ビデオゲームの歴史のカタログ化、デジタル化、および保存を行う非営利団体「The Video Game History Foundation」(以下、VGHF)が、海外版ファミリーコンピュータであるNES向け『シムシティ』のプロトタイプ版のアーカイブに成功、Romデータを収蔵したことを発表した。カートリッジが制作されたのは1990年12月20日だが、当時は発売されずお蔵入りとなった。
1989年にMac向けにリリースされ、1991年にはスーパーファミコンで発売された都市設計シミュレーション『シムシティ』は、当初はNES版も発売される予定だった。現在はCESとして知られる家電見本市「WCES 1991」にてNES版『シムシティ』が出展され、アメリカではその様子がVideo PowerというTV番組でも取り上げられた。
NES版『シムシティ』はギリギリまで発売される予定だったにもかかわらず、理由は不明ながら直前に結局キャンセルされることとなった。とはいえ発売が中止になったタイトルでも、上記のWCESようなイベントでの宣伝用、あるいはレビュー用としてプレイできる形でカートリッジが生産される。そういったソフトは、稀にインターネットオークションや中古ゲームソフト販売店などに姿を表すことがある。
2017年8月、シアトルにあるビデオゲーム販売チェーンBack In Time 2 & PLAYliveがファミコン版『シムシティ』を2本入手したことを報告。ひとつは店頭に展示し、もうひとつはイベント「Portland Retro Gaming Expo」で競売にかけられたという。その後、VGHFの創設者Frank Cifaldi氏が、ファミコン版『シムシティ』の2人のオーナーの協力の下、ゲームのデジタル化と収蔵に成功した。
※2017年に公開されたNES版『シムシティ』の映像。
季節によって桜が咲くなどのグラフィックの変化、一定条件を満たすことで得られるプレゼント、そして作者であるウィル・ライト氏をモチーフにしたドクター・ライトという秘書キャラクターの追加など、PC版『シムシティ』にはない要素が追加されている。
ほかにもドクターライトやプレゼント、銀行といった要素が収録されており、ほとんどスーパーファミコン版と同等の内容になっている。しかし、未完成であったり異なる部分も存在する。
特に大きな違いは建物タイルのサイズだ。オリジナルやスーパーファミコン版の建物は3×3マスのサイズだが、プレゼントの建物を除いてNES版は2×2となっている。
また、プレゼントは周囲の地価を上げられるが、NES版『シムシティ』はまだ未完成で、地価の要素は働いていないという。プレゼントの建物を中心にまわりに建物を配置する、『シムシティ』の一般的な攻略テクニックは利用できない。
ほかにもファミコン版『シムシティ』の研究により、未使用のタイルや建物、登場しないボード、ドクターライトのアニメーションといったデータも発見されている。VGFHに親しいファミコンの専門家であるCaH4e3氏は、ゲームの未使用データ、ゲーム雑誌や広告の情報などからファミコン版『シムシティ』の本来の形を再現しようとしている。
ゲームの発売予定日から30年近く経った2018年末に、またひとつゲームの歴史の中に埋もれていたゲームが発掘された。VGHFでは支援者を募集している。こういった活動を支援したい人は是非、寄付で応援してほしい。
文/古嶋誉幸