いま読まれている記事

『デススト2』小島秀夫監督が、コロナ禍を経験して思うようになった「繋がり過ぎることへの疑問」──物語のテーマやキャスティング裏話など、開発秘話が語られる。『DEATH STRANDING 2』小島秀夫&制作チームインタビュー

article-thumbnail-250508g

1

2

3

Q.『デススト2』で、とくに気に入っているキャストのパフォーマンスとは?

小島氏:
ルカ・マリネッリさんに関しては、映画を見て好きになった人です。コロナ禍の前に『マーティン・エデン』という映画を見て、彼の演技力に惚れこみました

素晴らしい映画だったので、公開時に宣伝協力(推薦文を書いた)をさせていただいたところ、ルカさんから英語でメールがきたんです。なにかな? と思って読んでみると、「子どものころから大ファンで」と。

僕が書いたコメントを読んだらしくて、出版社に「お礼を言いたいからヒデオのアドレスを教えてくれ」と言って、連絡をしてくれたようです。彼とはそこからの付き合いになりますね。

『デススト2』のキャスティングを考えているときは「クリフを超えないといけないな」と思っていたんですけど、冷静に考えてマッツ・ミケルセンを超える人なんかいるんかなって(笑)。そこでルカさんのことを思い出してオファーしたら、快く「やりましょう」と言ってくれたんです。

そのときニールの相手役になるルーシーの配役も考えてました。ただ、コロナ禍なので自由に外に出ることもできなかった。そんな際、ルカさんから「相手役決まったの?」と聞かれたので「まだ決まってないよ」と答えました。

そうしたら、「うちの奥さん、映画監督で女優だよ」みたいな話をされたので、彼女と会いました。実際にお会いしたところ、カウンセラーという役のイメージにピッタリで、彼女にお願いすることになりました。

ルカさんに関しては、僕がオファーや打ち合わせをしたときは男前で、アラン・ドロンとか、ロバート・デ・ニーロの若い頃のような見た目だったんですが、アリッサさんと収録に来たときは雰囲気が変わっていました。

「なんで?」と聞いたら「今度ムッソリーニの役をやるから」と。じゃあ仕方ないと、スキャンしたのですが、その1年後くらいに収録に現れた際にはまた別人のようになっていました。結局、デジタルで直したんですけど、あれは誤算でしたね。

奥さんとルカさんで撮ったんですけど、ふたりっきりのシーンが多いんです。これがちょっと面白くてですね。夫婦ならではの「間合い」というか、温度感というか、そこがすごかったです。

ルカさんは舞台の俳優でもあるし、奥さんも女優であるうえに監督なので、僕を置いて監督しようとしていたこともあったんですけど(笑)。

Q.『デス・ストランディング2』において、1作目にはなかった昼夜のサイクルを導入した理由とは?

小島氏:
日が昇って落ちていくいろいろな表情というか、そのときどきの空の美しさみたいなものを演出したかったんです。『メタルギアソリッドV』では導入していたのですが、前作では入れられなかったので今回は入れました。

ただ、導入当初は、夜のシーンが真っ暗すぎてヘッドライトを点けても崖から落ちてしまうことが多くて。こういう部分はリアルにしすぎるとプレイに支障が出てしまうので、だいぶ迷いました。何度も悩み、迷い、考え、ライティングを変えるなどの工夫を施しています。

『DEATH STRANDING 2』小島秀夫監督&制作チームインタビュー:『デススト2』開発秘話が語られる_011

小島氏:
さらに言うとですね、ゲーム内の時間帯によって、カットシーンに入る際のライトが変わるんですよ。

そうなると、朝焼けや影の入り方も変わるので、カットシーンもそれに対応して作らないといけない。開発としては、ライトを絞って逆光で映画みたいな演出をしたい気持ちがあっても、太陽が昇ってくると思うように光が当たらない。

「プリレンダリングムービー」じゃないところでは、サムの服装も変わるし、時間帯によって周囲の環境も変わるので、いろいろ我慢しているところはあります。

僕の気持ちとしては「このシーンは夜に見てほしい」というものもありますが、皆さんには自由に遊んでもらえればと思います。

配達も夜になることで変化があります。ただ暗くて夜は嫌だ」という人もいると思うので、ベッドで寝るときは、、翌日になるのではなく昼夜を切り替えるための「朝まで寝る」選択肢があります。

1回寝て、起きたら身体を起こして窓から外を見るような演出もあるのですが、このような演出に対してモニターでは不評な意見もありました。

ですが、『メタルギアソリッドV』のように電子タバコで時間を進めることはできないので、ベッドを使って、二度寝したりしながら調整してもらえればと思います。

『DEATH STRANDING 2』小島秀夫監督&制作チームインタビュー:『デススト2』開発秘話が語られる_012

Q.本作では戦闘要素にも重きをおいているようですが、この変化はゲームデザインや物語にどのような変化を与えているのか?

小島氏:
『デス・ストランディング2』も、1作目同様に基本的には荷物を運ぶゲームなので、別に戦闘を推奨しているわけではないんです。

ただ、敵と遭遇しないように遠回りする、車やバイクでくぐり抜ける、戦闘して無力化する。これはプレイヤーが選べるべきだと思いました。僕に毎日のように「メタルギアを作って」と言ってくる人が世界中にいるので、戦闘もできるようにしている、というのもあります。

そうなると、武器の使いやすさにも気を使わないといけないんですけど、スタッフには『メタルギア』を一緒に作った人も何人かいる。だから僕らの考えで戦闘の快適さを求めていくと、意識はしていないけど『メタルギア』っぽくなって、心配になることがあります(笑)

『DEATH STRANDING 2』小島秀夫監督&制作チームインタビュー:『デススト2』開発秘話が語られる_013

小島氏:
あとは1作目のときに「棒となわ」の話をしましたよね。世の中がオンラインという縄で繋がっている。銃で撃ち合っている棒のゲームが多いので縄のゲームを作ります。という話です。

そういう思いで1作目を作ったんですけど、今も世界中の各地で紛争があって、綺麗ごとで繋がることはない。だから「ロープだけでは駄目」ということを作中でもヒッグスが言うんです。

その「繋ぐために棒を」「繋ぐべきではなかった」というテーマでストーリーが展開されていくなかで、戦闘の選択肢もとれるようにしたということです。

Q.メインテーマ「TO THE WILDER」の作詞作曲を務めるウッドキッド氏との協力関係について

小島氏:
最初に彼と会ったのは2020年の1月、レアさんに会いにパリに行ったときです。

セシール【※】から「ヒデオさんのファンが会いたがっている。ミュージシャンなんです」と紹介されて、ホテルのロビーで会うことになりました。ただ、僕はそのときウッドキッドのことを知らなかったから、ちょっとぞんざいな対応をしてました。

話の中で、「今作ってる曲を聞いてくれヒデオさん!」って言うので、まだリリース前でミックス中だった「Goliath」という曲を聞いたらそれが最高の曲で。思わず「なんだこれ!あなたは天才じゃないか!」と言いました。そこから彼の音楽に惚れ込みました

※元コナミ、フランス支店のセシール・カミナデス氏。

日本に帰ってから、秋ごろにリリースされたアルバムで完成版の「Goliath」を聞いてPVも見たところ、その世界観が『デス・ストランディング』と似ていたんですね。

それ以前の曲もさかのぼって聞いていったら「ビーチ」や「クジラ」が出てくるものまであって本当にびっくりしました。すぐメールして「なんでこんなに似てるの?」と聞いたら「俺達は似てるんだ」って返信がきました。

小島氏:
その後、ロウ・ロアーのライアン・カラジヤさんが亡くなって、今回の音楽はどうしようかと考えていたときに、ウッドキッドとの繋がりを思い出して連絡しました。

快諾してもらって、2、3年前に彼は、僕のオフィスの隣の会議室で作曲をしてました。その後も、東京では杉並合唱団との収録、パリではオーケストラとの収録と、楽しく収録を重ねていきました。

マッツに代わるキャストも心配でしたけど、音楽も心配だったんです。ロウ・ロアーがあっての『デススト』ですし、僕のところにもよく「ロウ・ロアーを超えるような音楽体験はあるの?」とメールがくるんです。

この前の「サウス・バイ・サウスウエスト」でのイベントのときにウッドキッドも来てくれて、そこで彼の曲を出したんですけども、世界中で評判がよかった。

そのときにウッドキッドが僕に「じつは、俺はプレッシャーで大変だった」「ロウ・ロアーじゃないお前なんかいらないって言われるのが怖かった」「安心した」と言ってくたんです。

Q.『デススト2』の制作過程で、もっともやりがいに感じた部分とは?

小島氏:
コロナ禍当初は、ほとんどひとりで孤独に企画書を書いていました。

シンちゃん(新川洋司氏)が週に1回くらい来てくれる以外はほとんど顔のない人たちと仕事をしているような気分でかなり辛かったですね。あのころは「もう無理だ」とも思ってましたけど、今は皆さんにご協力いただいて完成間近です。

どこのスタジオもそうだったとは思うんですけど、「撮影も収録もできなくて、この状況でどうやって作れというの?」という感じでした。

2021年のはじめころのパフォーマンスキャプチャーに関してですが、コロナ禍なんで僕が直接ロスに行くこともできない。

だから東京からリモートでロスのスタジオと繋いで、スマートフォンやタブレットとかあらゆるカメラを駆使して俳優さんとやりとりをするんです。でも、具体的に説明することもできないし、視野も狭いし距離感もあるので気が狂いそうな作業でした。

そこで、ソニー出身の阪井さんが作った「窓」という、扉のような大きさで双方向のやりとりができるモニターを2組貸してもらって作業を行いました。

それでも大変でしたけど、「窓」が大きかったので、「窓」の前に集まってもらって、歩き方を見せてもらったり、指示をしたりして……なんとか終了しましたね。

この「双方向」というのは、開発でも同じことが言えるんです。横にスタッフがいて作っていると、制作の過程も含めて見ることができますので、細かい指示を出したり、情報の共有もスムーズです。

これがリモートだと週に1回、あるいは月に1回の報告になってしまい動きが遅れてしまいます。もう作らなくていいシーンなのに作り続けていたことが発覚してしまったりね。

なので、やりがいに関しては「無事作品を出せそうです」ということになります。

本作は「繋がりのゲーム」です。繋がるべきかどうかは置いておいて、(今回のイベントを通して)皆さんとも出会えましたし、直接お話をした方もいます。この繋がりはもう消えることはないです。

1

2

3

ライター
4Gamer、ファミ通、電撃、そして電ファミなど、いくつものゲームメディアで記事を書いてきたライター。自身の体験を踏まえて書いた「うつ病の自分が『DEATH STRANDING』を遊んで、“実感”を取り戻した話」をきっかけに、フィクションを自分事として捉えて糧にするということについて、改めて考えるようになる。
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ