『FGO』の改善案をPowerPointにまとめて、TYPE-MOONのふたりにプレゼンした
──塩川さんはアメリカから日本のスクエニに戻られたあと、ディライトワークスに移るわけですよね。その時点のディライトワークスは、とんでもないピンチだったのでは? そもそもなぜ行こうと思ったのですか?
塩川氏:
一番の理由は、私がまだ『FGO』に携わる前に、ローンチ直後のタイミングでTYPE-MOONの武内崇さんと奈須きのこさんと、個人的にミーティングする機会があったんです。
その時に話をお伺いしながら、武内さんや奈須さんをはじめ、TYPE-MOONのみなさんがこのコンテンツに対して「ものすごく本気なんだ」というのを感じたのと、モノ作りに対してここまで真摯に向き合っている人たちはなかなか見つからないな、と感じていました。それで、この人たちと一緒に働きたいと思ったのが一番の理由です。
もちろん、その時点の『FGO』は課題が山積みでしたし、当時のディライトワークスは20人前後という規模感で、コンテンツも会社も先が見えない状態で、みんなが必死に課題を解決しようともがいているような状況でした。
でも、こんなに真摯にコンテンツに向き合って、クリエイティブな思いと力を持っている人たちと一緒に仕事ができる機会はそうそうないだろうなと、その最初のミーティングで直感的に思って。それで「では、どうにかします」と思ったのが最初でしたかね。
──塩川さんはいったいどういう立ち位置で、そのミーティングに参加したのですか?
塩川氏:
ディライトワークス側から「『FGO』の改善に向けてアドバイスをもらっている、塩川です」と紹介されて。
──ということは、そのミーティングの前にディライトワークス側から相談を受けていたと思うんですけど、それはどういう相談だったのですか?
塩川氏:
ディライトワークスの代表取締役である庄司さんから最初に話を聞いたのは、『FGO』がローンチする直前ぐらいでした。その後ローンチしてみると、なんだかネットであまりよくない話題として見かけるようになっていたので、「忙しそうだから声をかけないでおこう」と思って連絡は控えていました。
ローンチから1〜2週間ぐらい、ちょっと時間を空けたところで「どうですか?」と話を聞いてみたら、「ちょっと『FGO』を見てみてくれないか?」と言われたので、普通にユーザーとしてゲームをダウンロードしたんです。どう騒がれているかは気にせずに、とにかく自分の目で確かめてみようと。
そこで普通にユーザーとして遊んでみて、何が問題かとそれは何によって起きているのかの原因を第三者の視点から整理して説明したんです。それが『FGO』に関わり始めた、いちばん最初のきっかけですね。
──それで「本格的に参加してほしい」となったのは?
塩川氏:
原因が分かったとしても、それを解決できるかどうかはまた別問題ですよね。私としては「原因はこれです」と整理して伝えるまではやりました。ただそれを実際にどう解決するかという話になると、片手間でどうにかなるような話でも状況でもなく。そうこうしているうちに、「今度TYPE-MOONさんとミーティングがあるから、それに出てくれないか」という話になって。
そのミーティングで、今の『FGO』の何が問題で、それはどういう理由から起きていて、だから何をどうするべきかという話を、PowerPointで10枚ぐらいにまとめて説明したんです。
──その時点ではまだ社員でも開発スタッフでもないのに、そこから始まっているというのはスゴイですね。その時点で、塩川さんとしてはディライトワークスに入ることを決めていたのですか?
塩川氏:
いえ、まったく。「状況を分析して、説明してください」と言われたので、ある意味、依頼されて作っただけでした。
プレイヤーの心を動かす小さな改善点を地道に積み上げることで、すべてが好転していく
──この時の塩川さんのプレゼンは、いったいどういうものだったのですか?
塩川氏:
個々の問題点を洗い出した上で、それを解決していく優先順位を決めて、それをやっていくことで「徐々に守勢から攻勢に変えましょう」という話です。
当時は『ファイナルファンタジーXIV』が『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』として生まれ変わるといった話があった後で、『FGO』でも「これはもう作り直すしかないんじゃないか」みたいな空気があるのを、感じていました。
でも「ちょっと待ってくれ」と。ゲームが目指している方向性に問題があるわけではないので、それをひっくり返す必要はないので、優先順位を決めて地道によくしていきましょう、というような提案内容でした。
──具体的には、どういう優先順位で改修していったのですか?
塩川氏:
たとえば、UIやテキストといった、比較的すぐに対応ができ、得られる効果が大きいものを優先的に直していきましょう、といった話です。
バトルのバランスについては、敵の強さなどの目立つところからつい急いで調整したくなるんですが、全体とのバランスも含めて調整する必要があるので、そのぶん実装もチェックも時間がかかるんです。なので、そこは慎重に進めていこうとか。
なので、たとえ誰も声をあげていなくともすぐにやるべきこと、逆に大勢が声をあげていたとしてもすぐにはやるべきではないこと、その両方の観点から優先順位を決めていった感じです。
──UIの改善は、どんな指示を出されたんですか? 当時はスマートフォンのタイトルの開発は未経験とのことでしたが、既存のスマホゲームのUIを研究されたのですか?
塩川氏:
他のスマホゲームのUIは参考にするわけではなく、『FGO』にとって何が欠けているかやどうあるべきか、といった観点で指示を出していました。たとえば、ローンチ直後はキャラクターのアイコンには最初、レアリティの★が表示されていなかったんですけど、アイコンの下のほうに★を表示する改修をかなり最優先で行いました。
高レアリティのキャラクターを手に入れた時ってやっぱり嬉しい気持ちになると思うんですが、★が目に入りやすくすることでその実感も湧きやすく、眺めて少し楽しくなりますよね。言われれば当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、そうした細かいことを積み重ねていきました。
これは他のスマートフォンゲームがどうしているかよりも、さっきの欧米の話と同じで、人が何を面白いと感じるかということに、家庭用かスマホかの違いは関係ないんです。単純に「『FGO』にとってはこうしたほうがよいだろう」ということだけを考えながら指示しているので、他のゲームがどうしているかは気にしていませんでした。
──なるほど、たしかにそうですね。
塩川氏:
そういった小さなものからひとつひとつ、片っ端から直していきました。こうした個々の修正の話を聞いても「別に大したことやってないじゃん」と思うかもしれないですけど、これが数百個と積み重なっていくことで、ゲームがよりゲームらしくなるというか。
具体的な作業としては「UIを直した」ということでしかなくても、そこでやったことの本質は、ゲームの面白さを感じられるようにするという大事なことだったりするんです。
他の例としては、スキルの文字に関する修正などを行いました。バトル中にプレイヤーが使ったスキルを表示する文字に対して、サイズを大きくする改修を行いました。当初はスキル発動時の文字表示が非常に小さく、自分が使ったスキルがどれか分かりにくかったことや、逆に相手に使われた際はどうなるのかが分かりにくかったので、プレイヤーがスキルというものを実感しづらい状態になっていました。
作業としては文字を大きくしただけなんですけど、それによってスキルを使われた側に納得感が出るし、使う側としてはスキルを使ったことで起こる効果が明確になって、達成感が得られる。それによって「じゃあこのスキルを育てよう」とか「こんなスキル持っているキャラもいるのか」という興味や動機になるといった具合に、“文字のサイズを変えるだけ”で、いろいろな事が連動して好転していくんです。
当時優先して行ったのは、このように対症療法的にすぐやることができて、なおかつ効果が高いことが中心でした。ローンチからしばらくは開発の状況的に、大きな改修に着手できるような状況ではなかったので、小さくてもすぐに対処できることをひとつひとつ改修していきました。
こういった地道な改善を続けることで、いずれちゃんとゲームのサイクルが回り出すというのが分かってはいたので。とにかく早くゲームに実装済みの要素が正常に機能するために、そういったものを数多く直していったんです。
──そういう改修点の洗い出しは、どうやったのですか? ゲームを遊びながらリストを作っていったりしたのでしょうか。
塩川氏:
ゲームを遊んで、気になったものを片っ端からスクショを撮っていました。それでメモするというのを全部自分で、手作業でやっていましたね。
──まさに、これを数百個直していくことで、いずれ80点までになるということですよね。
塩川氏:
そうですね。
──でもそれって、めちゃくちゃ地味というか、辛抱強いことですよね。
塩川氏:
そう、地味なんです(笑)。これだけでは決して100点にはならないんですけど、でもゲームを良くするというのは、こういう地味なことの積み重ねがほとんどですから。
──この地道な作業を、ディライトワークスに入社するのを決める前に、ボランティアとしてやっていたのですか?
塩川氏:
このUIの個々の指示はさすがに、「やる」と決めてからの作業ですけど。PowerPointを使ったプレゼンの段階では、まだ「依頼を受けたので、やりました」というものでした。それを説明したミーティングを経て「よし、やろう」と心に決め、その後改めて細かくチェックしていった流れです。
開発ディレクターがゲーム以外の展開までチェックするのは、野村哲也氏に影響を受けた
──細かい改修をやっていって、その次は復活ののろしをどう上げるのか、みたいな段階になると思うんですけど。それはどういったタイミングに、どういうプロセスで考え始めたのでしょうか?
塩川氏:
それは年が変わって、2016年になってからですね。年が明けると、1年の目標を立てたくなるじゃないですか。
2015年の終わりに、「こういうところが改善されて、こういうところがまだ改善されていない」ということを改めて分析をしました。その状況を踏まえた上で2016年の頭から、攻勢に転じる空気を開発チームに対して醸成していきました。
──以前、塩川さんにお話を伺った時に、『FGO』の人気が拡大していくタイミングで、「『FGO』に対する熱量がひときわ高い人たちに向き合って開発・運営を行っていく決断をしました」という話があって、非常に驚いたんです。じつはそのお話は塩川さんだけじゃなくて、『FGO』の宣伝に携わっている、リュウズオフィスの小沼竜太さんからも聞いたことがあるのですが。
「濃いファンに向けて作る」という考え方は、マーケティングの考え方からすると矛盾というか、むしろシュリンクしていく危険もあると思うんです。でも『FGO』の場合は、それが結果的に大きく爆発する理由にもなっていた。
それはなかなかない成功事例だし、あえて大規模なプロモーションをやらなかったロジックだとか考え方は、すごく面白いなと思うんです。
塩川氏:
2016年で攻勢に転じるためには、『FGO』はどんなゲームを目指していくのかという方針を、改めて定義しなきゃいけなかったんです。その定義をする上で、「ゲーム」という言い方をしていますけど、『FGO』に限らずスマートフォンのタイトルにおいては、もはや“ゲームそのものだけがゲームとして見られているわけではない”と思うんです。
それはそのタイトルの宣伝やリアルイベント、運営など、すべて合わせてコンテンツとして見られている。だから「ゲームの方針について整理するには、ゲームの中身だけを決めればいいという話ではないだろう」と考えました。
私はもともと開発のディレクターとしてプロジェクトにジョインしたので、開発以外のことに口を出す気でいたわけではありませんでした。でも一方で、お客さんにはゲーム以外のことも含めコンテンツとして見られている現実がある中で、宣伝やイベントや運営についても、理解し研究するしかないと思いました。
そうした中で、2016年の『FGO』がどうあるべきか。ゲームを含め、運営を含め、どういうコンテンツであるべきかというのを掘り下げていったというのが、出発点としてあります。
宣伝も運営も開発も、全部が渾然一体であるならば、それを全部自分でちゃんとコントロールしなければいけないと思いました。マーケティングの側面から考えるとおかしいことかもしれないですけど、ゲームを支えてくださっているコアユーザーの方々により楽しんでいただくことを考えるのは、ゲームデザインやディレクションのロジックからすると、そうおかしい話でもないと思いました。
──でも本来であればそれは、庄司さんであったり、プロデュースサイドが考えるべき話じゃないかなと思うんです。開発ディレクターである塩川さんが、ご自身でそれをやろうと思ったきっかけみたいなものは、何かあったのですか?
塩川氏:
そうですね……。これは出来事がきっかけではなくて、自分のバックグラウンドがある意味、それを為したと思うんです。私がスクエニにいたときに、野村哲也さんのチームに属していることが多かったんですね。
そこで自分が若手時代に最初に目にしたディレクターが、『キングダム ハーツ』のディレクターである野村さんだったんです。改めて考えてみると、「野村さんがディレクターとして何をしていたか」というのが自分にすごく影響を及ぼしているように思います。
野村さんのそういう姿を見ていたので、『FGO』の時も誰かから言われるわけでもなく、「露出のタイミングはこういうふうにしたほうがいいんじゃないか」、「イベントではこういう情報の出し方をしたほうがいいんじゃないか」と、自然と口を出すようになっていたのはあるかもしれないですね。
──たとえば『ペルソナ』シリーズの橋野桂さんも、ディレクターとプロデューサーを兼ねていて、PVの内容も橋野さんがガッツリと監修していると聞きます。それは橋野さん本人からすると、「PVを見たり情報を見たりしてユーザーがワクワクするところから設計したい」という意図らしくて、それは当然そうだなと思うんですよね。
でもスマホで運営型のゲームになった時に、「オンラインゲームはパッケージのゲームとは違う」という言われ方をしていて、それはその通りだなと思う反面、足りないものもある気がしていて。
たとえば『モンスト』や『パズドラ』のイベントももちろん盛り上がるんだけど、『FGO』のイベントほど、イベントそのものがコンテンツ化している気がしないんです。『モンスト』や『パズドラ』の発表会は、普通のプロモーションとしての発表会に過ぎないんだけど、『FGO』の場合はネットの生放送や、リアルで開催されるイベントそれ自体が、ひとつのコンテンツとなっている気がしていて。この差はどこにあるんだろうと、ずっとモヤモヤしているんです。
塩川氏:
そう言われて思うのは、『Fate』というIP自体がもともと同人からスタートしていて、ファンの方々がその輪をどんどん広げていった作品だという背景が大きく関わっているのではないでしょうか。
私がディレクターをしていた時は『FGO』にもある種、『Fate』ファンの方々に強く応援していただけるような同人感の感じられる空気をちゃんと残したいというのが、想いとしてありました。それは大手や大作ではないといったネガティブな意味ではなくて、「作家性の極み」みたいな良さとしての同人感という意味なんですけど。
それはゲームの運営もそうですし、それこそリアルのイベントをやる時も「綺麗にしすぎないように」と。綺麗にやりすぎると、さっき言われたように“発表会”然としちゃうというか、ユーザーさんとの距離が生まれてしまうように感じていて。
こちらとしては発表会を催したいんじゃなくて、ゲームの新情報をユーザーさんに対して発表することもコンテンツの一部として楽しんでいただきたいんです。それが微妙なニュアンスの違いとしてあって。
だから自分が『FGO』のディレクターをやっていた際には、どこでどういう情報をどうやって出すかというのを、かなり事細かく見ていました。『Fate』というシリーズの良さは、「同人から生まれてだんだん大きくなっていった」という出自まで含めた作家性みたいなところだと思うので、『FGO』でもそのテイストはちゃんと残したいと思ったからです。
100人しか参加できないイベントで重要な情報を発表することで、結果的に大きな話題に
──『FGO』のリアルイベントをやるにあたって、普通に大きくプロモーションしようと思うのなら、それこそ導線をいっぱい作って、イベントなり生放送の番組なりを、数万人に見てもらうような設計で立ち上げるじゃないですか。でも塩川さんはむしろ逆に、すごくクローズドな発表会やイベントで情報を出していったわけですよね。
塩川氏:
100人とか200人しか入ることができない、クローズドなイベントにも出展して情報を発信することもありましたね。しかも生放送もなくて、会場にいる数百人だけしか見られないというケースも何度かありました。
──しかもイベントが開催されるのが、徳島のマチ★アソビ【※】とかですから。東京から現地に行くだけでも、かなり大変ですよね。
※マチ★アソビ
徳島県徳島市の中心部を舞台にして、毎年おもに春と秋の2回開催されている、複合エンターテインメントイベント。『空の境界』や『Fate』シリーズといったTYPE-MOON作品のトークショーや上映会などが開催されている関係もあり、『Fate/Grand Order』のイベントもゲームの開始初期から頻繁に行われている。
塩川氏:
そうですね。でもその100人、200人がTwitterでつぶやいたりして発信源になることで、結果的に大きな話題になることもありました。
イベントは東京から遠く離れた場所で行われていて、ネットで中継もされていないわけです。それで情報を聞いた現地のお客様にまず盛り上がっていただいて、その盛り上がりが現地にいない他のユーザーさんたちにも広がっていく。そしてゲームを遊んでいない人たちも「『FGO』ユーザーが騒いでいるぞ、何が起きたんだ?」と、どんどん盛り上がりが伝わっていきました。
繰り返しになりますが、ゲームの情報発信は、発表であると同時にコンテンツでもあるし、サービスでもあるので、そこまで含めて考える必要があります。
──その計算やイベントの組み立て方自体が、ゲームのディレクションそのものですよね。しかもこの話で面白いと思ったのは、口コミでバズらせてユーザーの熱量を高めていくという手法自体にはみんな関心があるんだけど、「じゃあ、それって具体的にどういうことなんですか?」というのは、じつはあんまり話されていなくて。今のお話はまさに、その実例ですよね。
塩川氏:
大々的な“発表会”をすると、逆に冷めるという心理現象があって。この「冷める」力学って、いったい何だろうと考えた時に、そのひとつとして、人はすでに広く知られているものに対して「自分がことさら言うことはないよね」と考える、というところに行き当たったんです。
では逆に、生粋のファンである方々が、クローズドな環境で、そこでしか知り得ない情報を知ったらどう思うか。みんなが知るべき貴重な情報なら、熱心なファンの方であればあるほど、「自分自身で自主的に情報を広めたい」と思って、発信してくださるのではないかと。
──もちろんそれは『Fate』のファンだからとか、いろんな文脈があった上でのことだと思うんですけど。でもそれは、なかなか実行できることではないと思うんです。
説明されると「そうだな」とは思うんですけど、少なくともその時点ではそんな成功例もないし。塩川さんの中には、明確なロジックがあったんですか?
塩川氏:
ロジックはあるけど成功事例はないし、ある意味、胆力のいる話ですよね。覚悟がないとやっぱりできないし(笑)。
徳島のマチ★アソビでは、100人ほどのお客様しか見ることができないステージで、その場に来てくださったお客様へのサプライズとして、「水着イベントで登場するキャラクター」という、1年の中でもユーザーの皆さんの関心が高い情報を発表したりしました。
そうするとユーザーさんとしては、「これは私たちの胸だけに留めてはいけない」と思っていただけたようで。イベントでは、「カメラはしまってください」とお願いしているので、発表した画像を撮影したりはできないんですけど、ユーザーさんの中にはどうにか見た目を伝えようと、その瞬間に見た記憶だけで、必死に水着の絵を模写してTwitterに投稿してくださる方もいたりして。そうやって『FGO』に対して熱心に行動してくれる方々がいてくださるのはありがたいです。
──『FGO』のブームであるとか、あるいは『FGO』の面白さとは何なのかという時に、「体験としての面白さ」が間違いなくあって。それはゲームのアプリの中だけではなくて、もうちょっと広いレンジで体験だとか、体験の価値みたいなものを捉えていて、それを実践できていたというのが、『FGO』の大きな成功の要因のひとつだったんだろうなと、すごく思うんですよね。
しかもその成功の要因には、塩川洋介さんという人がこれまでに持っていた文脈がかなり紐付いていたというのが、非常に興味深いところだと思います。
塩川さんのこれまでのキャリアについて伺ってきて、塩川さん自身が3Dのアクションにこだわりがあるということが、なんとなく理解できた気がします。
でも一方で世の中から見れば、塩川さんといえば「『FGO』の人」になってしまった。だとしたら、塩川さんの中で『FGO』に携わった体験というのはいったいどういうものだったのか、聞いてみたいと思うんです。
塩川氏:
いろいろあれども振り返っていちばん思うこととしては、「本質って大事なんだな」ということかもしれないですね。
TYPE-MOONさんにはお客さんを楽しませたい、自分たちもお客さんと一緒に楽しみたいという、すごくピュアな本質があって。それをちゃんとゲームだったり運営だったりという形に落とし込んでいくこともそうですし、自分がスマートフォンのゲームだったり、運営型タイトルの開発経験がない中で何を信じてやったかといえば、結局「人は何を面白いと思うのか」という本質を信じてやっていたんだと思います。
もっと言うと、日本以外の地域で売れている日本のスマホタイトルがなかなか出にくいなかで、『FGO』は比較的多くの地域で良い成果を上げていると思うんですけど、それも「これが好きな人に楽しんでもらおう」という姿勢だからこそで。
TYPE-MOONさんを見ていると、彼らには本当に邪念がないわけですよ。150パーセントぐらいの純度に満ちていて(笑)。そういうふうに向き合っている人たちには、そういう仲間が増えていくし、作っていくものもそうなっていくし。それがお客さんにも届いていくし、結果にも跳ね返っていくし。
私が『FGO』に携わるようになった当時、「ソシャゲはこうじゃなきゃダメだ」みたいな不文律がいっぱいありましたけど、でも人がゲームで何を面白いかと思う本質は、それとは関係がないですから。運営も、とにかくどうやったらお客さんに喜んでもらえるか、驚いてもらえるかみたいな話で。それってゲームかどうかすら、もはや関係のない話なので。
そうやって本質に向き合って、本質を貫いたことが結果につながっているということが多かったので。やっぱりそういうものの力をいちばん学びましたね。
──僕も奈須さんに何度かお話を聞いていますけど、彼が『FGO』でやりたかったこと、スマホでやりたかったことって、「『ジャンプ』の連載だとか、アニメを毎週放送するのと同じことをやりたい」ということだったんです。当時はソーシャルゲームの「運営」みたいな概念ではなくて、「来週はどうなるんだろう、ドキドキ」みたいな、もうちょっとプリミティブな想いを持ってやろうとしているなと。
奈須さん本人に初めて『FGO』のお話を伺ったのは、2014年とかですけど、いわゆるソーシャルゲームの概念では捉えていないなというのが、いちばん印象的に残っていて。まさかこんなに成功するとは思っていなかったですけど。でもたしかに『FGO』の本質は、そういうところですよね。