「VRって、こういうものなんだ!」を知ってもらいたい。そんな思いを『VRな彼女』には込めている
──ILLUSIONさんが解散となった後、ILLUMINATIONさんの設立へと繋がるに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか? 始まりに当たって、山口さんと大鶴さん、ILLUMINATIONの設立に関するお話を持ちかけられたのはどちらだったのでしょう。
大鶴氏:
それは山口さんの方ですね。
山口氏:
そうですね。ちょうど、バーチャルキャストを辞めてから、今度何をやろうかと考えていた時、やっぱりVR系のお仕事をしたいとなったんですね。それで、次の仕事に向けた調整をし始めようとしていた時に以前、『Vカツ』などで親しくしていた大鶴さんと偶然出会いまして、「何か一緒にやりませんか?」と声をかけられたんです。
それで『VRな彼女』を一緒に作りましょう、VRを盛り上げようみたいな話になって、トントン拍子で進んでいった感じでした。
──なるほど。その後に大鶴さんが参加されたという流れだったのですね。ちなみに大鶴さんはILLUSIONの解散報道があったタイミングでは、すでに卒業されていたんですよね?
大鶴氏:
はい。ILLUSIONを卒業する前は「ILLUSION VR(IVR)」で、『Vカツ』という3DモデルのキャラクターをカスタムできるVTuber支援ソフトのサービスをメインに活動していました。
ただ『Vカツ』が2022年にサービス終了となり、『IVR』も活動を終えるという話になって、そのタイミングで私もILLUSIONを卒業しようと判断し、退きました。その時点では、ILLUSIONがそんなに早く解散するとは思ってもいなかったんですね。
──それが約1年ぐらい経った後、突然解散が発表されてしまった、と……。
大鶴氏:
私としては驚きもありつつ、残念だなという立場でそれを見ていました。それをもって、今までやっていたILLUSION的な活動は控えようと思い、数ヶ月ちょっと充電期間を置いて「何をしようか?」と考えていたんですね。
そのタイミングで山口さんにお声をかけていただきまして。実はそのころ、『VRカノジョ』のユーザーさんから「『VRカノジョ』、次回作は出ないんですか!?」「ILLUSIONって完全になくなっちゃったんですか!?」って声が結構届いていたんです。
それで山口さんから「一緒に何かやりませんか?」とお声がけされ、「違うことをやろうかと思っていたけど、『VRカノジョ』のユーザーさんが心配している声があるなら、またこれをやってみよう!」という流れで参加しました。
──それでILLUMINATIONが設立され、『VRな彼女』の開発が始まったという流れになるんですね。しかし、山口さんは今まで、VTuber的な活動をメインとされてきた中で、なぜゲームの方へと行こうとなったのでしょうか。なにか心境の変化があったのですか?
山口氏:
いや、心境の変化はなくて、単純にVRが好きなんですよ。VRが好きなので、VRを盛り上げたい。その一心です。VTuber的な活動をしていることも、VRという基盤の上に乗っかった上での話なんですね。
自分はVRでここまで育ててきてもらっているというのがありますので、VRを盛り上げていきたいんです。まあ毎年のように、VR元年、VR元年って言われていて、「いつになったらVRが盛り上がるんだ?」ってのもありますが(笑)。
──「VRを盛り上げたい」という想いが根底にあるんですね。
山口氏:
そのためには色んなコンテンツをどんどん出していかないと、VRは盛り上がるにも盛り上がりようがないと思います。なので、その一心で今回、ゲームをやってみようとなりました。
『VRな彼女』はもちろんゲームだと思いますし、実際そうなんですが、自分にとってはVRでしか味わえない表現やリアリティを追求した「VRのプロダクト」でもある、という考えなんですね。
──意図としては、ゲームというよりもVR空間を楽しむためのツール・コンテンツといったところでしょうか。
山口氏:
ゲームという括りに入ったコンテンツではあるんですが、単純な「ゲーム」という枠に留めてしまいたくはなくて。言うなれば、夕陽さくらというキャラクターの息遣いが感じ取れるプロダクト……でしょうか。私としては「VRって、こういうものなんだ!」っていうものをユーザーに見せていきたいんですね。
ゲーム部分のエッセンスに関しては今、プロデューサーの大鶴さんに全力で作っていただいている状況です。なので、今回はVRゲームを作るという流れですけど、あくまでも自分としてはVRコンテンツで、その土台の上に「VRを盛り上げたい」というポリシーが込められているという感じなんです。
VR美少女ゲームを手がけたクリエイターが考えるVRの自由度とは? 自由こそ「没入感を高めるため」の手段である
──前回の『VRカノジョ』が出たころの話題になりますが、ちょうど2018年に電ファミでインタビューさせていただいたことがあって、その時に「VR美少女ゲームのキーワードは自由度である」と仰られていたんですね。大鶴さん、山口さんそれぞれが考えるVR美少女ゲームの自由度というのはどんなところにあるとお考えなんでしょうか。
山口氏:
ユーザーが取りたい行動を取れる。それが自由度の極みなんじゃないかなとは思いますね。
大鶴氏:
美少女ゲームに限らず、VR全般における自由度はプレイヤーの没入感を高めるために重要な要素だと考えています。VRではプレイヤーが実際に身体や手を動かしたりして、ゲーム内の行動ができるんですが、この身体的な自由というのは没入感を高めるために非常に重要な要素だと思います。
非VRのゲームはディスプレイを見てコントローラを使うという、それこそ遠隔操作しているようなものですが、VRゲームはゲームを実体験していることに等しいんですね。その実体験をリアルに感じるためには、自由度が欠かせない。ゲームへの没入感を高められるもの、それがVRゲームにおける「自由度」ではないかなと考えています。
──確かにVRはプレイヤーが世界に直接入り込む形ですから、ゲームそのものを体験しているというのは仰る通りだと思います。
大鶴氏:
例を挙げると、背景に映っている椅子、テーブルを持って投げるとか、VR空間内にあるオブジェクトに対する干渉も自由度のひとつですよね。また、非VRのゲームだと、コントローラを使ってゲーム内の「はい・いいえ」を選ぶことでストーリーやキャラクターの反応が変わるというのが定番ですけど、VRの場合はそれをプレイヤーの動作で行えるようになるわけです。
行きたい場所に視線を向けたり、女の子の視界に入らないようなリアクションを取るとか、そういう選択肢が増えることもまた、自由度の広がりに繋がるのではないかと思います。
──プレイヤーの行動に応じた多彩なリアクションがゲーム内に用意されている、「自由度」というキーワードをかみ砕いていくとそんなイメージでしょうか。究極的には、どんな行動をしても的確なリアクションが返ってくるような。
大鶴氏:
そうですね。ただ、実際のところはプレイヤーの行動に対してリアクションを用意しているもの、していないものがあるという感じです。
美少女ゲームの場合、メインとなるのは女の子に対してのコミュニケーションですが、あまりにリアクションを用意してしまうと、逆に「想定していない行動」をユーザーさんが取りにくくなるかと思っているんですね。
なので、そこはある程度、リアクションがないところも用意し、ユーザーさんが自分自身で意味付けをしていただければなと思っています。
──まさに『VRカノジョ』でユーザーさんが独自に演劇を作ってしまうような、そんな余地を設けることを意識されているんですね。それにしても、山口さんも大鶴さんもVRに対しては非常に強い思い入れがあることを感じさせられますが、御二方にとってのVRの原体験と言いますか、思い出に残っているものはございますか。
山口氏:
VRの原体験になったものは……(自主規制)でした(笑)。
──そ、それはものすごい原体験で……(笑)。
山口氏:
元々、自分はネットワーク系のエンジニアでして。エンジニアと言ってもコードを書いたりする方ではなくて、ケーブルとかサーバーを作る方だったんです。その当時からスマホ向けVRというものがあったんですが、それ用のコンテンツを作った人間が身近にいたんですよ。それを見せてもらって「VRスゲえ!」ってなりまして。
それで『Unity』ってのを覚えれば作れるって聞いて、Unityを勉強し始めた……というのがスタートでしたね。
大鶴氏:
私が思い出に残っていると言いますか、一番感銘を受けたのはバンダイナムコさんの『サマーレッスン』です。ちょうど『VRカノジョ』と発表のタイミングなどが一緒だったんですね。
『サマーレッスン』はPlayStation VRで、私たちの方はPCと、お互い別々のプラットフォームでしたけど、いろいろと頑張ったのが思い出深いですね。私的には勝手に『サマーレッスン』をライバル視していましたので。まあ、バンダイナムコさんからすると眼中になかったかと思いますが(笑)。
──でも、ユーザー視点からすると『サマーレッスン』と『VRカノジョ』はVR美少女ゲームの二大巨頭みたいなイメージはありましたね。PSVRだったら『サマーレッスン』、PCなら『VRカノジョ』といった感じで。
大鶴氏:
『サマーレッスン』は女の子もすごく可愛くて、『VRカノジョ』ではできなかったこだわりもたくさん入っていましたから、非常にリスペクトしていました。いま、後継のPlayStation VR2がPCに対応するとかをやっていますし、個人的には『サマーレッスン』もPC、Steamで出したりしないかなと夢見ています。
──それで実際にPCVR版が出て、『VRな彼女』と並んだらちょっとエモいですね(笑)。かつてのライバルが隣に立つような雰囲気で。
大鶴氏:
まあ、バンダイナムコさんからしたらいい迷惑かもしれませんけど(笑)。私からすれば、もしそうなれば嬉しいですね。