ホラーアクションゲーム『野狗子: Slitterhead』を開発中のBokeh Game Studio(ボーカゲームスタジオ)は、代表の外山圭一郎氏とアクションアドベンチャーゲーム『Ghostwire: Tokyo』で知られるTango Gameworks代表の三上真司氏による対談映像「Golden Hour – Guest: Shinji Mikami」をYouTube上で公開した。
映像では業界へ入ったきっかけや3Dホラーゲームの黎明期に各タイトルを生み出した際のエピソード、ディレクター・プロデューサーの各立場から見た視点の違いなど、多彩な話題が三上氏ならではの軽妙な言い回しで紡がれている。なお、本シリーズはさまざまなゲストを招いて今後も展開される予定だ。
映像では最初に、外山氏がコナミへ入社した際のエピソードが語られた。メガドライブ向けタイトルのチームで海外向け作品のピクセルアートを手がけていた外山氏は、次世代機へ向けた方針転換で取り組み中のプロジェクトをすべて凍結され、結果的にシリーズ初の3D作品『ハイパーオリンピック イン アトランタ』へ携わった。同作はコナミ社内でほぼ初となるモーションキャプチャー【※】のプロジェクトとして進行していたが、当時はキャラクターを動かすための仕組みや骨格となるデータが存在せず、無加工の実写映像を手探りで3Dに落とし込んでいたという。
【※】モーションキャプチャー:人間や動物、モノなどの動きをデジタルデータとして記録する手法。コマ割りされた動きを1枚づつ表現してつなげていく「ロトスコープ」などの従来手法と異なり、より精度の高い表現を実現できる。
その後、外山氏は『ハイパーオリンピック イン ナガノ』かのちに『サイレントヒル』となる“サバイバルホラーゲーム”のどちらかでディレクターを務めるよう依頼され、先輩が「新しいことに取り組んでみたい」と話していた意向を汲んでくれたことでサバイバルホラーゲームの制作に着手した。当時は三上氏のディレクションによるカプコンの初代『バイオハザード』がヒットしていたためコナミも追走するかたちで開発に着手したようだが、ゲームジャンル以外はすべて白紙であったという。
一方、三上氏の話によると当時のカプコンにおけるメインタイトルは2D格闘ゲーム『ストリートファイターII』。家庭用ゲーム機向けの部門では『ストリートファイターII』の移植版や『超魔界村』などの2Dタイトルを推し進めていたため、CG技術ではナムコやコナミ、セガに遅れをとっていた。そして、セガによる3D格闘ゲーム『バーチャファイター』の登場で問題は明るみへと出され、3Dへのノウハウがない状態で『バイオハザード』の開発に着手していたようだ。
映像では続いて、互いの作品づくりにおける「ホラーの構築」に関する話題が展開された。外山氏は『サイレントヒル』を『バイオハザード』と差別化させるにあたって背景をフルポリゴン化するなどの試行を重ねていたものの、細かな部分では「(バイオハザードと)同じように作っておいてください」と指示していたという。どうやらこの指示は忙しいディレクターの間における“あるある”のようで、三上氏も「何回かやったことがある」と唸っていた。
しかし、指示に応じて制作された細かな要素の一部は名残となり、チームを悩ませる。外山氏によると『サイレントヒル』のポーズ画面で体力が減った際に表示されるパルスのようなエフェクトは製品版まで残っているほか、敵との駆け引きで横をすり抜けようとするプレイヤーを掴む動きも『バイオハザード』から影響を受けたものだ。しかし、ゾンビがキャラクターを掴もうとする動きはすり抜けの防止を念頭に置いたものではないという。
三上氏によると、上記の動きは「すり抜けられそうなタイミングで腕が伸びてくる」スリリングなホラー演出を念頭に置いているという。捕まえようとする場合は見た目よりも大きな判定を発生させればよく、多くの関係者もすり抜けられる仕様に苦言を述べていたという。しかし、本作は「初めてのプレイで限られた弾薬を節約しようとしてすり抜けていくうち、どんな人でも必ず失敗する」バランスを見越していたようだ。
三上氏の考える「制限のある環境でプレイヤーが解決策を選ぶ」バランスについては、映画『ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)』や『13日の金曜日』、同名のホラー映画をもとにしたRPG『スウィートホーム』の話題も交えて語られている。また、かつてのゲーム作りについて、三上氏は苦しみと合宿のような楽しさが混ざった当時の環境を「ゲームが自由に作れる刑務所に入ってた」との例えで振り返った。
話題はクリエイターとプロデューサーによる視点の違いに移っていく。三上氏は『バイオハザード』を制作する際にプロデューサーとして国内で100万本売れる「怖いけど楽しいホラーエンタメ」を目指していた一方、野心を持ったクリエイターとして「心霊を題材にした純粋なホラー作品」の構想も考えており、この構想が『バイオハザード』で“動物的な恐怖感”を感じさせるきっかけとなったようだ。
当時の三上氏は“動物的な恐怖感”が以後のスタンダードになると考えておらず、スタッフへ説明する際は飲み物にたとえて、癖がありつつもメジャーな“キリンラガー”に作品の方向性を位置付けていたという。三上氏は当時の説明を「訳わからん」と振り返りつつ、給料が低くて飲めなかった“ヱビスビール”を「もし飲めていたら“ヱビスを作ろう”と言っていた」と笑いながら語っている。
また、ホラーの純粋さを極めるとファンが減り、話題性を意識すると純粋ではないエンタメ寄りの作品になるバランスについて、三上氏は「(プレイヤーの)期待していることの半歩先が一番受け入れられやすい。本当に一流の人は2、3歩先を行っちゃうので誰も追いつけない。クリエイターとしては別格かもしれないけどプロとして適性がない」と独自の論を述べた。
外山氏が送り出した『SIREN』シリーズが海外で伸び悩む時期に発売された『バイオハザード4』は国内外で記録的なヒットを生み出したが、三上氏のなかでは成果を求めるプロデューサーの視点と尖ったクリエイターの視点が反発しあっており「(クリエイターとして)自分の作った感覚が一番薄かった」と制作当時を振り返っている。
反対に三上氏から“ボーカで次やりたいこと”について聞かれた外山氏は、「“こういう作品を作るまで死ねない”といった作品については割と満足できている」とこれまでの作品づくりを振り返たうえで、「自らのエッセンスが新しいクリエイターのモノづくりを助ける“楔”となるような作品を作りたい」と述べた。
外山氏は御年52歳、三上氏も56歳。30年以上のキャリアを経て定年が近づき、新しい世代へのバトンを残す時期に来ている。三上氏もしみじみも納得しつつ、結論までが長い外山氏の話に「すごい話がスローで。ええこと言うてるやんって思ってるのを(口に出すのを)我慢してました」と正直に伝えて笑いを誘っていた。
最後に、外山氏から「もし制限なしにホラー作品の制作を仮に依頼されたらどうしますか?」と尋ねられた三上氏は「“作ってくれよ”でホラーは作らない」としつつ「自分のなかで本当に怖いと思うものを思いついたときにスタートを切りたい」との考えを述べている。
Bokeh Game Studioが開発中の第1作『野狗子: Slitterhead』は、外山氏がホラーのジャンルから離れていた間に積み重ねたアイデアや恐怖と好奇心を煽るテーマ性をもとに制作が進められているという。具体的なゲーム内容の発表にはまだまだ時間を要するようだが、楽しみに続報を待ちたい。