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ゲームディレクター・塩川洋介が振り返る、『Fate/Grand Order』の仕事。「TYPE-MOONさんを見て、ここまでモノづくりに対して本気な人たちはいないと思った」

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パブリッシャーと開発会社の間で、企画やディレクションを担っていきたい

──塩川さんのこれまでのキャリアを踏まえた上で改めて、新会社ファーレンハイト213でのゲーム作りについて伺いたいのですが。

 塩川さんは、パブリッシャーと開発会社の間にファーレンハイト213が入って、企画やディレクションを担うという構成を考えられているとのことでしたが、そういった形は近年になって増えてきているのでしょうか?

塩川氏:
 そんな気がします。というのも、ディレクションやコンセプションに対して求められることと、プロダクションに求められることは違う気がするんです。どっちが偉いとかではなくて、単純に性質が違うなかで、両方を高いレベルでやるというのが難しくなってきているのかなと。

 実現することを重視して考えすぎると「実現性しかない」みたいなコンテンツにもなりがちですし。一方で現場のことがまったく分からないと、ただ夢だけを膨らませて、でも結局形にならないみたいなことになっちゃうので。そこはそれぞれ得意なことを組み合わせていくのがいいんじゃないかと思います。

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──なるほど。とはいえ、「開発会社が自社ではない人がどうやって良いゲームを作るのか?」ということに、根本的な疑問を持つ人も多いと思うんです。

 普通だったら現場を掌握しているディレクターが開発現場を回していくわけですよね。でも一方で、ディレクターというのはすごく希有な才能で。ゲーム開発を実務として回す能力と、本当の意味でゲームデザインをディレクションする才能と、ちゃんと両方ないとダメだよねという。

 昔であればゲーム会社内部の役職と、ディレクターという職種がどうしてもセットになっていて。そうすると、役職が上がってディレクターという肩書きになったものの、結局上手くいかないとか、そういう問題も出てきますよね。ゲームクリエイターのサラリーマン的な側面と、クリエイターとしての側面をどう扱うのかという。根本的にはそういう話だと思うんです。

塩川氏:
 「開発会社の外にいる人間がディレクションをやる」というのは、もちろん簡単にできることではないと思います。でも、幸か不幸か自分がこれまで歩んできたキャリアの半分ぐらいは、そういうケースが多かったんですね。

 たとえば直近で言うと『Fate/Grand Order Arcade』というタイトルがそれです。あれはセガさんのアーケードの開発スタッフが現場でやられていて。そこに対して特にプロジェクトの最初期は、自分が外部ディレクターみたいな感じの立ち位置だったんです。やれ「ボタンは増やしちゃダメだ」とか、これはこうだ、という話をがっつり入ってやっていました。

 その中で当然、最初はお互いに「お前は何者なんだ?」という話からスタートするんです。ただまぁ、そこで「『FGO』の人が言ってるから合ってるんだ」ではなくて、「ちゃんとゲームとして理に適っていることを言っている」ということがちょっとずつ分かってもらえると、「たしかにそうです。でもスケジュールの都合が」「でもお客さんはこうでしょう?」というせめぎ合いの会話が、そこからようやく成り立つようになっていったりするんです。

 そういった難しさはあれども、私自身はこのやり方に慣れている部分があるし、何をしたら上手くいかないし、何をしたら上手くいくかもなんとなく分かるので。

──その一方で、ファーレンハイト213自体が100人、200人の社員を集めて、開発会社の役目を担うという考え方もあると思うのですが、塩川さんはどういう会社にしていきたいと思っているのですか?

塩川氏:
 5年先にどういうことを考えているかは、正直私にも分からないですけど。今は10人ぐらいの規模が適正かなと思っています。

──その10人は、内製のデザイナーやプログラマーがいるというよりは、ディレクターなりプロデューサーなりが10人集まっているというイメージですか?

塩川氏:
 100人の開発チームを回せる10人がいる、みたいな感じにはなっていくかなと思います。さっきの話でいくと、そこの10人は職種よりも「背中を預けられるかどうか」みたいなところも含めて重要になってくると思うので。

──スタジオを持ったら持ったで、それに縛られてしまう面もありますよね。100人なら100人を食わせていかないといけないですし。そうなると受託とかの比重が大きくなって、口では「オリジナルをやりたい」と言うんだけど、できなくなっていったりする難しさもあると思うんです。

塩川氏:
 たしかにそうですね。100人を抱えたら、まずはその100人をどう食わせていくか。それは5人でも10人でも同じなんですけど。そこはゲーム業界で独立して会社をやられている諸先輩方を見ていて思うところがありますね。

 まぁ、いきなり「100人の会社になります」というわけにはいかないという、現実問題もありますが。とはいえ、4〜5人でできることも限られている。なので私としては、どこかの会社さんの力をお借りできるように組んでやっていきたいと思っていますし、逆に自分が持っている知見などが活かせるパートナーシップを築ければ理想かなと思っていて。

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 ゲームを作ることは当然、いろいろな会社さんができると思うんですけど。たぶん私が貢献できることって、「もう一跳ねさせるためにはどうすればいいのか」とか、何かスパイスをかけるみみたいなことだと思うんです。
 誰かがムチャを言い出さないと、もう一歩良くはならずに普通のことで終わってしまったりします。状況によっては、ムチャが言いづらかったりもすると思うんですが、私は気にせずムチャを言えるタイプなので(笑)。スパイスをかけるということは、そういうのも含めて、底上げしたり引き上げていくってことなのかなと思っていますね。

80点の先の残り20点の部分には、ロジックを超えた「脱・予定調和」が必要だ

──先ほど伺った、初期の『FGO』をひとつひとつ改善していったお話がまさにそうだと思うのですが、塩川さんのゲーム作りの特徴は今言われた、「もう一跳ねさせるためのスパイス」にあるんだと思うんです。

塩川氏:
 100点満点のゲームのうち、80点まではロジックで組み立てられるんです。80点でも十分いい出来なので、それでもリリースはできるんです。でもその上を行こうと思ったら、ゲーム全体も、ステージひとつ、敵1体でもそうなんですけど、言うならば「何か“ギョッとするようなもの”がないとその上をいけないな」とよく言っていて。

 残り20点の部分は、ひとつの要素では構成できなくて、いろんなもので構成するんですけど。その中でいちばん大事なものを抜き出すとしたなら、自分としては「脱・予定調和」という言葉が好きで、よく使っています。

──その「脱・予定調和」のカギになるのが、“ギョッとすること”なんですね。

塩川氏:
 ギョッとするということは、ちょっとやりすぎに見えたり、あるいは好き嫌いが分かれるものだったりします。飛び出るか凹むか何かしないと、80点より上には行けないと考えているので、「どう逸脱するのか」がポイントだと自分では思っていて。これは逸脱していないなと思うと、あえて逸脱させようと崩し始めたりするんです。初見の見た目の面白さだけを優先してみたり、言葉の語感だけでこれは面白いからと入れてみたり。

 とにかくロジックを超えたものを。何か崩していかないと80点止まりのものになってしまうと思っています。80点にいくまではロジックで組み立てているんですけど、その上をいくものは、思いつきの言葉遊びかもしれないですし、禁じ手を使うとかも含めて考えたりします。

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──ギョッとするものというのは、ゲームのバランスやゲームを作るロジックからは逸脱しているんだけど、でも記憶に残ったり、感情が揺さぶられたりするわけじゃないですか。塩川さんはそういう意味で、「受け手の感情を動かす」ということに常に視点を置いていて。 それがゲームのバトルの仕様だろうが、イベントだろうが、常に相手の感情をどう動かすのかを考えていて。それがゲームの中だろうが外だろうが関係ないという視野なのかなと。

塩川氏:
 たしかにそうかもしれないですね。80点までちゃんと作らないと、「そもそも面白くないよね」で終わってしまうので、80点まではちゃんと組み立てないといけないんです。
 でも、もう一歩何かやりたくなっちゃう。そのもう一歩のところは、80点までの組み立て方とはあんまり関係ないんです。そこでロジックを飛躍した何かを入れるというのが、自分のやり方としては多いかもしれないですね。

スタッフ全員を同じ方向に向かせるために「凝縮されたキーワード」を掲げる

──マニュアルやゲームエンジンで80点まではちゃんと組み立てられるのに対して、残り20点のもう一押しになるのが、いわゆるゼロイチみたいなものだと思うのですが。

 海外との比較の話がありましたが、それでも日本はコミュニケーションロスが、海外から見ればとんでもなく低いですよね。ということは本当にゼロイチをやろうとすると、じつは日本のやり方も捨てたもんじゃないのでは、とも思うんです。

塩川氏:
 自分は大きいタイトルも小さいタイトルも、日本も海外も、家庭用もスマホも、いろんなゲーム開発を経験して、今の中で結論付いていることで言いますと。ゼロを1にする時の小規模のパワーって大事だし、一方でマスプロダクションの場合には、ディレクションもマスプロダクションのことを分かっていないと、夢は語れど着地していかない。
 ある意味両方を見てきて思うこととしては、「どう着地するかも含めた上で、少人数でゼロイチにする」。ここなんじゃないかと思っています。

 結局、コンテンツの中で何が大事なものかという指針がいろいろあると思うんですよ。ストーリーでもいいし、キャラクターでもいいし、“味”やディレクションでもいいし。そこをどうやって強固にするかというのが重要で。

──少人数でのゼロイチをマスプロダクションに着地させるには、100人なら100人のスタッフ全員を同じ方向に向かせるという作業が、まず難しいですよね。それを判断する側も迷うわけじゃないですか。作っている間に流行も変わっていくし、いろんな人に「これがいい」「あれはダメ」とかいろいろ言われて、判断者も軸を保てない中でやらなくてはならないと思うんです。

塩川氏:
 そこについては、私の中では明確なんです。必要なのは「これが大事なんです」という話の序列を明確にすることなんですね。

 人数が多かったり、いろんなバックグラウンドがあったりすると、伝わるのは本当に序列の上のほうの話だけで。だからもう小学校低学年の子に伝えるみたいに、「だいじなこと:◯◯◯」ぐらいまで削ぎ落とすんですよ。

 そうして「削ぎ落とす」ことがある意味、ディレクションの技能かもしれない。言葉でいろいろ語ることは簡単なんですけど、シンプルな概念にするにはいろんなことを凝縮しなきゃいけないし、いろんな言葉を削らなきゃいけない。自分はそこに時間をかけます。

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──でも凝縮されたワードって、見る人が見たら「なるほど」と思う一方で、分かんない人には今ひとつピンと来ないものになりそうな気もします。そこはどうなんでしょう。 

塩川氏:
 もちろん、補足として説明はするんですけど、まさにその時に思うのは、「説明」と「説得」の違いなんです。「説明」しようとすると凝縮されたワードでは足りないんですけど、「説得」するにはこのワードだけで十分なんです。

 ディレクションのように人に対して何かをお願いする立場では、「説明」の前にまず「説得」しなきゃいけないんですよ。まず相手の心を動かさないと、先に行けなくて。心を動かした上で説明があるという順番なので、「説得」には凝縮されたワードで十分なんです。そこを間違えると、言いたいことを全部詰め込んでいるけれど、何も心に響かない説明文ができあがってしまうので。

──なるほど、「説明」の前にまず「説得」ですか。

塩川氏:
 一方で、このワードでは「こいつはこれが大事だと思ってやっているんだな」という雰囲気は伝わるんだけど、よくは分からない。なぜなら「説明」はまだされていないから。それで後から、「あっ、それはこういうことなんだ」と説明を伝えたりする。

 たとえば「ワチャワチャ」というキーワードを作ったとして。「これはワチャワチャしているゲームなんです」「ワチャワチャが楽しいゲームなんです」と言われると、いろいろ想像のしようがあるじゃないですか。でも判断軸としては「これはワチャワチャしている」と言えるかどうか、自問自答してくれと。「ワチャワチャとはなんぞや?」いう定義は当然、分解していくと細かくあるんですけど、指示側としてはまずこのワードで伝えるんです。

──それぐらい簡潔なワードだと、逆に「ちゃんと考えてないのでは」とか言われたりもするじゃないですか。ちゃんと考えていないわけではなくて、あくまで順番の話なんですけど。塩川さんが他人の企画を判断する際には、そこをどのように確認するのですか?

塩川氏:
 たいていの場合は話の序列がなくて、複数の要素が並列に並んでいるんです。だからまず聞くのは「いちばん大事なのはどれ?」ということですね。「これとこれとこれで」「いや、1番はどれ?」と、序列をつけさせて。「これがやりたいなら、これを1番にしなきゃダメじゃない」という話からアジャストしていきます。

 1番を選ぶというのは、覚悟と確信が必要なんです。自分の中で「あれもやりたい、これもやりたい」だとか、「1番だけだと不安だからこれも入れたほうがいい、あれも入れたほうがいい」というのだと、1番を選べない。「これ一本でいきます」という覚悟と勇気と根拠がないと。

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──1番となる言葉選びは、それだけ大事なんですね。

塩川氏:
 それと重要なのは、「記憶に残りやすいワードにしないと忘れていっちゃうので、言われた時に“あぁ、そうだ”となるワードに絞れ」ということですね。

 そのワードをひたすら言い続けていくと、勘がいいスタッフはそのワードをヒントにしてゴールに向かうものを上げてくる。そういう人に目星をつけてどんどん仕事を振ると、自分でやる仕事が減るから、やりたいことに集中できる仕組みを作っていける。そういうことですね。

──おぉ、なるほど。

塩川氏:
 あとは「華」ですね。言葉にしてもアイデアにしても「華」があるかどうかにこだわるんです。「華」とはなんなんだろう? というのはちょっと難しいですけど……。

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──違う言葉で言うと「面白さ」とか「ワクワクする」とかですか?

塩川氏:
 そうですねぇ……。今自社で作っているゲームにキャッチコピー的なものがあって。それは「運命さえ■■■する、アールピージー。」というんです。■■■の部分はまだ秘密なんですけど(笑)。

 これを聞いても、どんな内容なのかよく分かんないですよね。その通りのままでは何も作れないんですけど、でも何かを指し示していることは分かるはずです。そういうことなんです、私のやることは。

 「何言ってるんだ、こいつ」とスタッフには思われるわけですよ。このキーワードを伝えた上で、「でもやることはこういうことなんです」と。これが説得と説明の差、みたいなことですね。

──それにしても、そこまで凝縮したワードにするんですね。

塩川氏:
 自分の中では、「凝縮」というよりも「濾(こ)す」イメージなんですよね。薄めてもダメだし、少なくしたいわけじゃないんだけど、でも量的には減らしたい。

──なるほど、そう言われてみるとさっきのワードも、ちゃんと「漉されてる」感じがしますね。この感じって企画を立てるときの一番のポイントなんだけど、これにピンと来るのも才能だったりバックボーンの知識だったり、いろんなものが必要で。
 でもそれを「才能」という言葉で済ませるのもよくないな、と思っているんです。分かる人からすれば自明だと思うんですけど、これが分かる・分からないとか、感じる・感じないことの違いって何だろうなと。

塩川氏:
 難しいですね。べつにキャッチコピーを考えているわけではないし。

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──企画会議でも、こういったコンセプトとかワーディングの話になると、大喜利みたいになりがちじゃないですか(笑)。といってもべつに大喜利をしたいわけでもないし、さっき言われたようにキャッチコピーを考えているわけでもない。でもさっきのように凝縮されたワードには、ちゃんと情報量と意味がある。

塩川氏:
 自分がやる意味においては、お客さんに向けてというより作るメンバーたちに向けて、柱というか「旗になるかどうか」という基準でやっているんです。だからキャッチコピーではないんです。旗になるために必要なものは盛り込むんだけど、長くもできないので、ニュアンスで詰め込むしかない。

 自分自身がそうだとは思わないんだけど、こういう部分が作家性といわれる部分につながってくるのかなと。作っているものに対する作品観が強くなればなるほど、「てにをは」ひとつにも色が乗っかってくるのかなと。そこで当然、ワーディング自体にも深みを感じられるようになるんだと思います。

自分の「好き」を全力で詰め込んだゲームを作り続けていきたい

──改めて整理すると。塩川さんが独立してまでやりたいのは、「ゲームを作り続けたい」ということですね?

塩川氏:
 自分がいちばん楽しいのはゲーム開発のディレクションをやっている時なので、仕事という意味ではそこにこだわってやっていきたいと思っています。今、プロトタイプ開発をやっているものもありますが、そうした生み出す作業をしている時がいちばん楽しいですね。それは社長としてどうなんだ、というのはあるんですけど(笑)。

──でもゲーム会社の社長って、自分が作りたいものを作るため、やりたいことをやるために社長になるわけじゃないですか。だけど、実際にそれをやれている人って意外と少数派だと思うんですよ。しかもそれは決してラクではなさそうだなと。そういう意味では塩川さんも、茨の道を行くんですね。

塩川氏:
 そうですね、ラクではまったくないでしょうね。魂を削らないとできないことだと思いますから。

 自分はまだ魂を削られてはいないですけど、まずは好きを詰め込もうと思っています。全部のプロジェクトがそうなんですけど、もちろんアクションが好きなので、それが軸にありつつ、やっぱりそれぞれのプロジェクトで、とにかく好きを詰め込もうと。「好きこそものの上手なれ」と、昔の人は良いことを言うなぁと思います。

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 それは裏を返せば個人制作みたいじゃん、って話かもしれないですけど。でも世の中のいろんなコンテンツの色が薄くなってきているとも思うので、善し悪しはあれども、個の好きを全力で詰め込みましたというものでもいいんじゃないかなって、一周回って思いますね。

──でも塩川さんは、インディーで満足するわけではないですよね。メジャーのフィールドで戦うことを捨ててはいないと思うのですが、どうでしょう?

塩川氏:
 インディー規模の知見がそこまで豊富ではないですけど、メジャーというかマスに向けたコンテンツでは、『キングダム ハーツ』から『FGO』まで、いろいろなジャンルに携わらせてもらってきましたから。そういう意味では、ニッチなものを拾い上げて、それをどうやって爆発させるか、なのかなと思います。それが結果、メジャーにつながっていくというか。

 私自身は、何をしたらニッチなものをメジャーに感じてもらえるかは、なんとなく肌感で分かっている部分があるんですけど。ただ、私ひとりができていてもどうしようもないので。
 100人の開発チームでやるんだったら、開発チームもそうだしパブリッシャーさんも含めて、ニッチなものをメジャーに感じさせることをどう伝播させていくか。そこもけっこう勝負の分かれ目なのかな、という気がしますね。

──大きな会社でプロジェクトを通そうとすると、どうしても説明がつくものになってしまう。なぜなら合理的である必要があって、説明できる人がいるから。そうなるとニッチなものや未知のものは、基本的にそこに乗っからなくなってしまう。大きな会社でモノが動かないのは、この構造によるものが大きいと思うんです。

塩川氏:
 「説明しやすいもののほうが通りやすい」というのは、まさにその通りだと思います。でもそのやり方で勝てるのは「倍の物量にしました」とか、そういう戦い方になっちゃいますよね。それはそれで、そっちに張れる人がやればいいと思うんです。

 ダメな理由を探し始めたらいくらでも出てくるんです。多くの場合、お金を出す側はそういうジャッジをしがちで。でもそれは、石ころに向かって「なんだこの石ころは」というのを蕩々と言ってるだけなので、正直新しい何かが生まれるような話ではないというか。石ころの中からダイヤを見抜くのが、ジャッジする側にも問われる話ですよね。

 『キングダム ハーツ』をやっていた時も、当時のゲーム業界での実績として「ディズニーだから売れる」という、そんな簡単な状況ではありませんでした。でも当時のプロデューサーやディレクターはその中から価値を見出して、良さを上手く活かしていった。

 『Fate』なんかもまさにそうですよね。すでに多くのファンを獲得していたけれど、さらに多くの人に伝わる可能性を秘めていて、表現や内容を工夫することで、より大きく広がっていくんだという。自分のゲーム開発者人生の中で、そういうことを何度か実体験させてもらったのは、幸せなことだと思っていて。今後もそういうことができればいいなと思っています。(了)

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 多くのゲームファンにとって、塩川洋介氏といえば「『FGO』の人」というイメージが強い。それは塩川氏自身が一時期、『FGO』の開発・運営を代表する人物として、意識的にユーザーの前に姿を見せて、自ら情報発信を行ってきたからでもある。サービス初期の不具合が多かった時期からそうしたスタンスを採ってきただけに、ある意味、『FGO』のユーザーからは誤解を受けやすい立場だったとも言えるだろう。

 だが、今回のインタビューで詳しく語っていただいたように、塩川氏自身は若手時代から『キングダム ハーツ』や『ディシディア ファイナルファンタジー』といった人気タイトルの主力スタッフとして活躍し、日本と海外双方のゲーム開発現場を知る、非常に経験豊富なゲームクリエイターだ。
 だからこそ『FGO』を現在のような成功へと導くことができたとも言える。しかしその一方で、塩川氏自身も「好きだ」と語っている3Dアクションゲームをはじめとして、塩川氏が活躍できる舞台はこのゲーム業界にまだまだいくらでもあるはずだ。

 その意味で、自身が代表取締役を務める「ファーレンハイト213」は、塩川氏がゲームディレクターとしての実力を十二分に発揮できる場となり得るだろう。ここで塩川氏がどんな新しいゲームを生み出すのか、今から楽しみに待ちたい。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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