この戦争の物語が描くのは、兵士でも将軍でもありません。
戦災の中を生きる「民間人」の苦難と葛藤、悲劇を描いた、戦時下のサバイバルゲーム『This War of Mine』。
数々の表彰を受けたこの作品に、人々の「物語」に焦点を当てた派生作が登場しました。
『This War of Mine: Stories』です。
モチーフとなっているのは1992年から1995年まで続いた、ユーゴスラビアの「ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争」。
民族と宗教の対立が深刻化していたこの国で、独立問題が起こり内戦に発展。
首都のサラエボを守る政府軍が市民ごと包囲され、多くの人々が戦火の中での生活を余儀なくされました。
1990年代が舞台のため、戦争に巻き込まれた民間人を描いているといっても、『この世界の片隅に』や『火垂るの墓』のような昔の物語ではありません。
だからこそ、現代の都市で起こった戦争と、そこで繰り広げられたサバイバルには現実感があり、ミサイルが飛来してJアラートがけたたましく鳴り響く今の日本にとっては、起こり得る未来とも言えるでしょう。
オリジナルの『This War of Mine』は戦時下をいかに生き延びるかのゲームであり、さまざまな登場人物とイベントが用意されていましたが、固有のストーリーはありませんでした。
今作は逆に物語が中心で、サバイバルに加え、ストーリーに沿った探索と行動が必要です。
今回のストーリー「Father’s Promise(父親の約束)」はオリジナルより難易度は低く、行動するのはひとりのみ、目標が常に提示され、冬の訪れの前に完結することができ、生存自体はそれほど難しくありません。
自由度が高い反面、わかりにくかった原作のチュートリアルを兼ねているような印象もあります。
価格はiOS版240円、Android版220円。
Steam版はダウンロードコンテンツになっていて、205円ですがオリジナルが必要です。
Storiesは全3エピソードが予定されていますが、このレビューはあくまでひとつ目のエピソードのものなのでご了承ください。
主人公は病に臥せった幼い娘「アメリア」を看病する父親「アダム」。
妻を亡くし、家も砲撃で廃墟と化し、食料も尽きて絶望的な状況。
まずは逃げ込んだ建物の中を探索し、瓦礫の中から使える材料や木材を集めなければなりません。
最初から簡易的な作業台と、アメリアを寝かせるベッドはありますが、他はすべて自給自足です。
調理のためのコンロ、道具を作る工作台、雨水のろ過装置など、生き残るのに必要なものを自作しなければなりません。
そして問題なのは食料。こればかりは定期的に必要になります。
なくなったら外に探しに向かわなければなりませんが、しかしここは戦時下の都市。
他民族の浄化をうたう包囲軍に狙撃されれば、命はありません。
夜になれば狙撃の心配なく探索に向かえますが、アメリアをひとり残していくことはできません。
当分は探索に出かけることはできないでしょう。
幸いにも逃げ込んだ建物には無線が残されていて、これで助けを呼んだり、情報を集めることができます。
娘の病気について伝えれば、誰かが薬を持って来てくれるかもしれません。
無論、対価は必要です。紙幣が役に立たないこの状況では、物々交換に頼ることになります。
アダムには兄がいて、娘を連れ出したいと訴えてきます。
国連が用意する脱出ルートは、子どもを連れた者を優先するからです。
しかしアダムは、アメリアを危険に晒せないと、これを拒否します。
相応にストーリーが進めば、他の場所の探索を行えるようになるでしょう。
探索地には誰もいない廃墟や、被災者が集まっている場所、そして兵士がうろつく危険な場所があります。
敵兵に見つかれば、もちろん銃撃されて窮地に陥ります。
主人公はあくまで一般人、戦士ではありません。
装備さえあれば戦うこともできないわけではなく、隠れて奇襲するステルスアタックも可能ではありますが……それは目的ではありません。
主人公が目指すものは、娘とともに生き延びること。
ただし、常に安全に行動できるとは思わないほうが良いでしょう。
iOS/Android版の難点は、字が小さいこと。特にタブレットの場合。
普段のメッセージは拡大すれば困るほどではありませんが、人物ラベルに記載される「空腹」や「疲れ」の状態表示は、iPadだとそのままでは読めないほど小さい。
スクリーンショットを取って、写真アプリで拡大しないと確認できないレベルです。
ラジオのメッセージもかなり小さめ。
スマホ版だと状態はアイコンで示されており、ラジオのメッセージも大きめに表示されるので、皮肉にも画面の小さなスマホの方が認識しやすくなっています。
何度か確認すれば、iPadでも何が書いてあるのか理解できるようになってきますが……。
ストーリーは短めで、スムーズに進めば2時間ほどでラストまで到達できます。
もうちょっとボリュームが欲しかったのは否めませんが、最初のストーリーなのでやや簡単で、短めにしたのかもしれません。
ストーリーを進めずに終戦を迎えるエンディングもあるようで、それを目指す場合は冬の寒さ対策や、長期的なサバイバルのための施設が必要になりますが、それをするならオリジナルを遊んだほうが良いでしょうね。
しかしかなり安価なので、オリジナルをすでにプレイしている方には新展開として、未プレイの方にはショートバージョン兼チュートリアルとして、体験して欲しい作品です。
This War of Mine: Stories – Father’s Promise
戦時下で娘とともに生きようとする、ある父の物語
・シミュレーション(サバイバル系)
・11 bit studios(ポーランド)
・iOS版240円、Android版220円、Steam版(DLC)205円
文/カムライターオ
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