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『龍が如く』主人公をキャラ崩壊させた男に訊く“やって良いこと”と“悪いこと”──「ミニゲーム」と「サブストーリー」にエンタメ性を加え、IPの可能性を広げた【新世代に訊く:セガ・堀井亮佑】

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ストーリーがおもしろくなければ意味がない

──ゲームの舞台、世界観を楽しめるデザインが基本にあるというのが、『龍が如く』シリーズの面白いポイントのひとつだということがよくわかりました。それをふまえた上で、シリーズの根本的な魅力は何なのか、という部分について、堀井さんの認識をお聞きしたいです。

堀井氏:
 大前提としては、メインストーリーを楽しむゲームだと思っています。もちろんミニゲームやサブストーリーも楽しんでいただきたいんですが、どんなにミニゲームがよくできていたって、メインストーリーが楽しめないものだと、やはり『龍が如く』としての評価は上がりません。メインストーリーこそが弁当で言えばお米のようなものですよね。そこがおいしく食べられないとしょうがない、という意識はあります。

 僕は今メインプランナーというかたちで開発に関わることが多いですけど、これは簡単に言えば、メインストーリーをいかに最後まで楽しんでもらえるゲームに落とし込むか、という部分を考えるポジションなんですね。
 ストーリーを追っていくという、ゲームをプレイする以上誰もがやらなきゃいけない作業を、いかに飽きずに楽しいものとして設計できるかが腕の見せどころです。

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 つまりはおかず担当なんですよね(笑)。ごはんを全部食べてもらいたい。だからごはんが進むようなおかずを揃えよう。でも前に作ったのとおなじおかずだと飽きられてしまうから、違うおかずに変えて…というような。そういうゲーム作りをしてきたつもりではあります。

──プレイスポットは、どうシナリオに活かしていらっしゃるんですか。

堀井氏:
 プレイスポットやサブストーリーの内容は、メインストーリーやゲーム全体のバランスを見て決めていきます。たとえば『龍が如く 維新!』(以下、『維新』)の場合、メインのストーリーに重い展開が多かったので、逆にサブストーリーには、ポップなシナリオを意識的に配置しているんです。
 ばかばかしいものを多くすることで、ゲームのクリア後に、「ああ、重いゲームだったな……」という印象が残らないようにしているわけですね。

──「重くしない」というのは、『龍が如く』シリーズのポリシーのひとつなんでしょうか。題材的には、いくらでも重くできるような設定の物語ですけども。

堀井氏:
 『龍が如く』は極道や裏社会を舞台にはしていますが、あくまでも描くべきは「極道ドラマ」ではなく「人間ドラマ」なんです。喜怒哀楽があってこそ人間ですから、暗い話ばかりでは人間性が深く描けず、桐生という男の魅力が伝えきれないと思っています。光と影じゃないですけど、明るいものがあったほうが暗い部分も引き立ちますしね。

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『龍が如く4』ゲーム画面

 僕らの生きてる世界がそもそもごちゃごちゃしているわけですから、そこをモチーフにしているうちのゲームにも、ごちゃごちゃ色々なものが入っていないとダメだと思うんです。だから暗さや明るさのバランスやメリハリは、かなり気を使ってますね。

──キャラの描き方にも、そのポリシーは反映されている気がします。桐生一馬も、ミニゲームの経由の仕方によってはシリアスからギャグまで、いろいろな姿を見せてくれますよね。

堀井氏:
 はい。桐生一馬は基本的に、一本筋が通ったかっこいい男です。でもプレイの仕方によっては麻雀をずっとやっている男になったり、キャバクラに通ったりもする。

 ユーザーがそれぞれ「自分なりの桐生一馬」を作ることができる、というのはこのゲームの大切なポイントですし、そこを肯定できる作りにしなければということは常に意識していますね。「俺の桐生」の多様性を許容していくというか。ユーザーにとっては、自分自身に近い存在ですから。

──それって、シリーズの初期の頃にはできなかったことですよね。初期の頃はもうちょっと、「桐生というかっこいい男を追いかけていく」という雰囲気だったように思います。歴史を経たからこそ、そういう発想になっていったのかなと思うんですが。

堀井氏:
 そうだと思います。これが可能になってきたというのは、桐生一馬というキャラクターのキャパシティ、枠組みが出来上がってきた証拠かな、と。

 『1』、『2』で「渋い男」としての桐生を確立できたからこそ、『3』で変なカラオケをやっても許される、というところはあると思うんですよ。基盤ができていないと、ただのノリの良いおっさんで終わってしまいますから(笑)。

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『龍が如く3』のカラオケシーン

 リアルな世界でも一緒じゃないですか。上司が飲み会でバカな姿を見せていても、その人が普段ビシッと仕事しているのを知っていれば、そういうはっちゃけちゃうところもまた魅力として受け入れられる。カラオケの導入に関しても、同じ効果を狙っています。

 『1』、『2』でキャラを固めたことで桐生が「渋い男」であることの説明をする必要が減った分、それ以降の作品ではキャラの可能性を広げるチャレンジに力を注げるようになったんだと思います。

マンネリ化させないための挑戦と闘い

──『2』、『3』、『4』ときて、『5』でまた少し雰囲気が変わったのかなと思うのですが。

堀井氏:
 『5』で「アナザードラマ」【※】が入ったのは、ひとつの転機でしたね。今までのプレイスポットは、メインシナリオから見たらオマケというか、「やらなくてもいいけど、やれたらやってね」という位置にあったんですけど、『5』で初めて、メインストーリーの中にプレイスポット要素が組み込まれました。

 以後、アナザードラマのようなコンテンツは常に入れるようになったので、シリーズのゲームデザインはここから大きく変わったと言っていいと思います。

 『龍が如く0 誓いの場所』(以下、『0』)の「蒼天堀 水商売アイランド」(以下、水商売アイランド)などは、それをやり込まないとゲームをクリアするのが大変になる、というレベルまで重要性が増していますから、シリーズを通して、そういったサイドコンテンツの役割が年々増しているとも言えますね。

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※アナザードラマ……ミニゲームのミッションをこなしながらメインストーリーとは異なる切り口で『5』の各主人公たちの姿を描いていく、もうひとつのストーリーコンテンツ。画像は『龍が如く5』

──そういった変化については、賛否両論あったんじゃないでしょうか? これまでは強制ではなかったようなミッションが、強制イベントになったことに対しての抵抗感を持つ人もいたのではないかと想像するんですが。

堀井氏:
 そうですねえ。「極道ゲームを買ったのに、なんで熊を撃ったりせにゃならんのだ!」みたいな意見は当然ありますよね。

 『5』で言えば、特に遥のアイドルの章などは、ゲームがリズムゲームになりますし、抵抗感を持つ人も多いだろうな、と予想はしていました。
 リズムゲームは苦手な人と得意な人がはっきり分かれるジャンルですし。なので、リズムゲームが苦手な人でもクリアできるような難度に調整をしつつ、プリンセスリーグというライバル戦で負けたり、勝負を回避したとしても、ストーリーを先に進められるようなデザインにしたりと、そのあたりのケアには注意しつつのチャレンジになりました。

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『龍が如く5』遥のリズムゲームシーン

──ある程度の抵抗は想定しつつ、でも堀井さんとしてはチャレンジしていきたかったと。

堀井氏:
 僕個人としてもそうですし、チーム全体にもそういったマインドはありましたね。

 『3』、『4』までは、プレイスポットのバリエーションを増やしていくことで、過去シリーズとの差異をアピールしていくことができました。『4』には、主人公の切り替えという新要素もありましたしね。

 で、それを終えたあとの課題は当然、「じゃあ『5』ではいかにこれらを超えるインパクトを出していくか」、というところになるわけです。さらにプレイスポットを増やす、というマンパワー的な戦略ももちろんとれるんですが、そうすると今後の広がりに限界が出てしまう。

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 そこで導入したのが、アナザードラマだったわけです。今まで独立していたプレイスポットをメインストーリーと上手く融合させて新しいプレイ体験を作り、マンネリを打破しようという狙いでした。シリーズものはマンネリズムとの闘いでもあるので、今後もこういったチャレンジは続けていきたいですね。

ミニゲームにリソースが割けるようになった

──こうやって、本編にミニゲーム的な要素を組み込んでいくようになってから、ミニゲームの作り方って変わりましたか?

堀井氏:
 本編の一部として描く以上、やっぱり変わりますよね。たとえば『5』だと、桐生がタクシードライバーになってレースをする、という展開が出てきたりするわけですけど。こんな大規模なことができるようになった、というのは大きな変化です。単なるミニゲームの枠でレースゲームのような、作るのに手間のかかるスポットは、なかなか入れられませんから。

──なるほど、リソースをミニゲームに投下できるようになったんですね。

堀井氏:
 そうです。先程も話がでましたが、『龍が如く』は基本的にメインストーリーを楽しむゲームなので、本編にリソースの重きを置く制作スタイルなんです。ですから、逆に言うと本編に絡まない要素に関しては理想ほどリソースを割けない、ということはやはりありました。

 それが、本編に絡めるから、という大義名分ができたことで思う存分、力を注げるようになったんです。

──ちょうど、メインプランナーに就くタイミングだったのもよかったですね。

堀井氏:
 そうですね。カラオケで培ってきた、ライブ的な演出を作るノウハウも活かせました。カラオケも基本はミニゲームの扱いですから、リソースの制限は結構あって、「ステージはここまでしか作れません」とか「こういう動きやカメラ演出はやめてください」といった制約が多々ある中で、試行錯誤しながら演出をつけているんです。

 でも『5』の遥編だとメインに絡んじゃうわけですから、大手をふるって「ドームで、ゴリゴリのダンスを踊ります!」と言えるわけですね(笑)。

 クオリティを飛躍的に上げることができたので、PVやトレーラー映像にも今まで以上に使われるようになり、ゲーム自体が華やかで彩り豊かなものに見えるようになったんじゃないかと思います。

──ちなみに、遥がアイドルになるという展開はどうやって決まったんですか?

堀井氏:
 決めたのは名越や横山ですね。『4』は主人公が4人だったので、『5』は5人にしようという流れがあり、その中の一人として遥にスポットライトが当たった、という感じだったと思います。遥のアイドル編は、僕にとっては特に思い出深いパートですね。

──と、言いますと。

堀井氏:
 やはり自分の強みを一番活かせたパートですし、遥の楽曲制作は自分がメインプランナーになって初めて手掛けた仕事だったんですよ。実は当時、僕は腐りかけていて……(笑)仕事が辛くなってしまった時期だったんですね。カラオケなどで色物としての評価はされていましたし、仕事もたくさん任せてもらえるようになりましたが、何か主要な役職に抜擢されるわけでもないし、自分のやってきたことは本当に正しいのかな?と、懐疑的になってしまっていたんです。
 でも、そのタイミングで、前のプロデューサーだった菊池が、僕のことを『5』のメインプランナーに抜擢してくれて、それをきっかけに自信を取り戻すことができたんです。

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 遥パートの中で、遥が「KONNANじゃないっ!」っていう曲を歌いますけど、あれは当時の僕の心境そのままです(笑)。それまでの思いのたけをぶつけて、思う存分やりたいことをやらせていただきました。

──なるほど。やりたい放題といえばもうひとつ、『4』の「格闘家をつくろう!」についてもお聞きしてみたかったんですよ。これはどういうふうに作られていったものなんですか?

堀井氏:
 元々、弟子を育てて強くするようなコンテンツを入れたい、という声は昔からあったんです。『3』で「キャバつく」という大きな「つくろう!」系コンテンツが入り、ゲーム全体とのマッチングもよかったので、『4』でもそれに匹敵する新たな遊びを入れたいという流れになり、結果「格つく」が入ることになりました。

 僕が担当になったのは、当時僕がバトル班にいたことが大きな理由ですね。ゲーム部分の仕様などはもちろんですが、ストーリーも自分で担当させてもらって。そこでの経験が『5』の「アナザードラマ」等に繋がっていると思います。

──門下生のキャラクターがいちいち濃いですよね。「自信過剰な生粋のナルシストでムエタイ使い」なんて、相当「色物」キャラじゃないですか。これはモデルがいるんですか?

堀井氏:
 ええと、僕の友達です(笑)。印象に合う友達がいたので、当て書き的に作らせていただきました。

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『龍が如く4』格闘家をつくろう

──ご自分をモデルにしたキャラを出したりはしないんですか。

堀井氏:
 それはちょっと、さすがに野暮かなと(笑)。ただ、自分の性格に近いキャラクターは、セリフを書きやすいこともあり、たまに作りますよ。『格つく』の窓口の曽田地さんとかは、まさにそうですね。

ライザップもサブコンテンツ化

──そして『6』では、ライザップまで登場していますよね。

堀井氏: 
 そもそものところをお話しすると、ゲーム内の「飲食」にもっとリアリティを持たせよう、というコンセプトから始まっています。

 ちょっと専門的な話になりますが、『6』でゲームのエンジンを従来のものから「ドラゴンエンジン」という、ハードの力をより引き出せる新しいエンジンに変えることになりました。エンジンを変えると、過去のリソースをそのまま流用することが難しくなることもあり、せっかくだからゲームシステムを全部イチから見直そう、ということになりまして。

 従来だったら変更を考えなかったような細かいシステムなんかも見直しました。その中で、『龍が如く』シリーズの従来の弱点を強化しようということになって。

──従来の弱点、ですか。

堀井氏:
 街に飲食店がいっぱいあるのに、ただ単に体力を回復させるだけのスポットになってしまっていて、そこに深く遊ぶ工夫がなかったんです。
 だからそこに、何か遊びになる要素を入れようと思って。実際の食事って、栄養バランスとか食い合わせを考えたりするので、そういうシステムをゲームにも入れたら、面白いんじゃないかな、と。

──ああ、だからこそのライザップですか!

堀井氏:
 はい。バランスのいい飲食でパラメーターが成長するようなシステムは用意できたんですが、「食事バランスのよさ」を素人の我々が考えても説得力に欠ける。そこに説得力を持たせる効果的な案として、ライザップさんが出てきたわけです。

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『龍が如く6』ライザップのシーン

 チーフプロデューサーの横山がこの案を持ってきてくれたとき、すごく良いコラボになる、と思いました。栄養バランスの監修的に助かるのはもちろん、やっぱりCMのインパクトもありますから。桐生があの曲で回ってくれたらそれだけで最高ですよね。

──みなさん、完全に桐生のキャラ崩壊のことはどうでもよくなっちゃったんですね(笑)。カラオケのときはあんなにいろいろ言っていたのに。

堀井氏:
 そうですね(笑)。ライザップさんも乗り気になってくださって。すごくゲームにマッチしたというか、『6』ならではのいいコラボになったな、と思いました。

──実は僕、去年1年ライザップに通って、20キロ近く痩せたんですよ。

堀井氏:
 すごいですね! 食事制限とかすごく厳しいって聞きましたけど……。

──厳しかったですね。それでまさにその、食事制限で出てくるメニューがあるじゃないですか、ゲームの中で。「いきなり!ステーキ」のハンバーグとか。あれ、僕もライザップに通っているときに効率のいいメニューだと思っていたんですよ。ですから、プレイしたときに「これは相当ライザップをわかって作ってるんだな」と感心して。

堀井氏:
 はい。メニューはちゃんと、こちらで考えた飲食メニューを全部ライザップのエキスパートの方にお渡しして、監修していただきましたから。「このメニューはスピードが上がりやすいかもしれないですね」といった踏み込んだご意見もあちらから頂きつつ、相談を重ねてメニューを作っていきました。

──なるほど、ライザップ側の協力がしっかり入っていたんですね。

堀井氏:
 そうですね。ライザップさんのシステムをきちんとゲームに落とし込まないと、意味のあるコラボとは言えませんから。結果的に、実際にライザップを体験したことのある方にニヤリとしてもらえるものになったのではないかと思っています。他のタイアップでも、いかに先方の商品やシステムをゲームに落とし込むか、というのは常に意識して制作しています。

高級キャバクラでひらめいた「水商売アイランド」

──ライザップタイアップもそうなんですが、『龍が如く』シリーズのかっこいいメインシナリオとサブのおちゃらけ方って、いつも本当に絶妙なバランスだなと思うんです。これは堀井さんの存在あってこそじゃないでしょうか。

堀井氏:
 買い被りすぎですよ(笑)ただ自分は、はっちゃけ要員をやっているという自覚はあります。だから全体的なバランスを考えながら、確信犯的に良い塩梅でおちゃらけようとは思っていますね。

──これまでのミニゲームで、気に入っているものはありますか?

堀井氏:
 思い入れがあるのは、自分の代名詞的な存在である「カラオケ」ですが、クリエイターとして一番良いものができたなと思うのはやっぱり「水商売アイランド」ですね。制作途中の段階から、これは面白くなるなと感じていました。

 実はあれ、前からあたためていたネタだったんですよ。名越に昔、高級キャバクラに連れて行ってもらったことがありまして。その時に、黒服のスタッフのものすごい動きに目を奪われたんです。僕たち客やキャストの方々の状況をしっかり把握して、上手く場が盛り上がるように先回りしてサービスしていて。その動きがまさに、上手い人のゲームプレイを見ているような感覚だったんですよ。だから、これはゲームになりそうだと思って、メモをとって。ずっとネタとして温めていたんです。

 そして『0』のときに、ちょうど合うシチュエーションがあったので、満を持してそのネタを使って。結果出来たのが「水商売アイランド」というわけですね。

 『龍が如く 極2』(以下、『極2』)でも「新・水商売アイランド」としてパワーアップしたものを入れたんですが、一作目のものをさらに洗練させることができたので、非常に満足しています。

──ちなみにこういうミニゲームを作るとき、「昔やったこのゲームの影響が出ているな」と思うことはありませんか?

堀井氏:
 意識したわけではないですが、水商売アイランドに関して言えば、昔よくやっていた『ザ・コンビニ』の影響はあるかもしれません。元々シミュレーションゲームのような、手ごまを上手く「やりくり」して進めていくゲームが好きなので、そうした僕の趣向が出ている気はします。

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『ザ・コンビニ 〜あの町を独占せよ〜』(PlayStation版)
(画像はザ・コンビニ 〜あの町を独占せよ〜 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

──たしかに水商売アイランドは、ミニゲームの中でも一番「やりくり」の快楽があったと思います。あの客がだめならこうする、あっちの客ならこれでもいけるからこうする、という。

堀井氏:
 そうですね。結局、それが僕の一番好きな「ゲーム性」なのかもしれません。

 思えば昔から、ずっと脳内でそういうことばっかり考えてきていた気がします。授業中も、今の教室を活かす最強の座席配置は何かとか、そんなことばかり考えてる子どもでした。「こいつとこいつは近づけるとうるさいから班を別にして……でもこいつは近視だから後ろの席だと不満がでるから……」とか。

──他にも、影響を感じているゲームってありますか?

堀井氏:
 『バストアムーブ』『スペースチャンネル5』あたりですかね。ゲームデザインもさることながら、全体的なノリの良さやはっちゃけ具合が凄く好きで。僕の担当するミニゲームがテンション高めの傾向に行きがちなのは、これらの作品の影響なのかもしれません。

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『バスト ア ムーブ Dance & Rhythm Action』パッケージ
(画像はバスト ア ムーブ Dance & Rhythm Action | SQUARE ENIXより)

──私たちから見ると、ゲームのネタを考えてそれを実際の操作システムに落としていくというときに、なにかしら自分のゲーム体験を組み合わせていくような考え方になるんじゃないか、と思うんです。でもそうではない感じですね。

堀井氏:
 作り方はケースバイケースで色々ありますが、一貫して守っているのは「自分の畑で作る」というルールです。自分が苦手だったり、面白さを理解しきれてなかったりするジャンルでは勝負しません。やはり自分の畑でやらないと、面白さが保証できなくなると思うんですよね。

 だから「ミニゲームを考えよう」となったときに、まずは自分にとって面白かったゲームや体験の振り返りからはじめます。「ああ、『バストアムーブ』は楽しかったな」、「具体的にどこが楽しかったんだろう」という風に、漠然としている「楽しさ」というものを分析していく。すると、「ステップのノリ方を自分で変えられる自由度がよかったよな」、「そういう自由度って、今から作るゲームでも入れられたりしないのかな?」というふうにアイデアにつながっていくわけです。

──そうやって、アイデアを自分のフィールドにひっぱりこんでいくわけですね。

堀井氏:
 自分が面白いと思えないようなゲームを研究して作っても、的を射たものになるとは思えないんですよね。「あのメーカーのゲームをマネてそれっぽいものを作ったけどだめでした」とか、よく聞く話じゃないですか。やっぱり魅力が分からないものは魅力的に作れないし、楽しいと思えないものを楽しく作ることはできないと思うんです。それができるタイプの方ももちろんいるとは思いますが、少なくとも僕は、自分が楽しめるものを考えたいタイプです。

 「面白さ」ってすごく曖昧なものですけど、自分がハマったものなら「面白さ」ってある程度明確にできるし、理屈として説明ができるじゃないですか。だからそこに頼って作るしかないと思うんですよ。自分が面白いと思うものを作るのがクリエイターなら、自分が面白かったものが従うべき「正義」なんですよ。
 だから自分にとって「正義」といえる感覚を、きちんとゲームの軸にできるように意識して作っています。

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 そういう考え方なので、ジャンルがまったく違うゲームからでも、エッセンスとして取り込んでいるものはいろいろあると思います。

──そういったアイデアは日々メモっているんでしょうか。

堀井氏:
 もちろんメモはしますし、同時にすごく楽しかった作品は、いつでも遊べるような状態にしています。
 好きなゲームはこんな風にファイルに入れて、常に近くにおいています。こうすることで、「これってどんなゲームで、どう面白かったんだっけ」とか「どういうデザインになっていたかな」とかが思い出せない時に、すぐに参照することができるので、昔の楽しかった経験を、鮮明な記憶にアップデートすることができるんです。

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──そういった体験を、ミニゲームに落とし込んでいくまでにはどんなことを考えるんでしょうか。

堀井氏:
 いろいろ考えることはありますけど……一番意識しているのは「理屈」ですかね。
 たとえば、キャラクターの筋力を使うタイプのミニゲームって、「連打」というアクションが出てくることが多いですし、感覚的にも納得感がありますよね。それは、プレイヤーが実際に「連打」することで筋力を使っているから、キャラクターとプレイヤーの動作がイコールになる。だから感覚的にしっくりくる、という理屈でそうなっているわけです。

 他にも例をあげると……僕の手がけた「カラオケ」は、実際のカラオケにある「歌が進むのと共に歌詞の色が変わっていく機能」にリズム入力をくっつける、という発想でデザインしたリズムゲームですが、そうしたのは「実際にあるカラオケの機能」をベースにした方が「カラオケ」感が出やすいから、という理屈によるものです。

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 僕はゲームプランナーは「感覚を理屈にする」職業だと思っていて、「なぜこの操作方法なのか」、「なぜこういう演出なのか」などが全てきっちり説明できるのが理想だと考えています。だから感覚だけで決めずに、なるべく理屈で考えながらミニゲームは作っていますし、後輩の出すアイデアでも、理屈がしっかり筋の通っているアイデアを採用することが多いですね。

──作り手にとっても、これは別に悪い変化ではないんでしょうね。ゲームの開発をしている友人に、「ミニゲームはひとつひとつ個別に完成させることができるから、担当者のモチベーションも上がる」という話を聞いたことがあります。

堀井氏:
 それはありますよね。『龍が如く』シリーズのミニゲームはそれぞれ企画担当者をつけるんですけど、新人に任せることもあるんですよ。
 新人にいきなり「バトルシステムを考えろ!」とか、そういう大きいタスクを任せるってなかなかできませんけど、ミニゲームならある程度任せることが可能ですし、頑張り次第では自分のやりたいことを実現するチャンスにもなる。なので、ステップアップさせるための場としては最適なんですよね。

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 そこでの働き具合を見て、こちらも「じゃあ次はもうちょっと大きいこれを任せてみるか」というふうに考えることもできますし。もちろん、ミニゲームとはいえ新しいものを作るとなると大変なんですが、自分が作ったものを世に出せる、挑戦できる場がある、というのは、モチベーション維持という意味でも大事なことだと思います。

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