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『龍が如く』主人公をキャラ崩壊させた男に訊く“やって良いこと”と“悪いこと”──「ミニゲーム」と「サブストーリー」にエンタメ性を加え、IPの可能性を広げた【新世代に訊く:セガ・堀井亮佑】

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がん闘病の先に待っていたのは原点を見直す機会だった

──これはお聞きしていいか悩んだのですが、ブログに大病を患わられたと書かれていましたよね。なんというか……大丈夫でしたか?

堀井氏:
 そうなんですよ。僕、がんになっちゃって。今は笑っていますけど、大変でしたよ。 

──診察でわかったんですか?

堀井氏:
 いや、普通に暮らしている中で、下腹部にちょっと違和感があったんです。ちょうど『6』の制作途中の時期だったんですけど。それで、「おかしいなぁ」と思って病院に行ったら「精密検査をしましょう」と言われ、がんだと判明したという。
 すでに転移もしていたのですぐ入院して、闘病生活に入って。いやあ、衝撃でした。入院直前に作っていたのがライブチャットの会話台本だったので、下手したら遺作がライブチャット台本になってしまうところでしたよ(苦笑)。

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──早めにわかってよかったですね。

堀井氏:
 はい。ですので、『6』は最後まで携われなかったんですよ。
 不幸中の幸いだったのは、入院した8月の時点で仕様やシナリオは作り終えていて、あとはこの通りに作っていけばいい、という状態だったことですが。最後のパラメーターをいじったりとか、細かいところを全部自分でやりきれなかった、という点については後悔があります。パラメーターをいじるの、大好きなんで。

<命の詩。>

 まあ、でも生きていてよかったですけどね。『命の詩。』というタイトルのゲームを作っていて死んだとなったら洒落にならないので(苦笑)。

──いや、本当によかったですよ。あまりに定番の質問ですけれど、人生観って変わりましたか?

堀井氏:
 変わりました。命って無限だと思っていたんですよね、どこかで。僕は積みゲーをすごくたくさんしていたんですが、それも自分にいくらでも未来があると思っていたからでしょうし。でもそうじゃなかった。いくらでも生きられるわけじゃない。人間、意外とあっさり死にそうになるし、思っているより命は儚い。
 今までの認識の甘さを思い知りました。だから今は、積みゲーはしなくなりましたね(笑)。ちゃんと長生きしたいと強く思いましたし、こうやって今ゲームを作っているという状況自体、恵まれているんだなという感謝も改めて感じまして。

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 本当に、健康がないと何もできないですね。ゲーム業界ってやっぱり、きついときはきつい業界ですから余計にそう感じました。自分の身体は大事にしなくちゃいけない。そう考えるようになって、他の人にも優しくなれた気がします。なかなか他の人ができない体験をたくさんできましたし、思うところもたくさんあったので、そういった学びも、また次回以降の作品に落とし込んでいきたいです。

──そして現在は現場に復帰されているんですね。 

堀井氏:
 はい。ちょうどぴったり『極2』が走り出すタイミングに戻ることができました。ただ、復帰時点でディレクターやメインプランナーといった座組みはほとんど決まってしまっていたので「戻るところがないから、今年は一作業員としてのんびり仕事するかな~」くらいに思っていました。丁度、プロジェクト的には「このゲームをどういう作品にしようか」というのを、名越や横山中心にいろいろ相談しているような段階でした。

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『龍が如く 極2』パッケージ

──その段階ではどこまで決まっていたんでしょうか。

堀井氏:
 「ただのリメイクではなくて、完全新作と言えるような作品にしよう」という方針までは決まっていました。その後、新規要素として真島というキャラクターをピックアップして、追加のシナリオを入れようということが決まって。結果、そのシナリオを書く人間が必要になったわけです。

──あ、まさか。

堀井氏:
 そう。タイミング的にぴったりだったこともあり、僕が担当することになったんです。病み上がりなのにすごく重い仕事だなーとは思いましたが(笑)それ以上に久々にまたゲームが作れる喜びのほうが大きかったですね。

──『極2』をプレイしましたが、真島のシナリオは完全にメイン級のシナリオじゃないですか。でも……。

堀井氏:
 ええ、メイン側のシナリオを書くのは実は今回が初めてでした。でも、今まで山ほどサブストーリーを書いてきたので、まあなんか「なんとかなるだろう」くらいに思っていたんですけど(笑)。

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『龍が如く 極2』の真島

──けど(笑)。

堀井氏:
 意外と勝手が違うというか。サブストーリーの制作では、ミニゲームのときと同様に、リソースがそんなに割けないという縛りがあったんですよ。キャラも高クオリティのものは多く作ることはできないし、モーションも専用のものはあまり作れないので、汎用のモーションを使ってやりくりするしかない。逆に、汎用のものをいかに組み合わせて演出するかというセンスが問われる環境だったんです。いわば、冷蔵庫の余り物で1品2品作るような作業ですね。

──それがメインシナリオになると、新たな食材や調味料を買ってこれると。

堀井氏:
 そうなんです。動きが汎用モーション中心だと、必然的にセリフで状況や感情を補足する必要があるので、結果的にサブストーリーはおおむね会話劇になっていたんですが、今回やったメインストーリーでは表情の演技やキャラクターの動き、間の使い方といったサブストーリーではやらなかった、やってはいけなかった部分で感情や状況を表現することができるわけです。だから、最初はそういった演出手法がよくわかっておらず、すべて会話で済ませてしまって……。結果、どれもこれもコントみたいな内容になってしまいました(笑)。

──それは完全にサブストーリーというか、いつものノリですね(笑)。

堀井氏:
 そうですそうです。ノリツッコミしてみたいな(笑)。少ないリソースで上手くやるっていうのが僕の強みだっただけに、そこが難しかったというか、苦労した点ですね。ただ最終的には落としどころというか、「こんな感じかな」という感覚は掴めたので、そこはかなり勉強になりましたね。

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『龍が如く 極2』の真島

──『極2』では、「新・クランクリエイター」や先ほどお話に出てきた「新・水商売アイランド」など、過去に堀井さんが手掛けられたコンテンツがパワーアップしているじゃないですか。そこもご自身が担当を?

堀井氏:
「新・クランクリエイター」に関してはストーリーと一部調整だけですが、「新・水商売アイランド」に関してはストーリーはもちろん、パラメーターも含めて全部やらせてもらいました。あと、『極2』は全部本編のボイスを録りなおしているんですけど、その音響監督も担当させていただいています。

──となると、今回の開発は改めて『2』を見返す機会になったと思うんですけど、実際にご自身が作られた『2』を『極2』というタイミングで見返していかがでしたか?

堀井氏:
 先ほどお話した通り、『2』は僕にとって処女作であり、原点なんです。だから思い入れが強い作品なんですが、初期特有の尖りや魅力は感じつつも、システム的な古さは感じましたね。PS2のころって、チュートリアルとかも雑だし、TIPSが出るとかもないじゃないですか(笑)。

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 改めて『2』を見て、「ゲームの作り方っていつの間にか変わっていたんだな」と。やりこみ要素とかも、そのころは絶対必要っていうわけでもないし、トロフィーがどうとか掲示板などで怒られることもなかったので(笑)。いやー、ある意味幸せな時代だったなとか思いましたよ(笑)。

──時代とともに変わってしまった部分はどうしてもありますよね(笑)。

堀井氏:
 そういう意味では、『極2』は『6』のエンジンベースで作っているので、遊びやすさっていう部分では本当に良くなったと思いますね。

『北斗が如く』開発現場で起こったテコ入れ劇

──『極2』のあとに『北斗が如く』(以下、北斗)が発売されていますが、そちらにも関わられていたんですか?

堀井氏:
 『北斗が如く』でもサイドミッションというサブストーリーみたいなものがあるんですが、そこの助っ人的な立ち位置でしたね。

──それはあまり関わっていないということなんでしょうか。

堀井氏:
 『極2』と『北斗』はある程度開発時期が被っていまして、僕が『北斗』のチームに入ったのは、『極2』の担当部分が終わったタイミングだったんですよ。サイドコンテンツ関連があまりうまくまわっていなかったので、「ちょっと入ってテコ入れしてください」という感じで呼ばれたんです。

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『北斗が如く』パッケージ

 『北斗が如く』は「龍が如くスタジオ』作品ではありますが、社内の開発チームの組織が途中で大きく変わったこともあり、『龍が如く』シリーズを今まで作ってこなかったスタッフも多く参加していました。なので、このシリーズのサイドコンテンツやサイドミッションの作り方がよくわかっていないスタッフも多かったんです。そこでノウハウを教えながらテコ入れするという関わり方になったんです。

──この話題、もう少し深堀してもいいでしょうか。上手く回らなかった理由を知ることで、『龍が如く』のサイドコンテンツがなぜ優れているのかが見えてくると思うんですよ。

堀井氏:
 先ほどもちょっと言いましたが、サイドコンテンツは限られたリソースを上手く使う必要があるので、何でもできるわけじゃない。ちゃんとその少ない汎用素材を使って、話を成立させないといけないんです。ですので話を作る時点から、素材に頼らずとも楽しませることができるような内容にする意識が必要になります。

 かつ『北斗が如く』では、『北斗の拳』側の世界観を壊しちゃいけないという大前提がある上で、それを『龍が如く』として成立させる必要があるんです。例えば、ケンシロウも桐生も人助けをする人間ですが、誰でも助けるわけじゃない。美学や信念に則って助けるんです。そこは強く意識し、厳しく見る必要があります。

 ですが自分が入った段階では、その辺がふわっとしてしまっていたんです。当初は、ケンシロウがよくわからない理由で人を助けることになって、北斗神拳で殺しちゃった、といった話が結構あったんですよ。

──何だかよくわからない理由で助けて、お使い的にクリアして終わりってパターンは、いろいろなゲームにありますよね。

堀井氏:
 他のゲームならそういうものがあってもいいのかもしれませんが、やはり『龍が如く』はストーリーや世界観、生き様みたいなところをしっかり描くことで評価されてきたゲームなので、そのあたりの動機は絶対に納得できるものじゃないといけないんです。そこをつかみきれていないところは結構直しましたね。

 そもそもですが、『龍が如く』はゲームシステムとしてものすごく新しいことや特殊なことをしているゲームではありません。じゃあ『龍が如く』が持つ他のゲームにはない、唯一無二のものは何なのか?というと、やはりそれは世界観やキャラクターを含めた「男の美学」だと思うんです。
 桐生がかっこ悪い男に見えてしまったら『龍が如く』はお終いですから「どういう男がかっこいいのか」を常に考えながら作っていかないといけない。『北斗が如く』で最初うまくまわらなかったのは、そのポリシーがしっかり伝達しきれていなかったのが原因だったのかな、と思います。

──逆に一歩引いた目線で『北斗が如く』を見られたと思うんですが、どういったことを感じましたか?

堀井氏:
 とにかく『北斗が如く』で感じたことは「普通の人間じゃないっていいな」ということですね(笑)。やっぱり極道モノってリアルな世界観の元に成り立っているものなので、人が爆発したりとか、すごい高くジャンプしたりとかはできないじゃないですか。

 たとえば北斗百裂拳のような技も桐生がやったら限界があるので、作り手としてはケンシロウぐらい動かせるのはある意味羨ましいと言うか。

──もっとおもしろいサイドミッションが作れたんじゃないか、とか。

堀井氏:
 とか(笑)。敵も、デビルリバースなんていうすごくでかいのもいるじゃないですか。「ああいうのを(『龍が如く』に)出せたら楽なのになーっ」って思いますよね。

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『北斗が如く』のデビルリバース

 『龍が如く』はドスや拳で戦う世界観のゲームなので、それこそリアルに存在しないモンスターとかを登場させることはやはりできないわけです。だからそれがある程度許される世界観になったときに、今まではできなかったものができるというのがあるので、特にアクションはうらやましかったですね。

──ある意味自由度が広がりますからね。

堀井氏:
 そういう意味では、『龍が如く』って縛りが多いんですよね。敵含めてやっぱり人間じゃない技を出しちゃいけないですし。ファンタジーの世界だったら悪魔とか出せるのになぁ……。

──でも『龍が如く』には虎がでるじゃないですか(笑)。

堀井氏:
 まぁあれが限界ですよね(笑)リアルな世界観という縛りがある中で、いかに新しいことをやるか…というのは毎回の課題です。逆に『北斗』は『北斗』で制限があるんですけどね。例えばケンシロウは歌を歌っちゃダメなんですよ。

──つまりカラオケ禁止?

堀井氏:
 カラオケ禁止です(笑)。ケンシロウは歌うことをしないキャラなので。後、女性はユリアひとりを愛しているので、桐生みたいに手当たり次第口説くようなことはしてはいけません。

──得意なもの全部NGみたいな(笑)。

堀井氏:
 そうですね(笑)。歌とお色気で評価されてきた人間としては、ちょっと戸惑いましたね(笑) 

限界を迎えた『龍が如く』。『新・龍が如く』で新生を目指す

──『龍が如く』シリーズについての展望や意気込みもお聞きしたいです。あまり情報は出ていませんが、『新・龍が如く』(以下、『新』)というプロジェクトがありますよね。

堀井氏:
 まだまだ仕込んでいる状態ではあるんですけど、『龍が如く ONLINE』というスマートフォン・PC向けのゲームと、コンシューマーの新たな『龍が如く』を作り始めています。僕はコンシューマー版の中心メンバーとして現在動いています。

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 『新』プロジェクトの主人公は春日一番という男です。桐生一馬は最初の時点から「堂島の龍」と呼ばれるような出来上がった男でしたが、この春日は真逆で、地位も名声も伝説もない、何も持ってない男なんです。なので、その設定ならではの、桐生では描けなかったようなドラマがたくさん描けるんじゃないかと思っています。

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春日一番

 まだ、あまり具体的なことは言えないんですが……過去の『龍が如く』を超える作品にできるように、いろいろとアイデアを練っているところです。

──堀井さんは『龍が如く』にミニゲームを持ち込みましたが、『新』に向けて注目しているゲームのトレンドやその研究、新たな挑戦という意味での野望など、個人単位で何かお話頂けないでしょうか。

堀井氏:
 そうですね……個人としてはインディーゲームに刺激を受けることが多いので、よくプレイをしています。それ以外ですと研究という意味では、さまざまなジャンルのものに触れて「トレンド」を分析する、ということをしています。

 というのも「龍が如く」シリーズは今まで、トレンドに変に合わせたりすることなく、元々のものをブラッシュアップし続けてきたタイトルです。それ自体は誇るべきことだと思うんですが、10年以上もそういうスタイルを続けていると、細かいところにトレンドとの歪みが出てくるのも事実です。今後もシリーズを5年、10年と続けていくためには、新しいプレイヤー、若い世代へのアピールというのが必要不可欠です。ですから今のトレンドをもう一度しっかり理解した上で『龍が如く』をもう一度見直し、より多くの人に刺さる、ワクワクしてもらえる作品にしたいと思っています。

──『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』はいい事例ですよね。当たり前を見直すと言う。

堀井氏:
 そうですね。シリーズが終わる、という危機感は常にすごくあるんですよ。だから『新』になったことをきっかけに、「『龍が如く』って極道ゲームでしょ?」と敬遠していた方も引きずり込みたいですし、特に今の若いユーザーに刺さり、アクションアドベンチャー以外のゲームが好きな人たちにも魅力を感じてもらえるようなものにするにはどうしたらいいか、チームで分析と検討を行っています。

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──ことサイドコンテンツに限って言うとどうでしょうか。

堀井氏:
 やりたいネタはいっぱいありますけどね、僕がいちばんやりたいのは、夜のお店の電話番ミニゲームです。

──どんなミニゲームなんですか(笑)。

堀井氏:
 客からかかってくるさまざまなニーズの予約電話を上手く取り次いで、在籍の女の子の空き時間をいかに埋められるかを競うゲームです。この子は人気嬢だから予約で全て埋まってしまう。だからこの45分のフリーの客はこっちの不人気嬢にアサインして──みたいな、そういう水商売アイランドの予約版みたいなネタをやりたいんですけど、怒られるから多分ダメかな(笑)。たぶん、すごく難しいけど面白いゲームになると思いますよ。まぁ『新』でやる必要は全然ないんですけど(笑)。

──引き出しとして持っておいて(笑)。

堀井氏:
 引き出してとしては、そういうやりたいネタはいっぱいあるんですけどね。ただ、今作っている『新』はまだ春日一番にとっては1作目です。桐生だったらもう完成されている人間なので、うまく羽目を外させることで楽しさやインパクトを与えられますけど、今回は、まだ春日一番がどういう人間か伝わっていない状態からのスタートになります。その人間性が固まり、プレイヤーに伝わる前に、桐生にやらせたようなことをやってしまうと、ただのチャラい男になってしまう危険がある。

──なっちゃいますよね。

堀井氏:
 それで春日一番が格好悪く見えたら、元も子もないじゃないですか。ですから今作に関しては、スポットを入れる場合も、今まで以上に春日一番がどういう人間にうつるか、といった部分をケアしながら作っていく必要があると思っています。

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 そして何より気を付けるべきなのが「やっぱり桐生一馬の方がいい」とならないこと。『新』は「春日一番、格好いいじゃん」とか「おもしろいじゃん」とならなければ失敗だと思うんですよ。だからどうやったら春日一番を好きになってもらえるかというのを考えたうえで、サブストーリー含めていろいろと考えていきたいですね。

──先ほどマンネリの話がありましたが、『新』はそこへのアプローチでもあるんでしょうか。 

堀井氏:
 当然開発者としてはなんとかマンネリにならないように毎回趣向をこらして作ってきたつもりですが、やはり同じ主人公でここまで作り続けてくると、ある程度限界を感じる部分があるのも事実です。もちろんまだまだ新しいアイデアは出せると思いますし、桐生が主人公の『龍が如く』を続けることもできるとは思いますが、既に桐生にいろいろなことをやらせてきた歴史があるので、与えられる驚きやインパクトは、どうしても薄くなってしまう部分があります。
 事実、極道の桐生がタクシー運転手になったり、カラオケをするというのは、当時はかなりぶっ飛んだ驚きだったと思うんですよ。でも最近はそう思われなくなってきて。

──普通というか、あたりまえになってしまったと。

堀井氏:
 そうですね。なので主人公の変更で一度その辺りをリセットして、新たな見せ方を一から考えていくというのは、今後シリーズを健全に続けていくという意味でも、必要な選択だったんじゃないかと思います。あとはそれが正解だったことを証明するために、頑張るだけですね。

コメディゲームを作りたい

──『龍が如く』シリーズ以外のゲームを作っていくことに関して、野望みたいなものがあったらお聞きしたいのですが。

堀井氏:
 そうですね……。僕は作家性のある作品に惹かれる性格なので、作っていきたいものは基本的にはそういうゲームです。何よりゲーム業界に対して、作家性の強い作品がちゃんと生まれる業界であってほしい、という願いもあります。そうでなければ業界全体が最終的にはしぼんでいく気がするんですよね。「いろいろなものがあって楽しいゲーム業界」というものを作っていきたいですから、僕もその中で評価されるようなゲームを作りたいです。

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──それは、具体的にどんなゲームなんでしょう。

堀井氏:
 たとえばコメディですね。僕はコメディ映画が大好きなんですが、コメディというジャンルに、ちゃんと向き合ったゲームってまだそんなにないと思うんです。 

──『龍が如く』シリーズは、コメディをミニゲームでしっかりとやっている作品だと思いますが。

堀井氏:
 喜怒哀楽をゲームに盛り込むために入れているものですが、僕としてはひそかに実験として入れている部分もあります。笑いという要素をゲームでしっかり表現できるのか、受けるのか、というところの前例は、正直あまりありません。
 どんな笑いを提供したらどのくらいみんなが食いついてくれるのかって、ゲーム業界ではまだ未知の部分が多いわけです。だから『龍が如く』シリーズという大きな枠組みの一部を使うことで、かなり試させてもらっている部分があります。何十万人もプレイしてくださるゲームですので、手応え的なものも見やすいですし。そういう経験を上手く活かして次につなげたいです。

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『龍が如く6』カラオケシーン

 笑いのツボって人の感性によって全然違うと言われますけど、コメディ映画というジャンルは存在しているわけじゃないですか。ということは、多数の人に同時に受けいれてもらえる笑いは作ろうと思えば作れるわけです。映画に出来て、ゲームにそれができないことはないと思うんですよ。僕らが勝手に、これはゲームではできないことだ、と思ってしまっている部分っていろいろあるはずなんです。

──Mr.ビーンがなぜゲームから生まれないのか、ということは考える余地がありますよね。

堀井氏:
 はい。前例がない分、採算の予想がつかない、というのは当然あると思うんですけど、まだまだブルーオーシャンの領域なので、挑戦はしたいです。そういう冒険的な作品をメジャーで世に出せるようにしていかないと、ウケるとわかっている範囲の中からしか作品が出てこなくなってしまいますよね。

 コメディが前提だったとしても、それ以外にもいろいろな要素を入れて、プレイヤーのほうで遊びかたを調整できるようにすれば、大衆性を持たせることはできると思うんです。ちょっとまじめなことをやりたいな、って思ったら人助けもできるようにしておく、とか。

──それは『龍が如く』の、シリアス/コメディの主従が逆転する感じですね。

堀井氏:
 そうですね、それもひとつの可能性です。コンセプト的には、ゲームとして成り立たせる自信はありますよ。今はコメディをひとつの例として出しましたけど、他にもいろいろ、ちょっと形や考え方を変えるだけで、今までなかったゲームをいくらでも作っていけると思うので、そこに踏み込んでいきたいところです。

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