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公序良俗に反するのはダメ!──『VRカノジョ』の精神的後継作『VRな彼女』が向き合っている、ド直球タイトルゆえの四苦八苦とは? ILLUSIONの意思を受け継ぎ、VR×美少女の可能性に賭ける男たちの夢と苦悩を聞いてきた

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『VRカノジョ』というタイトルから想像されるものとは──? それは、文字通り「VR空間内で女の子とコミュニケーションを取るゲーム」という内容だろう。

ド直球のネーミングなので、思い起こすのは簡単……かもしれないが、実はそれ自体がけっこうスゴいことである。なぜなら、タイトル名だけでゲームの中身が浮かんでしまうのだから。そのようなことができるゲームと言えば、コンシューマーゲーム機で展開され、大ヒットしたことで世間的な知名度を得たものがほとんどだ。

だが、『VRカノジョ』はPC限定かつ、まだ日本国内ではメジャーとは言い切れない「VR専用」のゲームでもある。そんな背景がありながら、聞いた瞬間に中身が想像できるというのは本当にすごいことで、いかにゲームとして強いタイトル名であるかを実感させられる。

しかし、内容が内容だけに、実際に“売る”ためにはさまざまな四苦八苦があったと、当時、ILLUSION(イリュージョン)で『VRカノジョ』の開発を主導した大鶴尚之氏は語る。

『VRな彼女』インタビュー:『VRカノジョ』後継作が向き合う、ド直球タイトルゆえの四苦八苦とは?_001

そして、その後継作品として制作中の『VRな彼女』もまた、似たような苦労の数々に見舞われているようだ。例えば、R18のアダルトゲームと思いこまれて他社からの連絡が途絶えてしまったり、「公序良俗に反するのはダメです!」と言われてしまったり……。直球でインパクトあるネーミングだからこそ、こうした反応も生まれてしまうのかもしれない。

※ちなみに、筆者自身も気になったので「オトナ向けじゃないんですか?」とお聞きしてみたところ、「VRカノジョと同様の表現を予定しています」とのお返事であった。これがどういう意味か、紳士淑女の皆様にはお分かりいただけるだろう。

それでも『VRな彼女』のスタッフたちは、ILLUSIONから継承せし「やりたいことをやる!」のイリュージョニズムを掲げ、タイトル名に相応しいゲーム体験を追求するため隅々までこだわりながら、日夜制作に取り組んでいる。その背景には「『VRカノジョ』ファンに“恩返し”したい」という想いもあるという。

とは言え、ゲームの詳細からヒロインの容姿まで、未だ秘密のヴェールに包まれたままの『VRな彼女』。前身に当たる『VRカノジョ』とは、どういったところが違うのか?何をコンセプトにしているのか?そして、なぜ今回もVRなのか?

今回は『VRな彼女』の制作真っただ中にあるILLUMINATION(イルミネーション)株式会社で代表取締役社長を務める山口直樹氏、そしてILLUMINATION株式会社の副社長で『VRカノジョ』の元プロデューサー・大鶴尚之氏に、気になるそのゲームの内容から、VRゲームに対する思いについて迫った。

『VRな彼女』インタビュー:『VRカノジョ』後継作が向き合う、ド直球タイトルゆえの四苦八苦とは?_002
写真左から大鶴尚之氏、山口直樹氏

取材・編集/久田晴


ILLUSIONの解散は「青天の霹靂」だった

──本日はよろしくお願いいたします。まず、おふたりの自己紹介からお聞かせいただけますでしょうか。

山口直樹氏(以下、山口氏):
ILLUMINATION株式会社の山口直樹です。VTuberの黎明期から「みゅみゅ」というハンドルネームで活動していまして、当時は株式会社バーチャルキャストのCVO(チーフバーチャルオフィサー)をやっていました。

昨年、バーチャルキャストから退職しまして、新たにILLUMINATION株式会社を立ち上げ、現在は代表取締役社長をやっています。

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山口氏の「みゅみゅ」アイコン

大鶴尚之(以下、大鶴氏):
ILLUMINATION株式会社の副社長をしている大鶴尚之です。「ゆなゆな」というハンドルネームで活動しています。

前職は『VRカノジョ』を作ったILLUSIONというブランドのゲーム会社で働いていました。現在はILLUMINATIONで、今回の『VRな彼女』のプロデューサーをさせていただいています。

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大鶴氏の「ゆなゆな」アイコン

──ILLUSIONさんと言いますと、2023年8月に開発・販売の終了を発表され、ファンや業界関係者も含めて騒然となった記憶があります。おふたりは当時、発表をご覧になってどのように感じられたのでしょうか。

山口氏:
率直に「そんなバカな!?」ってなりましたね。会社としても、儲かっていないみたいな話は聞かなかったんですよ。作品を出せばバンバン売れてて、解散に繋がる要素自体が無かったですし。それがまさかの解散ですから、本当に当時は「そんなバカな!?」でした。

大鶴氏:
みんな青天の霹靂だったと思います。当時、中に居た開発者も含めて、あのような出来事になるとは思いもしませんでしたから。

──ショックを受けていたファンの方も、多くいらっしゃる様子でした。

大鶴氏:
元々、美少女ゲーム業界も縮小しつつある時期ではあったんですけど、当時、3Dを使った美少女ゲームを作っている会社というのがILLUSIONともう一社ぐらいしかなかったんですよね。その片方が倒れてしまうというのは、結構な衝撃だったんではないかと思います。よくも悪くも個性的なゲームメーカーでしたから。

あと、ファンの声も国内だけじゃなく、海外でもアジア圏のファンからも「ILLUSIONが終わった……」みたいな声が多くあがっていましたね。

──そして今回、ILLUSIONさんの代表作であった『VRカノジョ』の後を継ぐ『VRな彼女』を、新会社として誕生したILLUMINATIONさんが発表された、という流れですよね。本作も「VR空間で女の子と出会う」というメインのところは代わっていないかと思うのですが、あらためてご紹介いただけますでしょうか。

大鶴氏:
はい、仰る通り『VRな彼女』は、プレイヤーとヒロインの女の子とのふたりっきりのバーチャル空間内での体験を楽しむというのがメインのテーマとなります。

女の子の名前は『VRカノジョ』と同じ「夕陽さくら」となっていて、会話などのコミュニケーションが取れます。ストーリーも存在していまして、「バーチャル空間内にいる女の子とどう過ごしていくか」というのが、今回における一番のテーマとなっています。

──お聞きしていると『VRカノジョ』とほぼ共通の内容という印象ですが、具体的にはどういった部分が変化したり、進化していたりするのでしょうか。

大鶴氏:
プレイヤーがゲームの中に入り込んだような、リアルな感覚を味わえるというのは『VRカノジョ』と一緒です。ただ、よりリアルさを再現し、没入感を高めているというのが進化した部分となります。視覚的なリアリティに限らず、環境音にこだわったり、コントローラによる操作の手触りをパワーアップさせるといった感じですね。

また、今作はカスタム要素を充実させようと考えていまして、『VRカノジョ』の時とは違ったバリエーションの衣装が出てきます。衣装のトータル数は『VRカノジョ』と大きな差はないのですが、方向性を変えているという具合になっています。

──あと今回、「HOSシステム」なるものが打ち出されていますが、これはどういったものなんでしょう?

大鶴氏:
『VRカノジョ』はある程度、ユーザーさんに自由度を設けた作りになっていまして、ストーリーと関係のないところで思うがままに行動が取れるというのがありました。今回はそれに名称を付けまして、「本能のおもむくまま好きにして(Honnouno Omomukumama Sukinishite)」の頭文字を取って、HOSと呼んでいます(笑)。

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──なるほど(笑)。

大鶴氏:
ゲーム内にはメインとなるストーリーがあるのですが、それに対してユーザーさんが取る行動はお任せします、という感じですね。ヒロインが求める行動を取ってもいいですし、意地悪をしてもいい。そのような自由度を設けています。

一応、私たち開発者側から「こうして欲しい」というゲーム性はあるのですが、『VRカノジョ』を発売した後のユーザーさんの様子を見たところ、結構、私たちが想定していなかった遊び方をされることが多かったんです。

それを見て「こんな遊び方があるんだ」って感じまして、ユーザーさんからもそれに関するフィードバックをいただくことがあったんですね。なので、今回はHOSという呼び名のシステムを設けて、ユーザーさんの「本能のおもむくまま」遊んでいただきたいと思って作っています。

──実際に『VRカノジョ』のユーザーさんの遊び方の中で、大鶴さんが印象に残っているものはありますか?

大鶴氏:
背景にあるオブジェクトを使って、自分だけのちょっとしたストーリーを作ってしまうというのがありましたね。

──独自に演劇を作ってしまうような?

大鶴氏:
そうです。それを録画して公開し、他のユーザーさんが見ても楽しめる動画を作ってしまうというのもありました。基本的にゲーム、例えばアドベンチャーゲームだと、プレイヤーは主人公にあたるキャラクターになって、その思いを代弁するんですけど、VRの場合はユーザーさんご自身がゲームの中にそのまま登場して、なおかつ演じられるんですね。女の子に対して意図しない触り方をしたりとか、想定とは違った動きをするだけで、なんか違うストーリーに見せてくるんです。

そうして自分を直接登場させることができるから、その行動によって違ったストーリーを見せられるというのはVRならではのすごさだと思いました。「VRだと、ユーザーさんの行動によってストーリーにちょっとした違いを見せられるんだな……」と。

──美少女ゲームでありながら、空間シミュレーターとして楽しんでいるというような印象を受けますね。

大鶴氏:
そうですね。元々、VR自体が空間シミュレーターに近いものだと思います。そこに美少女ゲームが合体することにより、いろんな相乗効果が出ているという気がしますね。

触る以上の体験を追及するため、“匂い”の表現も試していた『VRカノジョ』

──山口さんは以前、バーチャルキャストに所属されていたとのことで、『VRカノジョ』とは直接的な接点や関係はなかったと思われますが、ゲーム自体はプレイされたのでしょうか?

山口氏:
はい、プレイしました。『VRカノジョ』の開発自体には一切関与していませんが、元々、ILLUSIONさんはアバター制作ツールの『Vカツ』など、VTuber活動絡みでお世話になるプロダクトを作られていまして、そこでほんの少しお付き合いがあったんです。

『VRカノジョ』が出た年は、私もVR絡みの仕事は色々やっていたんですが、その中でも『VRカノジョ』は異彩を放っていて、初めて体験した時の衝撃は今でも忘れられないですね。

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──そのときには、どんなところに衝撃を受けられたんですか?

山口氏:
「目の前に女の子がいる!」って(笑)。ディスプレイの前に女の子がいるのとは違って、目の前にいるというあのドキドキ感は「すごい!」と思いましたね。あの辺りで「VRは存在感が大事」ということを学ばせていただいた感じです。

大鶴氏:
私は前職で女の子のキャラクターをメインにしたゲームコンテンツを作っていましたので、仕事として美少女を見慣れてはいたんです。ただ、それは3Dであってもディスプレイ越しのキャラクターなんですね。

けど、一番最初のOculusの開発キットを用いて、VRで初めてキャラクターを見たとき、ディスプレイで見ているものとは完全に違うなと思い、雷に打たれたような感じがしました。なので、VRって女の子もそうですが、「キャラクターと出会うためのデバイス」であり、ツールなのだなと。今の『VRな彼女』もその流れで作っているという感じです。

──なるほど。VRに衝撃を受け、“キャラクターと出会う、ふれあえるゲーム”を作っている、というのが開発の一番の理由なのですね。

大鶴氏:
一番最初の『VRカノジョ』を作ったころは、ヘッドマウントディスプレイにコントロールデバイスが存在していない時でしたので、触れ合うことができなかったんです。まずは見るだけ、という感じで。そこから技術が発展し、ハンドコントローラが出てきたことによって、触れる感覚を味わえるようになりました。

でも、逆に言うとまだ「見て触れる」ぐらいなんですね。だから、これから先はもっとVRのデバイスが発展することで、そこから先の“触る以上の体験”が出てくるといいなと思っています。

──触る以上の体験、ですか。

大鶴氏:
ええ、触る以上です。『VRカノジョ』の時、試験的に試したのが匂いを出すことですね。

──匂いですか!?

大鶴氏:
はい、例えばビーチであれば海の香りとか、キャラクター自身から漂ってくる香りとか、そういうのは試験的に試したことがありました。あとはコントローラの振動機能で、硬いものを触ったらそれが「硬いものである」と意識づけるフィードバックがあったりすると、VRの没入感を高める効果があるんですね。

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──ちょっと匂いのことがすごく気になってしまったのですが(笑)。実際、ゲームに採用した訳ではなく、あくまでも試験的にやってみた感じだったんですね。

大鶴氏:
そうですね、実用性にまでは至らなかったです。結構、匂いというのは非常に扱いにくいものなんですね……。

──そもそも、匂いを出すためのデバイスが必要になってきますよね。

大鶴氏:
ええ、なので残念ながら……という感じでした。ただ、試す方向性は間違っていなかったです。やはり匂い・香りがありますと、視覚と嗅覚を両方刺激させられるんです。すると、本当にそこにキャラクターがいるという実感が得られるんですね。だから今後、そういう技術も発展していくといいなと思っていますね。

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編集者
オーバーウォッチを遊んでいたら大学を中退しており、気づけばライターになっていました。今では格ゲーもFPSもMOBAも楽しんでいます。ブラウザはOpera

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