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ゲーム実況で食ってる人で下手くそなのは俺たちだけ──人気実況者・加藤純一ともこうが考える、視聴者たちが彼らのプレイに熱中する理由とは

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動画と配信の違いと、編集することで失われるライブ感

──加藤さんは配信でもこうさんは主に動画と、実況のスタイルは異なりますが、配信と動画でなにか違いはあるのでしょうか。

加藤:
 僕はもう生配信しかやってないので、もこうの方が詳しいんじゃないですかね。

もこう:
 僕のYouTubeチャンネルでは、生配信の面白くなったところを切り抜いてアップしてるだけなので、どうなんですかね……。
 最近は、編集で自分なりに見やすくしているし、面白いのが撮れるまでは頑張ろうと思ってるんですが、ほぼ毎日アップするために惰性になってる部分もありますね。

 ただ、やってて思うのは、生配信の面白さのピークみたいなタイミングに比べると、動画はなかなか難しいというか。

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加藤:
 そうだよね。生配信で盛り上がってる雰囲気って、「研磨されてない真実」って感じがするじゃん。
 ずっと見てたらつまらない、無言の時間もあって、そこからだんだん盛り上がっていって、最後にドーン!みたいなライブ感。
 動画って、いくらでも嘘をつけるから、俺はそれがしんどいんですよ。「はい、どーも!」みたいなオープニングを何回も取り直したりしてさ(笑)。

もこう:
 めっちゃやりますね(笑)。

加藤:
 あれが自分的にどうも嘘臭くてイヤなの。「はい、どーも」なんて俺、言わないもん。
 でも、それをやらないで動画を上げたらふてくされてる感じもあるでしょ? お決まりの文句があればいいけどさ。

もこう:
 そうなんですよ。毎回、ちょっとひねったことを言おうとしたら噛むし。それもまたけっこうしんどい。

加藤:
 そこでYouTuberの人たちがよくやるのは、間を全部カットしていくジェットカット【※】。余分なところは全部排除して、ギュッと煮詰めて出すのが主流ですよね。無駄があっていいじゃんっていう、生配信とは真逆の感じ。

※ジェットカット
YouTuberが使うことの多い動画の編集方法。「えーと」「あの…」などの不必要な言葉や、言葉の間を埋めるように細かいカットを繰り返す手法。

もこう:
 時間が無いなかで、端的に見れるのを求める人が多いということで、ジェットカットに行き着くというか。内容が薄くなっても、見やすさを重視するって考えもありますね。

──ジェットカットの動画について、どう感じますか? マックスのテンションは、生配信の方が高いとのことでしたが。

もこう:
 作られた感はあるけど、やっぱり見やすいと思いますね。
 ただ、カットしないことでよりテンションの高さが伝わった経験もあって、「【バトレボ実況】第三十七回 厨ポケ狩り講座!-降参潰しのパラセクト-」を撮ってたとき、テンションも最高潮でめちゃくちゃいい感じに撮れたので、カットしない方が面白いと思って、そのまま上げたんですよ。そしたらものすごい反響がきたのを覚えてますね。

──変にカットしない方が、面白さが伝わると。

もこう:
 そうかもしれないですね。YouTubeに進出したての頃は字幕も付けるべきなんだろうと思ってたけど、最近は意味がない無駄な装飾はしない方がいいんじゃないかと感じていて。
 ほんの少しカットするだけが一番見やすいし、その方が数字も伸びたんですよ。

──面白い部分を凝縮するために編集するわけですが、お話を聞いていると、おふたりは動画を編集することで何かが失われるという感覚があるようです。

加藤:
 それはありますね。例えば、僕はゲームを始めるときに、インストールするところから配信を始めるんですよ。

 なぜかというと、小さい頃にゲームを買ってもらって、車に乗って帰るまでの間に感じた「うわー早くやりてえ!」ってワクワク感があったじゃないですか。あの感じを出したいんです。それでつまんなかったときのダメージが計り知れないんですけど(笑)。
 楽しみにして超長いインストールも待ったのに、超つまんなかったら、それはそれで面白いし。だから1時間くらい始まらないときもありますね。

もこう:
 『スパイダーマン』はダウンロードに3時間くらいかかってましたよね(笑)。

加藤:
 インストールに時間がかかるから、別のゲームをやったり、説明書を読んじゃうとか。賛否両論あるんですけど、一体感を出すうえで大事だと思っていますね。

──加藤さんにとって、一体感の演出として、視聴者と目線を合わせるのが重要なんですね。

加藤:
 それは大事ですね。

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──加藤さんにとって初めてのゲームでも、視聴者がプレイ済みの場合、視点がズレている。でも、感情移入していくことによって、徐々に目線が合っていく。
 動画と生配信の違いは、そういったところにあるのかもしれません。

加藤:
 まあ、確かに動画じゃ考えられないですからね。インストールする時間を待つなんて。みんなも「早く始まれ」って思って待ってるわけですからね。
 特に新しいゲームをやるときは、その待ってる時間で「このゲーム、あんまり面白くないよ」「いや、そんなことない」「あっちのゲームが面白い」とか、意見交換もできたりして。

 あとはなんだろう。もちろん大団円を目指すんですけど、その道中では、コメントがぐちゃぐちゃに荒れる地獄のような時間も欲しいんですよね。
 どれだけ荒れようが、最後は丸く収まってれば、楽しかったねって感じ、よくあるじゃないですか。それこそ、荒れに荒れて、広報の人も冷や汗をかいちゃうような。

──(笑)。

加藤:
 雨降って地固まる感じで、最後はみんなで協力して勝つ、みたいな。その方が好みなので、あえてこれをやったらみんなが怒るんじゃないかってことをやるときもあります。

──インストールの時間を共有するなど、あえてストレスをかけるという考え方は面白いですね。昨今の主流は、視聴者の負荷を取り除いて、快適に見れるように編集する人が多いわけですから。

加藤:
 ゼロから100じゃなくて、マイナス100から100の振れ幅があったほうが、絶対に面白いじゃないですか。生配信では特にそう。
 他の実況者は20〜80くらいの間で収めようとしてるけど、俺の場合、ひどいときはマイナス500くらいまで行っちゃうんで。そこからは、ゼロに戻っただけで相当盛り上がるんですよ。

──盛り上がった部分だけを凝縮して編集すると、その幅が出ないと。とはいえ、下がりすぎて、フォロワーが離れるなどの弊害は無いんですか?

加藤:
 いや、無いと思いますよ。コメントでは「もう見ない」とか書くかもしれないけど、プレイ内容いかんで見なくなる人が存在するのかな。

──視聴者への信頼がアツいですね。

もこう:
 いや〜、でもそこを恐れる実況者は多いと思いますけどね。やっぱり、荒れてほしくないし。

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加藤:
 もこうは俺よりひどいときあるじゃん。暴言を吐いて、荒れて、謝罪するまでがセット。次はどんなふうに謝るのかなって考えてる人もいるんだよ、たぶん。それって、マイナスからゼロ、プラスへの幅を使ってるってことだから。

──加藤さんの言う“振れ幅”を図らずも体現していたわけですね。

加藤:
 そうそう。もこうも意外とちゃんとやってるの。

もこう:
 そんな意識はなかったですけどね。荒れてるときは、普通に焦ってるし。

──とはいえ、コメントが荒れた結果、脅しにも似たコメントが来たり、最悪の場合はなんらかの危害が加えられる可能性もあると思うのですが。

加藤:
 いうて、みんなにもちゃんと生活があって、なんだかんだ、わきまえてコメントしてるので。そういう信頼感はありますね。

──ストレスのかけ方に始まって、視聴者への信頼がすごいです。

加藤:
 みんな意外とちゃんとしてるので、ギリギリアウトくらいのことしか言わないんですよ。
 大抵は白線の内側でやいのやいの言ってて、ほんのたま〜に越えちゃう奴もいるけど、謝れば許してもらえるレベルのことしか起こらないんです。僕の信条で、謝ったら許すってルールでやってるので。

 結局、今まで嫌がらせされたことがないんですよ。住所まで公開してるけど、なんだかんだ、一回もない。

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もこう:
 それ、マジですごいですよね。住所がバレた後も同じところに住んでたじゃないですか。僕、何回かバレて、いたずらされたことありますもん。

加藤:
 え、どんないたずらされたの?

もこう:
 そんな派手なことはないですけど。ポストに服を入れられたり。

加藤:
 これを着ろよって? それ、いたずらっていうより、ちょっと好意があるじゃん(笑)。

──それを聞いても、特に気持ちは変わらないですか?

加藤:
 まあ、服が入ってても、捨てて終わりですね。もちろん、若い女の子とかだったら、俺と同じことはしないほうがいいですよ。あ、もちろん34歳のおっさんにも、いたずらしないでくださいね。これ、太字にしといてください。

 俺、最近思うんだけどさ、YouTubeを張り付いて見てる人に、イケてる人は少なくない?
 「この後はパーティーだから、時間ないわ〜」って人、ほぼいないでしょ。1〜2時間、動画を見る暇くらいあるんじゃないの?
 俺はそう思って、30時間ぶっ続けで生配信やったりしてる。

──Webサイトの編集記事でも同じことが起こっていて、「短くしないと読まれない」と強く主張する人もいるんですが、実際は3万字でも読まれる記事は読まれるし、結局のところ内容によるんですよね。

加藤:
 ああ、つまんなかったら1行でも読みたくないですもんね。まあ、短くするのが主流になってるから、長時間やるライバルが少ないっていうのもありますけどね。

もこう:
 っていうか、まず誰もそんな長くできないんですよ(笑)。何十時間も喋り続けてあのクオリティを維持するのは無理ですね。

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見た人の感情が動けば、その方向は100でもマイナス100でもいい

──ここまで動画と生配信の違いについて語ってきましたが、視聴者たちはご自身の企画のどんな部分を楽しんでいると感じていますか?

もこう:
 僕の場合は、「パチンコみたいに、たまに面白い瞬間があるから毎回見ちゃう」って言ってもらうことが多いです。
 あとは何だろう。ゲームの悪口にどこかで共感してくれるから、見れる人もいるんですかね……。

加藤:
 もこうの場合は、人間性だよ。本当に、人間性の一本勝負。今回は何をやらかすのかって楽しみにして。
 だってさ、暴言吐いてコメントが荒れて、謝罪動画を上げて金儲けするまでがセットじゃん(笑)。

もこう:
 まあ……。確かに、何かをやらかすのを期待してくれてる人が多いのかなって気はしますね。

加藤:
 俺の場合は、ゲームをやっているのを同じタイミングで見て、文句言ったり称賛したりっていうのを楽しんでると思いますね。僕の発言を楽しみにしてるとかじゃなくて。

──確かに、アイドル的存在が生配信で、時間を共有したい欲求とは違う感じがしますね。

加藤:
 ただ、プレイするたびにちゃんとしようと思っていることはあります。
 例えば、俺らみたいなもんが、有名なメーカーの新作をプレイできるのって、要は祭りじゃないですか。
 その手の配信の時に必ず冒頭で言うのが、「毎日いろいろあると思いますけど、仕事とか面倒なことは全部忘れて、楽しみましょう」って感じで始めるんですよ。

 我々が楽しんでるから、「みんなもせっかくのお祭りだからちょっと見てね」っていうスタンスで。
 だから何十時間ぶっ続けだとして、つまんなそうにやってる時間は作らない。それこそ、夜勤上がりで夜の3時から見る人だっているじゃないですか。その時に死にかけでやってたら、すごく損させた気分になっちゃうから。
 寿命を減らしてでもいいから、辛い時間もなんとか気を振り絞ってやってます。

──それって、いったい何が加藤さんをそこまでさせるんでしょうか?

加藤:
 いや、なんというか、俺のことを嫌いでもいいんですよ。見た人の感情が動けば、その方向が100でもマイナス100でもいいというか。
 低評価でも高評価でもよくて、感情が動けば、絶対に見てくれるじゃないですか。

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──ゲームクリエイターのヨコオタロウさんも同じようなことを話していますね。気持ちいい変化であれば嬉しいけれど、気持ち悪いとかお腹が痛いとか、マイナスでもいいから、なにかしらのお客さんの感情に変化を起こしたいと。

加藤:
 同じだと思います。俺、すっごく嫌いなYouTuberがいるんですけど、毎日見てるんですよ。嫌いすぎて、毎日見てるの。

もこう:
 毎日ですか(笑)。

加藤:
 「お前の声は不快、死ね」とかよく書かれるんですけど、俺にとっては褒め言葉。ちゃんと聞いてくれるんだなって思うから。
 同意してくれる人だけ相手にしたら、取りこぼすってことじゃないですか。それがもったいない。嫌いでもいいから、俺の配信を見てほしい。

 今、配信をすると、ありがたいことにたくさんの方が集まってくれるんですけど、この部分が大きいと思うんです。
 他の実況者たちが生配信をやると、10000〜15000人くらい集まることが多いと思うんですけど、それって、自分のことを好きな人たちだけが集まっている。

 俺の場合は、俺のことを嫌いな人も見てくれているぶん、それより少し多く集まってくれていると思うんです。他に比べて、俺の配信ってコメントが異常なくらい荒れてるけど、それは別にいいというか。
 もう、つまんなくてもいいから見てください。あなたたちの事情は知ったこっちゃないんで(笑)。

──そうやって視聴者を増やしていった先の目標はあるんですか?

加藤:
 ずっと目標にしてるのは、同時接続10万人。たぶん、わけわかんないことになると思うんですよ(笑)。
 それだけいたら、変なやつも、俺のこと超嫌いなやつもコメントしてくれて、めちゃくちゃになって。その真ん中にいたいって気持ちがありますね。

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ゲーム実況の演出にあたって、映画からパクることが多い

──ところで……。お二人はアウトプットとしてはゲーム実況という形をとっていますが、インプットでは、これまでどんなカルチャーに影響を受けてきたのでしょうか。
 ゲームに加えて、映画や音楽、演劇やお笑いなども含めて。

加藤:
 あ、そのあたりは一通り興味ありますね。

──加藤さんは、お笑い芸人のイシバシハザマのラジオに出演するなど、お笑いへの興味も強そうです。

加藤:
 お笑い、大好きですよ。サンドウィッチマンのコントを延々と見ますし。
 昔はライブもいろいろ見に行ってて、ハリウッドザコシショウが売れてない時代のライブも行ってました。その頃、ぜんっぜん面白くなかったけど、めちゃくちゃするなって思ってた(笑)。
 あ、思い出した。当時付き合ってた彼女と見に行ったんだ。パクったこともありますよ、誇張しすぎるモノマネとか。

 面白い人から影響をウケちゃいますね。ドキュメンタリー番組も好きだし、映画もけっこう見に行くし、旅行も好きだし。考えてみると、ちょこちょこ趣味はあります。

──ゲーム実況に何らかの形で影響しているのでしょうか。

加藤:
 考えてみると、いろいろパクってますね。映画からパクることが多いんですよ。こんな結末にしたいなってイメージを。
 例えばなんだろう。『君の名は』みたいな感じを出して、終わりたいなって思ったり。

──過去に、そうやって終わらせた企画はあったんですか?

加藤:
 ありましたね。なんの映画に影響されたのかは覚えてないんですけど……。
 『ドラゴンクエストモンスターズ』を、一回死んだら逃がすって縛りでやったことがあったんですね。だけど、全然人気がないドルイドってキャラクターが大好きだったので、そいつだけ逃さずに冷凍保存させてくれってことにして。

 全クリし終わった後でそいつを解凍して、他のドルイドをかけ合わせて。これは実は僕のお父さんとお母さんで、最終的に純一って名前のドルイドが生まれました……って感じで終わらせたっていう。
 SFっぽい感じにして、この実況は、実は回想録だったんです、みたいな(笑)。

──視聴者に、その意図は伝わっていたんですか?

加藤:
 いや、普通にキモがってましたね。まあでも、好きだからやっちゃう。クリエイターになりたい願望が出てるのかもしれないですね(笑)。

──ここまで聞いてきたような工夫をしながらゲームをプレイすることで、多くの視聴者を楽しませている点では、十分クリエイターといえるように思えるのですが。

加藤:
 うーん、まあ俺らはやっぱりゲームありきなので。のっかって遊ばせてもらってる感じですよ。

──同時接続で約8万人を集めて熱狂させている時点で、類まれなパフォーマーであることは間違いないと思います。

加藤:
 いや、やっぱりゲームの力がでかいと思いますね。あれだけ面白いゲームを作ってくれたら、そりゃあみんな見に来るよっていう感覚。
 これは本当に謙遜じゃなくて、やっぱりゲームありきだと思います。もこうさんはどうですか。

もこう:
 ゼロから生み出してこそクリエイターだと思うので、何かを作ってるという意識はないですよね。

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加藤:
 『SEKIRO』広報の北尾さんから制作秘話を聞かせてもらったけどさ、口が裂けても自分がクリエイターだとは言えないよね。こだわり方も尋常じゃないだろうし。同じフィールドに立ちたくないよな?

もこう:
 うん。立てないですね。

──でもお二人とも、そういったゲームの尋常じゃないこだわりの部分や面白さを、多くの人に紹介している立場ではありますよね。

加藤:
 そういう存在になれたらいいな、とは思いますね。このゲーム、こんなに面白いんだよなって伝えて、みんなも買って楽しめるのが理想の形。

──先程から「クリエイター」という言葉を出したのには理由がありまして。結局のところ、相手の感情を動かすことこそがクリエイターの役割だと思うんです。
 そう考えると、近年YouTuberが台頭している理由として、Youtuberが視聴者の感情を動かすという機能を担っている部分が大きい。そしてそれは、十分にクリエイターといえる存在なんだろうなと思うんです。

加藤:
 まあでも、結局は我々もメディアで情報を得ておいて、何食わぬ顔して、俺が見つけてきた感を出してゲームをやったりするわけですから(笑)。

もこう:
 でも、加藤さんは何度もブームを生み出してる気がしますけどね。それこそ、「金ネジキ【※】」とか、加藤さんがやり始めてからまたみんなが注目するようになって。
 あの企画の後、ポケモンのハートゴールドが中古で全然買えないんですよ。

※金ネジキ
『ポケットモンスタープラチナ・ハートゴールド・ソウルシルバー』作中の施設・バトルファクトリーのラスボスキャラの名称がネジキ。
前述の「金ダツラ」と同様に、レンタルしたポケモンでバトルを繰り返し、21戦目と49戦目に登場するネジキのうち、後者を倒すと金のシンボルをもらえる。そのため、49戦目に登場するネジキの通称が「金ネジキ」となっている。
ちなみに、加藤氏が2018年に「絶対に負けられないポケットモンスター金ネジキ」を配信した後、多くの実況者たちが金ネジキに挑戦するという現象が起きた。

加藤:
 ああ、そうなんだ。それこそ、『シャドウバース』はもこうが流行らせたんじゃないの。
 もちろん実況やってた人はいただろうけど、YouTubeで、『シャドバ』でドカーンと伸びてたじゃん。あの頃、調子乗ってたもん(笑)。

もこう:
 いや、調子に乗ってないですよ(笑)。自分のYouTubeチャンネルが伸びたのはシャドウバースのおかげなので、シャドバ動画を上げてなんぼって感じではありました。

加藤:
 調子乗ってたっていうのは冗談だけどさ、お互い、視聴者が増えた時期が遅めだったから助かったよね。若い頃だったら、絶対にもっと調子に乗ってたと思うわ。
 YouTubeを始めたのが30歳超えてたので、あんまり調子に乗りようがないっていうか(笑)。

もこう:
 そうですよね。20歳で視聴者増えてたら、たぶん就職してないですね。

加藤:
 もっと嫌な人間になってたよね。もこうもさ、すっごい貧乏なときから知ってて、今は金持ちだろうけど、全然変わらないし。
 だって、今日のこの格好見てくださいよ。全然調子に乗ってないでしょ(笑)。

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もこう:
 一応、衣装なんですけど……。

──おふたりとも謙遜をしていますが、これだけ実況を続けてきたんだという自負、誇りなどはやっぱりあるのでしょうか?

加藤:
 めちゃくちゃあります。この前スクウェア・エニックスに行った時に思ったんですよ。ゲーム実況をやってなかったら、ここに来ることはなかったんだろうなって。
 この会社は俺が小さい頃、アホみたいにやりまくってたゲームを作った会社なんだって思ったら、貴重な経験なんだ、当たり前だと思ったらダメだなと。

 もちろん運が良かったとは思うんですけど、いろんなことに対して「当たり前じゃないんだよ」って気持ちでいるようにはしています。

もこう:
 普通じゃ経験できないことをさせてもらってますよね。

加藤:
 だってさ、もこうもひたすらコピー機を直す生活をしてたわけじゃん。

もこう:
 コピー機を直してたんじゃなくて、プリントした紙のバーコードがちゃんと認識されるか、8時間確認し続ける仕事をしてましたね。
 あれを続けてたら、株式会社ポケモンの公式番組に出させてもらうこともなかったです。

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加藤:
 あれは、俺まで誇らしく思った。

──NHKの番組「沼にハマってきいてみた」(Eテレ)に有名ゲーム実況者として出演することもなかったわけですよね。

もこう:
 あれはめちゃくちゃ緊張しましたね(笑)。番組の冒頭で噛み倒して。

加藤:
 俺、仕事の前にずっと見てた。わざとやってるのかと思ったわ。最初の挨拶で「ここここここ……」ってなってたから、かましたのかって。
 うわ、やりやがったと思ったら、ちがったのか(笑)。あれは面白かった。

50歳になってもコントローラーを放り投げてたら面白い

──2015年にもこうさんをインタビューした際は、まだ公式に認められたゲーム実況は少ないグレーゾーンなカルチャーだったので「このまま線香花火みたいに燃え尽きると思う」と語っていましたが、あれ以降状況はかなり変わりましたよね。ここ数年の変化について、どのように感じていますか?

もこう:
 確かに変わりましたね。

加藤:
 答えはありますよ。俺らがゴキブリだからだよ。

もこう:
 ……確かに、ゴキブリですね。

加藤:
 俺たち、すっごい生命力が強いんですよ。今、YouTubeであんまり調子よくないでしょ?

もこう:
 まあ、一時に比べたらそうですね。

加藤:
 でも、この後に必ず何かしらで当てるんですよ。それで調子がよくなって。
 これは悪口じゃなくて、感心するんだけど、もこうしかやってないゲームがけっこうあって、ちゃんと伸びなくなるまでやり続けるよね。

もこう:
 少し前はポケモンのレトロゲームをやったりしてました。ポケモンピンボールの動画が予想に反してめっちゃ伸びたので、ちょいちょい昔のゲームをやることもあります。

加藤:
 それで、味がしなくなるまで同じゲームをやり続けるの、偉いと思うわ。アメリカのドラマみたいでスゴい。視聴者が飽きるまで、シーズン8くらいまでやってから終わるドラマみたいな。

もこう:
 ピンボールもシーズン8までやりましたよ(笑)。

加藤:
 それで終わった後は、スッと次のメインコンテンツを探すんだよな。で、必ず何かしらで当てるんですよ。それを10年繰り返してきてる。生命力が強い。

もこう:
 いやでも、その繰り返しはしんどいっすよ。やめたいんですよ。ただ、続ける以上は何かしら踏ん張ろうって意識はあるので。
 ある意味では、すべるのを恐れずに、普通だったらお蔵入りにするような動画もどんどん上げていって、当たるまで繰り返すっていう。

加藤:
 動画のゴキブリがもこうなら、俺は生配信のゴキブリ。しぶといんですよ。やっぱり調子悪いなって時期もあるけど、なんとかやってきたんで。

──全力で喜怒哀楽を表現する実況のスタイルで、いつまでやり続けるのでしょうか。それこそ、おじいさんになってもゲームにキレてたらめっちゃ面白いと思います。

加藤:
 確かにそうなってたら面白いですよね。どうせなら60歳なのに日焼けして痛い感じで若ぶってるみたいな。
 でも、生配信を楽しむ気持ちが萎えちゃったら、相当大変だとは思います。批判されることを恐れるようになったりしたら、また病院で働くしかないかなっていう。

もこう:
 気持ちの問題っていうのはわかります。今はまだ続けたいですよね。

加藤:
 リアルな話をすると、40歳くらいまでは今のまま頑張っていたいなって気持ちで。
 25歳のとき、「30歳になったらやめる」って言ってたのに、もう34歳までやってるので、もしかしたらまた続けるのかもしれないですけど。

もこう:
 僕も、楽しいと思える限りは続けるでしょうね。
 なんだかんだで、最初の動画を上げたときから今まで、モチベーションは変わってないんですよ。どれだけ再生数が伸びるか、コメントが来るのかを楽しみにするっていう。
 そのために神回を作りたいとか、ここで盛り上がったらいいなって思ってプレイして。その気持が変わらない限りは動画を上げ続けるだろうなって感じです。

加藤:
 まあでも、もこうが50歳になってもコントローラーを放り投げてたら、それはそれで面白いよな(笑)。

──それはめちゃくちゃ面白いと思います!

加藤:
 じゃあさ、ふたりで老害になろうよ。「俺たち、昔は人気があったのにな」って言い合ってさ(笑)。

もこう:
 その頃の再生回数は200とかかもしれないですけどね(笑)。(了)

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 マイナスの目盛りまでを使って、振れ幅を大きくする。編集することで、失われる体験がある。
 ゲーム実況というジャンルにとどまらない、いわばクリエイティブ論に通ずるエピソードもたくさん聞けたが、結局のところ、物事に取り組む際の姿勢が重要なのである。

 ニコニコ動画からYouTubeへ。そして、動画から生配信へ。
 プラットフォームや視聴者に体験を届ける手段は変わっても、根っこにあるのは、心からゲームを楽しむ姿勢である。きれいごとに感じる人もいるだろうが、これがインタビュー終了時点で感じた、率直な感想だ。

 生配信で声を荒げながら喜怒哀楽を表す加藤氏に、対人戦で負けると悔しさから本気でコントローラーを投げ出すもこう氏。「ゲームをどれだけ上手くプレイできるのかという競技」では、必ずしも強者とはいえない。
 しかし、「ゲームをどれだけ本気でプレイできるか」という競技があるなら、間違いなく世界屈指の強者といえるふたりなのだろう。

 その本気のふたりを通してゲームを追体験したい人もいれば、その感情の振れ幅そのものを楽しむ人、実況者をパーソナリティとして消費する人や、多くの視聴者が集まっている場所に居合わせたい人まで……。
 ゲーム実況を見るにあたっては、様々な動機がある。

 特に印象に残ったのは、加藤氏がゲーム実況の生配信を「祭り」だと例えたことだった。彼の生配信では、有名タイトルをプレイする企画が多い。
 新作のPRを除き、既プレイの視聴者も多いはずだが、それでもついつい見に来てしまう。それは、「加藤氏がどんなふうにゲームを楽しむのか」を楽しみにしているということ。プレイ中に選択肢が発生した時には、面白くなりそうな方を選ぶ。分が悪い賭けをし続ける彼が、奇跡を起こす瞬間を、視聴者は心待ちにしているのだ。

 それをリアルタイムで視聴する体験と、アーカイブされた動画を見る体験は、まったく違うものになる。世間で音楽好き同士が「Rage Against the Machineが出た年のフジロック・フェスティバルに行った?」と話すのと同様に、「加藤純一の金ダツラ見た?」「もこうがプロ初勝利を上げた瞬間、見た?」というライブ感覚が市民権を得ていく。
 そんな時代が到来しつつあるのかもしれない。

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取材・文
ゲーム実況で食ってる人で下手くそなのは俺たちだけ──人気実況者・加藤純一ともこうが考える、視聴者たちが彼らのプレイに熱中する理由とは_028
毎日ウルトラ怪獣Tシャツを着ているフリー編集・ライター。インドネシアの新聞社、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。意外なテーマをかけ合わせた企画とインタビューが得意。守備範囲は政治・社会からアイドル、スポーツ、お笑いなどエンタメまで。30歳を超えてなお、相変わらず「マリオ」「ドラクエ」「パワプロ」「スパロボ」「ロックマン」の最新作をプレイしている現状に、20年前から精神年齢がまったく変わっていないことを痛感している。
取材・編集
ゲーム実況で食ってる人で下手くそなのは俺たちだけ──人気実況者・加藤純一ともこうが考える、視聴者たちが彼らのプレイに熱中する理由とは_029
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999

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