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『龍が如く』主人公をキャラ崩壊させた男に訊く“やって良いこと”と“悪いこと”──「ミニゲーム」と「サブストーリー」にエンタメ性を加え、IPの可能性を広げた【新世代に訊く:セガ・堀井亮佑】

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幼少期からの生粋のセガ信者

──ここからは、堀井さんの人となりに迫っていきたいんですが、かなりのセガ好きだと伺いました。ストレートにお聞きしますが、どうしてセガだったんですか?

堀井氏:
 学校の、あまり好きじゃないクラスメイト連中がプレイステーションを買っていたんです。それで、「こいつらと一緒のものは買いたくねえな」と思って(笑)。あとはゲームセンターでハマりまくっていた『バーチャファイター』(以下、『バーチャ』)があったことが大きいですね。

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※2018年11月22日にPS4で発売予定の『シェンムー I&II』ティザートレイラー

──新作ゲームの情報は常にチェックしていた感じですか。

堀井氏:
 そうですね。当時は、「セガジョイジョイテレフォン」と「セガFAXクラブ」という、セガがオフィシャルで、電話とFAXでゲームの情報を教えてくれるサービスがありまして。月イチくらいで更新されるんですけど、そういうもので情報集めはしていたかな。

 あとは雑誌媒体ですね。今日も実は持ってきたんですけど、僕は今でも記憶に残るようなゲーム雑誌のバックナンバーは保管しているんです。この「ドリームキャストマガジン」は、セガサターンの特集号で、ジャンルごとにサターンのソフトが紹介されていて、今見ても面白いんですよね。昔プレイしたゲームのことって忘れちゃうことが多いですけど、たまにこれを読み返すと「ああ、こういうゲームもあったんだよな」と思い出すことができるので、制作の役に立ってます。昔のゲーム雑誌は今読んでも楽しいですよ。「新作期待! 『ソウルキャリバー』がついにドリームキャストに来た! 特典でシールも付いてます!」なんて宣伝文もぐっときますよね。

──サターンからドリキャスに移ったときに、ユーザーとして感じた変化はありましたか?

堀井氏:
 やっぱり、格段に品質が向上したというのは感じました。ポリゴンなどの映像表現もそうですし、サウンド面に関してもパワーが違いました。また、ハードだけではなくソフトの質も上がったと感じました。サターンの頃って、有象無象じゃないですけど、「なんだこれ……」みたいなのも正直いっぱいありました(笑)。

 でもドリキャスになってからは、本数は少ないながら粒ぞろいだったのかなと。「こんなすごいハードが出たんだから、ついにセガが勝つ時がきた!俺らは報われるんだ! 勝ち戦だ!」って思っていました。

──そこまでセガのゲームが好きなら、今でも当時のゲームをプレイすることがありそうですね。

堀井氏:
 セガサターンもドリキャスも、今でもさわりますね。僕はあまりハードに対するこだわりというか、最新のハードで遊ばなきゃという気持ちがなくて、今でも通勤中にワンダースワンをやったりもするんです。『マジカルドロップ』が僕は大好きなので、今でもそれを。時々電車で遊んでいると、隣りにいる子どもに「新しいDS!?」って聞かれて面白かったりします(笑)。ワンダースワンって、起動時のこのチュイーンって音がいいですよね。

 サターンやドリキャスでもやりたいゲームがまだ残っているので、「プレステ4で『ニーア』が終わったから次はこれをやるか」とか、柔軟に遊んでいます。

 あと『実況パワフルプロ野球』も大好きなんですが、最新のPS4版ではなく、ずっとPS2の『実況パワフルプロ野球9』をやっています。松坂が新人として入ってちょっとしたくらいの頃のものなんですが、10年しかできないペナントモードで、10年やってデータを引き継ぎ、さらにもう10年やって──というのを繰り返していたら、当時30代だった桑田が還暦になってしまったり。

一同:
 (笑)

堀井氏:
 もうそこまでくると、すごいですよ。みんな衰えて能力が最低ランクになりますし、ヘッドスライディングするたびにみんな怪我して離脱とかしますし(笑)。ただ、『9』は野球部分のバランスが本当に良くできている作品なので、それでもずっとやってしまいますね。あと未だに『野球つく!!』もドリキャス版を引っ張り出してやっていますし……っと話が脱線してしまいましたね(笑)。

──いえいえ。それで堀井さんが大学に入られた頃には、セガはハードから撤退していたと思うんですけど、セガ好きとしてはどんな心境だったんでしょうか。

堀井氏:
 「俺たちはもう負けたんだ」という敗戦国のような気持ちでしたね(笑)。ドリキャス発売の頃の勢いを知っている人間としてはもちろんさみしかったですけど、これで大手を振ってプレステができる、という想いもあり(笑)プレステをやりはじめたらめちゃくちゃ面白くて。「おいおい『ゼノギアス』超面白いぞ」と(笑)。プレステでやりたいソフトは死ぬほどあったので、過去を取り戻すかのようにやりまくりましたね。大学時代に、プレステ、プレステ2のやりたかったソフトは大体あそびました。

──当時面白かったのは、たとえばなんですか?

堀井氏:
 『やるドラ』とかは特に好きでしたね。『ダブルキャスト』はもちろん『BLOOD THE LAST VAMPIRE』まで一通り全作、全ルートプレイしました。他には『正義の味方』『ぼくのなつやすみ』とかも好きでしたね。プレステはプレステで、サターンと違った毛色の個性的なソフトがいっぱい出ていましたし、CMも楽しいものが多かったですね。

 あと『リンダキューブ アゲイン』『俺の屍を越えてゆけ』は本当にハマりましたよ。桝田省治さんは、作り手としては一番リスペクトしている方ですね。桝田さんの著書の『ゲームデザイン脳』は、今でも僕のゲーム制作のバイブルです。

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やりたいことが全部詰まっていたゲーム業界

──と、そういうものを経由しつつ、セガに入社されるわけですけれども。堀井さんが就職活動をした時期って、就職しやすい時期だったのでしょうか。

堀井氏:
 氷河期ギリギリ手前かな? というくらいですね。僕は就職活動自体が好きだったので、すごくたくさんの企業を受けました。企業の人と話したりできるのが単純に楽しかったんです。

『龍が如く』主人公をキャラ崩壊させた男に訊く“やって良いこと”と“悪いこと”──「ミニゲーム」と「サブストーリー」にエンタメ性を加え、IPの可能性を広げた【新世代に訊く:セガ・堀井亮佑】_064

 でも、サターン一筋で育ってきたというのもあって、第一希望はやっぱりセガ。その頃は特に、作家性の感じられるゲームがいっぱい出ていた時期だったんですよ。『龍が如く』もそのひとつですね。「ゲームってこんなこともできるんだ。映画にも負けないような、こんな文化的な表現が可能なんだ」と感銘を受けました。

──作家性を感じるゲームとして、他にはどんなものがありましたか?

堀井氏:
 須田剛一さん飯野賢治さん桝田省治さんの作品はすごく好きでしたね。やっぱり自分の世界観というものがあって、そこで毎回違ったチャレンジをされている姿勢を尊敬しています。

──だからこそ、自分もゲーム業界で作品作りに挑戦したかったと。

堀井氏:
 そうですね。やりたいことをやっている人達への憧れもありつつ、ゲームという表現の進化への期待もあって。ゲームって、僕のやりたいことが全部詰まっている世界だったんですよ。大好きだった音楽も入っているし、ストーリーも作れるし、プレイの面白さも追求できるし。ゲーム業界に入れば全部できるわけです。

──総合芸術としてのゲームに惹かれたわけですね。

堀井氏:
 まさに、総合芸術ですよね。これからは、文化、芸術の一角としてゲームこそが伸びていくだろう、という強い予感もあって、ゲーム業界で就活しました。

 セガを志望した理由のひとつとして、新卒でクリエイターの募集をしていたというのもあります。新卒で、クリエイター、しかもプランナーを募集している企業って当時はそんなになかったんですよ。そういう意味でも理想的でしたし、何よりセガサターンを8台持っているし(笑)、ここに入るしかないと。これで落とされたらショックだわ、と思ってそこはアピールしまくりました。

──入社した当時のセガって、どんな様子でしたか?

堀井氏:
 僕が入った直後は、セガが少し苦しくなり始める時期でしたね。その厳しい時期に、名越が立ち上げて成功したプロジェクトが『龍が如く』だったんです。そのチームに入社直後から参加できたのは、幸運なことだったかもしれませんね。

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──名越さんのお話だと、『龍が如く』もいろいろと大変ではあったみたいですけど。

堀井氏:
 僕自身は売れてから入った人間なので、初期の苦労という点はあまり感じていません。ただ、『1』が売れて、その熱が冷めやらぬうちにすぐ次を投下しよう、という時期だったので、スケジュール的には厳しかったです。『1』の発売日が2005年12月8日、『2』の発売は2006年の12月7日発売だったんですけど。

──プレイステーション2のゲームを1年以内に制作するというのは……。

堀井氏:
 凄まじいスピードで制作が進んでいく中にいきなり放り込まれた形でした。最初はもうびっくりしましたし、1年目から馬車馬のように働きまくりました。

──『龍が如く』のチームに入ったのは、希望したからですか?

堀井氏:
 いえ。一応コンシューマーでという要望は出していたんですけど、当時のセガは部署ごとに面接官がいて、各部署の部長が協議して新卒の配属先を決めていたそうなんです。僕はそこで、『龍が如く』の部署に拾っていただいたんです。

──ちなみに、何を見込んで拾われたのか、というのはご存知ですか。

堀井氏:
 カラオケじゃないですかね(笑)。面接では、とりあえず「セガターンを8台持っています」、「セガのおかげで今の僕があります」ってセガ愛と感謝を述べたんですよ。そしてそのあとは「趣味はカラオケです」とPRして。名越に面談されたのが最終面接だったんですけど、当然「カラオケが趣味なやつなんていっぱいいるんだよ」、「他のやつと違う、と言えるところはあるのか」といったことを伝えられるわけですね。

『龍が如く』主人公をキャラ崩壊させた男に訊く“やって良いこと”と“悪いこと”──「ミニゲーム」と「サブストーリー」にエンタメ性を加え、IPの可能性を広げた【新世代に訊く:セガ・堀井亮佑】_065

 そこで、さきほどのカラオケの持ち歌リストを見せたら「(他のやつと違うところが)あった」と苦笑いされて、採用通知をいただきました。なんでも作っておくものだな、と思いました(笑)。

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