男は精神病院の一室にいた。
決められたプログラム通りの生活を強いられており、外出は許されていない。
夜、彼は断片的な記憶の夢を見る。
厳格で曖昧なその日々は、男をどこに導くのだろうか?
そんな精神病患者の生活を描く、謎と不安をはらんだサイコホラー・アドベンチャーゲームが公開されています。
『The White Door / ホワイトドア』です。
じわじわ来る恐ろしさを描いた、同じくサイコなアドベンチャーゲーム『Rusty Lake Hotel』や『Cube Escape』シリーズを開発したチームの作品。
今回は恐怖より「男の過去に何があったのか? どうしてこうなったのか?」を探る内容になっていますが、根底にある得体の知れなさが伝わってくる作風は相変わらずです。
アドベンチャーと言うより「脱出ゲーム」で、謎解きは簡易的。
しかし起きるときには布団をドラッグで下げ、食べ物はタップでかじり、指を左右にスライドして歯を磨くといった、タッチパネルを活かした直感的な操作には臨場感があります。
ピアノソロやアンビエントのBGM、ぼそぼそとつぶやくような男の独白、手書き風のイラストにも雰囲気があり、まるで映画を見ているかのような、思わず引き込まれる作品です。
価格はiOS/Androidは370円。Steam版は410円。
当初は英語のみでしたが、現在はアップデートで日本語に対応しており、翻訳文におかしなところも見られません。
舞台となるのは狭い病室。壁には一日のスケジュールが書かれた紙があり、これに沿って行動します。
やるべきことが指示されていて、移動範囲も狭いので、あまり悩むことはないでしょう。
朝食後にはドクターの“診察”とコンピューターを使った“記憶トレーニング”を、夕食後には“娯楽”と称された日替わりの行動を行います。
診察は「あなたの名前は?」「今日は何日?」といった質問に答えるもの。
部屋の中にはそのヒントがあり、名前のスペルは引き出しの中の社員証で、日付はベッドの脇のカレンダーで確認できます。
記憶トレーニングはちょっとしたパズルで、何をすれば良いのかわかりづらいものもありますが、アドベンチャーゲームですから、それもひとつの謎解きでしょう。
とは言え、そんなに難しくはありません。
娯楽も筋トレやピンポンといった簡単なものから始めますが、後半はちょっとした謎解きになります。
そして一日を終え、眠りにつくと…… 男は夢を見ます。
過去にあったと思われる出来事が、彼のつぶやきと共に、ムービーのように現れます。
ただ見るだけではなく、操作するポイントが何度も出てきます。
「コーヒーを一口飲む」なら、コーヒーカップを口へとドラッグ。
「彼女が目を逸らした」なら、目を右か左にドラッグします。
どう操作すべきかは場面ごとに異なりますが、男のつぶやきを動作で再現すれば良く、難しいものではありません。
夢が終われば、また変わらぬ日々が始まる…… はずです。
病室での一週間が過ぎれば、ゲームは終了です。
一日はそんなに長くなく、さほどかからずしてエンディングに至るでしょう。
しかし、そこですべて終わりではありません。
エンディングのあとに追加の一日があり、そこでの謎解きを終えれば、シークレットエンディングに至ることができます。
さらに、それぞれの日の夢と現実の中に、シークレットスターが隠されています。
やり込み要素と言えますが、場面によってはスターを発見することで、新たなシーンを目にするかもしれません。
また、ゲーム中に電話番号を目にします。
そこに「実際に」電話をかけると、とあるウェブサイトの案内が行われます。
そのサイトに「実際に」アクセスすると、舞台となっている精神病院のページが開かれます。
それはさらなる謎解きへの入口となっています。
ここから先は英語が堪能でなければ進めることが困難でしたが…… 公式の日本語訳ページが公開されました。
これを頼りにすれば、アップデートで追加された謎「地下病棟」へと至ることができるかもしれません。
ただ、ここの謎は個人で解くにはかなり難解ですが……。
ともあれ、現実にサイトや関連SNSが存在するARG(仮想現実ゲーム)の展開があることで、ゲームにより深みが与えられています。
狂気をはらんだ内容でありながら、直接的な脅かしはなく、そして難しすぎない「解かせるための謎」で構成された、まさにRusty Lakeらしい作品。
相変わらず模範的な脱出ゲームです。
その一方で、Rusty Lakeの過去作よりもハイセンスなビジュアルになっており、このシリーズがさらに一段階上のステージに上がったのを感じます。
登場人物は『Cube Escape』シリーズと関連しているため、興味が湧いたのであれば、他のシリーズ作を試してみるのも良いでしょう。
その辺の脱出ゲームとは異なるクオリティの、強い印象と余韻が残るショートアドベンチャーです。
The White Door / ホワイトドア
精神病院の一室で暮らす、男の日常と夢の物語
・アドベンチャー(脱出ゲーム)
・開発:Rusty Lake(オランダ)
・公開:Second Maze(オランダ)
・iOS/Android370円、Steam版410円
文/カムライターオ