肥大化し続けるゲーム開発規模と、“乱発”の結果シリーズが飽きられてしまう懸念。ふたつのバランスを取れる期間は現状「2年半から3年」?
庄氏:
北米欧州にゲームを売るという観点だと、ボリュームの多さも必須になってしまいますね。特に北米のゲームがハリウッド的な存在になり、すごいお金をかけて、すごいボリュームで、すごいクオリティで、ということが10年くらい続いていて、開発の規模が顕著に肥大化しています。
ひろゆき氏:
最近の大型ゲームはクリアまで100時間とかが平気でかかるじゃないですか。昔のゲームは5時間でクリアできてしまうみたいなものも結構ありましたよね。今はもう、大型ゲームを10本やったら1年を超えちゃいますね。
庄氏:
先ほどの「赤壁までだったら買わない」みたいな話もそうですが、「ボリュームが少なさそうだから買うのやめる」という声も実際あります。開発がどんどん大変になって、時間だけじゃなくてお金もかかっているのが現状です。
昔は今ほど開発に長大な時間をかけていなかったこともあって、むしろ「乱発された」みたいなことを言われた時代もありました。しかも、『真・三國無双』以外にも『戦国無双』と他の……。
ひろゆき氏:
まあ、『ガンダム』だったり『ゼルダ』だったりいろいろありますからね(笑)。
庄氏:
仰る通りで、「○○無双」みたいなタイトルが常に出ていました。それでも、PS2の時代はゲーム自体に飢えていたというか、まだ他の娯楽が少ない時代だったこともあって、1年に1本でも楽しんでいただけたと思います。
一方で、『4』のあたりから、いくら日本の方が三国志好きで黄巾の乱を何回やっても許してくれるという状況でも、さすがに飽きがきているよねということはありました。
私も社内外のいろいろなゲームを見て、「流石に毎年はあかんやろ」とは思いました。ここ10年くらいの成功しているタイトルを見ると、どんなに短くても2年で普通は3年くらいの間隔です。
それくらいの方が、お客様にとってもちょうどいいのかなという感じですね。何の根拠もないんですが、2年半や3年ぐらい空くと「また食べたいな」となる気がしています。
ひろゆき氏:
3年経てば中学生が高校生になったりもしますからね。
庄氏:
どういうテンポで遊びを提供していくかというところも含めて考えれば、続編やそれ以降もしっかり売れる面白いものを制作できると思っています。実際には「狙ってそうしている」というよりは、作るのに2年半とか3年ぐらいかかるだけですが。
ひろゆき氏:
結果論(笑)。
でも最近、10時間くらいでクリアできる小さめのインディーゲームも、さっと出てすごく売れたりしてますよね。そういうのを見ると羨ましくなったりしませんか? 「そんな簡単に作って売れちゃうんだ」みたいな(笑)。
庄氏:
じつは、私も密かに個人でゲームを作ったりするのでわかるんですが、「小さめのインディーゲーム」であっても作られている方のエネルギーや時間はめちゃくちゃかかっていますし、相当な試行錯誤をされていると思います。
ただ、羨ましいのは羨ましいですね。今の大型ゲームは何十億円もかけて作るのが当たり前になっていて、PS2の時代はせいぜい数億円でした。規模感が10倍で、新入社員は自分が携わっているゲームが世の中に出るまでに3年とか4年かかるんですよね。
プロジェクトも最初から最後まで通しで関わらないこともあるので、途中で止まったり切り替わったりすると10年かけて2本や3本くらいしか関われないこともあります。1本のゲームを完成させる経験を積む機会が減っているのは、かわいそうな気がします。私の時代は1年に1本以上作るのが当たり前でしたから。
ひろゆき氏:
そっか、大卒22歳で入って順調にいっても1本目が25歳、2本目出したらもう28歳で中堅ですもんね。
大作ゲームの開発期間が長くなるにつれて、“作る経験を積むチャンス”も否応なく減っていく。庄氏の本音は「新入社員ももっと自分でなんか作れ」
庄氏:
インディーゲームは「作る経験」を積む上でもすごくいいなと思っています。私自身も羨ましいなーっていうくらいなので、ぶっちゃけて言うと、「新入社員ももっと自分でなんか作れ」くらい思っています。
ひろゆき氏:
逆に、大手メーカーがもう社員100人ぐらいに1億円ずつで作らせるみたいな感じっていうのは難しいんですか?
庄氏:
うちの会社でいうと、多分無駄打ちになってしまうだろうなとは思います。会社によって違うと思うんですが、弊社の場合は入社前にゲームを作った経験がある人が少ないんです。
いろいろな学部で勉強して大学を卒業して、ゲームが好きだから会社に入って作っていくみたいな感じなので、作る経験以前に作る側の思考を経験したこともない人がほとんどなんですよね。
ひろゆき氏:
完成に行き着かないみたいな感じですか。
庄氏:
そうですね。もし100人の中に麒麟児がいれば成功もあるかもしれないですが。なので、学生の頃にインディーズでゲームを作った経験がある人がいればベットしてもいいかもしれませんが、現状はやっぱり難しいでしょうね。
座談会でこういうことを言っていいのかあまり分かりませんが、最近はギラギラした人の割合が減った気もしています。「オレ、こういうゲーム作りたい」みたいな人が昔よりも少ない気がします。みんな良くも悪くも優秀すぎて、熱いことを言う人が少なくなっちゃいましたね。
ひろゆき氏:
僕の友達でも『RPGツクール』を持っている人はいっぱいいて、でも完成させているのは見たことないんですよ。だから「完成させられるくらい根性のある人がゲーム会社に行くのかな」と思ってました。ゲーム会社でも少ないんですね。
庄氏:
そうですね。そういう根性がある人は、成功するかしないかは別として独立しているんじゃないかと思います。私も『RPGツクール』は買って試してみたんですけど、「なんか大変だしやめた」ってなってしまいました(笑)。
そんな私が言えたことではないのですが、やっぱりギラギラした人が減ったとか、熱い発言をする人が少なくなったと思うんですよね。こういうことを言うと「庄さん老害ですか?」って社内で言われちゃうんでしょうけど。
ひろゆき氏:
(爆笑)。
そういう人が応募してこないのか、そういう人を採用しなくなっているのか、どっちなんですか?
庄氏:
弊社も学歴やスキルだけで選考しているわけではないのですが、結果として優秀で真面目な人が多いです。
もちろん面白い子はいますし、それは昔も今も変わらないんですが、割合の問題だと思います。弊社は上場していますし、世間的に就職先としても悪くないこともあって、優秀な人に選んで貰える理由になっていると思います。
私が入社した頃はまだ光栄で二部上場でしたし、ゲーム自体も市民権がなかったので、入社する時は「やめた方がいいんじゃないか」って親族全員からとめられましたね。
──小話ですが、『とある魔術のインデックス』の作者である小説家の鎌池和馬さんはライトノベルを読んで「これだったら俺でも書ける」といういわば勘違いがひとつのきっかけになって応募をしたそうです。
今のゲームは逆で、あまりに高度化しすぎているので「俺の方がうまい」と若者が思いづらいのかなと思いました。
庄氏:
それはあるかもしれません。
ひろゆき氏:
ITとかでも、昔は個人で作ったアプリが普通に有名になっていましたけど、最近だと個人アプリはほとんど聞かないですね。どれも会社が作ったものになっちゃっていて。
庄氏:
今、まさにインディーズゲームもそうですけど、ゲームを作るのには幸せな環境になっているんですよね。Unreal Engineもありますし、ノベルゲームを誰でも作れるようなツールも増えています。
物量勝負ではないゲームなら作れる環境になっているので、もっとみんなにチャレンジしてほしいし、そういう人にもっと弊社に入っていってもらいたいたいですね。
私は定年退職してもゲームを作りたいなって思って、勝手にプライベートでやってますが(笑)。
ひろゆき氏:
それこそ、『RPGツクール』じゃないにしても、「独自でゲーム作りました」みたいな人って社員にいたりしないんですね?
庄氏:
『RPGツクール』はちょっと聞いたことがないんですが、「Unreal Engineを触っていました」という人達はいますね。
ひろゆき氏:
もうセミプロみたいな人たちですね。
庄氏:
確かに即戦力になってくれる感じですね。プログラマーの方に多い傾向で、入社した時点ですごいスキルを持っている人が近年増えています。
ひろゆき氏:
ここまでの話だとゲーム業界の予算も規模もどんどんでかくなっていて、海外に行けば売り上げがドカーンと伸びるからまだいいと思うんですけど、逆に国内でしか売れないゲームは厳しくなりませんか? 例えば『信長の野望』とか、絶対国内でしか売れないと思うんですよね。
庄氏:
他のプロジェクトの話はしづらいところがありますが、おっしゃる通りで同じシミュレーションでも『信長の野望』と『三國志』の2つがあったとして、『三國志』の方が圧倒的にビジネスとして成功しやすいんですよね。中国という大きな市場があるので。
『信長の野望』はメインの市場がどうしても日本になってしまいます。もちろん、北米欧州や中国とか韓国、あと台湾にもコアなファンの方がいらっしゃいます。ただ、母数が小さいので、「お金をかけた踏み込んだチャレンジ」はしにくい状況です。
『無双シリーズ』で言っても、『戦国無双』にも各地域にファンの方はいらっしゃるのですが、『真・三國無双』ほどの強みがなくて、こちらも日本以外では難しいですね。
ひろゆき氏:
シブサワ・コウさん【※】が『信長の野望』で作った会社ってイメージが僕の中ではやっぱりあったんですよね。

歴代の作品にクレジットされる、開発チームを代表して名乗られる共同のプロデューサー名。光栄の創業者である襟川陽一氏のペンネームでもある。
庄氏:
そうですね。『信長の野望』は安定したファンの方がずっといらっしゃるので、適切な期間とコストをかけて作れば、新しいものを定期的にお届けできるのかなと思っています。
逆に、一般的な話として『戦国無双』のようなアクションゲームでは、シミュレーションゲームよりもどうしても開発コストがかかってしまいます。なので、「戦国無双をまた作ろうよ」とはなかなかいけず、相当な検討や準備、というよりも覚悟が必要ですね。
その点、『真・三國無双』はやはり有利です。『真・三國無双 ORIGINS』も売上の多くは海外の方々ですし。
「『三国志演義』という巨人の肩に立つ」。三国志好きが集まるコーエーには、研究者顔負けの“生き字引みたいな人”まで在籍している
ひろゆき氏:
『三国志演義』という巨人の肩の上でアクションゲームが作れると、やっぱり有利ですよね。
庄氏:
とてつもなくラッキーなことだと思っています。私自身シミュレーションゲームの『三國志』がメチャクチャ好きで、そこから三国志の物語が好きになって光栄に入社しています。
最初に『三國志』の格闘ゲーム【※】を制作しているチームに配属されて、そこから10年近くずっと三国志のゲームを作らせてもらっていましたし、今回、また三国志のゲームを作らせてもらえて、これも本当にラッキーだと感じています。
※1997年にPlayStationで発売された、初代『三國無双』。
ひろゆき氏:
日本でそこまで長い間三国志絡みの仕事をしている人、あんまりいないですよね。
庄氏:
うちには結構いますね。『三国志演義』という点では、本当にもう「研究者なの?」ってくらい詳しい生き字引みたいな人が(笑)。
私も人並み以上には詳しいつもりですが、みんなが同じくらいの自負を持っています。何よりも三国志が好きな人が多いんです。共通言語でそれで話ができるので、そこも含めて仕事ができてラッキーだと思っています。
ひろゆき氏:
そうか……。日本の『三国志演義』研究の最前線はコーエーにあるんですね。
『ORIGINS』の次回作はまだ未定、でも「構想は次の次まである」。そこから先は……“若い人たち、頑張れ”
ひろゆき氏:
『ORIGINS』は今回高評価を得ましたけど、これはこれでシリーズとして伸ばしていくの難しそうな気もしました。『ORIGINS 2』といっても、同じような感じになっちゃいませんか?
庄氏:
そこは大丈夫です。元々『ORIGINS』を作る時にそれ以降の構想も考えていました。一応、私の頭のなかには次の次くらいまであります。
もちろん『ORIGINS』が成功しないと次はないんですが、次のステップとして、「もっとゲーム的な進化をさせよう」とか、「もっと新しい体験をしてもらおう」というものを既に考えてあります。
名前が『ORIGINS』で『2』になるかは分からないですし、そもそも続編を作ることの承認を会社にいただけるかは分かりませんが(笑)。
ひろゆき氏:
今回はレベルを上げて技が増えていくというのもあって、これが次回作で赤壁以降になってさらに技が増え武器も増え、となるともうむちゃくちゃになりませんか?
庄氏:
そうなりかねないので、単純な言い方をしてしまうといい意味でリセットをしたいと思っています。
近いイメージとしては他社さんのゲームにはなってしまいますが、例えば『ゼルダの伝説』でも『ブレス・オブ・ザ・ワイルド』から『ティアーズ・オブ・ザ・キングダム』という続編になる時に、主人公のリンクがリセットされましたよね。
でも、単純に同じ工程の繰り返しでなければ、新しい成長の楽しさや新しい体験さえ用意できれば、遊ぶ方々は楽しくプレイできると思っています。
ひろゆき氏:
ゼロから技をひとつずつ覚えていくとか、武器が少しずつ増えていって、だんだん強くなる楽しみはありますよね。「俺最強」もまた別の楽しみですけど。
庄氏:
もともと『真・三國無双』はプレイしながら強くなっていくRPG要素がありましたからね。
ひろゆき氏:
ゲームをどうやって当てにいくかというのはある種のギャンブルじゃないですか。狙いを見定めて、「じゃあこうしていこう」ということを積み重ねていく論理の部分と、ゲームが好きで純粋に「こういうの楽しい」という個人の感覚の両立とか、その再現も難しいと思ったんですよね。
「新人が1から最後までゲームを作る経験がなかなかできない」ともなると、「無双シリーズを10年作ってます!」という経験には太刀打ちできないじゃないですか? 同じことを考えられる人をたくさん作るのは難しいとなると、同じように紡いでいくのもなかなか難しいのかなとも思いました。
庄氏:
どうでしょう? 私は別に大した人間ではないのでなんとも言えませんが、今時の人達は私たちが子供の頃経験したのとは違うゲームの原体験を持っています。そのなかで熱量の高い人たちがこの後きっと台頭してくるので、私はむしろ太刀打ちできないと思っています。
それはそれとして、ゲームが成功するかどうかの話で言うと本当に難しいですね。ひろゆきさんがおっしゃった通り、バクチといえばバクチなんです。映画と一緒で、「どういうのを作ったら当たりますか?」に答えられる人がいたら本当にすごい。
ただ、今回作っていて、「唯一無二の特徴を持つ」ことが一番大事だと改めて思いました。いわゆる「死にゲー」や「狩りゲー」みたいなジャンルは、他にない特徴として最初に出したものが圧倒的に売れて、だんだんと浸透していったものだと思います。
確率を上げるだけなら、成功しているものを模倣して近いジャンルで、「別の味を楽しめるもの」を作る方法もありますよね。ただ、私は「“唯一無二の特徴で多くの方に受け入れられるようなもの”を作り上げる」以外に、大ヒットさせたり長い目でシリーズを続ける方法はないのかなと今回あらためて思いました。
みんながそう言って「オリジナルの新しいものを!」とやると今度は「出てはコケ」を繰り返すことになりがちですけど、新しくチャレンジをしていくことが我々がやるべきことだと思っています。
ひろゆき氏:
一人一人のキャラクターをちゃんと描くのは『ORIGINS』で既にやれていた気がしますね。そう考えると、『三国志演義』の話自体がまずめちゃくちゃ面白いじゃないですか。ストーリー自体も売りになるアクションゲームが珍しいパターンな気もします。
その点でオリジナリティがありますよね。『モンハン』とかも、一応あるにしても「ストーリーは割とどうでもいい」ってなるじゃないですか。
庄氏:
そう言っていただけると嬉しいです。『真・三國無双』にはそこも含めた唯一無二性があると思っています。ただ、次の次ぐらいで構想は一旦限界で、そこから先はもう私も定年後なので……、あとはもう本当に若い子たちに「頑張ってください」と言うしかないですね。
ひろゆき氏:
(笑)。
庄氏:
最初にもお伝えした通り、ひろゆきさんに本作を遊んでいただいて、チームの子たちも「あっ! すごい! 遊んでくれてる!!」となるくらいエネルギーをいただくことができました。
今回、初めてひろゆきさんとお話させていただきましたが、自分の中でも改めて整理ができましたし、楽しくありがたいお時間をいただいて、本音で感想もいただけたので、ものすごく嬉しかったです。私個人としても、チームの代表としてもお礼を言わせてください。ありがとうございました。
ひろゆき氏:
いえいえ、こちらこそ面白かったです。ありがとうございました。(了)
巨大化するゲーム市場のなかで複雑化する新旧のファンからの要求に、『真・三國無双 ORIGINS』は見事に応えた。原点回帰だからこそ新しくなり、新しくなったからこそ原点に立ち返った本作は、世界中で高い評価を受けている。
それは、本作が「みんなが楽しめるアクションゲーム」というミッションを真に達成したからこそである。
庄氏とひろゆき氏の今回の対談を通して、『真・三國無双シリーズ』の未来のために本作がどのように作られたのか、そしてその背景にある想いがどうあったのか、読者のみなさんに伝わっていれば幸いだ。
『真・三國無双 ORIGINS』はPS5向けに4月23日から5月7日まで、PC(Steam)向けに4月25日から5月8日まで、それぞれ「ゴールデンウィークセール」と銘打って、ダウンロード版の割引価格での販売を実施中だ。
興味のある方はこの機会にプレイし、本作の「三国志の物語を壊さない」ストーリー展開や、「高難度だけど無理ゲーじゃない」絶妙な難易度設計を体験してみてはいかがだろうか。