FPSとホラーに偏りがちなVRゲームの現状で、日本の強みである“可愛い”が突破口になる!?
──話題は前作『VRカノジョ』が出た頃のことに戻るのですが、当時はそんなに売れる自信というのはなかったんですか?
大鶴氏:
いいものを作っている、作りたいものを作っているという自信はありましたね。でも売ることについては不安があって、3000本出れば御の字だろうという思いでした。その3000本という目標を1ヶ月で達成してしまって、その時は「マジっすか!?」となりました。最初はSteamではなく、自社ブランドの通信販売としての供給でしたので。
それでSteamで出してみると、最終的に何十倍もの数が出たんです。その時には「やっぱりVRってすごいな」って実感しましたね。それは5~6年前のことですが、今では単純的なユーザー数はそのとき以上に増えていて、市場が小さいという訳でもなくなっている。まだまだ、チャンスはいっぱいあるな……みたいなことを思っています。
──確かに大手のメーカーさんが軒並みVRに来ている状況ではありませんからね。
大鶴氏:
今後の市場が発展するかも、すべてはコンテンツがあってこそだと思います。なので、その辺のコンテンツがどんどん増えていくことが一番大事だと思いますし、そうであって欲しいですね。
──コンテンツに関して、今のVR界隈を見て、御二方はどのようなことを感じられていますでしょうか。人は増えているかもしれないけど、まだ苦戦しているというのが現状であるように考えているのですが。
大鶴氏:
いわゆるメタバース的なところに関しては、『VRChat』が非常に盛り上がっているように思います。その一方で、VRゲームは国産のタイトルがなかなか増えていかないんですよね。その勢いが衰えるとこの先、国産のVRゲームが無くなってしまう可能性もあると思います。
もちろん、今も頑張っている会社さんはいらっしゃるので、そこには引き続き頑張っていただきたいのですが、他社さんにもどんどんVRゲームに参入していただけると嬉しいですよね、私たちもですが、国産のVRゲームメーカーとして、世界にVRゲームを売っていくことを広げていきたいです。
なんというか、海外のVRゲームはガンアクション(FPS)とホラーばかりで、ものすごく偏っちゃっているんですよね。私からすると「そんなに人を撃ちたいのか?」と(笑)。そうではなくてもっと違ったもの、可愛いものとか、そういうコンテンツを作れるのは日本のVRゲームの強みじゃないのかなと思うんです。
──確かにカワイイに関しては、日本が先進国かもしれません(笑)。山口さんは最近のVR界隈をご覧になっていて、どのようなことを思われているのでしょうか。
山口氏:
なんと言いますか、VR=『VRChat』とか、メタバースみたいな印象が最近は強いですよね。それを見ていて、「他にもいろいろコンテンツがあるんだから、みんな遊ぼうよ」という気持ちがあります。
まあ、VRでマネタイズするのって本当に大変で、自分自身もきついことを痛感しているんですが、VRは面白いんだよと伝えたい。そして、日本固有のコンテンツやプロダクトを作って、世界にどんどん発信できればという気持ちです。
──逆に今後、VRコンテンツはどんな風に発展していくと考えているのかも伺ってみたいのですが……。
大鶴氏:
これは予測というよりは願望に近いんですが、先ほどあった『8番出口』のような有名なIPがVR化されて売れるという流れができて欲しいですね。これがVRの展望に限らず、ゲーム業界の幅を広げていく意味でも重要じゃないのかなと考えています。特に大手さんは素晴らしいIPをいっぱい持っていますから、それをどんどんVR化して、VR市場の発展に寄与していただけたら嬉しく思いますね。
反面、VRはコンテンツとしてはまだまだ市場に広がっていませんので、個人開発者や小規模な開発チームの方々が挑戦しやすいプラットフォームになるのではないかと思います。『VRカノジョ』もそうですが、自社内部で「これ、売れるの?」って出す前に言われたんです。実際、私自身も不安だったんですけど、出してみたら「こんなにユーザーさんが居るんだ!」と、ビックリ仰天なことになりました。
なのでアメリカンドリームじゃないですが、VRドリームって結構あるんじゃないのかと思います。これから大型IPではない、小規模なタイトルもどんどん作られ、市場に出てくれたらなと、そういう願望がありますね。
山口氏:
最終的にはヘッドマウントディスプレイが小型軽量化して、普通に眼鏡をかける感じで楽しめるという、『レディプレイヤー1』みたいな世界になることを信じて、僕はVRをやっております(笑)。
なんと言いますか、環境が変わる感じです。今はパソコンのディスプレイを通す形ですけど、こういうインタビューや打ち合わせも、眼鏡をかけるだけですぐにできてしまう世界ですね。そういう願望があります。ただ、『レディプレイヤー1』の世界って一社独占ですから、現実的じゃないかなとも思うのですが(笑)。
一同:
(笑)。
山口氏:
バーチャルキャスト時代にも、一社独占じゃなければ難しいことを思い知らされたことが何度もありましたので。けど、その辺の課題がクリアされ、あのような世界ができるといいなと思いますね。
ILLUMINATIONがILLUSIONのライバルとなれる日を目指して
──『VRな彼女』の開発状況はどのような感じなのでしょうか。
大鶴氏:
実は今の開発メンバーには、今まで美少女ゲームを作ったことがある方がほとんどいらっしゃらないんです。それもあって、最初は手探りから始まりまして、それなりの時間を要したんですが、今はだいぶこなれてきました。それにゲームの方向性とやりたいことは決まっていますので、これから発売に向けて、ラストスパートに入っていくことになると思います。
──今回の『VRな彼女』で、一番ユーザーさんに見ていただきたいポイントというのはありますか。
大鶴氏:
やはり、夕陽さくらというヒロインをディスプレイではなく、VRで見て欲しいというところです。今後、夕陽さくらの顔や動いているところなどがディスプレイ越しに出てきますが、それだけで終わらずにVRでも見て欲しい。
私たち作っている側としても、同じキャラクターでありながら、ディスプレイ越しとVRでは全然違って見えるんです。その違いをぜひ、実際に見て欲しいなと思います。
──お話を聞いていて、普通のゲームの3Dモデルと、VRゲームの3Dモデルは制作面でも違いが生まれてくるように感じたのですが、実際にそのようなものがあるのでしょうか。
大鶴氏:
ありますね。普通のゲームの場合、開発者が見せたい部分を見せるんですけど、それは逆に言えば、見せたくないものは見えない、ユーザーさんも見ることができないんですね。ただ、VRはユーザーさんが自由に行動でき、見ることができてしまいます。
上を見れば上が見えますし、下を見れば下が見えます。つまり隠す場所、死角がないんですね。キャラクターに限って言えば、肌の質感といったディティールをしっかり付けてあげないと、粗さが目立ってしまうんです。そういうところは気を遣ってやっています。そこがVRでの表現における一番難しいところであると同時に醍醐味ではありますね。
──序盤のお話に戻ると、「どこでも見られる」という自由度を担保する必要があるんですね。
大鶴氏:
そうです。極端な話、ふつうのゲームであればプレイヤー自身の背中側って存在しなくていいですよね。でも、VRはふっと振り向くことができますから、基本的に360度作っておかなくてはならない。その辺が難しくもあり、VRの楽しさとして繋がる部分ですので、重要だと思っています。
──あと今回の『VRな彼女』の制作に当たって、影響を受けている作品とかはあるのでしょうか。先ほど『サマーレッスン』のお話がチラッと出ましたが。
大鶴氏:
それについては前作の『VRカノジョ』です。精神的な後継作品と名乗っていますが、スタッフには前作のメンバーがほとんどおらず、技術的な知識もない中でゼロから作り上げているんですね。根本的な部分では違っているので、どちらかと言えば続編というよりは、リブートの意味合いが強いコンテンツになっているんです。けど、やりたいことは前作の『VRカノジョ』と同じ感じなんです。
──まさに「やりたいことをやる」というイリュージョニズムも継承されている、と。
大鶴氏:
なかなか他にこのようなVRの美少女ゲームを作られている方々っていらっしゃらないんですよね。作りたいと思っている人はいっぱいいると思うんですけど、なかなか出てこない。どうしてなのだろう、と思うんですね。
Steamでは『VRカノジョ』が3~4年、VRジャンル内のトップ10に入ったんですけど、それ以外のトップ9には同じようなゲームがほとんどありませんから。大体、ガンアクションかホラーで、偏っているんですよね。
──確かに意外とVR美少女ゲームって少ないですよね。わりとVRというデバイスから思いつきやすいジャンルだとは思うんですが、実際に作るところまで行く方々があまりいらっしゃらないのかなと。コスト的にすごく重いから、という訳でもなさそうなんですよね。
大鶴氏:
これはVRに限りませんが、ゲームにおいて可愛いとか綺麗という表現は意外に難しいんですよね。逆に汚い表現は簡単なので、そこのハードルの高さもあるのかなと思います。
──そういうのはやはり、これまで培ったノウハウが必要になってくるんですね。ちなみに以前の『VRカノジョ』のインタビューで、「ILLUSIONのライバルが見つかるといいね」と仰っていましたが、その後、ライバルは見つかったのでしょうか。
大鶴氏:
いやぁ……今のところはないです。ただ、おこがましいですが、現在のILLUMINATIONがILLUSIONのライバルになれればとは思います。将来的に「ILLUSIONを超えた」と言われるようになると嬉しいですね。