忍術書の内容は「火術」に関するものばかり
──ここからはムサシの「技」についても見ていただきたいのですが、まずは前方に口から火を吹く「火炎」はいかがでしょう。
習志野さん:
おそらく、口から火を吹くといったパフォーマンスは江戸時代中期の歌舞伎でイメージが形成されたものではないかと思います。とはいえ、忍者が火の扱いに長けていることは歴史的にも本当で、そういった火と忍者の関係性のイメージから「忍者は火を吹く」といった創作が生まれていったのかもしれません。
忍術書というものが残されているのですが、その内容のほとんどが火術に関するものでした。
普通、「忍術書」と聞いたら刀の扱い方や、それこそ手裏剣の投げ方が書いてありそうじゃないですか。でもそんなことはぜんぜんなくて、ほとんどが火薬の調合や火のつけ方、それと火の維持の仕方についてが書かれていました。
──どうしてそんなに火についてばかり書かれていたのでしょうか?
習志野さん:
電気のない時代は、火をどのように携帯するかが戦いにおいて重要だったからだと思います。それこそ “秘伝” として秘密裏に行われていました。火薬の調合の腕があると幕府にも目をつけられるんですよ。
火は「胴火(どうび)」という、銅板を丸めて作られた銅製の容器に入れて持ち運びます。布を黒焼きにした燃料が長いあいだ燃焼するのでいつでも火種として使用することができるので、現代のライター的な役割に近いです。あたたかいので懐に入れておけばカイロのようにも使える優れものです。
──ではつづいて、壁や天井につかまって移動することができる鉤爪「鋼鷹爪(こうようそう)」はいかがでしょうか?
習志野さん:
ん~、これは、ロマンかなと(笑)。
一同:
(笑)。
習志野さん:
手の甲につける道具はあるにはあるのですが、江戸期の伝書でもほとんど出てこないので、真偽のほどはわかりません。中国の武器に近いものがあるので、そういったものからのインスピレーションではないかと。でも、実際にあったらぜったいにかっこいいので使いたいです。
──ちなみに壁を登ったり張りついたり、というのは実際にありますか?
習志野さん:
それはあります。身の軽い者がボルダリングのように壁をよじ登り、先ほどのクナイを打ちつけて縄をとおせばつぎの人が登りやすくなって攻め入りやすくなるので。
──これはファンタジーなアクションであるかとは思うのですが、空中のフックに引っかけて移動する「鎖分銅(くさりふんどう)」はいかがですか?
習志野さん:
おそらくその用途だと「鉤縄(かぎなわ)」になるかなと。鎖分銅というのはこちらなんですよ。これは登るための用途ではなく、敵を捕らえるための道具です。
──あっ、ヌンチャクっぽいものが鎖分銅なんですね。
習志野さん:
(鎖分銅を手で包みながら)こうやって手の中に隠して……こうッ!

一同:
うわああああああああ!?
習志野さん:
たとえばこれが相手の手首だったとしたら、こうやって締めて潰して動けないように引きずり倒す。
──さらっと怖いことを言っていますね。
習志野さん:
鎖分銅はこのように敵を捕らえるために使います。
月の満ち欠けによって黒と白の装束を使い分ける
──ムサシのような白い装束の忍者っているのでしょうか?
習志野さん:
白装束の忍者もいます。これにはいくつか理由がありまして、まずいま私が着用しているようないわゆる忍者のかっこうは “忍者だから” というわけではないんです。こういった頭巾とかも山で作業をするための農民のかっこうでもあり、あとは山で修行を行う山伏も白装束を着ているので、紛れ込んだときに怪しまれにくいメリットもあります。
──へええ、なるほど。
習志野さん:
また、月の満ち欠けによって色を選ぶこともあります。満月の日は明るいので黒だと目立ってしまうんですね。なので白を着ます。そのほうが隠れられるから。
その逆で新月では黒を着ます。そうやって装束を使い分けていたようです。黒と白のリバーシブルの羽織りがよいとされていました。
──環境に溶け込みやすくなるよう工夫をしていたのですね。
習志野さん:
主人公の装備も実用性がありますね。手甲とすね当てをつけていて、内側は見えないですが、鎖帷子(くさりかたびら)をつけていたら、そういうのを「小具足(こぐそく)」といいます。
高いところに登ったり、素早く移動したり、ガチガチの鎧だと音で居場所がバレてしまうこともあるので、防御よりも機動性重視で奇襲をするかっこうになっています。
装備でいうとこういった手ぬぐいも忍者の必需品のひとつです。いまちょっと色が抜けてしまったのですが、殺菌作用のあるマメ科の植物で染めています。頭に巻きつけるとこんな感じ。
──あっ、完全にムサシですね。
習志野さん:
さらに編笠をかぶると外側からこちらの人相がわからなくなるんです。でも内側からなら相手のことは見える。こんな状態で暗がりで立っていたら怖いですよね。
──手ぬぐいに近い(?)かもしれないですが、空中で使用すると一定時間浮遊することができる「ムササビ」という技があるのですが、こちらはいかがでしょうか?
習志野さん:
これは、実際にやると大怪我しますね。
一同:
(笑)。
習志野さん:
上着などをばっと広げれば高いところから降りても大丈夫とする話はなくはないのですが、現実的ではないかと思います。
近いシチュエーションでいうと、高いところから降りるときは槍を持って飛び降りるほうが現実的かなと。槍の摩擦の干渉で勢いを殺しながら降りる、という。外国では「サルトデルパストール」と呼ばれる羊飼いの技術を文化的にやっているところもありますね。
犬のフリをして敵を欺く「犬真似の術」はマジである
──犬についてはいかがでしょうか。忍者と関係ありますか?

習志野さん:
あっ、犬に関する伝書はけっこうありますよ。なぜかというと、犬は忍者の大敵だからです。屋敷に忍び込もうとしても犬がいると吠えられてしまいますから。そのため、犬の生態を学ぶためにも一緒に暮らしていたのではないかと思います。
──な、なるほど。
習志野さん:
また、少しマニアックなものだと犬のモノマネをする術もあります。1670年代の伝書の時点で「すでに古い」とされていたものではあるのですが、やってみますね。
──えっ!


習志野さん:
よくマンガやアニメなどでだれかに見つかったときに「ニャーン」と猫の真似をして難を逃れる方法があるかと思いますが、このように犬の音を再現することで敵を欺いていたようです。
──す、すごい。犬そのものだ……!
習志野さん:
モノマネ以外にも「犬走り」という技もあるので、犬からいろいろ学んでいたんだと思います。
忍道家が考える “最強の復讐方法” とは?
──『SHINOBI 復讐の斬撃』はタイトルにもあるとおり復讐がテーマになっているのですが、習志野さんが忍道家として考える最強の復讐ってどんなものですか?
習志野さん:
ちょっとそれは考えたこともなかったですが(笑)。いわゆる暗殺方法ってことですよね。じつは「暗殺術」はけっこう語られているんです。
忍者は、少人数で夜に奇襲をかける夜討(やうち)を得意としています。やっぱり「いまから戦うので準備してください」と挑むより圧倒的に有利なので。夜中に背後から忍び寄って相手が避けられない角度から仕留めます。
──まさに、忍者のイメージです。
習志野さん:
この、相手が避けられない角度というのが「下からの切り上げ」なんですね。これは暗闇で敵がもっとも避けられない攻撃なんです。
ちょっと想像してみていただきたいのですが、頭上や正面からの攻撃ってある程度ガードできると思うんですね。でも下から切り上げるように攻撃されてしまったら、なす術がない。
しかも人って、足を切ると声を立てられないと言われているんです。たとえばタンスの角に小指をぶつけたとき「ギャー!」と声をあげるというより「……ッ!」と声を出せない場合が多いと思うんです。
──声、出ないですね。
習志野さん:
つまり、「暗闇でアキレス腱あたりを下から切り上げて声を出せずに痛がっているところを仕留める」という方法が最強なのではないかと考えています。
──そんなことをされたら一瞬で暗殺される自信があります。
習志野さん:
でも、下から攻撃するにはかなりの訓練が必要なんですよ。低い姿勢を維持するってたいへんで。なので、そもそも鍛えていないとできない方法かと思います。

いまのは技術的なところのお話でしたが、あとは「信頼関係を築いてから裏切る」という方法も効くと思います。
──それはたしかに(笑)。信頼を置いていた人から夜中にアキレス腱を切られて痛がっているあいだに殺されたら精神的ショックのほうが大きいです。いつの時代もいちばん怖いのは人ということですね。
それでは最後に、習志野さんにとっての忍者の魅力を教えていただけますでしょうか。
習志野さん:
「音もなく匂いもなく智名もなく勇名もない」という言葉が残されているんですけど、要するに自分の名誉や証拠は残さないけど、その功績は天地を創造するようなものだと例えられているんですね。
そういった、自己を滅した行為を逆に名誉としているところに魅力を感じます。
海外でも我欲による名誉じゃないというところがダークヒーロー的な要素につながっていたり、命令に従って黙々とこなしていく姿が人気なのかなと。
また、歴史的なところだと忍術は甲賀や伊賀で発達していくのですが、あの地域って大名の影響がないんですね。要するに自治なんです。小さな村々や家々が集まって一国を成している特殊な状況で、外から敵が攻めてきたときは一致団結して戦うという連盟を形成しているんです。
だからたとえば普段は仲の悪いお隣さんだったとしても、敵が来たら協力していて。実際に天正伊賀の乱では信長の軍勢と少人数で戦って、普段は農民をしながら忍の訓練をしている隠れ里の忍たちがゲリラ戦で大打撃を与えているんです。
そういうところも忍者の魅力だと私は感じています。
──本日はありがとうございました。史実を知ったうえでプレイするといままで見てきた忍者アクションも違った味わいがあるように感じました。最強の復讐方法があまりにも具体的だったので、なにかの折に復讐を誓うことがあった場合は参考にさせていただきます。(了)
『SHINOBI 復讐の斬撃』においての忍者アクションは、体感として半分はロマンで半分はガチでした。
今回の取材を通じて見えてきたのは、「忍者」という存在が私たちの想像以上に奥深く、多面的であるということ。手裏剣や鉤爪といったアニメやゲームでお馴染みのアクションには史実に基づく要素もあれば、演出として発展したロマンも存在します。
習志野さんの解説からは、忍者が培ってきた合理性と戦術眼、そしてそれらを現代に伝える意義が鮮明に浮かび上がりました。
「忍者走り」のような実用性重視の動きや、月の満ち欠けに合わせた装束選び、犬との関わり方、そして “最強の復讐方法” にいたるまで、その背景には環境や戦況に応じた明確な理由と歴史的経緯が存在します。
こうした知識を得ることで、『SHINOBI 復讐の斬撃』に描かれるアクションや演出も、単なるファンタジーではなく、現実と創作の狭間で生まれた忍者像としてより味わい深く感じられるのではないでしょうか。その境界線を知ったうえでゲームを遊ぶ楽しさをぜひ体験していただきたいです。
『SHINOBI 復讐の斬撃』は8月29日の発売を控え、現在は体験版も配信中。デジタルデラックス版を買うと3日のアーリーアクセスが可能となっています。リアルとロマンが交錯する忍者アクションを確かめてみてください。