ゲームの文化的な立ち位置を上げたい
──堀井さんのお話を伺っていると、「はっちゃけ要員」としての意識を持ちつつ、一方でユーザーの主体性に対して非常に敏感だという印象を受けます。以前にブログで「ぶっとんでるのに万人受け」をモットーにしていると書かれていましたが、それはこういうことなんだなと納得しました。
堀井氏:
やはり人と違うことがやりたい、という熱意が僕の根底なので、ひと目で「これは変わっているな!」とわかるようなインパクトはあったほうがいい……なければしょうがない、とは思っています。ただ、それが人に伝わらないような独りよがりになるなら意味はない。
僕はやっぱりメジャーでやっていきたい人間ですし、一応メジャーな会社でメジャーな作品に携わっている人間ですから、どんな個性も万人に分かりやすく伝わらないと意味がないと思ってます。誰もついてこられないような超個性的なものがやりたくなったら、辞めてインディーでやろうと思ってますし。
──なるほど。メジャーでやりたい理由はなんですか?
堀井氏:
大衆に問う、大衆を変えていく、ということができるのは、やはりメジャーだと思うからです。僕はいわゆるニッチでカウンター的な存在のものを好きになる傾向が強いんですが、それゆえ「なんでこんな良いものが評価されないんだ」という世間に対する不満を勝手に抱えてきたんですね。だから自分が大衆に受けるものを作ることで、世間を見返したいと言うか、「俺の面白いと思ったものは、ちゃんと面白いんだ」ということを証明したい、という想いがあるんです。
皆に、自分が影響されたたくさんのカルチャーの魅力を、自分の作品を通して伝えたい、受け入れてほしいっていうのが、僕のゲーム作りの根本的なパッションなんだと思います。「ぶっ飛んでいていいね」というだけではなくて、実際に面白いんだということを大勢にわかってもらわなきゃ、と。
──「カウンターだからいいよね」ではなくて、「カウンターであり、なおかつ面白い」という評価がほしい。
堀井氏:
僕はゲームに限らず文化っていうのは、カウンターカルチャーがメインカルチャーになっていくことを繰り返して発展するものだと思っています。メインカルチャーに対するカウンターがだんだん評価され、受け入れられていって、それが大衆化して定着して、ということを繰り返して、メインカルチャーが幅広さと奥行きを獲得していく。だから自分は、カウンター的なものをメインカルチャーに押し上げることで、ゲーム文化を良くする一助になりたい、と思っています。
というのも、ゲームって文化としてはまだ下のほうにある気がするんです。誤解を恐れず言うと、小説>映画>TVドラマ>ゲームというような、世間の認識のヒエラルキーを感じる。ゲーム=社会悪、みたいに語られてしまう部分がまだ多いのも、それがひとつの原因なんじゃないかと思っています。
だから、ゲームの立ち位置っていうのをもっと上げていきたいんですよ。ゲームだって表現の場として熱いんだぞと。下手な小説や映画よりも勉強になるような作品だっていっぱいあるんだぞと。メジャーにこだわる理由というのは、やっぱりそこにありますね。
「いい子」が増えてきたゲーム業界
──ブログで、「ゲーム業界に楔と刺激を打ち込めるくらいに面白いものを作れるように頑張ります」と書かれていたことが印象的でした。少し大きい話になりますが、今のゲーム業界に対して感じていること、今後の課題などもお聞きしてみたいです。
堀井氏:
ゲーム業界全体が「賢く」なってきたなぁ、とは思いますね。僕はゲーム業界に入って13年目になるんですけど、その感じは年々強くなっている気がします。もちろん、今までがバカだったという意味ではありません。ただ、この10年で急激に、戦略的な考え方が浸透してきたのかなと。そこに特化した賢い人が業界にいっぱい入ってきて、収益化するためのフローなどを緻密に作り上げるのが当たり前になってきましたよね。
ただその結果、「収益化の戦略がきちんとしていない企画は通らない」という流れが強まってきているのも事実で。我々ゲームクリエイターはまず企画を通さないと何もできませんから、そうなると「とりあえず上層部に受けそうなそれっぽいものを書いとかないと」ということにもなる。それによって、表現の幅が実は狭くなっている部分があるんじゃないか、とは感じています。
まあわかりやすく言えば、『Fate/Grand Order』が売れたから、『Fate/Grand Order』っぽい企画を作って通そうとする、というようなことですよね。
──企画書が通りやすい企画が増えてくる、っていうやつですね。
堀井氏:
そうですね。理屈で考えれば、最終的にそうなるのはわかるんですけども……。ただ、そういう考え方が新人にまで根付いてしまっていたりするのは、今後を考えるとちょっと怖い部分はあります。
──以前、電ファミの企画で、40代のゲームクリエイターを集めた座談会をやったんですよ。その世代の方の話を聞くと、昔のゲーム業界はもっとはちゃめちゃだったんだな、と感じて。「俺たちは、上の世代に唾を吐くようにしながらものを作っていた」なんて話が出ました。
堀井氏:
確かに、今より好き勝手自由にやっていたという話は、僕もよく聞きます(笑)。
ニーア、ペルソナ等の人気ゲーム開発者が激論! 国内ゲーム産業を支える40代クリエイターの苦悩とは【SIE外山圭一郎×アトラス橋野桂×スクエニ藤澤仁×ヨコオタロウ】
──彼らは、「そんな自分たちは、賢い新人ばかり集めてしまったかもしれないな」とも話していました。好き勝手やるためには、従順な新人を使えた方がいいという感覚はあったと思います。その結果として今があるんですかね。
堀井氏:
「いい子」が増えてきた、というのはあると思いますし、同時にそれが社会的にも業界的にも「正解」になってきた部分もやっぱりありますよね。だから一概に否定はできないんですけど。ただ、みんながみんな数字のことを考えられるわけじゃないですし、考えなくちゃいけないとも思わないので、そこは何かしら違う流れを作っていきたいという気持ちはあります。
──海外のAAAタイトルは完全にマーケティング重視で、計算通りに予算を投じて計画通りの収益を得る、という流れができていると言われています。だからFPSにしろオープンワールドにしろ、似たようなカラーのものが多く出てくるんですよね。それに対して日本では、個々の作家性で勝負しているような作品もまだメジャーの世界に多く見られるので、そういった個性が伸びる業界であってほしいと思うんですけれども。
堀井氏:
僕もそう思いますし、そういう業界的なモチベーションは守りたいですね。面白いことをしよう、ぶっ飛んだものを作ろうと思ってきた人たち──ゲームをひとつの表現の場として見てきた方々っていうのが、今のゲーム業界を作ってきたわけじゃないですか。だから、我々もそういう姿勢を持っていないと駄目だな、と思うんです。やっぱりクリエイターって、「何か作りたい」、「俺の感情をどうにか表現したい」っていう意欲あっての存在で、それを表現する手段が映画の人もいれば小説の人もいるけど、僕はゲームを選んだわけで。
今のゲーム業界がそういう、なにかを表現したいと思っている人材が選んでくれるような業界なのかといったら、ちょっと違ってきている気もしているんです。ゲーム業界自体を魅力的に感じてもらう、たとえばゲームショウに行ったときに「ゲーム業界ってすげぇ! 入りたい!」と思ってもらうためにはどうすればいいのか、ということは、最近特に強く考えるようになりましたね。
マーケティングのために、海外ウケを狙う必要はない
──今はビッグタイトルであるほどグローバル展開を視野に入れなければいけないし、マーケティング的な視点は不可欠ですよね。クリエイティビティとの折り合いをどうつけていくのか、というところに対してどうお考えですか?
堀井氏:
そうですね。国内市場が縮小している以上、海外展開で売上をプラスしなければ、というのは当然の発想ではあります。ただ、だからといって「海外にウケるため」にああしようこうしよう、ということを考える必要はあまりないんじゃないか、と僕個人としては思っているんですよ。
海外のニーズをどう意識したら海外のユーザーに刺さるのかって、すごく難しい問いなんです。海外向けっぽくやりましたと言っても、それが数字に直結するわけじゃない。「こうやれば海外で売れるよ」という正解って実はまだないんですよね。
──『龍が如く』シリーズは今アジア圏でかなり売れているようですが、それはどういった理由によるのでしょうか。
堀井氏:
いろいろあると思いますが、年々観光客が増えるなど、日本に対する興味関心が世界的に高くなっていることは大きいかと思います。『龍が如く』はゴリゴリの日本ゲームですから、日本に興味がある人が増えることは、『龍が如く』に興味を持ってくれる人が増えることに繋がります。
『龍が如く』ほど和のテイストが全面に出たタイトルもなかなかないので、ゲームがたくさん並んでいる中でも埋もれず、アイデンティティを発揮しやすい部分もあると思います。特に台湾での人気は高いですね。親日家が多いと言われていることもあってか、毎回すごい熱気で迎え入れてくださいますし、わざわざ日本語を勉強して日本語版をプレイしました、という話を聞くこともあります。
──アジア圏でウケる理由として、日本のセクシー女優が出演していること一助になっているのでしょうか。『龍が如く0』、『龍が如く 極2』でのタイアップ企画は、国内では非常に話題になりましたよね。
堀井氏:
ああ、それも大きいと思います。日本のセクシー女優さんの、アジア圏での知名度ってものすごいですからね。『龍が如く』には出ていませんけど、蒼井そらさんなんて中国ではほとんどの人が知っているという話ですし(笑)。ただ、これも反響は予想以上に大きかったですけど、それを意図していたわけではないんですよね。元々『0』は「金」、「女」、「暴力」の3つをとことん突き詰める、という制作コンセプトがあって、その一環としてセクシー女優の方々を絡める流れになったんです。
なので海外ウケはある意味副次的な効果だと言えるのではないかと。名越や横山は、最初からそういう狙いをある程度もっていたのかもしれませんが。
僕個人としては、基本的に『龍が如く』は国内の大人向けに作っているタイトルなので、海外でウケるからといって内容を海外ユーザー向けに変に迎合する、というのはすべきではないと思っています。アジア圏で売れてくれるのはとてもうれしいし、ありがたいことなんですけど、それはあくまでも「日本向けに作ってたけど海外でも予想以上に受け入れてもらえたぞ。ラッキー!」ということなんですよね。
──なるほど、堀井さんとしては「海外マーケティング」というものはあまり意識しないんですね。
堀井氏:
マーケティング結果を元にゲームを作る、ということは基本的にしませんね。『龍が如く』は特にそうですが、変に迎合すると作品自体の世界観やコンセプトが薄れて、逆効果になる気もしています。いちクリエイターとしての意見にすぎませんが、海外で受けるゲームって、シンプルに世界観がちゃんとしている作品だと思うんですよ。『ペルソナ』、『ニーア』も海外でかなり好評ですけど、やっぱり世界観がすごいじゃないですか。コンシューマーのお手本みたいなゲームですよね。
世界観がしっかりとあり、それに根付いたストーリーがある。確固たる世界観の土台があれば個性もちゃんと出てくるし、そういうものが評価される土壌っていうのは、海外のほうがむしろあると思っています。少し昔の作品ですけど、『大神』もそうじゃないですか。海外には非常に刺さった。でもあれって、別に海外ウケのために作った作品ではないですよね。
ですから僕としては、必要以上に海外は意識しない。飽和した国内市場の中でも埋もれないような尖ったものが作れれば、それが最終的にはグローバル市場にも出ていくだろう、くらいの気持ちです。変に小理屈を考えてやりたいことがやれなくなっちゃったら、そちらの方がクリエイターとしてはまずいかなと思うんですよ。
──前に鈴木裕さんと水口哲也さんに取材したことがあるんです。彼らは「下の世代には世界を狙って作ってほしい」ということを非常に強調されていました。少し上の世代は特に、「グローバル展開に乗り遅れたらまずい」という危機感を持っていると思うのですが……。
堀井氏:
コンシューマーゲームは既に海外を考えないと成り立たない商売になりつつありますから、セガのゲームでも多言語対応などの、商品としてのグローバル展開は加速度的に進めています。ただ、個人的には海外への危機感というのは正直そこまでなくて……。
むしろ僕のレンジだと、国内でもやりたいことがやり切れていないことのほうが危機だし、課題だと感じています。売るのが国内か世界かはさておき、日本のゲーム業界がある程度やりたいことがやれる場所、センスとやる気のある人が才能を発揮できる場所にしていかないと、いずれにしても未来はないと思っています。
だから、その時代ごとに、クリエイティブの考え方とか正解の見つけ方は違う、ということなのかもしれません。鈴木裕さんたちは、日本のゲーム業界のバブルを目撃されていた世代じゃないですか。日本のゲームが圧倒的に人気で海外はちょっと弱くて、という状況を見ていた方が、今の状態を危機的にとらえるのは自然なことだと思うんです。
それは僕らの世代が、スマホゲームを脅威に感じているのと同じようなことでもあって……。だから本当に、その時代ごとに感じるそれぞれの課題と向き合うしかないんじゃないでしょうか。
「コレはやらない」という縛りをつけるセンスが問われている
──世代的に抱えている課題についてはもう少しお聞きしてみたいですね。堀井さん以下の世代のクリエイターにとっては、これから具体的に何が重要な課題になってくるんでしょうか。
堀井氏:
今のゲームって二分してきていると思うんです。ひとつは「暇をつぶすゲーム」。そしてもうひとつは「暇を作って遊ぶゲーム」。スマホとコンシューマーっていう分け方はそろそろなくなっていくんじゃないかと考えています。最近のスマホゲームって、コンシューマーにひけをとらないですから。
「暇をつぶすゲーム」について言えば、大事なのはシステム的なところだったり、気軽に遊べる仕組みだったりですよね。それほどコアでハイスペックなものを考える必要はないので、よりシンプルな方向に行くというか、大きな要素をどう縮めていくか、という部分のセンスが問われると思います。
「暇を作って遊ぶゲーム」に関して言えば、長時間やることが前提になるわけですから、それに足る何かをデザインできなければいけない。ユーザーをいかに長く引っ張り続けるか……。これはもう、従来のコンシューマーが追求してきたテーマを、今後も深めていくということなのかなと。
──そうやって二分していく中で、どのようなクリエイターが生き残るんでしょうか。
堀井氏:
やっぱり自分の武器というか、「これが自分だ」というものをちゃんと持っている人が生き残るんじゃないでしょうか。誤解を恐れず言うと、今はもう、技術的にはなんでもできる状態で、「こういうことをしてみたいけど技術的に無理だなあ」なんてものはあまりないんです。だからこそ、その中で自分の作家性しかり、やりたいことをちゃんと掲げて、進んでいける人っていうのがこれから残っていくと思っています。
昔って、「不自由な中でいかにアイデアを再現するか」が驚きとか感動とか、評価のポイントになる時代だったと思うんですよ。「この技術で、こんなすごいことがやれているのはすごい!」と。でも今はそうじゃないんですよね。その中で驚きや感動を生み出すとなると、「技術にくみしない感動」をデザインしないといけない。そういう、そもそものクリエイティブセンスが直に問われる時代なんだと思うんです。
──なるほど……。たしかに上の世代の方々は、「このドット数でいかに美麗な絵を見せるか」とか「この容量にどれだけ詰め込むか」という制約の中でセンスを発揮されてきたわけですもんね。
堀井氏:
今は逆に、「制約をつけていく時代」なのかもしれないですね。「なんでもできる」というのが前提にある上で、ゲームとして、商品として作品を成り立たせていくために「これはやらない」という縛りをつけていく、という考え方になるのかもしれません。「なんでもできますよ」という世界で「なんでもできる」ゲームを作ろうと思ったら無限にコストがかかる。技術的にはできないことはなくても、割けるリソースも無限かといったらそうじゃなくて、むしろコスト意識は高まっている。そんな状況下で大切になるのは「自分がやりたいのはこれ、やりたくないのはこれ」という区切りじゃないかと。
これくらいの規模のゲームを作るなら、できるのはここからここまで。その中でこれをやってあれをやって……。という枠組みを自分であえて作っていく、というのは僕もずっとやってきたことかもしれません。
PS2で変なゲームが沢山出ていたあの頃をもう一度
──では最後に、世代ではなく業界全体としてみると、どういった課題があると思いますか。
堀井氏:
そうですね……やはりコンシューマーゲームにかつてのような勢いがないっていうのが課題ですね。もちろん『モンスターハンター:ワールド』のようにドカッと売れる作品は存在しますけど、PS2とかの時代はみんながハードを持っていて、みんながゲームをウハウハと遊んでいた。昔の100万本売れるのと、今の100万本売れるのでは全然違うと思うんですよ。限られたゲームユーザーがドバっと買って100万本なのか、その辺のお兄ちゃんとかが買って100万本なのか。同じ100万本でも質が違いますよね。
──おっしゃる通りだと思います。
堀井氏:
とはいえ、コンシューマーゲームはもっといろいろな方にやってもらえるポテンシャルは、まだまだあるはずなんです。要はゲームファンという絞られた人たちだけで終わるようなコンテンツではない。
実際、やればおもしろいんですよ。やってもらえたら絶対ハマったり、感動するような作品は今でもたくさん作られている。でもそれが届かず、広がらず、これからしぼんでいくと考えたら怖いし、悲しいですよね。
だからこそ、僕らがずっとやってきた、没頭して何十時間やっても楽しい、人によってはプレイすることで人生が変わるという、コンシューマー的な文化は絶やしてはいけないと考えています。だからそこは挑戦していきたい。
──コンシューマーゲームを今後も、というよりも、どのような形であれその文化を、ということですね。
堀井氏:
そうですね。別にハードにとらわれる必要はないと思うんですよ。だから今後のコンシューマーゲーム業界全体の課題というのは、そのコンシューマーゲームの文化や楽しみ方を一般層にまで普及させることですね。そもそも、そうじゃないと業界が魅力的に見られないし、魅力的じゃないと新しくて面白い人たちが業界に入ってきてくれないじゃないですか。
そういう意味では、PS2の頃は今よりもゲーム業界が魅力的だったと思うんですよ。あの頃はいろんな人がゲームを遊んで、いろんな人がゲームを作っていた。結果、変なゲームが沢山出ていましたけどね(笑)。でもそういうのが盛り上がりだと思うんですよ。だからあの頃の活気を取り戻したいんですよね。それが僕のいちばんの理想というか。
──そのための『新』プロジェクトでもあると。
堀井氏:
そうですね。今インディーではなく、いわゆるメジャーでコンシューマーのゲームを作る場合、結構なお金がかかります。だからなかなか企画が通らず、どうしても続編やシリーズものが多くなってしまうんですが、かといって今までと同じものをやっていたら、新しいものが何も生まれなくなってしまう。
だから新作に挑戦することはもちろんですが、続編・シリーズものの中でも新しいことに挑戦するスタンスっていうのを、各ビッグタイトルがとっていかないと、ユーザー自体が死んでしまうと思うんですよ。また、「このシリーズしかやらない」という方もいらっしゃいますが、そのIPが死んでしまったら、その人はもうゲームをやらなくなってしまうかもしれません。そうならないように、僕らがユーザーたちを育てていく、という考えかたも必要かなと思っています。
ですから『新』でも、いろいろな挑戦をしていきたいと思います。ファンの方々を満足させるものにするのはもちろんですが、最近ゲームから離れてしまった人たちをもう一度ひきつけるようなタイトルにしたい。コンシューマーゲームの面白さを思い出してもらえて、最終的にまたコンシューマーゲーマーに戻ってもらえるような。そんなきっかけになるタイトルにできるよう、精進していくつもりです。
──本日はありがとうございました。(了)
「新世代に訊く」の第二回目、いかがだっただろうか。
堀井氏の「情熱の結晶」が、はからずも『龍が如く』を、「オマケ要素の肥大化」というオープンワールドゲームの世界的な潮流にぴったりと添わせる役目を担った──これは非常に興味深いことである。
オープンワールドブームの先駆けとしてよく言及されるのは『グランド・セフト・オートIII』だ。しかし源流として、『シェンムー』の名前は必ず挙がる。『龍が如く』は、オープンワールドの理想をついに結実させられなかった『シェンムー』の、そのエスプリを受け継いだ作品なのだ。そして、そこに爆弾をもたらした堀井氏の背中を押したのが名越稔洋氏──『シェンムー』を作った鈴木裕氏の直系の部下だったという事実も、なにやら象徴的に思えるではないか。
堀井氏は、ミニゲームで発揮した個性が最終的にはIPそのもののイメージまで変えてしまった、という非常に稀有なクリエイターだ。そしてその情熱の源流に、濃密なゲーム体験だけではなく、カラオケやバンドなどの音楽体験があったことは見逃せない。
堀井氏のブログを読むと、元祖ヴィジュアル系バンドとして名高い「BUCK-TICK」への愛が伝わってくる。遥の歌う「KONNANじゃないっ!」をはじめ、堀井氏は『龍が如く』の挿入歌の作詞を多数手がけてきた。V系音楽をかじったことのある人なら、それら歌曲の歌詞から、「BUCK-TICK」の櫻井敦司リスペクトを感じ取れるだろう。
遥は作中で歌っている。「『コレガイイヨ』『コレデイイヨ』耳元囁く悪魔(ジブン)にアッカンベー」。そんな闘志こそが、「賢く」、「いい子に」ならざるを得ない大規模ゲーム開発の世界において、ますます重要になっていくのではないか──。病気を乗り越えてなお快活な堀井氏の言葉に、そう思わされた。
この連載では今後も、なかなか顔が見えづらい20代後半~30代の若手クリエイターを取り上げていく予定だ。未来の“伝説のクリエイター”は、いま何をしているのか。ゲームの「今」が見えてくる連載になれば幸いだ。
【あわせて読みたい】
【新連載:新世代に訊く】 『ポケモン』新作は“攻略”を検索される前提? ゲームフリークの伝説を受け継ぐ若きディレクター達 【大森 滋氏・尾上 将之氏インタビュー】電ファミニコゲーマーは、これまで「ゲームの企画書」などのインタビューで、ベテランのゲームクリエイター達の、知られざるエピソードの数々を届けてきた。デジタルゲーム市場が産声を上げたばかりの時代を生きた人々の、若き日の「時代の証言」は、まさに黎明期の熱気そのもの。思いもよらない角度から、私たちにゲームの面白さを再び認識させてくれた。
だが、取材を進めながら、ずっと気になっていたこともある。
それは、彼ら“伝説のクリエイター”達が暴れ回っていた頃の年齢に当たるくらいの、「今」を生きる若きクリエイターの姿が、よく見えないことだ。ゲームで人々をアツくさせる夢を見て、現場で毎日汗を流している若きゲームクリエイター達は、今どこにいて、何を考えているのか──。この連載「新世代に訊く」は、そんな新時代のゲームクリエイター達の姿を知るべく、実際に足を運んで、彼らに話を聞いてみようという企画である。
さて、そんな本連載の第一回目をお願いしたのは、上記「ゲームの企画書」初回にも登場したゲームフリークだ。今回の取材では、「ポケットモンスター」シリーズの新作『ポケットモンスター サン・ムーン』で、30代半ばという若さでメインディレクターを務めた大森滋氏と、最近Steamで販売され話題を呼んだ2Dアクション『GIGA WRECKER』でディレクターを務めた尾上将之氏に話を聞いた。