中国の武漢を発生源とし、報告から約1ヶ月の間に数千人に感染、日本・韓国・フランス・アメリカを始め、多くの国々に広まりつつある病原体「新型コロナウイルス」。
1100万人都市である武漢市が閉鎖され、その惨状が伝えられる中、とあるゲームが話題になっている。
『Plague Inc. -伝染病株式会社-』だ。
疫病を広めて人類を滅亡させるのが目的という、非常に背徳的なゲーム。
一方で、衛生の大切さ、初動の封じ込めの重要さを反面教師的に伝えている。
イギリスで経営コンサルタントをしていたジェームズ・ヴォーン氏により2012年に公開されたこのゲームは、瞬く間に世界中でヒットし、アプリ開発で億万長者になれた一例としても知られている。
現在もアップデートが続いており、有料アプリランキングの常連だ。
その『Plague Inc.』が新型コロナウイルスの流行により、App Store(iOS)ランキングの首位になった。
もちろん日本だけではない。アメリカ、イギリス、韓国やインドネシア…… そして中国でもだ。
2014年に西アフリカで流行したエボラ出血熱、2015年に熱帯地域で広まったジカ熱の際にもPlague Inc.は注目されたが、今回は巨大人口を抱える大国での発生のため特に話題になっている。
このゲームは伝染病の感染モデルをリアルに表現しており、その内容はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)にも高く評価された。
ゲームを始めると、まず病原体が発生する国を選ぶことになる。
有利に進めるには、人口が多く、多くの国に陸路で接しており、空港や港といった交通機関がそろっている国が良い。
例えば…… 中国などだ。
感染したばかりの病原体は弱く、感染力も毒性も低いが、感染の拡大により得られる”DNAポイント”によって、家畜感染や血液感染などの特性を得ることができる。
鳥感染を得れば国境を越えやすくなり、空気感染や水感染を獲得すれば航空機や船舶によっても病原体は運ばれていく。
感染の拡大と共に真っ赤に染まっていく地図は、初見のプレイヤーに大きな戦慄を与えることだろう。
そして“症状”を獲得することで、感染者に異常が発症する。
せき、発熱、麻痺、肺炎などを持つことで、更なる感染力の増加と重症化を促すことができ、いずれは死に至ることになる。
もちろん人類も座して死を待つわけではない。
国境を遮断し、空港や港を閉じて都市を封鎖、マスクや飲料水を配布し、媒介の危険がある動物を駆除する。
それらによって病気の拡散は防がれ、そして治療薬の研究に資金が投入される。
それが完成したとき人類は救われ、病原体側のプレイヤーはゲームオーバーとなる。
このゲームは簡単ではない。
人類は十分に手強く、最初のうちは何度も敗北することになるだろう。
有効な攻略としては…… まずは強い症状を持たず、致死率の低い病原体に見せかけて、感染力から強化する。
そうして十分に多くの人々が感染してから変異を開始し、症状を重くして死に至らしめるのだ。
そう、いま流行中のコロナウイルスのように。
このゲームには防疫の基礎が詰まっている。試しに日本でスタートしてみると良い。
裕福で医療が整っており、陸路で他の国に接していない島国からのスタートは、病原体から見ると最悪だ。
感染者が増えないまま、空港と港を封鎖されて閉じ込められかねない。
それはつまり、どんな病原体でも初動で封じ込めれば対処できるということでもある。
逆に貧しく人口過密、往来のしやすい国からスタートすると、病気は瞬く間に広がる。
初期の感染が早いほど拡張ペースは加速度的に上がり、感染者が1人から100人になるのには時間がかかるが、そこから1000人、5000人になるのはあっと言う間だ。
医療と衛生のレベルが低い環境では尚更で、こうしたパンデミックの国が近くにあると、もう日本のような島国でも防ぎきれない。
プレイヤーはゲームに勝利するべく、温暖で医療の整っていなさそうな国からスタートし、複数の感染ルートを備えて人類の対応の裏をかき、先んじて海の向こうに上陸するため交通手段による感染力を高めようとするだろう。
そして現実の伝染病に対しては、診察を受け、感染ルートを特定し、水際で防ぐことがいかに重要かを学ぶことになる。
このゲームにはEasy、Normal、Hardの3つの基本難易度がある。
Easyは「誰も手を洗わず、病気の人々ともハグする世界」で、Hardは「全員が強迫的に手洗いし、病気の人々は隔離される世界」となっている。
強迫的になる必要はないが、手洗いやうがいを通してイージーモードにならないことを心がけたい。
今回の『Plague Inc.』の注目に対し、開発チームは自社のウェブサイトでコメントを出している。
「Plague Inc.は8年前に公開されたゲームで、疫病の蔓延があるたびにプレイヤーが増えています。
我々はゲームが現実的で、教育的であることを意図しましたが、現実の社会を煽動するような意図はありません。
Plague Inc.はあくまでゲームであり、科学的な再現モデルではありません。
そして現在のコロナウイルスの大流行は、今まさに多くの人々に影響を与えている現実の出来事です」
どうやら一部のメディアやユーザーから、今回の新型コロナウイルスをゲーム化したものだと思われたようだ。
設定をカスタマイズできる『シナリオクリエイター』が発売されており、今回の疾病シナリオが中国で作られ話題になっているため、その影響もあるのかもしれない。
2012年に公開された作品であり、今回の騒ぎを利用したゲームではないことは明言しておくが、それだけ真に迫ったゲームであることも確かであろう。
この8年で17回の大型アップデートが行われており、洗脳虫、ゾンビウイルス、猿の惑星、吸血鬼ウイルスなどの特殊ステージが追加されている。
また、ボードゲームやフェイクニュースを人々に広めるユニークなシナリオも加えられている。
上級者用の「超Hard」も用意されたので、過去にプレイ済みの人も改めて起動してみると良いだろう。
なお、ゲームとは直接関係ないが、米ジョンズ・ホプキンズ大学が世界の感染者と死者数をリアルタイムで表示する追跡マップを公開している。
その様子はまさに、現実のPlague Inc.である。
Plague Inc. -伝染病株式会社-
病原体をコントロールし人類を滅亡に導く疫病SLG
・運営RTS
・Ndemic Creations(イギリス)
・iOS版120円、Android版無料(課金あり)、Steam版1680円(拡張版)
文/カムライターオ