なぜMMORPGである『FFXIV』に麻雀が導入されたのか
──さて、ここからは本題のひとつである「ドマ式麻雀」【※】について迫っていこうと思います。
これまで『FFXIV』ではさまざまな生活系コンテンツが公開されてきましたが、「ドマ式麻雀」は従来の生活系コンテンツとは少し毛色が異なりますよね。
※ドマ式麻雀
『FFXIV』内に実装された麻雀。日本で汎用的に遊ばれている麻雀と同様のルールで対局が楽しめ、“NPC対戦”と“プレイヤー対戦”のふたつから遊びかたを選べる。設定としては“マンダヴィル・ゴールドソーサーと呼ばれる遊技場に追加されたテーブルゲーム”となっており、牌のデザインは、ドマ古来の図案と現実世界と同様の絵柄の2種類から選べる。なお、本作はレベル35までフリートライアルとして無料でプレイすることができ、ドマ式麻雀を遊ぶだけであれば、いつまでも無料でプレイし続けることが可能だ。
吉田氏:
“ゲームの中に住む”ことの一環と言ってしまえばそれまでですが、『FFXIV』が新生してから丸5年が経過した現在、先ほどもお話をしたように、さまざまな価値観を持った大勢の人たちが、お互いの考えを否定することなく共存できる環境が整ってきたと感じていました。
その一方で、自分の価値観や好みにマッチしたものを、いい意味でチョイスして遊べるようにもなってきています。となると、メジャーアップデートで、「多方向にたくさんの要素を追加したとしても」、それらを「すべてを遊び尽くせるプレイヤーはほんのひと握りになる」と考えました。
前述した通り、プレイヤーひとりひとり、好むコンテンツは異なります。このため、大半の方は新要素の中から、「興味があるものを選んでプレイする」ことになるはずです。
いまで言えば、「次元の狭間オメガ零式:アルファ編」(以下、「零式:アルファ編」)【※】に通っている方は、「禁断の地 エウレカ:ピューロス編」(以下、「ピューロス編」)【※】をガツガツと遊ぶことはあまりしませんし、逆に「ピューロス編」を楽しんでいる方の多くは、さほど「零式:アルファ編」に毎週通って装備を集めない。
もちろん、どちらもプレイされる方もいらっしゃいますが、全体の割合で見るとそれぞれ1/3ずつくらいです。
──ここはプレイヤーじゃないとニュアンスが伝わりにくいと思うので補足しますが、「零式:アルファ編」は高難度レイド── 一種のエンドコンテンツで、高性能な装備と高いプレイヤースキルが求められます。
対して「ピューロス編」というのは、じっくりコツコツと時間をかけて遊ぶタイプのコンテンツで、面白さの種類が別です。それでいて両方とも遊ぶならガッツリと取り組みたくなるものであるため、両方プレイされている方は少ないと思います。
※次元の狭間オメガ零式:アルファ編
『FFXIV』における、高難度レイドのシリーズ最新作。4つの階層で構成されたバトルコンテンツを順番に攻略し、高性能な武具の獲得を目指す。クリアー時の報酬が手に入れられるのは、階層ごとに1週間に一度だけ。取得権が復活する火曜日は、多くのプレイヤーがこのコンテンツに挑戦している。
※禁断の地 エウレカ:ピューロス編
隔絶されたエリアの中を冒険して希少アイテムの獲得を目指すコンテンツ、「禁断の地 エウレカ」シリーズの最新バージョン。フィールド上のモンスターを倒して経験値を稼いだり、ノートリアスモンスターと呼ばれる稀少種の討伐を目指したりなど、いわゆる第一世代のMMORPGに近い展開が味わえる。キャラクターのレベルや武具の性能といった一部の要素がコンテンツの独自ルールで運用されているため、当該コンテンツ内限定で活用できる超高性能武具が手に入ることもある。自分好みのペースで攻略が進められるので、のんびりとした時間を過ごしたいプレイヤーを中心に人気を博している。
吉田氏:
こうした「好みに応じてコンテンツを選んでプレイできる」というのは、MMORPGにとって理想的でもあります。
もちろん、それぞれの好みに対して、「もっと大量のコンテンツを!」と思われる方がいらっしゃることはわかりますが、それでも「選択できる状況」というのは、理想的だと思うのです。
──理想的と言いますと?
吉田氏:
3.5ヵ月おきに一度行われる大きめのアップデートで、これほど膨大な新要素をリリースできているMMORPGのタイトルは、世界を見渡してもほとんどありません。そこは誇っていいところだと思いますし、開発チームのスタッフたちをいつもそう褒めています。
しかしその一方で、今言ったように、「遊ぶものがない時期」はどうしても生まれてしまいます。 『FFXIV』には破格の人員と開発コストをかけていますが、それでも「コントロール可能な物理限界」はやってくるからです。
どうしても実装できるコンテンツ数には限界があります。それもあって、メジャーアップデートがリリースされる1ヵ月前は、いい意味でダラッとした時間が『FFXIV』の世界の中で流れます。
僕がよく、「せっかくだからほかのゲームを遊んできては?」とお話する期間ですね。
──よく仰っていますよね。たとえば『モンスターハンター:ワールド』発売のときは、「『FFXIV』のパッチ4.2のアップデートが『モンハンワールド』の発売日と被っているけど、両方やってくれればいいです」と言われていましたし。
吉田氏:
ひとつの作品に固執しすぎると、そこで価値観が固まってしまいますし、ほかのゲームを遊ぶことで、『FFXIV』のよさに気付くこともあるはずです。
無理に入れ込みすぎると、僕たち開発チームにとっても、それをプレイしてくださる皆さんにとっても、息が詰まるような苦しさが生まれてしまうと考えています。
──ああ、なるほど。本当は無理に続ける必要はないと言いますか、そもそもしがみつく必要はない。途中で止めて『FFXIV』内の別のコンテンツに行ってもいいし、別のゲームをしてもいいと。だからこそ、先ほどの流れは“すごく理想的”なんですね。
吉田氏:
さらに言えば、『FFXIV』で仲よくなった方たちを集めて、別のオンラインゲームを試されるのはまったく問題ありませんし、『FFXIV』にログインしたままクライアントをもうひとつ立ち上げ、別のアプリを楽しむ──これも悪いことではありません。
ですが、“報酬はないけどみんなでワイワイ対戦できる要素”が『FFXIV』にあれば、「攻略が一段落した後はそれを遊んで過ごそう」みたいな流れが自然と生まれ、単純にみんな遊んでくれるだろうな、と考えることもできますよね。
これは、トリプルトライアド【※】を公開した当時から考えていたことです。
※トリプルトライアド
『ファイナルファンタジーVIII』に登場した遊びと同じルールのミニゲーム。2015年2月公開のパッチ2.51で追加された。4種類の数字が書かれたカードで5枚ひと組のデッキを作り、コンピューターやほかのプレイヤーを相手にカードバトルをくり広げる。ドマ式麻雀と同様、ゲームの進行に直接的な影響を及ぼさないため、冒険の息抜きに遊ぶ人が多い。
──あ、そうだったんですね。
吉田氏:
トリプルトライアドはテーブルゲームですが、カードを集める部分も遊びに含めているゆえに、プレイヤーどうしが対等に勝負できるコンテンツではありません。駆け引きは楽しめるものの、テーブルゲームとまでは言い切れない面があります。
元が一人で遊ぶスタンドアローンのミニゲームとして作られたルールですので、延々と対戦し続けるには、もっと別のルールを導入する必要があるなと感じていました。
トリプルトライアドの今後のアップデートも考えてはいますが、それと「延々対戦し続けられる」は、また別のお話かなとも。
──そこで、「じゃあ何を入れようか」という話になったわけですね。そこでなぜ麻雀だったのでしょうか。
吉田氏:
すでに世の中にあって、完成していて、バランスが取れている遊びを導入する……着想はすごくシンプルです。
さらに、それらの多くは、「単体では収支に繋げにくい」=「継続して運営するのが大変である」という課題が付きまとっています。しかし、それも『FFXIV』内で遊べるようにすれば、その課題を解決できるのではないかと考えました。
ですので、世界中で広く親しまれていて、プレイ人口も多く、バランスもしっかり取れているものであれば……と色々考え始めました。将棋や囲碁も含めて考えていましたが、僕の中ではポーカーと麻雀の優先順位が高かったんです。ロールの心配がなく、同時に4人で遊べるものの、「集まること」が面倒なため、なかなかそれをプレイする機会がない。
しかし、調べてみると、『FFXIV』にポーカーを実装するためには、ギャンブルに対応するディスクリプター(レーティング)を取得しなければならないことが判明したんです。
パッケージの裏に“このゲームにはギャンブルの要素が含まれます”と書いてあれば問題ないのですが、それを表記するには(審査の)申請が必要になり……。
──だから麻雀なんですね。
吉田氏:
はい。この調査を開始したのが、2016年の暮れごろですね。
──え、そんなに前から動いていたのですか?
吉田氏:
はい。僕が「すぐに調査を始めて欲しい」と指示すると、スタッフたちは怪訝な表情を浮かべていましたけどね(苦笑)。
──「どうして麻雀を入れるんですか?」みたいな感じだったのですかね(笑)
吉田氏:
ですので、いまと同じ話をしました。麻雀が『FFXIV』に存在してはいけないというルールはどこにもありませんし、そもそも『雀鳳楼』【※】というゲームが、かつてPlayOnline上で動いていました。
光の戦士たちの活躍で東方地域が解放されたこともあり、「古来より伝わるドマ式麻雀がきっと存在するんだよ」と(笑)。そうすれば、ゲームの世界感になじませることができますしね。
──(笑)。
吉田氏:
適切なたとえではないかもしれませんが、ハンゲーム【※】さんはそれ自体はゲームではないものの、プラットフォームとしていろいろなタイトルを内包されていますよね。考えかたとしてはこれと同じなのです。「プラットフォームとしての『FFXIV』の中に、いろいろなものがあっても別に悪くはない」とスタッフに伝えました。
※ハンゲーム
多種多様なゲームを提供する、PC向けオンラインゲームのポータルサイト。自社やグループ会社が開発したタイトルを運営するほか、“ハンゲーム”を通じて他社の有力なゲームのサービスも行っている。
──そのときのスタッフの皆さんの反応はいかがでしたか?
吉田氏:
「なるほど」と言ってくれたので、まずは実装して問題がないかどうかの確認をお願いしました。なぜそうしたのかといえば、先に確認を済ませておかないと、それ以降に掛けたコストがムダになってしまう場合があるからです。
国ごとの調査が3ヵ月ほどで終わったので、その時点で開発各セクションのリーダーたちに開発を持ちかけました。すると「ぜひやらせてください!」という心強いベテランスタッフがいたので、「よし、じゃあやってみようか!」と。
その担当者には、僕からのお題として「ゼロベースで開発するのはやめてほしい」と伝えました。なぜなら、麻雀は世界中で親しまれていてバランスも取れているゲームなので、たくさんの人に使われているエンジンが必ず存在するはずだからです。
我々がゼロから開発して、そこまでの知見に到達するには、当然ながら膨大な開発工数が必要になってきます。
──確かにそうですね。
吉田氏:
そこで担当者に「エンジンであることにこだわりたい」と伝えたうえで、同じスクウェア・エニックスグループのタイトーさんにも協力を仰いだところ、運用実績のある、素晴らしいエンジンを紹介していただきました。
その時点で、すでに危険牌予測の機能まで付いていたので、これしかないなと。
──最初から付いていた機能なんですね。あれは麻雀をまた一段階面白くさせていると思います。
吉田氏:
素晴らしいですよね。個人の方の麻雀愛で作られたとも言えるエンジンで、最後はおひとりでメンテナンスをされていたようです。
そのせいか、「アルゴリズムのアップデートは期待しないでください(笑)」とのことでしたが、実際にプレイをさせていただいて、あまりにも良くできていたので、そこは心配ないだろうと。
きっと自信がおありなのだと思いました。僕たちは外装部分を『FFXIV』に馴染ませ、遊びやすくすることが主な仕事となりました。
──その方は、今回のドマ式麻雀に関しては何と?
吉田氏:
「丁寧に作ったものなのですごくうれしいです」と言ってくださいました。UI【※】に関しては、我々がフルスクラッチで作っていますが、エンジン部分は丸ごと活用させていただいています。
※UI
ユーザーインターフェースの略称。人間が機械を扱う際に、必要な情報を表示したり、コントロールしたりするための方法やデザインのこと。ゲームでいう“プレイ画面”や“操作性”にあたる言葉。
ドマ式麻雀は“いろんな人がいる”ことを再認識できる場
──それにしても、まさか『FFXIV』に麻雀を実装されるとは思ってもいませんでした……。
吉田氏:
ゲーム本編の作業コストをドマ式麻雀に回しすぎると、プレイヤーの方から「コンテンツの開発を減らしてこんなことをやっていたのか!」と言われてしまい、そうした状況に陥るなら、公開する意味がありません。
ですからドマ式麻雀の存在はずっと秘密にしつつ、長期間に渡って少しずつ開発を進めてきました。結果、誰にも気づかれなかったと思います(笑)。
──MMORPGには、ゲーム本編をプレイしながら、息抜きのような形で『雀龍門』【※1】や『スカッとゴルフ パンヤ』【※2】など、メインのゲームとは別のゲームをプレイする文化があるので、私は普通に受け入れられるだろうなと思っていたのですが、吉田さんは現在の好評をどう感じていますか?
※1 『雀龍門』
エヌ・シー・ジャパンがサービスを展開する、オンライン麻雀ゲーム。牌や雀卓が3Dグラフィックスで描かれているのが特徴。“特荘戦”や“友人戦”など、さまざまなモードで対局が楽しめる。また同社は『リネージュ』シリーズや『The Tower of AION』といったMMORPGの運営会社でもあり、そういったゲームのプレイヤーたちが息抜きに麻雀をする場でもあった。現在は、『真・雀龍門』というタイトルでサービスが行われている。
※2 『スカッとゴルフ パンヤ』
韓国のNtreev Softが開発したオンラインゴルフゲームで、ゴルフのプレイに加えてキャラクターの育成や衣装の着せ替えも楽しめた。日本では2004年よりサービスが開始されて2017年に終了したが、海外ではプラットフォームをスマートフォンに移し、『Pangya Mobile』として再展開が行われている。
『スカッとゴルフ パンヤ』13年の歴史に幕――パンヤは“戦いに疲れた僕たち”にとっての癒しであり別荘だった【書き手:マイディー】
吉田氏:
2018年末に放送した「第48回プロデューサーレターLIVE」で初めてドマ式麻雀を発表したのですが、そのとき僕はすごく慎重な言い回しを心掛けました。
じつは当初、もうちょっとネガティブに捉える方が多いだろうと思っていて……肯定と否定の割合が、7対3もしくは6対4くらいだろうなと。
──メディアに掲載された吉田さんのインタビューを読むと、ドマ式麻雀についてはとくに慎重な言い回しをされていましたね。
吉田氏:
なぜそうしたのかといえば、「ドマ式麻雀は、すべてのプレイヤーにとって敵ではない」ということを伝えたかったからです。ドマ式麻雀は、『FFXIV』での生活を豊かにするためのひとつの要素にしか過ぎません。
とはいうものの、ドマ式麻雀はパッチ4.5で大量のコンテンツをリリースするかたわら、他社さんのエンジンを利用させていただいたうえで、長い時間を掛けて少しずつ作ってきた重要コンテンツです。
最初のボタンを掛け違えるとネガティブな方向に行ってしまいかねないので、初動の段階でプレイヤーの方々から敵視されないよう、すごく考えてお話をしました。ですので、そこだけ気を付ける必要があるなと。
とはいえ、ドマ式麻雀が始まってしまえば盛り上がってくれるだろうとは思っていたんですが……ここまでポジティブな反応をいただけるとは……それはもう、ビックリするほどですね(笑)。
──インターネット上でも、さまざまなコメントを見かけました。
吉田氏:
そもそも僕は、ドマ式麻雀がWindows /Mac/PS4の各プラットフォームをまたいで遊べる初めての麻雀ゲームであることに気付いていなくて(苦笑)。
──あ、そうだったんですか(笑)。
吉田氏:
プレイヤーさんのツイートを見て、言われてみれば確かにそうだなと。そこで初めて、ソニー・インタラクティブエンターテインメントさんに何も言ってないことに気づいて……(苦笑)。
──慌てて報告されたと。
吉田氏:
いえ、特に何も言われてませんし、報告しなくても……まあいいのかなと(笑)。もともと僕は、プラットフォームに関係なく、MMORPGはどのデバイスからでも接続できるべきだというポリシーでやってきた人間です。そのせいか、そういう観点さえ持っていませんでした。
── 一方で、ドマ式麻雀の海外の反応はいかがでしたか?
吉田氏:
北米と欧州は、日本よりも、もうちょっとネガティブな反応になるかなと思っていたのですが、「以前から興味を抱いていた」や「この機会にルールを覚えたい」といった声が予想以上に多かったのは驚きでした。
パッチ4.5の情報公開直後、“mahjong rules”が北米地域のGoogleの検索ワードの2位にランクインしたほどです。
海外のゲームブログ「KOTAKU」でも「FFXVで麻雀ばかりやっている件」と題された記事が公開された。
ポーカーであれば、さらに人気が出たのかもしれませんが、今回は麻雀なので、慎重な反応になるだろうなと思っていました。
ところが僕が予想していた以上に、全員がそうでないにせよ、ポジティブに受け入れてくださる方がすごく多かったです。ただ、日本国内の盛り上がりが一番ではありますが(笑)
『FFXIV』が麻雀の新たな需要を掘り起こした
──そんな経緯で開発されたドマ式麻雀ですが、どのあたりから手応えを感じていたのでしょうか。
吉田氏:
開発者のおじさんたちを8人集めて開催した、「ドマ式麻雀実装記念 ファイナルファンタジーXIV 年末麻雀大会」【※】というニコニコ生放送の反響を見たときに、「あれ?想像以上なのかも」と思い始めました。
あの番組は、プロ雀士の魚谷侑未さんが紅一点でいてくださったから良かったものの、「これは誰が見るのかな?」と思うくらいに、「おじさんしか出ない番組」です(笑)。それをタイムシフトを含めて19万人以上の方がご視聴くださいました。
投稿されたコメントの数も19万件に上ったので、これはちょっと普通じゃないな、と。でも、じつはそうした爆発的な状況を見て、僕たちは少しがっかりしたんです。
※ドマ式麻雀実装記念 ファイナルファンタジーXIV 年末麻雀大会
2018年12月23日に実施された、麻雀をテーマとしたWeb生放送。吉田氏はもちろん、デザインセクション:マネージャーの髙井浩氏やサウンドディレクターの祖堅正慶氏をはじめとする『FFXIV』の開発スタッフに加え、『ドラゴンクエストX』のプロデュースなどで知られる齊藤陽介氏も出演した。対局の解説役として、日本プロ麻雀連盟所属の魚谷侑未プロも参加。コミカル(?)な掛け合いも交えて楽しく麻雀を打つ模様が、約10時間にわたり放映され、好評を博した。
──それは喜ぶことではないんですね?
吉田氏:
あ、いえ、ドマ式麻雀の盛り上がり自体は、もちろん喜ぶべきことです。しかし、毎年恒例となっている14時間生放送【※】は、ものすごいコストを費やして何ヵ月も前からみんなで番組の中身を考え、綿密に準備したうえで開催しているわけです。
であるにも関わらず、微妙な絵ヅラのおじさんたちがたった10時間麻雀を打つだけで、あれほど多くの方々にご来場いただけるなんて……僕たちの日ごろの努力は何なのだろうと(苦笑)。
※14時間生放送
『FFXIV』が新生した8月に毎年行われるWeb生放送。2018年に行われた“5周年記念14時間生放送”ではGLAYのボーカルTERUがトークコーナーに出演するなど、毎年豪華ゲストが姿を見せることでも話題を集める。本編のプログラムの模様を映すメイン放送のほか、『FFXIV』の開発コアメンバーがさまざまなお題にチャレンジするサブ放送も人気を呼んでいる。
FF14にGLAYのTERUがいたので取材申し込んだらOKされちゃった! MSXから始まる濃厚なゲーム歴、そして初MMOの興奮を訊く【聞き手:「光のお父さん」マイディー】
──記事でもそういうことがあるのでお気持ちはわかります(笑)。
吉田氏:
この反響を見て、麻雀を遊びたいとは思っているけれど、専用のアプリを入れてまでプレイしたいほどでもない──そんな方が、ことのほか多いのだなと感じました。
というのも、『FFXIV』を知らない方々も観てくださらなければ、あれほどの視聴者数にはならないはずなんです。何しろ、イベントの告知を行ったのは開催の前々日ですから(笑)。
──どうして『FFXIV』を知らない人にまで届いたと思われますか?
吉田氏:
プロリーグの発足などの動きに代表されるように、関係者の皆さんの努力もあって、日本では麻雀をスポーツライクに楽しむ空気が生まれてきています。
昔ながらのギャンブルのイメージが払拭されつつあるなか、その一方でカジュアルに麻雀を楽しみたい人に適した場所がいままでなかったのかもしれない、と感じました。
ちなみに、“ドマ式麻雀実装記念 ファイナルファンタジーXIV 年末麻雀大会”のPRをあまりやらないよう、事前に宣伝チームに伝えてありました。それでこの反響なのですから、余計に驚きました。
──開催の告知を直前に行ったのも、そのためですか?
吉田氏:
あまりにも早くから告知すると、「また自分たちが好きなことばっかりして!」とプレイヤーの皆さんに言われてしまいそうでしたので。
実際は1ヵ月くらい前から仕込んでいたのですが、緊急開催という体裁にしました(苦笑)。そしていざ公開したところ、想像以上の反響でした。
ゲームに復帰された方だけでなく、新規プレイヤーも恐ろしいぐらい増えましたし、24時間いつでも数秒以内にマッチングが成立する『FFXIV』のコンテンツなんて、ドマ式麻雀が初めてですしね……。プレイヤーの皆さんに勢いづかせてもらった感じです。
──あはは(笑)。そして麻雀の需要を発掘したのが『FFXIV』だったという点におもしろさを感じますし、MMORPGの中で遊ぶ麻雀がこんなに楽しいとは思いませんでした。
吉田氏:
僕自身、恐ろしいペースで時間を食い潰していくコンテンツだなと改めて感じました。連続性もヤバいですし、何より自分が見知った空気の中で、いろんなアバターと麻雀が打てる点が大きいのではないのかなと。ドマ式麻雀は“いろいろな人がいる”ことを再認識できる場にもなったと思っています。
──吉田さんにそう思わせるような対戦相手がいたのですか?
吉田氏:
ドマ式麻雀をやっているときに、全身を『牙狼<GARO>』装備【※】で固めた方が登場して、「このゲームやっぱり変だな」と(苦笑)。
※『牙狼<GARO>』装備
特撮ドラマの『牙狼<GARO>』シリーズで活躍するキャラクターのコスチュームを模した装備群。『牙狼<GARO>』の監督である雨宮慶太氏と、同作の大ファンである吉田氏が意気投合したことにより実現した。性能は低めなので、主力アイテムに別の装備の見た目を貼り付けて楽しむ“ミラージュプリズム”向けの武具として活用されている。
──そうしたエピソードが生まれるのも、オンラインゲームならではですよね。
吉田氏:
そうですね。麻雀ゲームでもなければMMORPGでもない、オンラインゲームというカテゴリーの中にあるおもしろさだと思いしますし、『FFXIV』で実現したからこそ生まれたシチュエーションではないのかなと。
そしていまお話をしたようなエピソードが、友だちどうしの会話の中でおもしろおかしく登場すれば、それはものすごい宣伝効果です。たいてい、「いったいどんなゲームで遊んでいるの?」という話になりますので(笑)。
ドマ式麻雀の公開は「ひとつの実験」
──ドマ式麻雀には、ほかのゲームのエンジンが組み込まれているとのことですが、『FFXIV』との設計上の違いみたいなところは、がんばれば乗り越えられるものなのですか?
吉田氏:
これはひとつの実験でもあって、既存エンジンの活用が達成できれば、ほかの要素でも同じ手法が使えます。
できるだけ小さな開発コストで、“世の中のいろいろなものを取り込んでいく”ための計画の第一歩です。ドマ式麻雀は、そのあたりの可能性も含め、今後の試金石にするという位置付けで実装しました。
『FFXIV』はMMORPGですので、必ずサーバーコードとクライアントコードのふたつが必要になります。プログラムは通常、マシンの中でCPU/GPU/プログラムの三者が絶えず対話することによって動作します。
オンラインゲームの場合は、物事を考えて判断する頭脳がサーバー側にあるため、ゲームのコンソール機やクライアント側は、受け取った情報を基に描画だけを行うことになるわけです。
クライアント側にプログラムを実装したとしても、その正誤をチェックするためにサーバーが必ず必要になります。オンラインゲームの場合、これを守らないと結果としてチートし放題になってしまいます。これを避けるために、当然のことながらサーバー側にプログラムを置く必要が出てきます。
その前提でご質問にお答えすると、問題はふたつあります。外部の会社様と協業するためには、ひとつ、サーバー側の環境を切り出して、別の会社さんにお渡しできるのかという課題。
もうひとつは、仮にUIやグラフィックスも含めて先方に作ってもらった際に生じる懸念です。
──詳しくお願いします。
吉田氏:
先ほどもお話をしましたが、ドマ式麻雀のゲームエンジンやプログラムの中枢部分は、外部のものを使わせていただきました。
一方で、サーバーへの組み込み/段位の認定システム/プレイヤー間のマッチングといった『FFXIV』固有の処理に関しては、我々の側のプログラマーが担当しています。グラフィックスの制作も、僕たちのUIチームによるものです。
これらの作業を、ほかの会社さんに丸ごとお任せできるのであれば、ある意味『FFXIV』の開発チームを外にもうひとつ持てる形になります。もしもすでにこのやりかたが確立されていれば、ドマ式麻雀の開発と並行して、ポーカーが作れたかもしれません。
──確かに。
吉田氏:
そういう状況が仮に確立できたら、プレイヤーのみなさんからいただいた利益を、皆さんに還元するべく、いまよりもコンテンツのボリュームを増やせると思います。
そうすると、より多くのプレイヤーの方々に『FFXIV』を遊んでもらえるので、そこからまたコンテンツのボリュームアップが図れるはず。今回は、長期的にそうした部分を考え、実行するうえでの試金石という意味合いもあるんです。
──その結果、何かわかったことはありましたか?
吉田氏:
『FFXIV』の描画は独自開発のエンジンを用いているため、描画がネックになることが明確にわかりました。
世の中にある多くのデベロッパーさんは、近ごろUnity【※1】やUnreal Engine【※2】を使っているため、描画プログラマーを抱えていらっしゃらない場合が多いのです。
『FFXIV』の描画エンジンは本作のために開発されたものなので、先方に開発を一手にお願いしようとした場合、グラフィックス部分を制作するために、描画環境を全部お渡ししなければならなくなります。
※1 Unity
ユニティ・テクノロジーズが制作したゲームエンジンの一種。開発が手軽であること、VRに積極的な対応を進めているところから、VR系アプリケーションの多くがUnityで開発されている。
※2 Unreal Engine
米Epic Games社が、1998年に発売したFPS『Unreal』に実装したものに端を発するゲームエンジン。FPS、TPS以外にもさまざまなジャンルのゲームに使用されている。
その結果、Unityでサクサク動かせたとしても、『FFXIV』の描画エンジン向けにテクスチャーどころかポリゴンを表示するところから作ってもらう必要が出てくるのです。
その作業を我々の描画プログラマーが肩代わりすると、結局外部の方にお願いする利点を低下させてしまうことにもなりかねません。
──難しい問題ですね。
吉田氏:
そこで、描画部分をエンジン化したものを我々の側で作り、それを操作してもらうことで絵をすぐに出せるようにする……要は、Unityの描画部分だけを切り離して『FFXIV』エンジンを外に出すみたいな形で解決できないものか考えました。
ですが、いまはエンジン化を進めるコストが割けないので「つぎの計画にしよう」という話になっているところです。またシンプルに、描画プログラマーを抱えていらっしゃる会社さんにお任せする、という解決策も考えはしました。
このように、開発とは目標とゴールを設定して、検証繰り返し行っていくものでもあります。
それによって今回は“グラフィックス部分はいったんあきらめて、我々の側でコストを割く”ですとか、“丸ごともらってきたエンジンを『FFXIV』と繋ぐだけであればあまりコストは掛からない”みたいなことが明らかになりました。
ゲームデザインの可能性を広げることと、それをどうやって効率的かつ大量に作っていくのかということ。
そして、いろいろな人たちの才能をいかに活用していくべきかということ……これらを同時に考えた末に導き出した新方針の、今回は第1弾になります。
──その成果はいかがでしょうか。
吉田氏:
ミドルウェアではなくゲームエンジンを丸ごと取り込むのは今回が初めてでしたが、想定以上にうまく行きました。この結果を踏まえたうえで、さらなる準備を進めて、もっといろいろなことができたらいいなと。
──ちなみにですが……『FFXIV』を新生させる段階から、ゲームエンジンを取り込むことを見越してそうした設計を考えていたのですか?
吉田氏:
さすがにそれはないです(笑)。我々のプログラマーたちは本当に腕がいいので、ルーチンどうしをひとつずつ切り離せるように作っています。また、MMORPGだから楽という面もあります。
──それは個別に存在するコンテンツを本体と繋ぎ合わせるという意味ですか?
吉田氏:
そうです。揺るぎないフレームワークがもともとあって、そこに単体のコンテンツをバイパスしてくっつけるという構造になっています。『FFXIV』に限らず、そういう作りはいまのプログラムのモダンです。
ゲームを支えるエンジニアリングと、それを踏まえたうえでどういうゲームを作り上げるべきなのか……これらふたつは、“卵が先か鶏が先か”みたいに切り離せない関係にあると思っています。