『東京クロノス』が目指したVRのありかた ― シチュエーション体験ではなく、『このすば』の住民になれるような物語体験を実現したい【柏倉晴樹×八木田肇×田村直彬】

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VRはもっと受動的なものであってもいいはずだ

──ちょっと抽象的な質問になるのですが、みなさんはVRを第三者に説明する時に、体感とか体験といったものよりも、映像としての違いみたいなところに意識があるのでしょうか?
 ゲーム業界の方とVRの話をすると、映像よりもVRの中で物に触ったりとか、体感の話をすることが多い気がするんですけど。

柏倉氏:
 僕はわりと映像的に見てるところがありますね。どうしてもそうなっちゃう。

 世界に対して手でインタラクションしたりするのも、たしかにVRならではの要素なんだけど、僕自身が興味があるのはそうじゃないところです。
 どちらかと言うと、立ち位置とか演出とかで、どうやったら人の心を誘導することができるのかというほうに、今は興味がありますね。

──VRって、能動的であることがメリットと同時に、デメリットにもなっているのかなと思うんです。機材をセッティングして、わざわざHMDをつけてまではやらないというのが、今の世の中の大半じゃないですか。そんな中で受動的な人たちを振り向かせるには、どういうアプローチがあるのかなと。

柏倉氏:
 VRの作品に、もっと受動的なコンテンツが増えていいと思います。
 なんでもかんでも、つけて触らないといけない、動かさないといけない、「It’s VR!」みたいなものって多いですが、僕はインタラクションが必要以上に無くても楽しめるものが好きですね。面倒くさがりなので…。

岸上氏:
 僕が今まででいちばん共感したのは「VRの中でまで、動きたくねぇよ」という意見ですね(笑)。

柏倉氏:
 これも完全に私見ですが、VRはCG空間なのに、なんで歩かなきゃいけないんだと思うこともあります。
 ほしい物があるんだったら、自分が取りに行くんじゃなくて物の方から来てほしいと思うし、行かなきゃいけないところがあるのなら、自分が行くんじゃなくて場所のほうが来てほしい、と。

──だとすると、VRの魅力と感じるところはどこなんでしょうか? 「仮想空間に入るとこんなことができるよね」と一般的に言われる魅力とは、またちょっと違うところを見ていらっしゃるのかなと思うんです。

柏倉氏:
 僕としては、家にいたままで違うところに行きたいんですよ。動きたくないというのは、自分の部屋が狭いのもありますし、腕を振り回したりしたくないのもありますし。

 そのうち、歩き回りながらVRやARを使うことが当たり前になってきたら、その感覚も変わるのかもしれないですけど。家で動かない時はVRで、外に出たらARに切り替えられるとか。
 現状のVRやARが魅力的だというよりは、視覚や聴覚の拡張性だとか、目の前の物を切り替えてしまうことの将来的な可能性に、魅力を感じているというはあります。

岸上氏:
 『東京クロノス』って、VRで最も日本人に売れているソフトの1つなんですけど、それは受け身だからこそ、というのがすごくあるなと思っていて。この世界の中に入っているだけでストーリーが進むし、面白いんだよと。
 面倒くさいことを別にしなくてもいいよというのは、日本人にウケた点なのかなと思っています。

田村氏:
 受け身の人向けだと、HMDをかぶせるまでが勝負、みたいなところがありますから。

岸上氏:
 かぶってしまえばやってくれるし、かぶったからってインタラクションし続けるかというと、続けないんですよね。普通の人は『Beat Saber』を、別に毎日はやらないよねと。

柏倉氏:
 「やろう」と意識を高くしてやり始めても、だいたい続かないんですよ。

岸上氏:
 VRって1プレイの体験時間が短いほうが良いように思われていますけど、データによると、実は長いほうが何回もプレイするらしいんです。わざわざやるんだから、なんで15分で終わらなきゃいけないの? せっかくHMDをかぶったのなら、ずっとやろうよ、って。
 『東京クロノス』も、1回あたりの平均プレイ時間が2時間ぐらいあるんですよ。とにかく長いんです。
 それはけっこう逆説的だったんですけど、受動的だからこそ長く続けられるし、やったからには長くやってくれる、というのがあったんだと思いますね。

柏倉氏:
 『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』【※】のVRモードは、自分もずっとやっていたかったです。アレはここにいながらにして空に行けるんですよ。めちゃめちゃ良かったですね。

※『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』……2019年にバンダイナムコから発売されたフライトシューティングゲームで『エースコンバット』シリーズの最新作。PS4版には、本編から独立したPlayStation VR専用のVRモードが用意されている。
(画像はACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN VR MODE 体験版 | 公式PlayStation™Store 日本より)

岸上氏:
 『エースコンバット』は意外と受動的だった、ということですよね。

柏倉氏:
 そうそう。アレはコントローラをずっと握っているだけで、自分から物を取りに行ったりはしないですから。乗り物に乗っている感じって、身体的には受動的というか。

岸上氏:
 OculusのCTOだったジョン・カーマック【※】も講演で、「人間ってそんなに動きたがらないから」と言ってましたね。
 プロモーション的には、動いているほうが見栄えが良いから売れるんだけど、実際のユーザーはそんな感じではないと。

※ジョン・カーマック……『ウルフェンシュタイン 3D』『DOOM』『QUAKE』などのプログラマーで、FPSを普及させた立役者の1人。VRに未来を見出したカーマック氏は、2013年にOculusの最高技術責任者(CTO)に就任したが、2019年にはAIに関する個人プロジェクトを優先するため、同社のコンサルティングCTOとなった。
(画像はSteam:Wolfenstein 3Dより)

──受動的なVRの場合は、視界を覆っていることが重要になるんですか?

柏倉氏:
 そんなことはないと思いますよ。周囲は覆っているんだけど八木田さんと田村さんだけは見えるとか、そういうのもアリだと思いますし、今後出てくると思います。
 VRとARって、派閥があるのかもしれないですけど、本当は明瞭な違いがないはずなんです。今はハードウェアに縛られているから、そう思うだけで。

岸上氏:
 Oculus Goって、NetflixとかYouTubeが見られるんですけど、空間を歩き回ったりするゲームはスペック的に難しいんです。3DoF【※】ですから。
 ところがOculus Goが発売されると、日本でバカ売れしたんですよ。だから「結局みんなが欲しかったのは、頭につけるTVだったんじゃないか」って、TwitterのVR界隈でそういう言説が流行ったんですけど。

柏倉氏:
 VRゴーグルをつけたまま外に出て、外の様子は見られるんだけど、視野の一角でずっとNetflixが再生されていて、電車に乗ったら周囲が邪魔だからフルVRにして、というのが理想ですよね。
 そういう未来を期待しているから、今のVRが楽しいというのはあると思います。

VRを体験することで、逆にVRにまだ足りないものが浮き彫りになってくる

──演劇を客席から生で見ていると、ものすごく情報量が多いように思うんですけど、それをDVDとかで映像化として見ると、いろいろなものがスポイルされてつまらなくなるじゃないですか。VRで表現できるもの、できないものの違いを言葉にする時にも、あれと同じ何かがあるんじゃないかとも思うんですけど……どうなんでしょうね?

田村氏:
 僕自身は編集した結果としての映像に、ものすごく魅力を感じていて。
 「編集」って要するに、1人の男の顔のショットの後に何を置くかによって、その連続性の印象がぜんぜん変わってくるんです。それが「モンタージュ理論」というものなんですけど。

 舞台から映像化するのも、そういう編集が上手い人がやると、面白くなると思うんですね。劇団☆新感線の舞台を映像化した「ゲキ×シネ」【※】とか、めちゃくちゃ面白いので。

 そういう意味ではVRって、カッティング(編集)のない映像なんです。カットを意識する映像と、VRとではぜんぜん違うなぁって思います。

※「ゲキ×シネ」
人気劇団「劇団☆新感線」の舞台を映像に収録し、映画館で上映するプロジェクト。2004年にスタートし、現在までに20作品以上が制作されている。

柏倉氏:
 VRでもカットって、まったくないわけじゃないと思うんですよ。こっちを見ている間に反対側にキャラが出てきて、振り返ったら突然いた、みたいなのはカットの概念とちょっと似ているなと思っていて。時間を盗むのではなくて空間を盗む、みたいな。

田村氏:
 時間軸に対してカットを切り分けるのが映像の編集ですけど、VRだと空間に対する切り分けが必要になってくるので、たしかにそこは違いますね。

柏倉氏:
 VRだと「そこにいる感」がすごく大事になってくるんですよね。
 このあいだ、小林幸子さんのライブに行ってきたんですけど、まずなによりも観客がすごく多くて、その大勢の観客が何を見ているかというと、舞台上にいる小林幸子さん、その一点なんですよ。ライトを浴びてキラキラに光っている小林幸子さん大勢で見るという、それそのものがエンタメですよね。

 それで会場のあちこちからは「サチコ~!」って声が聞こえてくる(笑)。この「大観衆の中に自分がいる感」は、今のVRが若干苦手としている分野で。
 それをやろうとすると、自分の周囲に座っているみんなが、本当に人間の挙動をする必要があるので。1000人ぐらいが同時に接続して、ワーッっていうのができればいいんでしょうけど。

 あとは、リアルタイム性っていうのがどうしてもあるのかなって。
 朴璐美【※】さんの小劇場の舞台を見させてもらった時に、目の前で朴さんが演じていて、「今ここで自分が『朴さん!』って呼んだら迷惑だろうな」と思ったんですよね、当たり前ですけど(笑)。
 でも、そういった目の前にいる感覚こそが、ドキドキするポイントなんだろうなと。こっちに干渉してくるかもしれないし、こちらも向こうに干渉できるかもしれない。それはある種、コミュニケーションですよね。距離のコミュニケーションというか。

※朴璐美
『∀ガンダム』のロラン・セアック、『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックなどで知られる人気声優。『東京クロノス』にキャラクターの1人、神谷才役で出演している。

──でも、「そこにいる感」にしても「距離のコミュニケーション」にしても、これまでの平面の映像よりはVRのほうが、はるかに強く実感できるものですよね。だからこそ、逆に気になるのかもしれないですけど。

柏倉氏:
 あぁ、そのとおりですね。VRを体験することで、逆に浮き彫りになったんだと思います。
 VARKとかClusterとか、いろんな手法でVRのライブを見させていただいている中で、スゴイなと思うと同時に、「なるほど、これが足りないんだな」と、そこで初めて気づくことがたくさんあって。
 CGで初めて人間を作ってみたら「不気味の谷」というものが出てきて、何が足りないのかをみんなが自覚するようになったという、それに近いものはあると思います。

「そこにいる感」は重要だけど、VRの「肝」ではないのかもしれない

──キャラクターや自分が「そこにいる感」というのは、何があればそう感じるんですか?

柏倉氏:
 自分がそこにいる感じを出すにはまず、背景というか舞台ですよね。あとは『東京クロノス』で言うと自分(主人公)の身体を作ったり。音も重要なんですけど、『東京クロノス』は無人の渋谷という設定だったので、街の環境音とかはないんですよね。

 『東京クロノス』で目の前にキャラクターがいる感じというのは、視線とか表情とか声の方向とか、そういうところにけっこう気を遣いましたね。
 ただそれでもプレイヤーには、ゲームのキャラクターなんですよ、と割り切ってもらってはいるはずなので。キャラクターをフェード・イン/フェード・アウトで消しちゃったりとかも平気で使っちゃってるところがあります。

 だから「そこにいる感」はVRの肝なんじゃなくて、もしかしたら補填なのかもしれない。
 『東京クロノス』で、そこにあたかも存在しているであろうという錯覚をユーザーに感じさせたかというと、そんなことはないし、初めからそういうつもりで作っていたわけでもなかった。これはあくまでゲームですよという割り切りから入っていますから。
 そうじゃないと、本当に精密なモーションキャプチャーを撮って、右から左まで歩かせて、みたいなことをやらなきゃいけないはずなので。プレイヤーに対して、まっすぐ存在感で騙しにいこうとは、あんまり思わなかった。
 そういうまっすぐな存在感で勝負しに行く、というのはバーチャルリアリティらしさであるとは思うんですけど。

田村氏:
 個人的にはプレイヤーとして、『東京クロノス』のリアリティを切り捨てている部分は、ある意味、気楽でやりやすかったですね。

柏倉氏:
 僕もそう思います。HMDは使っているけど、決してこれはバーチャルリアリティではないという言い方もできて。実はいちばんVRらしいところを切り捨てるところから始めているんです。
 そういう、VRの要素の使い方って自由だと思うんですよ。それをどれぐらいの濃度で使うのかは。割り切っちゃっていいと思うんです。
 「こうあるべき」という流れができちゃうほうが、僕自身はイヤだなと思うので。「これがVRらしさだ、これをやるべき」となったら、僕は一気に面白くなくなると思うので。

八木田氏:
 どれも同じになる。

柏倉氏:
 同じにはならないと思いますけど、そうなったら僕らは勝てない気がする(笑)。アイデアよりも技術に寄っちゃうというか、トンチが効かなくなる気がするので。

岸上氏:
 VR業界ってまだ黎明期なので、間違いなくトンチ・ピリオドなんです。
 でも欧米企業はトンチを効かさずに、ド直球に球速170kmで作ってるんですよ。だからジャンルが似通ってくるし、スゴイものがたくさんあって面白いんですけど、日本人からするとノーサンキューな感じがあるんですよね。

柏倉氏:
 海外のユーザーは、トンチを求めていないと思うんですよ。彼らは、仮想空間の私=現実の私というリアリティを求めているので。

 日本だと、VRChatとかでもアバターを可愛くしたりしますけど、あれは、なりきり文化とかごっこ文化で、新しい世界に行けるっていう感覚なんです。
 それが欧米だと、私がこの世界に行くんだからそのままの私でないとおかしい、という考え方が強くて。究極的にはボディスキャンした自分でそのまま入りたいっていう。そのへんは求めているものがどうにも違ってくるんです。

岸上氏:
 VRって今は、本当に欧米のゲームばっかりじゃないですか。FPSがほぼ主流なんですよ。
 一方で世界から日本に期待されているのは、ゲームにしてもアニメにしても、多様性じゃないですか。「こんなものもあるんだ!」っていう。
 あと、日本は中規模クラスのゲームで世界的ヒットを飛ばしていますよね。『SEKIRO』『ペルソナ5』『ニーア オートマタ』と。それなりに大規模だけど、欧米で言うAAAではない。

 そういう中規模ジャンルですごく多様性のあるものが、VRでも世界的に求められている気がするんですよ。そこが日本の出番というか。
 今、VRのゲームはジャンルが固定化されているので。そこを打破できるのが日本のゲームクリエイターだと思います。

柏倉氏:
 『東京クロノス』はVRならではのものを考えたというよりは、既存のものが半分、VRとして使えるところが半分、みたいな感じで作ったハイブリッドなんです。
 「これがVRです」って言うと、まず遊び方から教えなきゃいけないんですよ。そうしなくてもいいものができたのは、すごく良かったと思います。

 既存のゲームの視聴覚を変えただけでも、その化学反応で楽しくもなると思うんです。
 この『東京クロノス』のスタイルで、他の物語も見てみたいですよね。僕らが作るもの以外に、誰か作ってくれないかなという気持ちもあります。

──VRビジュアルノベルのスタンダードが、これでできた気がするんですけど。

柏倉氏:
 そうだと嬉しいんですけどね。

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