プライベートの時間を捧げ、ときに睡眠時間も削り、まるで第2の人生のような体験を謳歌する。いわゆる「オンラインゲーム」と呼ばれるものに熱狂したゲーマーは少なくないだろう。
しかし、現代はコンテンツに溢れる時代だ。日々、数多くのゲームがリリースされ、YouTubeやTikTokには数えきれないほどの動画が投稿され続けている。サブスクに入れば、映画にドラマにアニメにと選り取り見取りである。
そんな現代においては、オンラインゲームで「まるで第2の人生のように謳歌するプレイヤー」も希少な存在になりつつあるように思う。
そんななか、2023年6月14日にリリースされたオンラインRPG『ブループロトコル』(以下、『ブルプロ』)からは、「昔ながらのオンラインゲーム」の雰囲気を感じられる。
いったいこれがなぜなのか……? 開発陣はとくに『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)による影響を公言しているが、どのような体験が、本作の「昔ながらのオンラインゲーム」らしい雰囲気に繋がっているのだろうか。
今回、電ファミニコゲーマーでは、『ブルプロ』エグゼクティブプロデューサーの下岡聡吉氏、プロデューサーの鈴木貴宏氏、ディレクターの福﨑恵介氏の3名にインタビューを実施【※】。
※インタビュー実施日は2024年6月上旬。
彼らの「オンラインゲームの原体験」をお伺いするとともに、そのおもしろさを『ブルプロ』でどう表現しようとしているのか。さらに、リリースから1年の歩みを振り返ってもらいつつ、今後の展望についてもお聞きした。
その根底には、開発陣がオンラインゲームで体験してきた「人と遊ぶ楽しさ」を、今の世代のプレイヤーたちに味わってもらいたい、という思いがあった。
聞き手/TAITAI、Leyvan
編集/竹中プレジデント
撮影/佐々木秀二
8時間かけて「ジュノ」に向かう。『FFXI』での強烈な原体験
──『ブルプロ』で印象的なのが、「オンラインゲームらしさ」や「オンラインゲームのおもしろさ」のようなものを今のプレイヤーたちに伝えようとしている点です。
開発チームのみなさんはいわゆる「古のオンラインゲーム」、とくに『FFXI』からの影響を公言されています。まずはそのころの印象に残っている楽しかった思い出や、強烈な体験についてお聞かせいただけないでしょうか。
下岡聡吉氏(以下、下岡氏):
僕は『FFXI』で、ゲーム内で知り合った友人と、「ジュノ」【※】に向かうふたり旅をしたことが記憶に残っています。
ゲームの物語的にはまだ「ジュノ」という言葉も出ていない進捗でした。ふたりともレベルが低くて弱くて。覚えたての透明になり敵に発見されにくくなる「インビジ」と、音を消し敵に発見されにくくなる「スニーク」をお互いかけあって、ジュノを目指して旅をしました。
何度も戦闘不能になりながらだったので、8時間くらいかかったんですが……ジュノに到着したときの達成感がめちゃくちゃあったんです。
※ジュノ大公国……『FF11』に登場する世界“ヴァナ・ディール”の中央に位置する国家。
──8時間もかけてですか!? すごい……。
下岡氏:
その人との友情みたいなものはその後もずっと続いて、ふたりで「パール」(装備することで仲間同士でチャットができるようになる)も作りました。
その後少しずつ仲間が増えて、すごく仲のいい友人グループができました。攻略をするわけでもなく、ストーリーをクリアしたり、行ったことのないところに挑戦するみたいにゆっくり楽しむだけだったんですが、その彼らとの交流がすごくよかったんですよね。しかもすごいのが、その中の人同士でリアルに結婚されたんですよ。
──それはすごいですね!
下岡氏:
仲間の結婚式に招待されて「『ファイナルファンタジー』の友だちです」って紹介してもらったんです。席には僕のキャラの写真があって……すごくない?
鈴木貴宏氏(以下、鈴木氏):
すごいですよそれ。自分たちの出会いをすごく大事にしている。
下岡氏:
……思わず泣いたね。これって中身が人じゃなかったら起きなかったわけじゃないですか。近い将来、人間のようなAIが生まれる可能性はありますが、少なくともこの段階で人間に代わるNPCはいない。
接する相手が人間だからこそ感じられる楽しさというのは、オンラインゲームの原体験として強く記憶に残っていますね。
──鈴木さんはいかがでしょうか?「FF」に限らず、オンラインゲームの原体験みたいなものは。
鈴木氏:
僕もやっぱり『FFXI』が一番ハマりこみました。PS版の先行廃人だったので、攻略本を作る人とか、メディアさんといっしょにプレイしてたんですよ。当時はSNSも普及していなくて、掲示板などの情報も嘘か本当かわからないという、手探りの状態でした。
どこにも確実な正解が載ってないし、説明書に書いてあることがないということもあったので、自分たちのコミュニティの中で探さなければいけないっていうところが、めちゃくちゃおもしろかったですね。
──時代を感じますね(笑)。今ではなかなか得難い体験です。
鈴木氏:
そんななか出会った仲間たちと闇の王の城にたどりついた時の感激だったり、そのあとの戦闘メンバーに選ばれなかった悔しさだったり……そういう感情も含めて楽しかったですね。
──福﨑さんもやはり『FFXI』をプレイされていたのでしょうか?
福﨑恵介氏(以下、福﨑氏):
はい。僕は『FFXI』がリリースされてから3、4ヵ月後に始めたんですが、初日に死にかけているところをとある人に助けてもらって、そこからふたりでパーティを組んで4時間くらい冒険をしていました。
──まさにオンラインRPGらしい出会いかたですね。偶然の出来事から仲良くなって一緒に冒険するというのは。
福﨑氏:
でも、その人とはフレンドにはなったんですが、それ以降はほとんど一緒に遊んでいないんですよ。
普段から連絡を取り合うわけでもなく、街で通りすがりに会ったりはするんですが、挨拶して、ちょっと近況を話して別れて、みたいな関係でした。
ただそれでも一番最初にフレンド登録した人っていうのが、ずっと心に残っていて。最初に助けてもらった、少し一緒に冒険しただけなんですけど、その人たちとなんとなく繋がりつづける感覚みたいなものが、ゲーム体験としてすごくよかったんです。
下岡氏:
一番最初の同級生みたいな関係だ。
福﨑氏:
オンラインRPGってプレイ時間や遊ぶスパンも長いから、「プチ」人生みたいですよね。すれ違いざまに「おっ、お互い強くなってるな」という距離感で、それぞれの経験がちょっとずつ交わるというか。
──最初に遊んだ時の体験が特別に感じられるというのも、経験者には「あるある」かもしれませんね。
福﨑氏:
もうひとつ、これは下岡さんの体験と近いんですけど、所属しているグループのサブリーダーだった時に、30人くらいで「ジュノまで行こうぜツアー」をやったんですよ。
初めて「ジュノ」に行く人たちを、経験者の人たちが周りで守ってあげながら、徒歩で旅をする。はぐれそうな人がいたら声をかけたり、敵に襲われている人がいたら助けてあげたりと、そういうコミュニケーションがすごく楽しかったです。
──福﨑さんもやはり、人との出会いとか交流みたいなものが印象的だったんですね。
福﨑氏:
こういうイベントって、ゲームとしてレベルデザインされた遊びではないじゃないですか。
お互い助け合ったり、それに対して「恩返しをしよう」みたいな気持ちは、普通のゲームやNPCでは絶対起きないので。人とやっているからこその経験として凄く心に残っています。
下岡氏:
オンラインRPGやMMOは、息の長い付き合いや、感情のやりとりができるジャンルですよね。
「自分が助けてもらったから恩返ししよう」みたいな気持ちって、リアルの人生でも起こることで。そんな、人にしてあげたことが自分にも返ってくるような、ある種の人生っぽさとか居心地の良さみたいなものは、長く付き合っていくゲーム特有のものだなと思っています。
機能的ではない「無駄なところ」がMMOらしい雰囲気を作っている
──『ブルプロ』の世界、街を設計していくにあたって、MMOらしさについてどのように意識されたのでしょう。
福﨑氏:
開発の初期段階で「そもそもMMOってなんだろう」や「MOとMMOの違いってなんだろう」といった点については、かなり議論しました。もともと、MOかMMOは規模の違いでしかない。本来はゲームのジャンルではないじゃないですか。
どの要素をもってMOなのか、MMOなのか。とにかくみんなの考えをバーっと書き出したんです。そこで出てきたのがチャンネル制かサーバー制かという観点でした。プレイヤーによってチャンネル【※】が作られて時間が動き出すのがMOで、プレイヤーに関係なく時間が流れているのがMMOだと。
その議論を経て、『ブルプロ』の全体的な作りとしては「MOにMMO的なコミュニケーションができる空間を入れこむ」形をとりました。
※チャンネル:サーバー内にある小分けされた部屋という意味で使われるオンラインゲームの用語。
鈴木氏:
ありましたね。その話をしていたとき、フィールドをもっとMO的にする案も出ましたよね。パーティを組んで出撃することでフィールドに行ける、という。
福﨑氏:
そうそう。アステルリーズをロビー型の街にしようという案もあったんですよ。
──ロビー型というと、パーティを組むための機能に特化した形でしょうか?
下岡氏:
そうですね。ロビーの中で自動的にマッチングが行われて、街から出た先でメンバーが合流する形式でした。
ただその形だと、ミッションのためにやることが明確になりすぎてしまうというのがあって。街でちょっと話しかけたり、すれ違った時に近況を聞いたりみたいな気分にはなりづらいんですよね。
──みんながミッションの支度に夢中で、準備ができたらさっさと街を出ていく感じになってしまいますね。
下岡氏:
僕たちとしては、ひとりでレイドに向かっていたら、自然と同じ目的の人が集まってきて……「いつの間にかたくさん人がいる!」といった体験をしてもらいたい。そういう思いから今の形になったというのはあると思います。
実際、アステルリーズの街では、ワープポイントの近くだけじゃなく、街のいたるところに人だかりができています。教会の周辺にも人がいますし、闘技場の前にも人がいます。
福﨑氏:
でも、アステルリーズの街が今のような雰囲気になったのは、どちらかというとプレイヤーさんの尽力のほうが大きいんじゃないかなという気はします。
ゲームのプレイサイクルだけを考えると、アステルリーズの街は準備をするだけの場所であっても全然構わないんですよ。そこにわざわざ滞在してコミュニケーションをとるような雰囲気になったのは、クローズドテストのときからプレイヤーさんたちが、実際に喋ったり踊ったりするような場として使っていたからなんじゃないかなぁ、と。
──戦闘の準備だけを行うロビー的な雰囲気になっていた可能性も十分あったと。
福﨑氏:
もちろん、グラフィック的な良さだったり、街の作りといった技術的な要素がその雰囲気に寄与している部分もあるでしょうけど、滞在したくなるようなフックを意識して置いたかというと、とくにはそうしていないんです。
ただ、無意識的なところで「そういう街の雰囲気」が頭の中にあったのかもしれません。ミッションの準備のための場所としてなら、本当はもっと機能的であっていいはずなのですが……アステルリーズの街ってべつに機能的じゃないですしね(笑)。
鈴木氏:
アステルリーズの街は使いたい(行きたい)施設がそれぞれ離れていますからね。機能を追及するなら、極論を言えば「すべてをメニュー画面に入れておけば良い」になっちゃいますから……。
福﨑氏:
そういった「無駄なところ」が雰囲気を作っているところはあるかもしれませんね。開発メンバーのいろいろな「こういうのがよかったよね」というエッセンスが入っているんじゃないかなと。