師匠の一言が再びゲームに対する考え方を変える
──冒頭で話が出た師匠の田中さんこと「伝説のオタク」さんとの出会いは、もう少し先なんでしょうか。
寝る前に今日の配信の記念写真だけ自分用にツイートしておきます。
— 伝説のオタク(Den-taku) (@den_ta9) March 18, 2016
反省点だらけだったけどそれでもとっても楽しかったです! pic.twitter.com/7dOvSXXiHz
歌広場氏:
高校2年生か3年生のときですね。千葉県って『GUILTY GEAR』王国と言われていましたが、僕も『GUILTY GEAR』をやっていて、有名プレイヤー達が集まるゲームセンターに通っていた時期があって。
そこで『CAPCOM VS.SNK 2 MILLIONAIRE FIGHTING 2001』でめちゃめちゃ勝ちまくっていた田中さんの存在を知るんです。
師匠と弟子の関係になるまでにけっこう時間がありまして、それは僕が大学生になってからの話なんです。
──詳しくお聞かせください。
歌広場氏:
もともとゲームセンターで見かけてはいたものの、面識はありませんでしたが、定期的に田中さんのご自宅にみんなで集まってゲームをする会があったようで。ある日、そこに誘われたんですよ。
「やった、有名人の家だ!」ってパンピー気分でウキウキして行ったら、「『ストリートファイターIII』やっているんでしょ?」と言われたので、「やっています」と。
それで対戦することになったのですが……普通に格闘ゲームの話になっちゃうからわからなかったら申し訳ないですけど。
──いえいえ、大丈夫ですよ。
歌広場氏:
できるだけわかりやすいように説明しますね。えっと、まず『ストリートファイターIII』のセオリーとして、地上で一番発生が早いのが「投げ」なんですね。
で、このゲームには空中ガードはありませんが、「ブロッキング」(相手の攻撃が当たる直前にレバーを入れることで、ダメージを無効化するテクニック)というシステムがあるので、対空技(昇竜拳のように空中から来る攻撃を迎撃する技)は必ずしもベストではない。
たとえば自分が飛んだとします。そうしたらブロッキングの入力をしておくんですね。
それで相手が素直に昇竜拳を打ってくれたら、ブロッキングで無効化できるので、自分は着地して有利、向こうはスキだらけという状況になります。
その結果どういう事が起こるかというと、飛んでくる側はブロッキングで対空技を無効化したい、対して地上にいる側は相手のジャンプ攻撃をブロッキングして確定をとりたい、というお見合い状態になるんですね。
それで片方が攻撃すればいいんですが、両者がブロッキングをすると、着地点で何も起こらないと(笑)。すると今度は、地上で最も発生の早い「投げ」のこすり合いになるんですよ。
すると「投げ」と「投げ」でパンッとなるんですが……大丈夫ですか?
──大丈夫です!
歌広場氏:
飛び込むとそのシチュエーションがあまりにも多いので、僕が田中さんと戦ったときは、飛び込んでブロッキングを入れて、着地に「投げ」を入れたんですよ。
すると、「投げ」が通った。つまり田中さんは「投げ抜け」を入れていなかったんですね。
そうしたら、その場でスタートボタンを押して、「高山くん、それはない」って言われたんですね。「ちゃんと画面見てる? 俺、今波動拳出してたんだ」と。
つまり、相手が波動拳を出した段階でブロッキングを入れてないことは確定なわけですね。いわば隙だらけ。
だからジャンプ大キック→しゃがみ中キック→昇竜拳とか入れればよかったのに、僕は先ほどご説明したセオリーのことが頭にあったがゆえに、とっさに切り替えずに着地で投げたんですよ。
これがどういうことかというと、体力を100奪えるチャンスがあったのに、10で満足しちゃっていたんです。相手が波動拳を出していることは確認できたはずなんですよ?
でも僕は画面を見ていなかったんですね、こういうもんだと思い込んでいたから。
──だから「それはない」と。
歌広場氏:
田中さんはすごく温和な方なので、そんな風に怒るなんて思わなかったぐらいびっくりしたとともに、「この人はゲームを真面目にやっているんだ」と。
かといって昔の僕みたいに強くて勝てばいい、と思っているわけでもないんだと。だってそのシチュエーションだけ切り取ったら向こうは得していますからね。
僕はそのことに心から感動して……。しばらくゲームで心から感動する機会なんてなかったですよ。あっても勝って嬉しいぐらい。
それでまた生き方が変わったんですよ。大げさかもしれませんが、でもせっかく本気でやってるんだから、極端に言えば生き方が変わらなきゃ意味ないじゃないですか。
だから僕は、生き方を変えてくれた田中さんにすごく感謝しています。
──それだけ歌広場さんにとって重大なことだった、ということですね。
歌広場氏:
そうです。このことを簡単にいうと「最適な行動をとる」という一言で済んでしまいますが、これってゲームに限らずすごく見落としがちなことじゃないですか。
それまでの僕は「やっちゃった」くらいの感覚だったと思うんですけど、「重大な事件なんだよ」と気づかせてくれたんです。
──なあなあでやってしまったわけですね。
歌広場氏:
「真面目に向き合ってないよね」みたいな感じでしたね。対して、田中さんは命がけでやっててカッコ良いなと思ったんですよ。まあ田中さんは、それ以外のことだと日常生活に支障をきたすレベルで問題があるような人なんですけど(笑)。
でも、それをすべて帳消しにするぐらいめちゃめちゃ感動したんです。それで「すいません、教えてもらってよろしいでしょうか」と、いろいろ教えてもらうようになったんです。
──その瞬間に、いわゆる師弟関係になったんですね。
歌広場氏:
はい。ただ、田中さん自身は「そんなことあったかな?」って感じなんですよ(笑)。田中さんからしたら普通のことなんですよね。
でも僕がそこに引っかからなかったら、今こんな風になっていないと思うので、そこに引っかかるような自分で良かったなと思います。ゲームをある程度ちゃんとやろうという気概だけはあったんですね。
──それにしても、どんどんゲームに関する意識が変化していきますね。
歌広場氏:
この頃になると、「ゲームは遊びだから楽しければいいでしょ」と言われたら、「良いけど、だめだよ」って(笑)。「それじゃあ本当に楽しいとは言えないよ」と思うようになりましたね。
──本当にゲームが大好きなんですね。そんなゲームですが、今ほどではないにしろ、『ストII』ブームや『バーチャファイター』ブームなど、何度かゲームというものが注目されたタイミングがあったじゃないですか。そのとき、やっと格闘ゲームが陽の目を浴びたという感覚はあったのでしょうか?
歌広場氏:
当時はないです。ゲームはあくまでメインではないもの──ようは「オタクじゃん!」みたいな一言で集約されるものだと思っていました。
会話も「俺、瞬獄殺出せるけど?」みたいな、よくあるやつですからね(笑)。僕はそういう会話も飽き飽きしていたので、黙々とゲームをやっていたんですけど。
むしろ陽の目を浴びているのは今ですよね。それこそ「eスポーツ」が流行語大賞にノミネートされていますから。そんな時代が来るとは思わなかったですね。
だって有名なアーティストの方から「歌広場君ってゲーム好きだけど、『ストリートファイター』やったことあるの?」「やったことありますよ」「アケコン(アーケードコントローラー)、何買えばいい?」って会話をすることになるとは思ってなかったですもん。
ついにそういう時代が来たんだなと(笑)。
──たしかに私もそういった話を聞きますし、ゲームをやっていることをオープンにしている方も増えてきていると思います。
歌広場氏:
そういう意味でも、今が一番ゲーム──僕の好きなゲームが陽の目を浴びているタイミングだと思いますね。
ただ……今後はどうなっていくんでしょうね。僕の場合は陽の目を浴びるだろうからゲームをやっていたわけじゃなくて、好きだからやっていました。
みなさんもそうですよね。でも今後は、ゲームは好きじゃないけど商売として付き合っている人が増えていくわけじゃないですか。きっとそういう人たちは『風来のシレン』と言ってもピンとこない。
これはネガティブではなくて、単純にそういう方々が増えるのが楽しみで、そうなったとき、いったいどういう風になっていくんだろうって。だってそういう人たちも含めて文化は作られていきますからね。
──特にeスポーツ方面ですよね。いい面も悪い面もあると思いますが、どのような未来が待っているのか興味深いです。
一面のボスになりたい
──さて、ここまでは“歌広場淳はいかにしてゲーマーになったのか”について迫ってきましたが、そろそろ終わりの時間が近づいてきましたので、最近と未来の話も伺おうと思います。いまは何をどういう環境でプレイされているんでしょうか。
歌広場氏:
今は『ストリートファイターV』がメインですね。主に自宅でオンライン対戦です。あと、仕事柄色んな所にライブツアーで行くので。行った先のホテルでできるようにゲーミングパソコンを買ってSteam版でもやっています。
──アケコンも持ち歩いているとか。
歌広場氏:
持ち歩いていますよ。よくアケコンを持ち歩くと「すごいですね」と言われますが、それは野球選手がバットとグローブ⋯⋯は持ち歩かないか(笑)。まあ、マイダーツとかマイグローブとかを持ち歩いているようなものです(笑)。でも、そこにはちょっと憧れもあるんです。
僕は日本大学の芸術学部にいて「日大の芸術学部、日芸すごいね」みたいに言われますが、でも僕が入ったのは文芸学科で、特有のコンプレックスがありまして……。
いや、他の学科の人ってみんなパっと見でわかるんですよ。
なんかアーティスティックでカメラを首から下げていると「写真学科ね」とか、画材を持っていたら「美術とか絵を描いてる人ね」、みたいな。
──文芸学科は……。
歌広場氏:
文芸学科だからと原稿用紙を持って歩くわけにもいかず(笑)。そんな奴いませんし、文芸学科って一発でわからない。だから、必要以上にアイデンティティについて悩んでいる学科だったんですね(笑)。
そういう経験もあって僕は「ゲーム好きだぞ」ということをわかりやすくするために、アケコンを持ち歩いて、周りの人に「?」って思わせるぐらいがちょうどいいと思っていて。その「?」が逆に楽しいみたいな。
──絶対に興味を持ちますもんね(笑)。
歌広場氏:
「何それ?」ってなるじゃないですか(笑)。実際にアケコンを持ち歩いていると、色んな所でゲームをやる機会があって面白いですね。
今はオンライン対戦がメインですが、でも根底はオフラインにあるので、オンライン対戦をやるゲームだとしても、自然にオフでやる環境が出来上がるんですよ。
そういうとき、マイアケコンを持ち歩くとすごく便利で。
だから、ゲームというのは結局「人」だなと思いますね。ゲームをプレイしていてぐつぐつ煮えてしまうのは、オンラインでもこの液晶の向こうには世界中の誰かと繋がっていて、そいつが脳死状態で出している技を食らっているんだ、という意識があるからなわけで。
コンピューターだとぐつぐつしないですからね。人と戦っているという意識があるからこそだと思います。
──ぐつぐつされるんですね(笑)。
歌広場氏:
しますよ! 「なんでそのタイミングでその技出したんだ!?」みたいな感じというか……というのも、格闘ゲームってコミュニケーションなんですよ。
「僕はこうしたらお前はそうするのか」「なら俺はこうするよ」「なるほど、こうきたか」という流れでコミュニケーションが成立しますが、顔が見えていないとコミュニケーション不全になってしまい、「何やろうとお前は毎回好きなことしかやらないな!」となっちゃう。
もちろんそれは、僕がまだまだ下手くそだからでもあるんですけど、やっぱりぐつぐつ来ちゃいますね。
──格闘ゲームならではのぐつぐつですね。
歌広場氏:
だから格闘ゲームではなく、オンラインゲームをやり込まれているTERUさんに「ぐつぐつした瞬間ランキングベスト5」とか聞きたいですね(笑)。
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実は昔『ラグナロクオンライン』をやったことがありましたが、学校が休みだった日がちょうどメンテ日で、メンテが明けてすぐにINして流行りの狩場に行ったのですが、そうしたら「横取りすんな」というチャットが飛んできたんですね(笑)。
メンテ明け直後に行ったから僕しかいませんでしたが、どうやらその人も同じことを考えていたみたいで、「俺のほうが先にいたからそのモンスターは俺のだ」みたいなことをものすごくしつこくチャットで飛ばしてきたんですよ。
「一般的に考えてお前のやっていることは異常だ」とか。僕、学生ですよ(笑)。
その感情は社会人だろうと思うのですが、平日の昼間にメンテ明けのオンラインゲームにやっているやつから一般を問われるのかと思って(笑)。
すごく心に残っているので、TERUさんもそういうことにぐつぐつされるのかなって(笑)。
──プレイに関するものではありませんが、ゲーム内の嫌がらせに対しては「そこはTwitterで慣れていますからね。本物の嫌がらせはすごいですよ(笑)」と言われていました(笑)。
歌広場氏:
そこまで行けばもう風格ですね(笑)。
──そういえばTERUさんは、ゲームに興味がないファンのことも考えて、わざわざゲーム専用のTwitterアカウントを作られていますが、歌広場さんのファンはどのような反応をされているんでしょうか。
歌広場氏:
ほとんどの僕や「ゴールデンボンバー」のファンの皆さんは、ゲームをわからないと思います。だから「何を言っているんだ」と冷ややかな目で見られることもあります。
でも不思議なもので、「お前は何を目指しているんだ」という冷ややかな世間の風潮が出始めてからゲームのお仕事が増えました(笑)。
それにファンの皆さんは優しいし温かいので、「楽しそうだからいいや」とか「私はわかんないけど、淳君が勝ったのはわかるから嬉しい」みたいになってくれて。ありがたいですね。
──みなさんいい人ですね。では、プレイヤーとして今後についてはいかがでしょうか。
歌広場氏:
まず、歌広場淳がゲームをやっているというのは、何となく認知してもらえていると思っています。その上で、歌広場淳とマッチングしたら楽しいわけじゃないですか。ドキドキするわけじゃないですか。
TERUさんとオンライン上で遭遇したら思わずスクショ撮っちゃうじゃないですか(笑)。
そういうシチュエーションが生まれるようになったので、「歌広場倒してやったぜ」とか「負けた」とか、そういう一面のボスみたいなのになりたいんですよ、これからは(笑)。
──ああ、いいですね(笑)。
歌広場氏:
自分が上手いとか強いとかを言っているわけではなくて、僕を倒すことによって「ゲームやって面白かった」とか「やってやったぜ」みたいなネタになったらいいなと思っています。
そういうひとつのイベントクエストみたいなになっていく過程で、俺も負けられないという意気込みもあって。プレイヤーとして強くなるために。
そして時代的にも今噛み合っているので、eスポーツ関連のメディアに出させていただけるようになりましたが、格闘ゲームから「ゴールデンボンバー」を知り、歌番組で「ゴールデンボンバー」を観たら、なぜかぞわぞわするみたいな(笑)。
TERUさんがいい例だと思いますが、そういう感じの人ってあんまり今のところいないと思うんですよ。そういう人になることは面白いと思っていて……「あんなに汚い昇竜拳を連発してるのに、テレビではまともなことを話しているのか」みたいな見方をしてくれると嬉しいですね(笑)。
それはゲームというコミュニケーションツールを使ったその人と、僕にしかできないコミュニケーションなので。
──それは新しいゲームの可能性だと思います。
ゴールデンボンバーは『女神転生』
──それにしても……歌広場さんってすごくゲームのことを丁寧に説明されますよね。
歌広場氏:
やっぱりゲームってものが、理解されてこなかったからじゃないですか。これまで親からは「何をしているんだ」と言われましたし、周りの人からは「あいつ誘っても別に来ないし暗いやつだしほっとこうぜ」みたいな感じだったんですよ。
でもそれは“理解してくれない”ではなく、“理解してもらう努力を怠っていた”だけなんですよね。つまり、理解しようとしない人に理解させるには、それ相応の努力をするべきなんです。
おそらく、ゲームと接しているうちに、そういう考えが染みついてしまったんだと思います。
──ずっとそうやってゲームの説明をされていたんですね……。
歌広場氏:
実は「ゴールデンボンバー」も理解されるのにめちゃめちゃ時間がかかっていて。ありがたいことに、いまでこそ「女々しくて」のヒットとか紅白出場とか、そういうキャッチーな部分で受け入れ体制が他者にある状態ですが、最初は「楽器弾いていないとか意味わからん」みたいな(笑)。
だからこそ、「ゴールデンボンバー」の活動は「楽器を弾いていないからバンドじゃない」という人が見ても、思わず笑ってしまうようなことをしよう、理解する気のない人に理解させる努力を怠らないようにしよう、というスタイルです。
──その流れで最後に伺いますが、先ほどからゲームと「ゴールデンボンバー」の活動が繋がるという話がありましたよね。ゲームでの経験が「ゴールデンボンバー」の活動にどう影響をもたらしているのか、あるいはその関係について、お聞かせください。
歌広場氏:
そうですね……ゲームって前提として”みんなが好きなもの”ですよね。でもみんなが好きなものの中に“あまりやられていないゲーム”があるのは不思議ですよね。「ゴールデンボンバー」も最初はそういうものだったと思うんですよ。
たとえば『塊魂』は、初めて見たときに「なんじゃこりゃ」となったと思いますが、蓋を開けてみると老若男女みんなが夢中になるゲームだったりするわけじゃないですか。
一方で、「なんじゃこりゃ」のまま消えてしまったゲームというのもあるんですね。
じゃあなぜ“あまりやられていないゲーム”があるかというと、たとえばメジャーなタイトルではないとか、一見するととっつきにくいコンセプトだったりしたから、といった理由があるはずなんです。
みんな一言で「売れない」「売れた」と無理やり理解していますが、当然理由があるわけですね。
──ええ、おっしゃる通りだと思います。
歌広場氏:
これは音楽でも同じで、前提として音楽は“みんな好きなものである”、と。でも僕らのようなヴィジュアル系は「知らない」「聞かない」ってなる。「じゃあそれってどうすればいいの」ということを昔はよく考えていて。
その考えの元になっているのが、これまでのゲーム体験なんですよ。たとえば僕が「ゲームが好き」と言ったとします。
そうしたら相手は「私も好き。『ペーパーマリオ』が大好き」だと。でも僕は「やってないんだよ」と言うと、「マリオなのに!?」と驚かれる──みたいな会話って、ありえるじゃないですか。
でも言われてみると「確かになんでやっていなかったんだろう」となるんですよね。
たとえばどこかで自分には関係ないゲームだと思っていたとか、対応しているハードを持っていなかったとか、理由はいろいろあると思うんですけど。
その上で『塊魂』は何であんなに大ヒットしたのかというと、ゲームとしての根本がしっかりした上で他では替えが効かない、他にはないものを提示して、なおかつそれが面白い。そして、それを人に言いたくなっちゃう要素があったり、PRが上手かったりしたからですね。
そういった点のどれかが自分にフックし、プレイするきっかけになったと思うんですよ。
──なるほど。
歌広場氏:
そんなふうに一見「なんじゃこりゃ」というゲームでも、実際にやってみると面白かったりするんですよね。「ゴールデンボンバー」って、まさにそういう存在だったんです。
──その上で、「ゴールデンボンバー」はどうしていったんでしょうか。
歌広場氏:
先ほどもお話しましたが、基本は理解されないところからスタートしているので、まずは理解してもらうための努力をする。その上で、毎回シリーズものじゃなくて毎回単発の新しいものを作っているゲームメーカーみたいな気持ちでやるようにしました。「次は何やってくれるのかな?」みたいな(笑)。
まあ毎回違うゲームデザインで、そのゲームデザインが新しすぎるから理解されないかもしれませんが、僕らが作っているものは鬼龍院翔や他のメンバーの手によってすごくクオリティの高いパフォーマンスであり、オリジナリティのあるものになっているはずなので、しっかり伝えればどこかでは刺さってくれるだろうと。
──だから「ゴールデンボンバー」の活動にはフックとなるいろいろと要素があるんですね。
歌広場氏:
当然理解されていない時期もあって、人間って理解されないとやけくそになるので、その影響もあるかもしれません。まあ僕はやけくそなゲームをたくさん出して駄目になっている会社をたくさん見ているのでアレなんですが(笑)。
でも、たとえその結果ディープになってしまったとしても、プレイヤーのことを考えてくれているとわかれば、そのゲームを愛せるじゃないですか。バンドもアーティスト活動もそうだと思うので、そこは大切にさせていただいています。
──特に最近はファンというか、コミュニティの存在はゲームにとってとても大きなものですからね。
歌広場氏:
ファンを大切にしているかどうかは、外から見ても伝わるもので、そういう人たちは愛されていますからね。たとえば僕は『鉄拳』をやらないですけど、『鉄拳』というゲームを作っている人たちのポリシーとか、製作者がユーザーの意見を取り入れてファンを大事にしている感じは感動しますし、すごく好きなんですよ。
──そういうことを大切にした結果、「ゴールデンボンバー」はヒットしたわけですね。ただその要因は、歌広場さんが先ほど言われていたように、根本がしっかりした上で他では替えが効かないものを提示したからだと思います。その根本は何だと思われますか?
歌広場氏:
僕らは楽器を弾いていませんが、根底は何かというと、鬼龍院翔による音楽性、楽曲の良さなんですね。そこにフックになるものが噛み合い、みなさんに楽しんでもらえるようになったんだと思います。
だから……『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』にはなれないけれども、むしろ『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』ができないことをやる──いわば『女神転生』みたいな愛され方ができるバンド。
それが『ゴールデンボンバー』ですね(笑)。
──いいたとえですね(笑)。本日はありがとうございました。
ここ最近、多くの芸能人がゲーム楽しんでいる姿をよく見かける。事実、TVではゲームやeスポーツを題材とした番組が増え、結果、彼らのSNSにもゲームの話題が増え、その度に話題となっている。それはそれで大変素晴らしいことだし、我々は今後もそういった方々を取材していきたい。
一方で、今回話を伺った歌広場淳という人物は、“ゲーマーが芸能人”になったパターンだった。それも“ガチ”なゲーマーが、だ。
特に興味深いのは“ゲーマーとしてのメンタリティ”がステージアップしていくさまで、小学生の時点で「ゲームは遊びでも勝たなきゃダメなんだ」と強さを求め始めたが、中学生になる頃には「強くなきゃダメだけど、強いだけでもダメなんだ」というコミュニケーションツールとしての大切さに気づき、やがて対戦相手やギャラリーが楽しめるプレイングを追求するようになっていく。
そして行きついた先は、自分はもちろん相手や周囲の人までを楽しませる、本当の意味でゲームを楽しむゲーム道──これは、筆者が過去に取材してきたGLAYのTERU氏や『バーチャ』の鉄人・ブンブン丸氏とまったく共通するものであり、このようなメンタリティを持てる人が「一流」と呼ばれ、人々の心の中に残り続ける人間なのだと感じた。
そして“相手や周りを楽しませたい”という歌広場氏のプレイスタイルは、「ゴールデンボンバー」の精神そのものだった。つまり今回のインタビューで語られたのは、ただのゲーマーがゲームを極めた結果、一流のエンターテイナーになった、という話なのである。
そんな彼がエンターテイナーとして、いま“一面のボス”になろうとしている発言は、ゲームの楽しさがもっと多くの人に伝わってほしいと願うメディアとしては、なんとも頼もしい限りではないか。
今回のインタビューは「歌広場氏はいかにしてゲーマーになったのか」を紐解こうと始め、そこは十分に解き明かされたものとなったが、歌広場氏のゲーム愛の根底に流れる、 “コミュニケーションツールとしてのゲーム”の可能性をあらためて強く思い知らされた取材でもあったと思う。
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詳しい応募方法は電ファミニコゲーマー公式Twitter(@denfaminicogame)をチェック!「#ゴールデンボンバー 」歌広場淳さんの
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) January 17, 2019
格闘ゲーマーとしての一面に迫る!
小学生のときに『KOF97』にのめり込み
「ゲームは遊びでも勝たなきゃダメなんだ」
という考えを持つように
しかしその後、意識が変わっていく──
記事は1/23公開
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