Nintendo NYは10月15日、翌日にニューヨークで開催される予定だったNintendo Switch版『Overwatch』のローンチイベントが、Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)によってキャンセルされたことを発表した。
その理由については言及されていないが、eスポーツ大会に香港デモのスローガンを持ち込んだ選手への対応をめぐって同社が批判を浴びている、いわゆるBlizzard騒動の影響を憂慮した判断である可能性が考えられる。
Please be aware that the previously announced Overwatch launch event scheduled for Wednesday, 10/16 at NintendoNYC has been cancelled by Blizzard. We apologize for any inconvenience this may cause.
— Nintendo NY (@NintendoNYC) October 15, 2019
一連の騒動は10月6日、デジタルカードゲーム『Hearthstone』の公式トーナメントに出場した香港出身のBlitzchungこと呉偉聡(ン・ワイチョン)選手が、試合後に台湾の公式実況配信で行われたインタビュー中に、ガスマスク姿で香港デモのスローガンを叫んだことに端を発する。
これを受けてBlizzardは、同選手が大会規定の一部に違反したとして、獲得賞金の剥奪と1年間の出場停止処分を下した。
『Hearthstone』公式大会の生放送で香港の選手がガスマスクで抗議活動、規定違反とみなされ1年間の出場停止処分に
このBlizzardの対応が、同社のゲーム配信を生業とする多くのストリーマーや、同社で働く従業員や元ゲーム開発者、デジタル権の保護に向けて活動する非営利団体を巻き込んだ騒動へと発展していく。
Blizzard関連のフォーラムサイトは、Blitzchung選手を擁護するユーザーの同社に対する非難の声であふれ、ソーシャルネットワークでは「#BoycottBlizzard」というハッシュタグが出回った。Subredditのモデレーターの中には、Blizzardに対する抗議の意を込めて、自身の役割を放棄した者もいる。
ゲームコミュニティに大きな影響力を持つ著名なストリーマーの多くも、ソーシャルメディアを通じて各々の立場や信念を表明している。『マジック・ザ・ギャザリング』のレジェンド級プレイヤーとして知られ、Blizzardのゲーミングコンベンション「BlizzCon」では『Hearthstone』のコメンテーターとしても活躍してきたBrian Kibler氏は、自身のブログの中でBlizzardの判断基準に一定の理解を示した上で、Blitzchung選手への処分内容は到底許容できないとして、今後のBlizzConにおけるコメンテーターの仕事を辞退すると表明した。
このほか、非営利団体のFight For The Futureは10月11日、ゲーマーやRedditユーザー、インターネット活動家を募り、11月1日にアナハイムで開催予定のBlizzConにて大規模な抗議運動を実施すると発表した。
ProtestBlizzconと銘打たれたSubredditでは、記事執筆時点でおよそ3800人がデモへの参加を表明している。また、ゲームコミュニティの間では、Blizzardの人気対戦ゲーム『Overwatch』に登場する中国出身の女性キャラクター「メイ」を、香港デモのイメージキャラクターとした様々なファンアートも作られている。
My photoshops are nothing if not both lazy and fast, but still.#HongKongProtest #Blizzardboycott pic.twitter.com/nsE1VWl0e3
— Kaipo 🐀 (@Kaipo_Rozwolf) October 8, 2019
一連の騒動による影響は、Blizzardの社外に留まらない。
Blitzchung選手の処分が発表された直後、南カルフォルニアにあるBlizzard本社では、モニュメントに刻まれた2つの標語「Every Voice Matters」(すべての声が重要)と「Think Globally」(グローバルに考えよ)が、従業員によって紙で覆われる光景が報告された。
WIREDによると、Blizzardで長年ゲーム開発者として活躍し、MMORPG『World of Warcraft』では初代チームリーダーを務めた元従業員のMark Kern氏が、同社はもはや自身が我が家と信じてきた企業ではないと胸の内を明かし、12歳の息子と共に遊び続けてきた『World of Warcraft』のサブスクリプションを解約した。
Not everyone at Blizzard agrees with what happened.
— Kevin Hovdestad (@lackofrealism) October 8, 2019
Both the "Think Globally" and "Every Voice Matters" values have been covered up by incensed employees this morning. pic.twitter.com/I7nAYUes6Q
こうした事態を重く見たBlizzardは10月12日、J. Allen Brack社長名義の声明を発表。同社が掲げる上記の理念を自ら蔑ろにしているのではないかと疑問視する多くの人々に向けて、Blitzchung選手の行為がeスポーツ大会および公式実況配信の趣旨から逸脱していたとする判断基準を改めて説明した上で、同選手に対する処分内容を見直し、大会賞金の剥奪を取り消した。
また、出場停止の期間を当初の1年間から6か月間へと変更した。なお、声明の中でBrack氏は、当初の判断に中国との関係は一切影響をおよぼしていないと強調している。
しかし、騒動が収束する気配は一向に見えない。今回キャンセルされたNintendo Switch版『Overwatch』のローンチイベントに関しても、Blizzardを批判する多くのユーザーが歓喜に沸き立った。中には、間近に控えたBlizzConを中止にすべきという声もある。
BlizzConは2005年から続くBlizzardブランドの祭典で、世界中から4万人以上(昨年の統計)のファンが集う人気イベントだ。このまま抗議活動が活発化し続ければ、イベントの進行に少なからず影響が出ることは想像に難くない。
ライター/Ritsuko Kawai