ゲームの“ウリ”はひと言で!
MC:
それではいろいろと質問に答えていただきます。安藤さんがゲームを作るとき、いままで手がけた作品で「ここがウリ」というポイントが何だったのかを教えてください。
安藤:
まずウリはひと言で言えないとダメなんですよ。ksonはいまゲームを作っているでしょ?
kson:
作っています。
安藤:
どんなゲームか、人が興味を持つようなひと言で言える? サン、ニー、イチ、どうぞ。
kson:
ゴクドー。
安藤:
極道? 極道のゲームを作っているんだ。
kson:
ああ、ひとこととは、難しですね。それはひとつの言葉ですか?
安藤:
人はゲームを選ぶとき、長い文章を読みません。見るのは、パッケージの絵やキャッチコピーなど。たとえば『モンスターハンター』の宣伝は「ひと狩りいこうぜ!」って書いてあるだけなんですよ。それを「PSPでワイヤレス通信を使って最大4人でモンスターをハントしていく。そのハントの結果、素材がドロップして、その素材でさらに武器を強めて、またさらに強いモンスターを倒しにいくゲームです」と言うと長い。
MC:
面倒くさそうです。
安藤:
でも、「みんなで狩りするゲームなんだよ」とひと言だとわかりやすい。CMの時間も短いし、みんな忙しいから、ひとつひとつの作品に注目してる時間なんてないんです。長い説明や文字は読んだり聞いたりしてもらえないので、パッとひと言にする必要があるんですよ。
kson:
ひとこと。
安藤:
極道、であればもうひと言ほしいよね。
kson:
もっとほしいの。
安藤:
RPGだったら“極道RPG”でもいい。そんなの遊んだことがないし、「極道がテーマのRPGをするんだ」という感じで、けっこうイメージが湧くから。そういうひと言を考えるのも、プロデュースするうえで、とても大事なことです。
kson:
OK 勉強になります。
MC:
安藤さんが、いままで作ってきたゲームだと、どんなひと言になるんでしょう?
安藤:
たとえば『鈴木爆発』というゲームは、簡単に言うと“バカゲー”です。内容は「爆弾を解体するゲームです。以上」なんですよ。ではどうして「バカゲーです」と言ったのか。
“バカゲー”って本来は遊んだ人が「バカだな」と思って決めることじゃないですか。でも作っている人が「これバカなんだよ。ヘンなんだよ」と言うことで、ちょっと差別化をしようと思ったんです。なぜかというと、このゲームが出た西暦2000年ごろは、『せがれいじり』などバカゲーが売れたんです。ksonは『俺の料理』というゲームを知っている? アナログスティックで包丁の操作をしたりします。
kson:
知りません。
安藤:
そういうちょっとユニークでヘンなゲームをお客さんが求めてる時代があって、「このゲームもそれなんだよ」と言うことがいちばんのウリになったんですよ。『鈴木爆発』というタイトルも、日本人からすると少しユニークさを感じるタイトルなんですね。「鈴木が爆発しちゃうんだ。なんで?」、「それは爆弾を解体するから」という感じだったりとか。
MC:
先ほどから「この人、頭いい」というコメントがけっこう届いています。
安藤:
オレはよく「口から生まれてきた」と言われることも多いんです。それはプロデューサーって自分では何もできないから、自然とそうなっていく。オレもいちおうBASIC程度だったらできるけど、いわゆるプログラムは書けないし、絵は自分より上手い人がいるし、シナリオだってイシイジロウさんのほうが絶対におもしろいし、ゲームのプランニングも河野一二三さんのほうが絶対にうまい。
では「どうやってゲームを作るのか」といったら、それらがすごくできる人を集めて作ってもらうんですよ。そのときにとても大事になるのは、自分が考えていることをわかりやすく説明して、「この人だったらいっしょに作りたいな」と思ってもらえるように魅力的に伝えることなんですね。それを頑張らないといけないから、だんだんとお喋りが上手になるんです。
MC:
なるほどなるほど。
安藤:
ではひと言説明を続けましょうか。過去に『ケイオスリングス』というロールプレイングゲームを作りましたが、これは言うなら“スマートフォン最強RPG”です。
MC:
グッと来ますね。
安藤:
オレはすでにスクウェア・エニックスを辞めていますが、ぜひ『ケイオスリングスIII』をスマートフォンで遊んでみてください。はっきり言いますが、『ケイオスリングスIII』よりおもしろいスマートフォンのRPGはありません。だから最強で「これ以上はないよ」というのがウリ。そういう言いかたもあるんです。
「プレイステーション4やVitaなら、『ペルソナ5』のようにおもしろいゲームがある。スマートフォンだったら『ケイオスリングスIII』だよ」というのがウリで、開発チームにも「これ以上ないRPGを必ず作ろう」と言っていたんですね。
つぎは『拡散性ミリオンアーサー』。これはひと言で言うと、“鎌池和馬オンライン”です。
MC:
おー。鎌池和馬さんは小説家のかたですよね。
安藤:
『とある魔術の禁書目録』や『ヘヴィーオブジェクト』など、ライトノベル界のスーパースターですね。「そんなヒット作を書いている人が、世界設定や原作を務めたゲームですよ」ということをわかりやすく“鎌池和馬オンライン”と言ったわけです。スマートフォンにやってきた鎌池和馬さんが手がけた世界が“アーサー王伝説”だったと。
MC:
なるほど。それで“アーサー”と付くんですね。“ミリオン”の部分は?
安藤:
アーサー王伝説では、石に刺さったエクスカリバーという剣が抜けたひとりだけが勇者ですが、『ミリオンアーサー』では、100万人以上のプレイヤーみんながスポスポと抜くんです。つまり100万人以上のアーサーがいるから“ミリオンアーサー”。そこは鎌池さんの発明というかユニークなところで、「そういう世界設定やキャラクター、そしてシナリオが気になった人は、ぜひ遊んでください」という作品です。
MC:
それぞれのタイトルで、すべて売りのポイントが違うんですね。
人を惹き付ける企画の考えかた
安藤:
ゲームを自作している人には、作りたいイメージがなんとなくあると思います。それを形にするとき、考えるべきものが順に4つあるんです。『ツクール』で自作しているほとんどの人は、「こういうシステムや、こういう遊びを作りたい」など、ゲームのシステムから考えると思いますが、プロデューサーは逆に最初にウリ、つまりテーマから考えます。
「アーサー王が100万人いるという話を、すごくおもしろいお話を書ける鎌池和馬さんが書いたら、めちゃめちゃ売りになるんじゃないか?」、「スマートフォンで『ファイナルファンタジー』のようなゲームが遊べたら、それはおもしろいんじゃないか?」、「バカゲーが流行っている。『ドラゴンクエスト』などマジメなゲームのイメージがあるエニックスから、『鈴木爆発』というヘンなタイトルのゲームが出たら目立つんじゃないか?」というようなテーマを最初に作るんですね。
kson:
テーマを作ります。
安藤:
テーマが決まると、ターゲットが決まるんです。ターゲットとはそのゲームを遊びたいと思ってくれる人。ksonが作っている極道RPGを遊びたいと思う人がいるかもしれない一方で、興味のない人もいるかもしれない。だったらまずはちゃんとそのテーマに興味を持ってくれる人がいるかどうかを考えないといけない。
kson:
キョウミがある人。
安藤:
「絶対にパズルゲームはやらないよ」、「シューティングゲームしか遊びません」、「RPGばっかりやっている」など、ゲームにはプレイヤーの個人的な好みがあります。つまりターゲットによって好き嫌いが分かれるので、自分が考えたテーマを好きな人がいるかどうかは重要になる。極道RPGというものを考えるなら、「やりたいと思ってる人がいるかどうか。それはどんな人か?」とターゲットを定めるんです。それは飲食店と同じで、ハンバーガーを食べたくない人に対してハンバーガーを出しても食べてもらえない。ハンバーガーを作るなら、ちゃんとそれを食べたい人がいるかどうかを見極める。
kson:
お客さんのことを考える。
安藤:
そう。テーマが決まって、ターゲットが決まったら、そこで初めてプラットフォームが決まります。要するに「プレイステーション4で作るのか?」、「PCで作ってSteamで売るのか?」、「スマートフォンで作るのか?」などですね。極道RPGを遊ぶターゲットの人が、ちゃんといまから作るプラットフォームにいるかどうかを考える。
スマートフォンに極道RPGを遊びたい人がいるのであれば、そこで作ったらいい。たとえばハードコアなシューティングゲームは、いまでこそスマートフォンでもリリースされていますが、本当はコントローラーで遊びたいものだとしたら、じつはスマートフォンにはシューティングゲームを遊びたいお客さんが少ないかもしれません。だったらそれが好きなターゲットに向けて、「コントローラーで遊べるプレイステーション4やPCだな」という感じで決めるんです。
テーマ、ターゲット、プラットフォームが決まったら、そのテーマが好きなターゲットがいるプラットフォームで遊ぶ人たちが、遊びたがる形を最後に考えます。それがゲームシステム。
MC:
まったく逆ですね。
kson:
まったく逆。
安藤:
そうしないとウリができないんです。そうやって作らないと、みんなが遊びたいものじゃない“ksonが作りたいもの”ができあがる可能性が高い。“みんなが遊びたいもの”と“ksonが作りたいもの”は、もしかしたら別かもしれない。それをマッチングさせる行為がウリを考えるということです。
kson:
oh……
安藤:
マジメに話すとこういう話になりますが、ぜんぜんマジメじゃない話もできます。これでいいですか?
MC:
はい! ずっとマジメで行きましょう! ただちょっと進行を巻いていきましょう。
安藤:
わかりました。巻きましょう。