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「桜井政博のゲーム作るには」は非常に低い確率が何層も重ならないと実現できないチャンネルだった──桜井さんに直接聞いた、YouTubeを始めたわけ、動画制作の手順、まだ誰も気づいていない動画内の秘密

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電子書籍は6000冊!?桜井氏の膨大なインプット量と審美眼に迫る

──ここからはYouTubeを始め、時代に合わせて新しいことに挑戦する桜井さんの「審美眼」のようなものについてお聞きできればと思います。
 桜井さんと言えば、「エアロバイクを漕ぎながらテレビを見つつゲームをする」【※4】など、インプット量の多さもすごいと思っていて。年間で凄まじい数のゲームを購入されていると思うのですが、いまでも変わらずインプットは続けていらっしゃるのでしょうか?

桜井氏:
 変わらず続けています。最近(インタビュー実施日時:2022年11月24日)だと、『ソニックフロンティア』『ベヨネッタ3』『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』などはクリアしました。

※4「エアロバイクを漕ぎながらテレビを見つつゲームをする」
桜井さんの生活スタイルとして有名なのが、この「エアロバイクを漕ぎながらテレビを見つつゲームを遊ぶ」スタイル。「ゲームしながら運動のすすめ」でより詳しく語られているため、気になった方は必見。

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「ゲームしながら運動のすすめ【雑談】」より

──いやいや、すでにおかしいです(笑)。カジュアルゲームではなく、発売されたばかりの重量級タイトルを3本もクリアしているとは……。

桜井氏:
 とくに『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は大変だったなぁ~(笑)。

 いまは『タクティクスオウガ リボーン』からいくか、それとも『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』からいくか、「どっちも時間かかりそうだなぁ……」と悩んでいます。そのあいだにインディー系のゲームをちょこちょこ触る感じですかね。

 決して『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』の開発が終わったから暇になって一日中遊んでいるとかではないです。それぞれのゲームを日々ちょっとずつ進めてるから、ボリュームのあるタイトルを進めるのは大変ですね。 

 インプット量の話だと、自分の中で「時間が大事」だと思っているのは間違いなくあります。生き急いでいるのかも?

 「ずっとこのゲームを遊び続けているわけにはいかないから、とりあえずどんどん進めよう」、「こうやってプレイしたらもっと面白そうだけど、そろそろ見切りをつけなきゃ」といったように、つねに時間を考え、あきらめながらゲームを遊んでいるところはあると思います。

──インプット量の話に続く形になるのですが、以前桜井さんは自身のTwitterアカウントで「冨樫義博展 -PUZZLE-」に行かれたことを報告していました。マンガに関しても、ゲームと同じくらい読まれていらっしゃるのでしょうか?

桜井氏:
 マンガも読みますね。電子書籍に何冊入っていたかな? 6000……? それ以上は入っていますね。

──ろ、6000もですか!? 最近だと「ジャンプ+」のように毎日更新されるWebマンガも増えていると思うのですが、桜井さんは更新されたらその日のうちにすぐ読まれるスタイルだったりするのでしょうか?

桜井氏:
 いえ、週刊などでマンガを追うと、内容を忘れてしまいますね(笑)。毎週少しずつ読むよりは、単行本でまとめて読むほうが好きですね。

──1巻ずつ読まれるスタイルなんですね。

桜井氏:
 でも、単行本で追ってても、昔読んだものは忘れちゃうんですよ。だから一度読んだものを読み返すことも多いです。

 新刊もある程度はオートで購入したり、見かけたものを買ったりするんですけど、内容を忘れてしまった作品を全巻読み直すこともあります。

 最近だと、『七つの大罪』を読み直しました。全部で41巻あってなかなか大変でしたが、より作品の理解は深まりました。

──マンガに関しても、ゲームなどと同じエアロバイクを漕ぎながら読むスタイルなのでしょうか?

桜井氏:
 いえ。マンガを読む時間は「寝る前」だけです。

 ベッドの上に寝転がると、吊り下がっている形でiPadがあるので、手元のトラックボールでページをめくりながら寝落ちするまでマンガを読みますね。寝る直前まで楽しんでいるということですが(笑)。

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桜井氏の実際のベッド環境がこちら。寝る前はここでマンガを読んでいるそうです。なんと素敵な環境!

──(笑)。いや、あえて突っ込みますが、環境が完璧すぎます(笑)。この流れでお聞きしたいのですが、桜井さんが普段欠かさず持ち歩いているものなどはあるのでしょうか?

桜井氏:
 えーっと、第一に家の鍵ですね(笑)。

 基本的にはスマホと財布と家の鍵、クルマの鍵……あとはハンカチとかです。割と身軽ですね。今回のインタビューで使用しているこのタブレット【※5】も、久々に出してきたものです。

※5「タブレット」
今回のインタビューで桜井氏は自分のタブレットに動画のサムネイルなどを表示しつつお話をしてくれていた。

──たとえば外出中ですとか、普段の日常生活の中でアイデアが湧いてきたときにメモを取ったりはしないのでしょうか。

桜井氏:
 しないですね。ゲームを遊んでいる最中も同じく、基本的にメモはしません。

 だからといって、全部が頭の中に記憶されているのかというと全然そうではありません。先ほどの「マンガの内容を忘れてしまう」ことと同じですね。

 ただ、時折ヘンなことを覚えていたりします。何年に何が出ていたとか、年代に基づくものはそのときの記憶とともに覚えていたりとか。

──これまでのお話の中で出た桜井さんのインプット量の多さについてもそうなのですが、単刀直入に「どうすれば“桜井政博”という人間に近付けるのか」とお聞きしたくて(笑)。

桜井氏:

 え~……変な質問ですね!(笑)。それでは手始めに、19歳のころに『星のカービィ』並の企画書を書いていただいて……。

──(笑)。いやいやいやいや、それはムリです。質問が悪かったですね(笑)。

桜井氏:
 それはともかく、私の発想法や考え方、あるいは私が作ったゲームの意図などは「桜井政博のゲーム作るには」で赤裸々に語っているので、強いて言えばこの番組を見るのがいちばんの近道なんじゃないかと思います。こんなによい教材、ないですよ!

 とは言え、ゲームの制作者がプレイ中に意識されすぎてしまうのは、単純な「ゲームの面白さ」に対してはあまり良くないことかもしれません。「ファンタジーが薄れる」なんて言っていますけれども。しかし、ゲーム業界全体やゲーム作りの観点からは、制作に対してある程度の意識があったほうが明らかに良いと思います。

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「ゲームに与える賞【雑談】」より

──「審美眼」というよりも「観察眼」の話になってしまいますが、「ジャンプのしくみ」で、「『ストリートファイターⅡ』『ストリートファイターⅡターボ』ではザンギエフのスクリューパイルドライバーの落下速度が違う」ことに桜井さんが触れられているのを見たときに、「どうしてこういう細かいところに気がつけるのだろう?」と感じました。この観察眼の鋭さは桜井さんがゲーム開発に携わっているからこそ、養われていったものなのでしょうか?

桜井氏:
 ここも、私が当たり前だと思っているところで……。
 見ればわかるでしょう!

──そ、そうですかねえ? (笑)

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「ジャンプのしくみ【仕様】」より

桜井氏:
 さまざまな工夫は、いろんなゲームが画面上で雄弁に語ってくれています。が、なかなか気がつかないこともわかります……。でも自分にとっては自明のことなので、わざわざ番組でお話して面白がってくれるのだろうか、と不安に思うこともあります。

 「やり過ぎてちょうどよい」の回で、『バーチャファイター』のラウなどがスピンキックを使うときに腰が180度近くひねられている……ということは、私は最初に見たときからわかっていました。でも、『バーチャファイター』を長年遊んでいた人が「あんなにたくさん遊んだのに、まったく気がついていませんでした……」と話していました。

 もしかしたら、私は動体視力が少し良いほうなのかもしれません。開発をしているとき、1フレームのモーション壊れや色違いなどのミスを私が指摘しても、目の前で見ているスタッフがぜんぜんわからないことがあります。

 たとえば、「パンチをするときに1フレームだけ肘が変な方向に曲がっている」、「カービィのストーン能力の最後の1フレームだけ色違いが出ている」などを指摘し、映像で見せても、スタッフは「えっ……?」と困惑し、わからないという反応が返ってきたりしています。スローで見せてはじめて納得してもらったり。

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「やり過ぎてちょうどよい【モーション】」

 もちろん、逆に私自身が気付いていなくて、ほかのディレクターやプレイヤーの方が気付いているパターンもあると思います。それぞれの観点を出し合ってゲームを分解したり、お互いの意見を見聞きするのはやっぱり面白いことですよね。

 仮にYouTubeなどでゲーム制作などの番組がより広がるのであれば、いろんな専門家のとがった知見が、さまざまな方向で披露されることで、いろんな気づきをもたらしてくれるのがベストですね。

「なんでも説明して補強しない」桜井さんが考えるいまの情報の広がり方

──昨今、YouTubeなどの動画サイトやSNSも含め、「ゲームの情報の出し方と受け取られ方」が大きく変わってきたように感じます。桜井さんは現在、「情報を発信するメディア」としてYouTubeを利用されているわけですが、「現在のゲームの情報の広がり方や伝わり方」をどのように捉えられていますか?

桜井氏:
 少なくとも「自分が制作をしたもの」に限って言うのであれば、その都度考えるしかないと思います。

 私は短い期間でゲームを出し続けているわけではないし、「そのときに効果的な手は何なのか」ということを考えていくしかありません。また、私は自分の会社を持っているわけではないので、基本的にそのときのパブリッシャーの手腕や方向性に委ねられることにもなると思います。だけど、そのパブリッシャーに対して私が有効な提案をすることはできますし、その辺りも臨機応変に考えていければと思っています。

 それとは少しズレた話になってしまうんですが……何だか「最近の世界は生きにくい」と感じているんですよね。

──それは……具体的にどういった部分で感じているのでしょうか?

桜井氏:
 ものすごく噛み砕いて端的に言うと、「人が人を攻撃しすぎている」と思います。

 いまのインターネットやメディアは、相互理解もないままに自分が不快だと思うものに対して遠慮なく攻撃を行う傾向が強すぎるんじゃないかと感じています。当然、ゲームを発信する側もどんどん不利になっていくと思います。発信者は出したものに対して責任を負いますが、攻撃側はそうではないですから。

 ゲームだけではなく、「何かを発信する人」は当然その攻撃を受けるリスクにさらされてしまいます。もちろん、このチャンネルなども例外ではないですね。ひと昔前のように何も考えず楽しいことを発信できる世界ではなくなってきていると感じます。そして、いろいろなコンテンツが窮屈になっていきますよね。

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桜井氏:
 このことを問題には感じていますけど、私が変えられるようなことでもなければ、これから改善の兆しが見えてくる性質のものではありません。

 そういう世界であることを理解したうえでうまく立ち回る必要があるから、いまの世界でゲーム制作者や何かを発信する人はかなりのハンデを背負っているのではないかと思います。

 この世界がこれからも続くのかと考えると、「先が暗いなあ」と思います。

──発信する側がリスクや攻撃にさらされやすい世界になってきていることは、よくわかります。一方で、桜井さんが番組などで表に立ってしゃべっているときは、イチ視聴者の目線から見ても、情報伝達が正確かつ細かい配慮が行き届いていると感じます。桜井さんは、自身から情報を発信する際に気をつけていることなどはあるのでしょうか?

桜井氏:
 私がしゃべる内容や配慮について、じつはそんなに厳しくいろいろなことを考えているわけではないです。

 とくに「桜井政博のゲーム作るには」のような番組の場合は、「スピード感」がとても大事です。おそらく、最初の原稿などは、想像されるよりも早く、あっさりと書き上げてしまいます。用意した原稿にあれこれ添削をしている時間がないので、最初の段階からスピーディーに決めてしまいます。

 もちろん、あとになって「ここの部分は言葉が足りなかった」、「誤解を受けてしまった」と思う部分もあるのですが、そういったリスクヘッジや防衛線を張りすぎてしまうと3~4分だったはずの動画が10分近くに伸びてしまいます。しかも、つまらない話ばかりの10分になりかねない。

 先ほどの攻撃を受けやすい話も含めて、制作側は予防線を張りすぎる傾向にあります。ストーリー運びも、矛盾が無いようにと説明過多になってしまったり。

 それをあえて省略し、骨組み主体でストレートにまとめているから、当番組はスピーディーに終わっています。なんでも説明して補強することはよいことではないので、割り切って進めているということです。

 つまり、情報伝達に細かい配慮が行き届いているわけではない、ということですね。

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「このチャンネルについて」より

桜井氏:
 でも、動画にツッコミのコメントが書かれていたときは「それはただ言っていないだけなんだけどなぁ……」と思ったりもします(笑)。

 しっかり説明したい気持ちもあるし、反論もあるのですけど、それはグッとこらえ、スピーディに進めることを至上としています。

 「昔は昔、いまはいま」の回では、どうも海外の人に誤解を受けているような気がします。単純に昔のゲームといまのゲームの比較をして良いの悪いの言ってしまうとか。「マイクロトランザクションがあるからいまのゲームはダメだ!!」とか。

 いや……選択の自由はあるでしょう。いまのゲームも昔のゲームも、AAAゲームも昔風のインディーゲームも自由に選んで楽しめるのが現在だから、好みに合わせていろいろ楽しむのがいいよ、というのが筋なのですが。選択肢は現在が一番多いですからね。日本のコメントではそういう傾向は無かったので、翻訳を介した伝わりかたの問題なのかもしれません。

 いずれにせよ作る側としては、制作後に何を思っても仕方がないし、それを気にしすぎて歩みを遅くするようなことはしたくないですね。考え過ぎると、番組を作れなくなってしまうと思います。

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「昔は昔 いまはいま【雑談】」より

桜井さんが他のコンテンツに出演する時の「判断基準」とは?

──これは個人的な意見ですが、「わしゃがなTV」にゲスト出演されているときの桜井さんはすごく楽しそうで、大好きなんですよね(笑)。
 桜井さんはほかにも野田クリスタルさんとSpotifyのラジオ番組で共演されるなど、ご自身のチャンネルだけでなく多くのコンテンツにゲスト出演されていますが、何か明確な狙いなどはあったりするのでしょうか?

桜井氏:
 「わしゃがなTV」は本当に遊びで参加している感じですね(笑)。

 自分の番組以外のコンテンツへのゲスト出演についてですが、必ずしもすべての要望にお応えしているというわけではありません。じつは、お断りする案件も結構あったりします。

 判断基準としては、「自分がここにゲスト出演するのはアリかナシか」とか「お友達だしなぁ~」など、その都度ゆるく決められています(笑)。

──人との「縁」を大切にされているのですね。

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「【祝1周年】マフィア梶田と中村悠一の「わしゃ生」#13【ゲスト:桜井政博】」より

桜井氏:
 私が出演依頼を受けるにあたり、ちょっと依頼者にご迷惑をおかけしているのは、「有限会社ソラへのアクセス方法がわからない」ことですね。

 公開用のソラのメールアドレスもないし、Twitterのダイレクトメッセージも送れない。私のもとにやってくる案件は、コラムを連載していた週刊ファミ通の編集部を伝ってやってくることもあります。

──意図的に「窓口をシャットダウンしている」というわけではないのですよね?

桜井氏:

 そうではありません。しかし、もしもインフォの窓口を開設してしまうと、いろいろなところから闇雲に案件や依頼などが来てしまうような気がしています。

 なんならその窓口にスパム登録されそうですし(笑)。

 有限会社ソラは大手ではないので、わざわざネットワークの管理者を設けるのもなかなか難しいです。ただ、知り合いの伝手を辿って依頼がやってくる現状も、それはそれで面白いかなと思っています。

桜井さんの趣味の「ドライブ」と「ふくらし」についてお聞きしちゃうコーナー

──『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』を作り終えて、桜井さんにはゆっくりしてほしい……と思っていました。ところがすぐにYouTubeチャンネルを開設されて「またすごいことを始めてる!」と感じていたのですが、休まれてますか?

桜井氏:
 自分も休みたいとは思っていますよ(笑)。

──(笑)。

桜井氏:
 といっても、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』を制作していたころよりかは、明らかにいまのほうが楽なんですけどね。

 本当は「日本一周旅行にクルマで出かけたい」とかいろいろ思ってるんですけど……家にふくらしがいるからなあ(笑)。

──ねこちゃん(ふくらし)をクルマで連れていくのは大変ですもんね……。

桜井氏:
 ふくらしを家にずっと置きっぱなしにするのも良くないですし、「ご飯を自動で出るようにする」、「排泄物の処理を誰かに任せる」などの外出中の対策を講じたとしても、ちょっと不安です。

 最近、ふくらしはやたらと寂しがるんですよねぇ……。

──あら。ふくらしさんはいま何歳でしたっけ?

桜井氏:
 今年で14歳くらいですね。

 ちょっと私が家を空けて戻ってくるだけでも寂しがってすりすりしてくるし、仕事中に部屋に入ってきて何かせがんでくるし、風呂上りにもせがんでくるし……(笑)。

 今朝はまだ寝ているときにカーテンをガラガラして気を引いていました。「老い先短い」と言うとなんですけど、そんなときに私が何日も家を空けてふくらしを寂しがらせてしまうのは、気が引けるなぁ……と思っています。

──か、かわいい!(笑)

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──先ほどの「クルマで出かけたい」の話に戻りますけど、桜井さんはドライブがお好きでしたね。

桜井氏:
 好きですね。ぶらぶらする感じで300キロくらいのドライブになったりするんですけど、本当に「ただ走って」終わるだけですね。

 完全に何の目的もなくドライブに行きます。ご飯を食べるところが見つからなくて、コンビニで買ったものを車内で適当にほおばることもあります(笑)。

──にしても、300キロをぶらっとはなかなかだと思います(笑)。

桜井氏:
 高速道路を走って、下道を走って……とにかく無目的でドライブして終わります。
 
 「それはそれで人生がもったいなくない?」と、一瞬思ったりもしますけど(笑)。

──普段が激務の桜井さんだからこそ、ドライブをするときは「ドライブのモード」に切り替えてリラックスできるということなんでしょうかね。

桜井氏:
 うーん……でも、私もふつうの人と同じくドライブ中は雑多なことを考えていたりします。

 もちろん番組のこととか、ほかの仕事のこと、趣味のこと、これからのこと……。そうやって、「何かを考えられる時間を持っている」ということも大事なんでしょうね。

──ドライブの最中にどこかに寄ったりとかはされるのでしょうか?

桜井氏:
 コロナ禍になる前は、「温泉を見つけたら寄る」という目的でドライブをしていたりもしたんですが、最近はやっぱりただ走っているだけですね。

──桜井さんが乗りたいクルマの選定基準などはあるのでしょうか? いや、単純に桜井さんがどんなクルマを選ばれるのかが気になりまして……。

桜井氏:
 一応、いろんなスーパーカーに試乗してみたことはあるんですが……車体が大きく大排気量で高出力なクルマは、正直「自分には合わないかな」と感じました。将来もずっとそうであるのかはわかりませんけれど。

 私がいちばん最初に乗っていたのは、”ビート”という軽自動車でした。低出力を何とか配分しながら、キュッキュと走るのが好きです。ブランドに依存するようなミーハーさは、あまりないと思います。

──桜井さんが運転するときに望まれる部分は「乗りやすさ、手応え」だったりするのでしょうか?

桜井氏:
 いまは「アルピーヌA110」という車に乗っているのですが、「手足がしっかり届いている」という印象が強くて、路面とクルマがしっかり繋がっている感覚があるところが気に入っています。

 いまは「A110 GT」にグレードアップしたのですが……。
 わざわざ同じ車種にしたのは、代わりがないからですね。

──「代わりがない」と言いますと?

桜井氏:
 「より良質なフィーリング」のあるクルマがなかなか見つからないんですよね。

 しばらくアルピーヌから離れられないなぁ……と思います。でも、もうちょっといろいろなクルマに試乗して、自分に合った車を見つけたいと感じています。余談でしたね(笑)。

──ゲーム業界や桜井さんの周囲に「クルマ好き」の方はいらっしゃるのでしょうか。ひと昔前の方々はクルマ好きな方が多かった印象があったので。

桜井氏:
 吉田直樹さん【※6】は、BRZとWRXに乗られているようです。

 「今度ドライブに行きましょう」と約束していたのですが、BRZのレリーズベアリングが壊れたそうでお預けになってしまいました。

※6「吉田直樹」
『ファイナルファンタジー XIV』のプロデューサー兼ディレクター、『ファイナルファンタジー XVl』のプロデューサーとしてお馴染みの吉田直樹氏。

──15年、20年くらい前だとゲーム業界人の間にもクルマブームが起きていたような記憶があります。

桜井氏:
 私が在籍していたころの、かつてのHAL研究所の駐車場も面白かったんですよね。思い思いの国産スポーツ系のクルマがズラッと並んでいて、「何シャルDだよ……」と思っていました(笑)。

──(笑)。

桜井氏:
 昔は、いまほどスポーツカーが高価なものではなかったというのもあるとは思います。そういえば、HAL研究所は昇仙峡【※7】に結構近いんですよね。

 それとは別に、この前個人的に山梨に車で訪れた際に、昇仙峡を深夜ドライブするのがとても楽しくて気がついたら2周くらいしていました(笑)。

 誰もいない中、ひとりで昇仙峡を走るのは素晴らしい。ハル研在籍時代も、しばしば流していました。

※7「昇仙峡」
山梨県甲府市にある渓谷。観光スポットやドライブコースとしても有名。

──ドライブでリフレッシュなされている部分もあると思いますが、やっぱり桜井さんには体を休めていただきたいな……と思います。

桜井氏:
 とは言っても、『スマブラSP』の制作期間も現在も、休日はちゃんと休んでいますからね。

 ダウンロードコンテンツの制作のときも、そこまで矢継ぎ早に仕事があったわけではありませんでした。たとえば、開発の終盤ではグラフィックスやプログラムの仕事が終わり、私の「監修の数」も必然的に減ってくるので、時間のゆとりは生まれました。

 ただどの道、開発中はすぐにスタッフに応答するための待機状態だから出かけてしまうわけにもいかず、そんなに変わらないんですが……そのゆとりを無駄にせず有効活用することも含め、「時間のかけ方」などを自分でちゃんと考えなければいけないと思っていますが、やはり椅子に座っている時間は長いですね。

 何しろ私はいま元気ですが、その元気がいつ失われるかわからないので、時間は大切にしたいです。

──桜井さんは一時期、腱鞘炎などに悩まされていたと思うのですが、いまは回復されたのでしょうか?

桜井氏:
 腱鞘炎やドライアイの症状は今もなくはないんですが、それでも現在は比較的健康だと思います。

──全世界のゲーマーたちが桜井さんには長生きしてほしいと願っていると思いますし、これからも何かしらの新しいエンタメや楽しいことを生み出してくれるんだろうな……という勝手な期待を寄せてしまいます。

桜井氏:
 乗りかかれば、何かしらはやるんじゃないかなと思います。

 いまやっている「桜井政博のゲーム作るには」の番組制作も新しいことですから、やっぱり私も新鮮で楽しいです。

「桜井政博のゲーム作るには」で、まだ誰も気づいていない衝撃のルール

──最後になりますが、桜井さんがYouTubeを開始してからの活動を振り返ってみての率直な感想などをお聞かせいただければと思います。

桜井氏:
 最初に余談ですが、私の番組の「あまり視聴者の方が気付かれていないこと」について、ひとつお話しできればと思います。じつは……動画内の私が着ている服は動画のカテゴリーによって統一されています。

 私のチャンネルはカテゴリーごとに再生リストを用意しているので、実際に見ていただければわかりやすいと思うのですが、「このカテゴリーはこの服」というルールがひとつずつ決まっています。少なくとも、このインタビューを受けた本日時点では誰も気がついていなかったようです(笑)。

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「素材を描かず、光を描く【グラフィック】」より
「桜井政博のゲーム作るには」は非常に低い確率が何層も重ならないと実現できないチャンネルだった_044
「判定のあるものを強調する【グラフィック】」より

──おぉ! 着ている服にも法則性があったんですね!! 私もまったく気がつきませんでした(笑)。

桜井氏:
 「毎回コロコロ服が変わっている」と感じた方もいるとは思うのですが、アップする動画のカテゴリーが連続しないだけで、ちゃんと法則性があります(笑)。

 感想としては……。とりあえず、ゲーム作りとは全く異なることに取り組んでいるわけですが、新しいことはやはり楽しいです。楽しむことこそ物事を続けるコツだと思うので、今後も頑張って進めたいと思います。

 最後に、「桜井政博のゲーム作るには」は、とにかく総合的にゲームに関するいろいろなものを扱っていくチャンネルになりますので、「ここで紹介していることはどのジャンルに含まれるのか」ということを踏まえながら見ていただけると、より入りやすいかなと思います。

 おさらいですが、非常にまれな可能性で成り立つ、希少なチャンネルです。が、収益が無いので、YouTubeのおすすめにも上がりにくいと思います。そして、いつ終わるかわかりません。リアルタイムで観られるのはいまだけ。なので、すぐにでもチャンネル登録してください!(了)


 桜井氏の番組作りへの姿勢や、具体的な制作方法をお聞きした今回のインタビュー、いかがだっただろうか。

 インタビュー冒頭で語られたように、「桜井政博のゲーム作るには」は、非常に低い確率が何層も重ならないと実現できないチャンネルだ。ある意味「奇跡」と言えるチャンネルだろう。それが無料で見られるわけなのだから、この記事をきっかけに「桜井政博のゲーム作るには」の動画を視聴し、自身への糧としてくれる人がひとりでも増えてもらえれば幸いだ。

 「番組の制作はある意味『終活』でもある」と語った桜井氏。「桜井政博のゲーム作るには」が、公開から何年経った後も、時代を問わず参考になるアーカイブとして残り続けるのは間違いないが、やはりひとりのファンとしては、桜井氏が新たなゲームを制作することを期待せずにはいられない。

 そして、またしても筆者個人の感想となってしまい申し訳ないのだが、学生のころに見ていた「Nintendo Directに出てくる何かすごい人の桜井さん」がそのまま目の前にいたため、いまだに今回のインタビューが現実であったのかどうかが、筆者の中では定かではない。

 そう思ってしまうくらい、番組から受ける理路整然とした印象の桜井氏が、直接目の前でお話をしていた。読者のみなさんも、桜井氏の考え方や理論などを通して、筆者が目の前で感じた「桜井氏のすごさ」を堪能していただけたのであれば幸いだ。

 番組制作者としても、ゲーム開発者としても、今後も変わらず桜井氏の活動を楽しみにしていきたい。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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