襟川氏の歴史好きのルーツは出身地。一番好きになった戦国武将はやっぱり「信長」
太田氏:
ところで宮下さんが歴史を好きになったのは『信長の野望』から、ということでしたが、襟川さんが最初に『川中島の合戦』で、武田信玄と上杉謙信を描こうと思ったのは、元から歴史がお好きだったからなんですか。
襟川氏:
歴史はもともと好きでした。生まれ育ったのが栃木の足利というところで、その「足利」という名前も、足利尊氏の一族から来ているんです。昔の足利一族の荘園の跡とか、建物の居住跡、足利学校もありましたし。そういう、歴史と近い環境で生まれ育ってきたので、自然に日本の歴史が好きになっちゃいました。
宮下氏:
西洋の文化もすごくお好きなんですよね。
襟川氏:
そうですね。スタートは鎌倉幕府から戦国時代くらいまで、あとは幕末が好きになって、そこからの延長で世界史も好きになりました。なので大元は日本史の方ですね。
太田氏:
やっぱり、足利尊氏から好きになったという感じなんですか。
襟川氏:
尊氏は、私が生まれた当時はあまり人気がなかったんですよ。
太田氏:
そうか。どちらかというと、まだ逆賊的なイメージがあったんですね。
襟川氏:
そうですね。私が生まれて、小学校・中学校くらいまでは、戦中の「足利尊氏は逆賊だ」みたいなイメージが日本全国にありました。今はそんなことはありませんし、私は足利尊氏は大好きですが、その時代はそういった、戦中の名残みたいなものがあったんです。
太田氏:
最初に好きになった戦国武将はどなたなんですか。
襟川氏:
一番好きになったのは信長です。ただ、将棋的な面白さで言うと、武田信玄・上杉謙信の、川中島の5回の戦いですね。あのあたりをシミュレーションすると面白いかなと思い、『川中島の合戦』を作ったわけです。
宮下氏:
『川中島の合戦』の、敵が見えない仕様とかは、霧の中の戦いをイメージしたわけですか。
襟川氏:
そうですね。行ってみて初めて敵の様子がわかるとか(笑)。
宮下氏:
敵の配置はランダムで決まっているんですか。
襟川氏:
真ん中の主力がまっすぐ戦って本陣を目指すのと、周りを囲んでいくのとをミックスするというアルゴリズムにしていましたね。あとは自分の周囲を索敵し、そこで優劣を計って、勝てなさそうだったら味方を呼んできて戦うという、割と簡単なアルゴリズムで作っていました。
宮下氏:
『信長の野望』もそうですけど、本当の人間が動いているように感じますよね。
襟川氏:
ありがとうございます。今はもっとAIが進んでいて、例えば前作の『信長の野望・大志』では、長期方針・中期方針・短期方針という、3つの方針に従って武将が行動するんです。
たとえば、信長の長期方針は日本の統一です。中期目標がたしか、地方の統一。武田信玄や今川義元の中期方針は、「京に上ること」です。あとは、中小の小さい大名は家名存続を長期方針にしているので、あまり積極的に戦いに出ないんです。
──大名とひとくくりに言っても、その立ち位置や勢力の強さによって行動の指針が変わってくるわけですね。
襟川氏:
そういうことです。それで、大きな目的を達成するための短期方針というのがあって。鉄砲をどんどん買うために町おこしをしながら治水工事をして、兵糧の石高を上げていくとか、いろいろとやることがあるんです。長期の方針を達成するために、中期と短期の方針で各大名が動いていくんですね。
最近では、そういう戦国大名の動き以外に、配下の武将のAIというのを入れました。「具申」といって、「ああしたい、こうしたい」というのを配下の武将が提案してくるんです。
とにかくたくさん提案してくるので、それを受けるか、受けないかで、成長の行く末が決まっていくんですね。
宮下氏:
それって、100回やったら100回違うストーリーになるんですか。
襟川氏:
そうですね。配下の具申・提案を受けるか受けないかで違ってきます。あとは、軍団を作っていく中で、例えば羽柴秀吉を軍団長にすると快進撃をしてくれるのですが、人を扱えないような武将を軍団長にしちゃうと負けてしまったり。
宮下氏:
『信長の野望・革新【※】』だったかな。あのころはたしか、小城をめぐってもお互い大兵力を投入するじゃないですか。僕の紀伊のちっちゃい小城を目指して10万以上の兵が動員されて、関ケ原みたいな戦いが起きたりするんですよ。
あれってプレイヤー自身の歴史になるんですよね。霧山御所って名前が美しいから「霧山御所の戦い」って名付けて、自分の中の歴史になるみたいな。
※『信長の野望・革新』……2005年に発売された、『信長の野望』シリーズ12作目の作品。
襟川氏:
そうですね(笑)。そうですそうです。
太田氏:
最新作はまさにそれですよ。地名が出てきて「どこそこの戦い」って表示されるので、とてもロマンがあります。
今でもゲームをプレイしつづける襟川氏。最近では『黒神話:悟空』や『Stellar Blade』もプレイ
──襟川さんのすごいところは、昔から今まで、とにかくずっとゲームをプレイされているというところです。大手ゲーム会社のオーナーや創業者クラスの方で、今なおゲームの面白さがわかる方というのは、世界的にみても他にいないんじゃないでしょうか。
太田氏:
すべてのゲーム会社の社長を集めて総ゲームプレイ時間数の世界ランキングを作ったら、トップじゃないですか。
襟川氏:
そうですね、もう朝の5時から夜の10時まで、ほとんどゲームをしていますから。本当にゲーム漬けの毎日です。
太田氏:
まさに生き字引、ゲーム世界の仙人ですね(笑)。でも、それってとても大事なことで。小説家がパワーダウンするときの原因のひとつに、最近の作品を読まなくなるというのがあるんですよ。漫画家さんでも同じことが言えるんじゃないでしょうか。今の新人さんが描いている漫画を読まなくなると、センスが古びていってしまうというか。
だから、年齢を重ねられても一線で活躍されている方は、新しい作品をちゃんと見ている傾向がありますね。
襟川氏:
私の場合は「ただ単に面白いから遊んでいる」というだけなんですけどね(笑)。
一同:
(笑)。
太田氏:
それを普通にできているっていうのが天才だと思います。そこがやっぱりすごいですよね。
襟川氏:
今はちょうど、『黒神話:悟空【※】』が出たばかりで。中国でもああいうゲームができるんだと思いました。
※『黒神話:悟空』……2024年、中国のGame Scienceから発売された、『西遊記』をモチーフにしたアクションゲーム。
太田氏:
負けたなぁ……私は周りに評判を聞きながら、まだ買うかどうか悩んでます(笑)。
──襟川さんは結構難しいアクションゲームもプレイされますよね。
襟川氏:
そうですね。『Stellar Blade【※】』も全部プレイし終わりました。
※『Stellar Blade』……『勝利の女神:NIKKE』などを手がける、韓国のSHIFT UPが開発したアクションアドベンチャーゲーム。
宮下氏:
社長として、「この会社はどういう経営形態でやっているんだ」とかより、「ゲーム自体が面白いか」の方が気になるんじゃないですか。
襟川氏:
そうですね。それがもうキモですから。面白いゲームを作れなかったら、会社は潰れちゃいますので。
宮下氏:
「どうやって資金集めをしたか」とか、そんなことよりも、ゲームの面白さが大事なんですね。
襟川氏:
ヒット作が出れば、お金は自然に集まってきますからね。世界中の方が買ってくださると、それが営業利益になります。その営業利益を使って、今度は次のタイトルを作っていく。営業利益がないということは、「もう作らなくていいよ」ということになってしまいますから。
だから、利益というのも面白さの目安になるんですね。利益を使って次のタイトルを作って、ぐるぐるお金が回るようになると、それだけ良いゲームを作っているという証になりますし、それだけ世界中のファンが期待しているということなので。
宮下氏:
コーエーさんはたくさんIPがありますけど、そういうIPがなくて、たまたま1本大ヒットが出たような会社があったら、「次回作は大丈夫か」って思ったりしますか。
襟川氏:
そうですね。次のタイトルがヒットしていかないと、衰退する方向性になると思いますね。結局、同じ面白さをプレイしていると飽きてしまうというのは、ゲームファンとしての正直な気持ちですから。スピンアウトをしたり、続編を作ったりしても、結局同じものだけだと飽きてしまいます。
そこに新しい工夫や面白さを付け加えていくと、変わってきますけどね。でも、基本的には新しいIPを作っていかなくちゃいけないと思います。
『仁王』は3回作り直した!? 歴史ものに対する注目度は世界的に高まってきている
襟川氏:
今もゲームの最終確認は自分で行っていて、それで「新しい面白さ」が感じられないと、「もう一度、ここを作り直そうよ」という話をします。なかでも典型的なのが『仁王』で、このゲームは3回作り直しました。自分でプロデューサーをやっているので、あんまりダメ出しをしてもしょうがないんですけど(笑)。
それでも、3回作り直して、いいものができました。『仁王』は、コーエーとテクモが経営統合した時に、両社の良いところを融合して、面白いものを作ろうとした作品なんです。コーエーはご存じの通り、歴史に関するゲームが得意で、テクモはアクションゲームが得意でしたので。
期間としては12年かかりました。もし私の配下の社員だったら、クビだったでしょうね(笑)。自分のわがままでやったような作品なんです。でも、結果として両社のシナジーがある、新しい面白さが出ました。
──『仁王』はゲームファンの間でも話題になりましたし、海外でも大きな反響がありましたね。
襟川氏:
歴史を題材としたアクションゲームってわりと少ないのですが、これがむしろ日本より海外で評判になったんです。現時点で、『仁王』の『1』と『2』で800万本近く売り上げていて。
そのうちの9割くらいは欧米での売り上げなんです。最近、Disney+の『SHOGUN』という作品も話題になっていますよね。わりあい、日本や中国などの歴史に関するドラマやゲームが人気になってきていると思います。漫画やアニメに関しても、今までは歴史に関するものってあんまりウケなかったんですけど、最近はわりあい受け入れられていますよね。
宮下氏:
そうですね、多くなっているように感じます。
太田氏:
出版社からすると、両輪のような感じがありますね。ゲームでそういった歴史ものが海外に出ていったから、歴史の漫画もウケるようになり、漫画がウケたから、ゲームでももっと歴史を取り扱うようになり。そこに最近、ドラマが入ってきたような感じですよね。
襟川氏:
そうですね。
太田氏:
一度そういった歴史もののゲームをしっかり遊べば、海外の子どもでも、日本人より戦国時代に詳しい子がいるような状態で。そういう子が「じゃあ次は『センゴク』を読んでみようか」となったりして。
兄弟がいたら、上の子はゲームにハマっているけど、下の子は漫画にハマっているとか。そういうことも起こっているんだとおもいます。
襟川氏:
配信サイトなどで、アメリカで制作している戦国時代のアニメがありますが、あれはやっぱりどこか違和感がありますね。「これ違うな」って。でも、結果としては日本や中国の歴史もののエンタメがだんだん増えてきていて、良い傾向だと思います。