『VRな彼女』でも繰り返される、ゲーム内容をイメージしやすいタイトル名であるがゆえの四苦八苦
──山口さんが『VRカノジョ』に衝撃を受けたというお話がありましたが、『VRカノジョ』を知るきっかけはなんだったんでしょうか。『Vカツ』でILLUSIONさんと絡みがあったことですか?
山口氏:
いえ、一番最初の接点は2018年に開催された「VRクリエイティブアワード」です。その年における優秀なVR作品を決めるコンテストなのですが、そのノミネート作品の中に『VRカノジョ』がありまして、それを通して知った形でした。
ちなみにノミネート作品には『バーチャルキャスト』もありまして。大鶴さんには申し訳ないんですが、結果的に『バーチャルキャスト』は最優秀賞を獲りました……(笑)。
大鶴氏:
『VRカノジョ』はノミネートこそしたのですが、残念ながら賞を獲るまでには至りませんでした。オブラートに包みながら言いますと、「アダルト系はちょっと……」という色々な理由があったんです……(笑)。
──な、なるほど。色々ご苦労があったんですね……。
大鶴氏:
ありました……。元々、あのようなアワードの予備審査を通れたこと自体、すごいことなんですけど、やっぱり題材的に厳しいものがあって。某イベントも『VRカノジョ』で出展しようとしたら、「来るな!」って言われたりもしました(笑)。
──そ、そんなことが……。
大鶴氏:
最終的には色んな方々のご協力をいただきまして、件のイベントには出展することができたんですけど、やっぱり一般の表に出すのは難しいというのが多々ありましたね。
──念のためお聞きしておきたいのですが、『VRな彼女』はアダルトゲームではないということでしょうか……?
山口氏:
その問いに対しては「前作と同等」とお答えするようにしています。……大切なことなのでもう一度言いますと、「前作と同等」です(笑)。そもそも、前作はSteamで一般販売されたんですね。なので、絶対に「アダルトとは言い切らない」と誓っているんです。
──露出と言いますか、宣伝が難しくなってしまうんでしょうかね……?
山口氏:
そうですね。名は伏せますが、あるところに「『VRカノジョ』の精神的続編を作ります!」と言ったら、「弊社は公序良俗に反することは許容していません!それを証明してください」と回答されて。それで「いやいやいや!これは一般で売るゲームで、アダルトゲームではないんです!」と必死でお答えして……。
──そんなひと悶着が……。
大鶴氏:
作っていた側にはその実感がなかったんですけど、『VRカノジョ』というタイトルで「あ、あれなんだな」というリアクションをいただく方が結構いらっしゃるんですね。普通、ゲームの名前を出して、それがどんな内容かってよほど有名なタイトルでなければ分からないじゃないですか。
『VRカノジョ』は大手さんが出しているゲームでもなければ、Steamでは売っているものの、コンシューマーゲーム機で出しているタイトルでもありません。なので、そのようなリアクションをいただくことはないものだと思っていたんです。
けど、今回の『VRな彼女』を作って、名前を出したことでそういったリアクションをいただき、あらためて「先入観を持たれているんだな」と思いました。
──「そういうゲームなんだな?」と思われてしまうんですね。難しい面もありますが、逆に言うと『VRカノジョ』というタイトルは、ゲームの内容をとても想像しやすい名称だなと、いま思いました。私も『VRカノジョ』が出た当時、タイトルを目にして「あ、VRで女の子とイチャイチャできるんだな」ってイメージしたことがありましたので(笑)。
大鶴氏:
それはそうですね(笑)。まさにズバリその通りなタイトルを当時、付けられたなとは思いますね。
──その『VRカノジョ』って、海外展開はどれぐらいされていたんでしょうか。
大鶴氏:
発売当時は日本国内のみで、Steamでは販売していなかったんです。ただ、アジア圏のユーザーさんから「Steamでも売って欲しい!」という声がありまして、そこからまた四苦八苦があったんですけど(笑)、出すことになりました。
それから6~7年ですかね、売り上げの大半が海外メインになりました。最終的にはベスト3として日本、北米、中国の3ヶ国が入っています。
──逆に言うと今回の『VRな彼女』は最初からSteamで、それも全世界販売ということですよね?なにかそれを踏まえたプロモーションとかは考えられているんですか?
大鶴氏:
考え……たいんですけどね(苦笑)。なかなか難しいところがあって。
山口氏:
先ほどお話した『VRカノジョ』のアワードやイベント出展の時みたいなことが、今でもあるんですよ。ある海外の会社さんと、和気あいあいな感じでやり取りしていた中、タイトルと内容を出したら途端にシャットアウトして、いくらメールを送っても返事がこないといったようなことが……。
──そ、それはなんとも露骨な……。
山口氏:
なので、今の時点では「部分的には頑張ります」ぐらいしか言えないんです。
ただ、そういうことがありながら、『VRカノジョ』の海外売上は好調という、よく分からない状況になっているんですよね。それ以上の追求はしないでおきますけど……世界は不思議です(笑)。
あと、実はクラウドファンディングをするCAMPFIREさんも、最初は「公序良俗に反するプロダクトはダメです!」って言われたことがあったんですよ(笑)。その時も「いや、これは一般向けに作るものですので!」って返したことがありました。
──本当にいろんなところで四苦八苦されているんですね……。
大鶴氏:
まあ、その大変さは前職の時に骨身に染みて味わってきていますので……。
でも、このようなコンテンツを出してもそこまで無下にされないと言いますか、Steamで発売できたというのは本当に大きかったですね。VRのおかげにも近いのかな、と思います。
──確かにVRでやっていると、作品自体の魅力が必要なのはもちろんですが、それにプラスアルファして「なんか新しいことをやっているから面白そう」という風に見られるのかもしれませんね。
大鶴氏:
タイトルの方向性とかもあるんでしょうね。でも「純粋に女の子と会いたいことの何が悪いんだ!」っていう(笑)。
受け継がれし“イリュージョニズム”とはズバリ「やりたいことをやる!」
──今回、発表を見させていただいた時に一番気になったのが、ヒロインである夕陽さくらの顔が出ていないことだったのですが、あれはなにか戦略があって出していないのでしょうか。
大鶴氏:
はい、そうなります。あれはティザーイメージですので、キャラクターはしっかり盛り上がる場所で、盛り上がるタイミングで出せればいいなと思い、今の時点では顔を出さないようにしています。
──最初に発表があったのが2024年の6月ごろでしたよね。あの発表の時、ファンの方々……特に『VRカノジョ』のユーザーの皆さんからの面白い反響とかはありましたか?
大鶴氏:
前職のILLUSIONが解散した後でしたので、「復活するのか!」みたいなリアクションはいただきました。残念ながら、今回のプロジェクトはILLUSIONを復活させるというものではないのですけど、ILLUSION時代に培った“イリュージョニズム”を継承できればと思っています。
ILLUSIONが無くなって『VRカノジョ』は終わったと思っていたユーザーさんから「新しい『VRカノジョ』みたいなコンテンツが今後、出てくるのか!?」と、期待していただいたのは印象的でしたね。
──イリュージョニズムですか……。大鶴さんにとっては、それはつまりどのようなものなのでしょうか。
大鶴氏:
ずばり「やりたいことをやる!」ですね(笑)。まあ、『VRな彼女』についてはやりたいことというのがある程度、方向性として決まってしまっているのですが、「VR空間内で女の子と出会える」というのが一番のテーマです。
今まではゲームに登場させても見るぐらいだったんですが、VRであれば「出会う」という体験が味わえます。なので、VRで女の子と出会えるコンテンツというものを作っていきたい。そこをイリュージョニズムにしていきたいなと思っています。
──なるほど……。山口さんは大鶴さんを見ていて、イリュージョニズム的なものを感じられますか?
山口氏:
女の子のキャラクターを作ることへのこだわりがすごいですね。自分から見ると「これで十分では?」と思うのですが、顎のラインを調整した方がいいとかのやり取りがあって。その修正前・修正後を見比べてみても、素人目の僕からすると、どこがどのように変わったのかが全然わからない(笑)。
けど、修正したことによって「良くなった」と作っている側は感じているらしくて、その辺にイリュージョニズムと言いますか、すごさを感じます。僕からしたら「ああ、そうなんだ……」みたいになっちゃうんですが(笑)。なんとなく違和感みたいなものはあるんですけどね。
──先ほどの匂いもそうでしたが、そのレベルまでキャラクターの作り込みにこだわっていらっしゃるんですね。
山口氏:
そうです(笑)。
──ちなみにイルミネーションさんに大鶴さん以外の元イリュージョンのスタッフの方というのは入っていらっしゃるのでしょうか。
大鶴氏:
直接入っているのは私だけになるのですが、外部の協力スタッフとして元イリュージョンの3Dモデラーが参加していただいています。
──なるほど。人数は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。
山口氏:
開発メンバーの規模はプログラマー、デザイナー、プランナー合わせて今、20名ほどとなっています。最初はこれほど大規模になることは考えていなかったのですが、プロジェクトの進行に伴って「あれもやりたい」「これもやりたい」という要望が増えていきまして、今の規模になりました。
作業環境はメンバーの所在地が分散していまして、ほぼリモート環境での作業となっています。雑談をしたり、ビジュアルが完成したらその動画やイメージを共有したりと、和気あいあいとした雰囲気の中で進めています。
大鶴氏:
率直に言って、『VRカノジョ』の時の開発規模を越えています(笑)。この規模での開発というのは、私自身にとっても初めての体験ですね。
山口氏:
そうなんですよ。それで予想以上にプロジェクトが拡大したのもあり、多くの機能やコンテンツを追加するための資金が必要になりまして、CAMPFIREさんのクラウドファンディングを活用することを決めました。これは9月2日から開始する予定です。【※】
プロジェクトを始めたころは内部予算で賄える範囲で開発を進めていたんですけど、追加のアイディアを入れたり、クオリティを向上させるとなりますと、内部予算だけでは難しいということになりました。なので、支援者の皆さんからのご支援を受けることで、より魅力的な作品に仕上げてお届けしたいと考えています。
※インタビューの実施は8月中ごろ