史実をベースにしながらも、フィクションらしい柔軟性をあわせ持つ。三国志は「無敵のコンテンツ」
ひろゆき氏:
先ほど海外メディアの方の反応で「三国志のストーリーは知らないけど好評だった」みたいな話もありましたけど、実際のところ、欧米での三国志の認知度はどれくらいなんですか?
庄氏:
統計的なデータがあるわけではないんですが、出張時のお話やヒアリングなどですと、圧倒的に知られていないという実感があります。三国志の名前は聞いたことある、という方はある程度いらっしゃいますが、どんな話なのかはほとんどの人が知りません。
ひろゆき氏:
日本では世界史でヨーロッパの「ビザンツ帝国」とか「フランク王国」とかも一通り学ぶじゃないですか。「後漢三国時代」という歴史の一部として一応聞いたことがある、ということもないんですか?
庄氏:
『ORIGINS』のプロモーションを兼ねてアメリカと欧州の両方にも行きましたが、見事なまでみなさんご存知ありませんでした。世界史の授業にアジア圏の歴史があまり入っていないのではないかなと思ってしまうぐらいで、ゲームを通して聞いたとか知っているという程度でしたね。
ひろゆき氏:
そうすると、「諸葛亮はこうだよね」とか「関羽はこうだよね」というキャラへの認識もあんまりないんですか?
庄氏:
全然ないですね。わかりやすい話でいうと、我々のタイトルでは典韋というキャラクターが……。
ひろゆき氏:
ハゲですね。
庄氏:
そうです。典韋は見た目の印象で、『真・三國無双』シリーズのキャラとしては覚えてもらえています。ですが、本来有名であるはずの関羽や曹操ですら人物や歴史といった面ではあまり覚えてくれていません。
あくまでゲームやアニメの見た目で印象に残っていれば記憶してもらえますが、そうでなければ劉備や孫権と言っても「そんな人もいたっけねー」くらいの反応になりますね。
ひろゆき氏:
関羽は横浜の中華街とかにもいるので、劉備や張飛も含めて中国の人と日本の人で印象は一緒だと思うんですよね。ただ、『無双』の「典韋がハゲ」とか「許褚がデブ」みたいな作られたイメージも中国に逆輸出されている気がするんですけど、中国人から見るとどうなんですか?
庄氏:
これも中国の方全員とお話ししたわけではないですが、実際のところ、弊社のシミュレーションゲーム『三國志』や『真・三國無双』のビジュアルイメージを持っていただいています。「三国志といえば」で、昔でいうコーエーや光栄を思い浮かべていただけますね。
元を辿れば、『三國志』や『真・三國無双』が出た時代は、中国ではアニメやゲームがそもそも普及していなかった時代だったんです。普及し始めた段階だったので、弊社のキャラクターのイメージが強いみたいです。
ひろゆき氏:
日本だとコーエーさんの『三國志』と横山光輝さんの漫画と、NHKの人形劇の3つくらいがイメージの元だと思うんですけど、中国ではイメージの元になるものがあまりなかったということなんですか?
庄氏:
近年は『三国志』のドラマの役者さんのイメージもあるようですが、ビジュアル的には弊社のゲームの印象の方が強いようです。もちろん関羽に関しては別格【※】なんですが。
※中国では「関帝聖君」として神格化され、信仰の対象となっている。
ひろゆき氏:
あれはもう昔からみんなああいう感じで認識してますよね。ヒゲで背が高くて……。
庄氏:
ヒゲが長くてというイメージですね。それ以外のキャラクター像は薄いという。もちろん、中国特有の印象を持たれているキャラクターもいて、例えば呂布や曹操は日本のイメージとはだいぶ違っています。
呂布は裏切りを重ねた人物なので評判があまりよくなく、曹操も『三国志演義』が劉備寄りになっているのであまり評判がよくありませんでした。
ですが、呂布や曹操に関しても、近年はゲームやマンガなどのコンテンツの影響で見方が変わったり、ファンも増えたりしているのかなという印象です。
ひろゆき氏:
海外向けだと“多様性”的なものを入れるべき論もありますよね。そこは今回はどれくらい意識されたんですか?
庄氏:
結論として、そこはガン無視していました。
ひろゆき氏:
まあ、中国人しか出ないですもんね(笑)。
庄氏:
オリジナルな世界観などでは意識はしないといけないと思いますが、「『三国志演義』なんだから、中国の人しか出ないよね」という感じです。そういうことが許される世界観だから、最初から「一切無視!」という感じでした。
ひろゆき氏:
何か言われることはなかったんですか?
庄氏:
今回は本当に一切ありませんでした。そこは明確に三国志に救われていますね。三国志という世界観のゲームですから。
ひろゆき氏:
『人魚姫』や、『白雪姫』もそうであったりという時代なので、三国志も多様性みたいな話がどこかから湧いてくる可能性もあったと思ったんですよね。
庄氏:
ポリティカルチェックといって、社内外からも意見をいただいたりしてはいるんですけど、三国志のおかげで一切そういった指摘がなかったですね。
これは仮の話ですけど、中国以外の方が出ていたりすると多分、逆に中国で叩かれることになるんじゃないかなと。
ひろゆき氏:
日本でもあった『アサシン クリード』などの例ですね(笑)。
庄氏:
三国志が素晴らしいのは、「『三国志演義』はフィクションだ」ということを皆さんにもご理解いただいていて、中国でも「こんなの本当の歴史と違う」みたいな炎上の仕方をしないことだと思います。
ひろゆき氏:
「史実をベースにしてるから多様性を求めるべきではない」と。でも「これは『三国志演義』だからストーリーと史実とはそもそも違っていていいんだ」というおいしいとこ取りですね。
庄氏:
何も気にしなくていいし、フィクションで我々の解釈も許されるので、三国志は本当に懐が深いですね。
ひろゆき氏:
だから、他のゲームと違って論争にはならないんですね。
庄氏:
私の知る限り、歴史もので『三国志演義』と『三国志正史』みたいな形の区別をされているものは他にないと思うんです。大体のものが実際の歴史と、その歴史をベースにして誰かが創作した作品で独立しています。「フィクションの元にできるフィクションなんですよ、という歴史的な題材」は他にはなかなかないんです。なので、いいなと思っています。
ひろゆき氏:
そうか、三国志にはその特殊性があるんだ。
庄氏:
どこかの国のどこかの歴史を元にして「我々がフィクションにしました」となると、その国や歴史が好きな方から満足してもらえない可能性があると思うんですが、三国志の場合は『三国志演義』もあくまでもベースになるので、中国の方を含めてみんなにおおらかに受け止めていただけるんです。そういう意味では「無敵のコンテンツ」だな、と。
ひろゆき氏:
確かに、アメリカ南北戦争でストーリーを勝手に決めたらめちゃくちゃ怒られそうですからね。
庄氏:
歴史を題材にして全然違う解釈を勝手に加えたりすると、それはそれで炎上してしまうと思います。三国志ではそれがないので、ゲームを作ってる身としてもこれ以上ない題材だと思います。
ひろゆき氏:
ファンタジーにすると多様性を求められるけど、「これは現実の話です」ですもんね。確かに三国志しかないですもんね。『三国志演義』のようにフィクション版がやたら有名な歴史となってくると、あとはホメロス【※】ぐらいという話になりますからね。
※ホメロス
トロイア戦争などの叙事詩を残した古代ギリシャの人物。
庄氏:
このあたりの希少性は、中国でもまだ認識されている方が少ないかもしれません。
ひろゆき氏:
盲点ですね。
認識といえば、僕は英語で聞きながらやったんで、劉備は「リューベイ」と言うとか、曹操は「ツァオツァオ」と言うとかを学べて「こう言えば通じるんだ!」というのがわかったのもよかったですね。
庄氏:
実際にお客様からもそういうご意見をいただいているので、嬉しいです。「リューベイ」はまだ日本語にも近くてわかりやすいですが、「ツァオツァオ」だとパッと見は繰り返しているのがわかっても、日本人はわかりませんよね。
ひろゆき氏:
孫堅と孫権も中国語だと違う【※】んだということもわかりましたしね。
※孫堅と孫権
呉を建国した孫権、その地盤を築いた父・孫堅。孫権はスン・チュアン、孫堅はスン・ジエンと、それぞれ発音が異なる。
庄氏:
開発メンバーも実は一緒で、若い子や、今回初めてローカライズに携わった人たちも「英語ではこう言うんだ」みたいにみんな感動していましたね。
ひろゆき氏:
自分が知っていた三国志の知識がグローバルに使える知識に変わったというのも、僕の中ではよかったですね。
庄氏:
そうですね。グローバルに皆さんに遊んでいただければと思っています。
ひろゆき氏:
海外の期待してることに乗っかるのであれば、これまでと同じ話ではなく諸葛孔明が死んだ後とか、関羽や張飛の息子たち、関興か張苞とかの世代を描くこともできるじゃないですか。そっちにはいかなかったんですか?
庄氏:
諸葛亮が没した234年以降は、『三国志演義』のなかでも一般的に見るとメジャーではないので、国内と中国の三国志好きの方々からは、「黄巾の乱」から「五丈原の戦い」の間をしっかり描くことがどうしても求められると思っています。
北米欧州のみであれば、確かに五丈原以降もありだと思っています。ですが、結局は一度だけしか通用しなくて「また同じ話だ。五丈原以降はもうやったはずだ」と言われてしまうことになりますよね。
三国志のもつ本来の魅力を根源的にもっと深くしっかりと描くことができれば、もし同じ話であっても楽しんでいただけると思い、今回は三国志のスタートからやらせていただきました。
ひろゆき氏:
そうすると、近年マーベルとかが何度も同じ話をやっているのを見て、「結局これが楽しいんだからそれでいいじゃん。ほら、そっちでもそうなるでしょ」みたいなのは思ってました?
庄氏:
思っていました(笑)。ただ、三国志自体が北米欧州ではまだ少し難しいという気もしました。本作では物語は楽しんでいただいているとは思います。
ですが、あくまで私の勝手な感覚ですと、馴染みにくい名前が多いと思うんですよ。日本の戦国時代の武将の方がまだ親しみやすいのかな、と。
日本でも、夏侯惇とか夏侯淵とか、三国志をあまり知らない方からすると似た名前が多くてこんがらがってしまうところがあるので。
ひろゆき氏:
さっきの僕の発言じゃないですけど、ソンケン2人いますしね。
庄氏:
日本語でもそうですけど、北米欧州でも同じようなハードルがあるのかなと、今回は改めて思いました。トムとかボブとか名前を置き換えた方がみんな遊んでくれるような気すらします。
ひろゆき氏:
(爆笑)。