ワシントン・ポスト、タイム、ガーディアンといった海外の大手マスメディアが、年末にかけて「2018年のベストゲーム」と題した記事を掲載した。
日本国内では見られないが、海外の大手マスメディアでは社会の動きや経済のニュースとしてビデオゲームを取り扱うだけでなく、個別のビデオゲームの作品を評論の対象として扱うことが多々ある。そんなゲーム専門ではないメディアから見た2018年の各タイトルはどう評価されたのか、各メディアの紹介とともに振り返ってみよう。
文/福山幸司
最初に取り上げるタイム誌は1923年に創刊したアメリカの週刊雑誌。政治・経済・科学からエンターテイメントまで、幅広くニュースを取り扱っている。日本ではアジア版しか刊行していないが、今年の顔を選ぶ「パーソン・オブ・ザ・イヤー」や、人間の顔を表紙にする特色は日本でもおなじみだろう。タイム誌の表紙をかざることは、アメリカでは一種のステータスとなっており、日本人でも政治家はたびたび表紙を飾ることがある。
ビデオゲーム関連だと、1999年に『ポケットモンスター』が表紙を飾り、1993年には『マリオ』や『ソニック』を表紙に出して「ATTACK OF THE VIDEO GAMES」と特集したことがある。ビデオゲームの取り扱いは、基本的には社会や経済と関係が深いニュースを載せることが多く、あまり頻繁ではない。しかし話題作だと個別に取り上げてレビュー記事を載せるときがあり、ビデオゲームというメディアに対しては好意的な姿勢が伺える。
最近掲載されたレビューは『Marvel’s Spider-Man』や『ゴッド・オブ・ウォー』。普段のレビューでは星取り評価はつけていないが、ベストゲームではランキング形式に掲載しているのが特徴的だ。
1位『ゴッド・オブ・ウォー』
2位『Marvel’s Spider-Man』
3位『Into the Breach』
4位『Subnautica』
5位『レッド・デッド・リデンプション2』
6位『Florence』
7位『スーパー マリオパーティ』
8位『アサシン クリード オデッセイ』
9位『Dandara』
10位『Donut County』
1位は年末最大のゲームアワード「The Game Awards」でもゲーム・オブ・ザ・イヤーに輝いた『ゴッド・オブ・ウォー』に。同作のレビューにおいてタイム誌は、「挑戦的で、美しく、残忍、満足感があり、時々愉快なことがある。シリーズのファンであろうとなかろうと、それは価値がある」と評している。
ワシントン・ポストは1877年に創刊したワシントンDCの地方新聞だ。『大統領の陰謀』、『ペンタゴン・ペーパーズ』といった映画からもわかるとおり、地方紙でありながら全米に影響力を持っている。
ビデオゲームに関しては、前述のタイム誌より頻繁にレビューを掲載しており、大作からインディーの話題作まで及ぶ。ただしウェブのカテゴリでは、Entertainment>Comic Riffs>Video Gamesと少々わかりにくい位置にあり、コミックのサブカテゴリの中にある通り、まだまだ映画や音楽、書籍ほどには重要視していないようだ。ゲームレビュー総数はまだまだ少ない部類といえる。
ベストゲームのリード文はビデオゲームの市場の影響力の拡大について触れる文言から始まっており、ゲームをプレイしない読者層への配慮が伺える。
『レッド・デッド・リデンプション2』
『ゴッド・オブ・ウォー』
『Gorogoa』
『テトリス エフェクト』
『Dead Cells』
『Marvel’s Spider-Man』
『Where The Water Tastes Like Wine』
『Moss』
『Florence』
『モンスターハンター:ワールド』
ワシントン・ポストが選んだゲームに順位はつけられていないが、順番からは恣意的なものを感じることはできるだろう。注目すべきはインディーの扱いで、『Florence』は他のふたつのメディアと共通しているものの、『Moss』や『Where The Water Tastes Like Wine』などの異なる作品が選出されている。
最後に扱うガーディアンは1821年創刊と、今回、取り上げたメディアのなかではもっとも老舗のメディアだ。前述ふたつはアメリカのメディアだったが、ガーディアンはイギリスの高級誌。だが、おそらく世界で権威あるメディアのなかでは、もっともビデオゲームに好意的なメディアだ。
ビデオゲームはレビューを頻繁に扱っており、星取り評価をつけはじめたのは2008年の『Wii Fit』からで、以後、継続的にレビューを掲載しておりメタスコアの常連メディアのひとつだ。またレビューだけではなく、『Bloodborne』が発売されたときにフロムソフトウェアの宮崎秀隆氏へのインタビューを載せたことで注目を集めた。
ゲームのカテゴリはCultureの枠にあり、映画、音楽、書籍と同列で扱ってくれている。そんなガーディアンの2018年のベストゲームは以下になる。
『Celeste』
『DARK SOULS REMASTERED』
『Florence』
『Forza Horizon 4』
『ゴッド・オブ・ウォー』
『Iconoclasts』
『Into the Breach』
『モンスターハンター:ワールド』
『二ノ国II レヴァナントキングダム』
『Pillars of Eternity 2: Deadfire』
『レッド・デッド・リデンプション2』
『ワンダと巨像』
『龍が如く6』
『Yoku’s Island Express』
まるで10本には収まりきれないかのように14本を取り上げている。そして、ここでも『Florence』が浮上している。このガーディアンの記事ではゲームの順位をつけているわけではないが、ヘッダー画像を『Florence』から使用しているからわかる通り、非常に高く評価している姿勢が伺える。レビューでは「シンプルな物語だが、深いテーマが暗闇で鯨のように静かに通り抜ける」と詩的に表現している。
さて、いかがだっただろうか。『ゴッド・オブ・ウォー』、『レッド・デッド・リデンプション2』、『Marvel’s Spider-Man』など、大作タイトルは共通してランキング入り、タイム誌では選外だったが『モンスターハンター:ワールド』も大きな存在感を示している。インディーゲームはそれぞれ見事に分かれて、ゲーマー目線でも意外なタイトルが入っているかもしれない。そのなかでも『Florence』は共通して高く評価されたといえるだろう。
たとえばアメリカの新聞では、シカゴ・サンタイムズ誌のロジャー・エバート、ニューヨーク・タイムズ紙のA・C・スコットなど、その新聞ごとに名物映画評論家がいる文化があるが、もしかしたらそういった文化がビデオゲームでも起こりつつあるかもしれない。こういったゲーム専門誌ではないところから、ゲーム評論の文化が生まれてくるかもしれない。今後はこういった一般紙におけるゲームの評論やインタビューを定期的にチェックしてみるのも面白いだろう。