ボカロ出身のアーティストさんとのコラボは、あくまでスペシャルな企画です
──企業系のコラボとは別に、アーティストさんとのコラボも続いています。そこではAdoさんといったボカロと隣接しているけれど、明確にボカロとは言えない音楽をセレクトされていて、『プロセカ』で扱う音楽の範囲が広がったような気がするのですが?
近藤氏:
あくまでタイアップ、コラボレーションという立ち位置なので。『プロセカ』に収録する楽曲範囲を広げたという話ではなくて、本当にスペシャル企画ですね。
もともとインタビューとかでも言っていたんですけど、僕らとしてはボーカロイド音楽だったり、ネットシーンの音楽っていうものを若い人たちに届けたいと思っていて。そこには「ボカロ」と「ネットシーン」という2つの音楽が含まれているんです。なので、そういった隣接した音楽にも触れられるほうが、若い子にとっては親しみやすくなるかもね、という話はこの3人でもしていたので。そこはけっこう予定の範囲内という感じではあります。
ただじゃあ、そういった隣接している音楽を『プロセカ』の第二の柱にしていこう、みたいな感じではなくて。僕らもボーカロイド音楽で入れたいと思っている楽曲だったり、ユーザーさんが本当に入れてほしい楽曲がまだまだたくさんありますから。今後も隣接した音楽、ネットシーンの音楽をコラボレーション的に『プロセカ』で採り上げていくとは思うんですけど、でもそれが毎月あるだとか、収録曲の半分がそうなるということではありません。
──2020年ぐらいからボカロPの方や「歌ってみた」出身の方が、J-POPの第一線で活躍されるようになっていて。先ほど近藤さんが言われたネットシーンの音楽というものが、世の中の真ん中のほうに来ている実感があると思うんです。ただ『プロセカ』としては、そこまでいくとちょっと広がりすぎなのかな、みたいな印象も受けるところがあって。
近藤氏:
そうですね。そっちに行っちゃうんじゃないかという不安を抱いているユーザーさんもいるんですけど、「行かないですよ」という話です。ただ、『プロセカ』の最初の目的はボカロ曲を若い人たちにも聞いてほしいなというものなので、そこにはいろんな入口があるというのも必要なことだと思っています。
ボカロっていうのをあんまり聞いたことはないんだけど、今の音楽シーンにいるボカロPの人たちの音楽がすごく好きだ、という方がそこを入口として入ってきて、「ボカロも食べてみたら美味しいよね」みたいになるのは、僕らがやろうとした目的に沿っているはずなので。
ただ、それはあくまで小っちゃい入口なので、そこは適宜やっていきますけど、それとは別にメインとなる大きなトンネルもちゃんとやっていく、という意識を持っています。
佐々木氏:
こういう言い方でいいのかわからないんですけど、J-POPに浸透していってるボカロっていうのもあれば、たとえばsasakure.UKさんとかワンダフル☆オポチュニティ!さんだとかの言葉遊びの感じとか切り取り方の感じって、どんなJ-POPの方に声をかけても、あんなにキラキラした感じで出てくるものではないと思っているんです。
『プロセカ』にストーリーだったり、キャラクターをどう見せるかという課題がある中で、言葉使いが個性的な方であればうまい方であるほど、「こんなに練ってきてくれたんだ」みたいなところが凄まじいなと思っていて。それが僕の中では、『プロセカ』の素晴らしいポイントのひとつなのかなと思います。掛け算による相乗効果感というか。
そういうボカロならではの個性って、決して単一のものではなくて、たくさんのユニークな部分があると思うので。そういったものをいろいろと感じ取ってもらえるようなバランスっていうのが、『プロセカ』と相乗効果である種のボカロネットシーンを、暖かい雰囲気で作るのが重要なのかなと思っています。
近藤氏:
sasakureさんもワンオポさんもすごく昔から活躍されてる方なので、このタイミングでまたとても再生されているのは、嬉しいですよね。
佐々木氏:
やっぱり楽曲の密度が高いので。小菅さんも「これをMVにすると、演出のところが濃くなるなぁ」って思われて、きっとコストがかかってるんだろうなあと思うのですが(笑)。
小菅氏:
でも、現場が楽しそうなんですよね、ああいう曲って (笑)。
佐々木氏:
あぁ、それはありますよね。カッコ良い方向性だけだと、どうしても閉じていっちゃうところとか、先鋭化されちゃうところがあると思うんですけど。でも一方で、「わーい!」みたいな気分で作らざるを得ないものもあって(笑)。それが『プロセカ』らしいところだなぁと。
今の5ユニット20人だけでは、すべてのボーカロイド音楽が当てはまらなくなる日が来るかもしれない
近藤氏:
キャラクターと音楽の相乗効果って、確かにあると思うんです。そこでキャラクターをひとつのマテリアルだったり、属性みたいなものだったりとして考える時に、今だったら『プロセカ』にはオリジナルキャラクターが20人、オリジナルユニットで言えば5ユニットいて。その中で、それぞれのユニットやキャラクターの音楽の属性みたいなものは、幅広く解釈すればたぶん全ての楽曲に当てはめられるとは思うんです。
でも幅広い解釈じゃなくて、バチコーン!とハマるかどうかって考えると、5っていう数字や20っていう数字の限界みたいなものを、僕としてはどこかで感じていて。なので……いずれは増えるんだろうなぁ、みたいなのを感じてはいます。
──それはキャラクターやユニットがいずれは増える、ということですか?
近藤氏:
もちろん、すぐ増えますよって話ではなくて。ただ、検討されて然るべきだと思っています、という話ですね。
そもそも、ボカロシーン自体がかなり流動的なので、その時に人気のある音楽の系統が、すごく移り変わってくるじゃないですか。僕らがこの企画を始めて、ユニットの音楽性を割り振った2018年から、もう4年経っているんです。なので、その間に音楽の流行りとかネットユーザーの好みみたいなのも、変わってきていると思うので。
このジャンルはとても多いとか、このジャンルは少ないとか、今までのものでは形容し難いものも見えてきたよね、みたいな話が出てきた時に、無理やり今のユニットに幅広く解釈して入れ込むよりは、何か新しいものが出てくるほうが自然なのかなと、僕は思っています。
──今の5ユニットではハマらない音楽ジャンルがあると?
近藤氏:
今でもハマるけどもっと適切に割り振れる可能性がある、といったイメージです。それでも、一定かぶるのはしょうがないと思うんですよね。音楽ジャンル自体、ほぼ無限みたいなものですし。でも時代の流れに沿って、こことここの間にあるボールをひとつ、数字にしちゃったほうがいいのでは、みたいな話は検討したほうがいいと思っています。
佐々木氏:
音楽ジャンルの多くは洋楽由来のものだったりするので。HIPHOPだ、R&Bだって、それをそのまんまやるのはただの落とし穴にしかならないという意味で、音楽ジャンルという括りは危険だな、と思うところがあります。好きなんですけどね。
違う角度で、ニーゴのシリアスさってのも並んでいるし、やっぱり色んなテイストがあって、バラエティが多彩であるが故の力強さがあるなと思います。
近藤氏:
ユニット毎のジャンルを固定しすぎてしまうと、逆にクリエイターさんの枷になってしまう可能性もあると思うんです。なので理想としては、いろんなボカロ界隈のクリエイターさんとご一緒する時に、クリエイターさんのほうから「このユニットがいいです」みたいな感じでどんどんハマっていく、っていうのが有り難いですよね。
──今現在、クリエイターさんのほうから「このユニットで書きたいんです」みたいな話がでることもあるんですか?
近藤氏:
わりとありますね。我々のほうから「どうですか?」ってお話を持っていくと、「このユニットがいいです」って言われたりして。
──そういう意味ではすでに、クリエイターさんの中で『プロセカ』のキャラクターのイメージができているところもあるんですね。
小菅氏:
そうですね。ローンチ前の頃は、すごく迷われてる感じの方もいたんですけど(笑)。今はゲームだけでなく、お客さんがそのキャラをどう見ているかというのも掴んでらっしゃると思うので、そういう意味では広がったんじゃないかと思います。
佐々木氏:
クリエイターさんによって、ユニットとかその回のイベントのテーマを分析して、客観的に見ていって、どんどん計算して考える人と。自分の世界にグーッと引き寄せてバランスを取ろうとする人と。わりと両極端ですよね。見ててスゴイなって、いつも思います。
バーチャル・シンガーの音源に関しては今後、可能な限りバランスを取るようにしていきます
──ところで、2022年2月22日に公開されたプロジェクトメッセージで「一部のバーチャル・シンガーに、原曲を歌唱する楽曲の追加が遅れている」というお話が出ていましたよね。この点についての具体的な状況や、今後についての詳細をお聞かせください。
近藤氏:
特にルカさん、MEIKOさん、KAITOさんの楽曲の追加が遅れているところですね。リリース直後はKAITOさんの「ドクター=ファンクビート」が、MEIKOさんの「Nostalogic」があったりしたんですけど、それ以来楽曲が追加されていなかったのを、僕らのほうで省みまして。今後はこのぐらいのペースで追加していきますというのを、プロジェクトメッセージという場を借りて明言させてもらいました。
そこに書かれているとおり、年に2曲は追加していこうと思っています。それは既存の楽曲の制作とは別のラインでやるので、そちらのほうに影響が出ることはありません。あと、再生数で考えると収録できる楽曲はそんなに多くないのでは、みたいな声も届いているんですが、ここに関してそれはぜんぜん関係がなくて。このゲームを作っている以上、各キャラクターを大事にしなければいけないという、シンプルにそれだけの話なので。
それからバーチャル・シンガーver.はもともと、原曲バージョンだけというわけではないんです。原曲とは別のバーチャル・シンガーで歌い直すというものを、本当はもうちょっとたくさん作っていく予定でした。でも、リリースからずっとバタバタしていて、ハッピーシンセサイザのようなバーチャル・シンガーver.がなかなか追加できなかったので。そういった影響もあって、一部バーチャル・シンガーの音源が少なくなってしまっていました。そこは両方対策をしなきゃいけないというところで、クリプトンさんも含めて一緒に進めております。
──原曲ではないバーチャル・シンガーの歌唱に関しては、技術的・工程的な部分で大変なところもあるかとは思うのですが、そういうところが追加のペースに影響していたのでしょうか?
佐々木氏:
この機会に懺悔してしまうとですね。やっぱり『Project DIVA』の当初から「主人公ってミクだよね」というようなところが一方ではありつつ、広がりという意味では6キャラで力を合わせてバラエティを作ってくれていた、という構図があったんです。その時に我々クリプトンであったり、昔のセガさんとのビジネス的な観点の中で、「ここまではミクの殿堂入り曲を入れて、たくさん聴かれている楽曲を中心にしていきましょう」みたいな感じでついてしまったクセのようなものがあって。今回『プロセカ』を立ち上げるところでは、そのクセをいったん取り払うことも含めて、「いろんなところにキャラクターが出てきて活躍しますよ」という触れ込みでやらせていただいたんですけれども。
ただ正直、ローンチ前のバタバタ感とか不可抗力みたいなのもあった中で、そこの部分で追いつききれていなかったのと、自分たちが全部のバーチャル・シンガーを推していきますというところで、バランスが一部うまく取れていなかったと思います。
とはいえ、自分たちが全部のキャラクターのバランスを見て楽曲を紡いでいくというのは、最初に宣言させてもらったことですから。それを疎かにして別のことをやるとか、そんな意図はまったくありません。言い訳ですけど、そういう意味ではむしろ相当な啖呵を切ってここまで来たので、それはこの先も続けていきます。気持ちの面ではそういうことでしかないので。そのあたりをこれからも見守ってもらえるとありがたいです。
──念押しになりますけど、先日のプロジェクトメッセージでアナウンスされたということは、今後は改善されていくという宣言だと考えていいですよね?
近藤氏:
そうですね。ただ、これはお伝えする必要がありますが、『プロセカ』の目的は何度もお話ししているように、若い人たちにボーカロイドやネットシーン発の音楽を聴いてもらうというものになっています。そこに基本的なサイクルの中で収録される楽曲は、どのボーカロイドが歌っているかということは一切関係なく、言ってしまえばクリプトンさんのバーチャル・シンガーなのかどうかも関係なく、かなりフラットに決めている状況です。
これは、ボカロ曲というものをバーチャル・シンガーによるキャラクターソングとしてではなく、クリエイターが作り上げた一つの音楽作品として取り扱い、シーンを彩った様々な年代の楽曲を収録していきたいという想いによるものです。
ただ別軸で、しっかりとキャラクターのことを配慮した楽曲収録もしていく必要はあり、その点は切り分けて考えています。
結果として、例えばミクさんの楽曲収録数に対して他のピアプロキャラクターの曲数を合わせられるかというと、シーン全体における楽曲の総数を考えると現実問題としては難しく、ご理解いただかなくてはいけない部分もあるのですが、その上で僕らができることとして、バーチャル・シンガー全員に最低でも年間でこれだけの楽曲数は入れさせてもらいます、という宣言をさせていただきました。
そのために僕らが優先的に取り組んでいけるところとしては、まずは原曲の収録ですね。バーチャル・シンガーver.のアナザーボーカルに関しては、追加ペースをオリジナルキャラクターと同じペースになることを中長期的な目標にしています。
ただ、これは追いついていくのが少し時間がかかるので、いったん見守ってくださいというフェーズになります。でも、スピードは上げていきますので。
佐々木氏:
近藤さんが今言った、線を引いて「ここまではやります」っていうのもありますし。たとえば他社さんだとAIシンガーの可不さんみたいに、シンガーの魅力を伝えるためにいろんな方に曲を作ってもらうことをお願いして回るような、逆の方法論もあると思いますし。
『プロセカ』の登場で明らかに状況は動いていて、わりと有名なボカロPさんから「MEIKOでオリジナル曲を作りたいんだけど、相談に乗ってもらえないか」と声をかけてもらったりもしているんです。
常日頃ミクで作り続けているとなると、違うシンガーで1曲目を書こうとした時に、なかなかコツや勘が掴めない、というので二の足を踏んでしまう状況があるのかなと思うんですけど。そういったところで今、いろいろなクリエイターさんとコミュニケーションしている状況です。先ほど話題に出たカップヌードルコラボで、くじらさんがルカやMEIKOも歌う曲をお願いしているので、今後はそういった形でもバランスを取っていけるのかなと思います。
近藤氏:
あのメッセージを出す数ヵ月前からやることは決まっていたのですが、具体的に1年で何曲追加できるんだろうとか、いつから追加できるようになるんだろうみたいなことがはっきりしたので、あのタイミングでメッセージとして出させてもらった形ですね。