンプルですが、ゲームの中では非常に満足感があります。この感触はどのようにして実現したのでしょうか?
Brian氏:
これという単一の答えはありません(笑)。Grantが言ったように、私たちは反復に多くの時間を費やします。
簡単に説明するなら、まずコンバットデザイナー、アニメーター、ゲームプレイプログラマーが協力して「こういう技を入れたい」という案を出します。
そこから「その技の物理的な性質はどうか」「どう見えるか」「どれくらいの速さか」「ウルヴァリンはどれくらいの距離をカバーできるか」を反復していく、ということになります。そして、正しいと感じられるところに着地するまでには時間がかかります。
アニメーションチームにとって最も難しかったのは、ウルヴァリンの“重量感”を確立することだったと思います。彼は力の強い男で、金属の骨格を持っています。ですから理論上、体重はおよそ300ポンド(約136キロ)あります。そのため、スパイダーマンのように素早く、散発的に動かしたくはありませんでした。はっきりと異なる感触になるようにしたかったのです。彼の重さを説得力を持って伝えることが私たちにとって最大の課題でした。
──ゲーム内で彼の重さを表現するために、具体的に何をしたのでしょうか?
Brian氏:
たくさんのことをやりました。アニメーション側では、たとえばアニメーションのタイミングがそのひとつです。
戦闘の技で□ボタンを押すと、そのアニメーションが敵に当たるまでにおそらく7フレームかかるとします。ウルヴァリンの場合は、それを9フレーム、10フレームにする必要があるかもしれません。
さらに私たちが加えているのは、アニメーションの用語でいう「フォロースルー」を多めに入れることです。つまりパンチの後の動作ですね。彼はそのパンチに大きな慣性を伴っています。その重さゆえに、体勢を立て直して次の攻撃の準備ができるまでに、より多くの時間がかかるわけです。
ですから重さを伝えるというのは、その大半はタイミングの調整です。そしてその多くは、調整したタイミングの中で適用するポーズとの組み合わせによるものです。
Grant氏:
もうひとつ視覚的要素の話をすると、破壊表現があります。爪が物を壊し、敵から装甲などを剥ぎ取っていく様子がわかるようにしました。それも重さの表現の一部ですね。
爪を持っている彼のパンチには意味があり、実際に物が壊れるのだ、ということです。
Brian氏:
彼の力に対する環境側の反応も、重さを伝えるためのもうひとつの手段ですね。
──日本から来た人間として、東京が舞台のひとつになっていることに惹かれました。東京のマップをどのように設計したのか教えてください。
Grant氏:
何度か日本に足を運んで、フォトグラメトリのデータや写真を撮り、そこに何があるのかをしっかり理解するようにしました。そのうえでデザインチームと一緒に、戦闘やゲームプレイにとって適切なかたちに収めた新宿のバージョンを作っています。
ですから日本の新宿エリアを様式化したものになっていますが、そこにあるランドマークや、多くの看板、多くのテーマ性については忠実であろうとしていますし、正確であることを確認するために、SIEジャパンに相談しています。
彼らと一緒に作業して、看板の翻訳をもらい、看板やテキストが正しいことを確認するというのは、大きな仕事でした。
特に私のように日本語を話さない人間にとっては、間違ったものを表示していないことを確認するために頼る必要がありました。彼らは素晴らしい協力をしてくれましたよ。
Brian氏:
街中の市民のアニメーションについても、世界のさまざまな地域で同じことをやっています。私たちが気づけないような自然な振る舞いとはどういうものかを見極める手助けをしてもらうため、SIEジャパンのコンサルタントやアドバイザーと必ず一緒に作業しています。できる限り本物らしくしようとしています。
Grant氏:
私が覚えているのは、たとえばナンバープレートの違いです。車両の種類によって、プレートの色の意味が変わるんですね。そういったルールはまったく知らなかったのですが、非常に勉強になり、興味深いものでした。「へえ、自分がまったく知らない体系があるんだ」と思って、面白かったです。
──日本への渡航で、最も強く印象に残ったランドマークや場所はどこですか?
Grant氏:
新宿は本当に素晴らしいですね。私自身、2年前の春に家族と訪れましたが、美しいと思いますし、ネオンや光がすべて揃っていて非常に興味深く、それをゲームに持ち込もうとしています。そして今作では、それ以外の追加のエリアも入る予定です。

──東京パートで、日本のプレイヤーに特に気づいてほしいものはありますか?
Grant氏:
日本のプレイヤーには、私たちが用意したランドマークのいくつかに気づいてもらえたらと思いますね。
──そのほか、カナダやマドリプールも登場しますね。それぞれのデザインや体験は、マップごとにどう異なるのでしょうか?
Grant氏:
カナダはもう少し森林寄りになりますが、マドリプールはジャングルがあり、ハイタウンとロウタウンがあります。架空の国ですが、東南アジアの国々をベースにしています。
Brian氏:
また、天候にも力を入れていて、大気の表現や雪、雨など、その地域にふさわしい要素を取り入れています。
Grant氏:
そして東南アジアの複数の国にも写真を集めに行きましたし、カナダにも行きました。私の共同アートディレクターは実際にバンクーバーに住んでいるので、「ああ、それならすぐそこだよ。ちょっと車で行って写真を撮ってくる」と言ってくれたこともありました。
──東京やカナダのような実在の場所と違って、マドリプールはMarvel世界の都市です。架空の場所をゼロから構築するには、異なるアプローチが必要になるのでしょうか?
Grant氏:
異なる点は、さまざまな文化から要素を借りてくるということです。日本をやるときには当然、ゲームのデザインの中でできる限り本物らしくしようとします。
ですがマドリプールは現実には存在しません。ただ、設定上では東南アジアにあると書かれています。ですから、「東南アジアのどの国から要素を借りられるか」「ここではどんな言語が話されている可能性があるか」「看板は何語であるべきか」と考え始めるわけです。
東南アジアに対して本物らしくありたい、けれど架空の国なので特定の国そのものにはしたくない、ということを確実にしたかったのです。

──最後に、発売が近づいていますが、日本のプレイヤーに向けて本作の注目ポイントをお願いします。
Brian氏:
ひとつは、「ウルヴァリンになった」と感じてほしいということです。戦闘がコントローラー越しに伝わって、映画やコミックで見てきたあのキャラクターに自分がなりきれたと感じてもらえることを心から願っています。
もうひとつ言いたいのは、物語で何かを感じてほしいということです。ローガンは複雑なキャラクターですし、アニメーターとして、私や私のチームの目標のひとつは、演技として提示するものによって人々に感情を抱かせることです。ですから、何らかの感情的な旅を持ち帰ってもらい、実際にウルヴァリンになったと感じてもらえることを願っています。
Grant氏:
私も同意見です。私としては、日本のプレイヤーに、たとえウルヴァリンが誰なのか知らなくてもプレイしてほしいと思っています。このゲームは事前知識が一切不要なかたちで作られていますからね。
そしてプレイしていくうちに、「ローガンとは何者なのか」「彼の物語とは何なのか」がわかってくるはずです。しかも、それを知っていくのはあなただけではありません。あなたが操作しているキャラクター自身も同じなのです。彼は自分の過去が曖昧で、何が起きたのかをはっきりとは知らないのですから。
──ありがとうございました!


