ファンがゲームを自由に改造するMod文化は、PCゲームを中心に今や広く知られた楽しみ方のひとつだ。そんな中、Modといえば「きかんしゃトーマス」、モデルの差し替えといえばトーマスという風潮を肌で感じている方は少なくないだろう。
日本では正式名称を『きかんしゃトーマスとなかまたち』という。鉄道模型を使ったアニメとして子ども向けに制作され、現在は3DCGを使ったアニメが放映されている。イギリスのウィルバート・オードリー牧師が描いた『汽車のえほん』を原作とし、オードリー牧師の死後はイギリスのマテル社が権利を保有している。
このムーブメントは、2013年に公開された『The Elder Scrolls V:Skyrim』のドラゴンをトーマスに置き換えるMODが始まりとされており、海外メディアThe FaceがModの作者であるケヴィン・ブロック氏にインタビューを行った。
ブロック氏は、全てが自然発生的だったと振り返る。ある日氏の友人からiPhoneのゲームで使われたトーマスのモデルを受けとり、最もおかしなことは何かを考えた結果、『Skyrim』のドラゴンと置き換えようと思いついたという。すでにゲームのMod制作の知見を持っていた氏は、30分ほどで移植を完了した。
他人の著作物を使用する行為は違法となる可能性があるが、引用の範囲や目的が収益を得ることでない場合、著作権侵害とならないフェアユース(公正利用)の範疇として抗弁することが可能となる。
今日でもさまざまなゲームで他者の著作物を引用したModが公開されているが、その多くが黙認されているのはフェアユースの概念が大きく関係している。もちろん国によって法律が違うので、あくまで黙認されているというスタンスにとどめておきたい。
「マテル社は私に死んでほしいと思っているでしょうね。」ブロック氏はマケドニアの法律仲介事務所からトーマスのブランドを傷つけたとして、Youtubeに公開したトーマスModの動画を削除するように申し立てられたことを語っている。1度目は公開停止となったものの、その後、Youtubeが「パロディの範疇である」として公開停止を撤回した。
法的問題はさておき、こういった他人の著作物にフリーライドしてオーディエンスの耳目を集めようとするMod作者は、「ミームModder」と呼ばれ軽蔑されることもある。しかし、ブロック氏はミームModder的行為を肯定的に捕らえている。この愉快なバイラルジョークはSNSなどで話題となり、自身の他のプロジェクトを世に広める事になったからだ。
耳目を集める二次創作ゲームを発表し、それをバネに新しいプロジェクトを周知したり、アマチュアからプロへと転向する例はそう珍しいものではない。
たとえばTPS『DAYMARE: 1998』は、『バイオハザード2』ファンメイドリメイクから派生した。リメイクプロジェクト自体は中止となったが、カプコンに招待され自分たちのIPを持つべきだと背中を押されたという。
『Biohazard: RE2』や『Sekiro: Shadows Die Twice』、『GTAV』、果ては『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』など、「きかんしゃトーマス」が移植されたゲームは数多い。
たとえばゲームコミュニティには、『DOOM』が動く可能性のある機器は全て『DOOM』が動くという信念の元、オシロスコープや関数電卓にまで『DOOM』を移植するものや、フラッシュライトや衣服をニコラス・ケイジにするというような奇妙なムーブメントがある。
「きかんしゃトーマス」も、間違いなくそんな奇妙なムーブメントのひとつと言えるだろう。
ライター/古嶋誉幸