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『バイオ2』から『バイオ3』に見る“バイオでありつつのジャンルの変容”。「ホラーゲームとアクションゲームの天秤」はなぜ両立しないのか

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 2019年に発売された『バイオハザード RE:2』は、非常に完成度の高いゲームシステムのチューニングとUIの刷新によって、『バイオハザード2』から完全に生まれ変わった。その姿は「今世代最高のリメイク」との呼び声も高く、傑作としてシリーズそのものを瑞々しく蘇らせている。

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 そして2020年、奇跡の復活劇に続き発売されたのが『バイオハザード RE:3』である。1999に発売された『バイオハザード3 LAST ESCAPE』のリメイク作品だ。

 端的に今回のリメイクを表現するならば、『バイオハザード RE:2』のシステムをそのまま流用して、まったく新しいゲーム体験を表現した作品と言えるだろう。ただしそれは、“アクションゲームという区切り”の中でとなる。

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 その『バイオハザード RE:2』から『バイオハザード RE:3』への変化は突然変異的に生まれたわけではなく、そもそも『バイオハザード2』と『バイオハザード3』の関係性を現代にそのままコピーしたような、ある種の感慨すら生まれる体験の質と言える。『バイオハザード3』自体が『バイオハザード2』と同時系列に進行していく物語であり、一種の「外伝」的な位置づけに、新たなアクション性を加えてスタイリッシュな戦闘を実現した内容であったことはご記憶の方も多いだろう。

 この『バイオハザード RE:2』と『バイオハザード RE:3』の連作は、確実にそのフォーマットを踏襲している。ではその変化の中で本作は前作から何を失い、何を得たのか。焦点はそこだ。

文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn


なぜ『バイオ3』は『バイオ2』より怖くないのか

 もっとも大きな変化は、“恐怖度”の変化だ。恐怖という尺度で考えれば、本作は明確に前作を下回る。理由はいくつか考えられるが、まずは主人公自身「ジル・バレンタイン」の設定から見ていこう。

 「ホラー」というものは、「未知」が導く心理的圧迫がもたらす恐怖心を利用したジャンルであると定めることができる。そうすると初代『バイオハザード』で洋館の惨劇を経験しているジルにとって、ラクーンシティの状況やゾンビとアンブレラの存在は、“既知”の延長線上に位置する現実の先端でしかない。

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 それはつまり、そもそもキャラクター自身が現状に最適な危機感や緊張感を持つことで保っている、恐怖が減少していることを意味する。さらに前作の主要な舞台が警察署という、恐怖を助長しやすい密閉空間であったのに対し、今作は大きく開けた開放感のある街そのものが舞台だ。屋内での探索もあるが屋外パートはかなり多く、その点もプレイヤーの恐怖心を喚起しづらい。

 さらにいうならば、前作から採用された完成度の高いUIに慣れてしまったプレイヤーにとって、操作そのものの難易度が下がっている点も見逃せない。動きのもどかしさや、ゾンビ一体一体の手ごわさも、プレイヤー層の“慣れ”には勝てない。逆に言えば、前作でラジコン操作の固定カメラシステムからアーバンなTPSへとのシステム周りの移行が、あまりにもスムースに進み過ぎてしまった弊害と言えるかもしれない。

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 つまり『バイオハザード RE:3』は、総じてもともとの設定、シナリオ、キャラクターの立ち位置、舞台設計すべてが、一般的にいうところのホラー作品が求める恐怖感とは少し違っているのだ。

恐怖を減少させる「ジャスト回避」

 そして本作を実はもっともホラーから遠ざける要因を一点挙げるとすれば、それは「ジャスト回避」のシステムだ。似たような緊急回避のシステムはリメイク元である『バイオハザード3』でも搭載されていたが、今作はそのシステムを非常に上手く現代の三人称視点シューター(TPS)に落とし込んでいる。

 敵の攻撃をジャストタイミングで回避すると動きがスローになり、銃器のエイムが敵のヘッド部分を自動的に狙う。その『バイオハザード RE:2』では存在しなかったシステムは、本作を一気にホラーというジャンルから遠ざけている。

 動きの不自由さや自由度の縛りというのは、地味な要素だがホラーゲームにとっての肝の部分だ。初代『バイオハザード』のラジコン操作しかり、『サイレン』のもっさりとした操作感しかり。必要物資の制限などもここに含まれるだろう。潤沢に存在する物資は確実にゲーム内の緊張感を阻害する。それらの制限は全て製作者の意図するところとしてプレイヤーの原初的な恐怖心を煽る。

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 『バイオハザード RE:2』でも、ぎりぎりストレスフルにならない程度に、だが確実にキャラクターの動きの俊敏さに制限はかけられていた。物資面でも、神経質なほどシビアに調整が図られており、プレイヤーは先に進みながら行動すべてのリスク計算を強いられる作りになっていたのは記憶に新しい所だろう。

 しかし今作ではジャスト回避という、「プレイヤーの習熟により難易度が変動する」という要素がすべてを塗り替えている。つまるところ、アクション要素のあるゲームにおいて、ゲーム内でのスキルの習熟とそれに伴うゲーム体験自体の変化とは、おおよそのプレイヤーにとって「挑戦すべき課題」となる。

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 それはその作品のプレイスキルの上達であり、多くの場合、プレイスキルの上達はゲーム自体の純粋な楽しさに繋がる。本作の場合、プレイスキルの上達によってジャスト回避の頻度が上がっていくことによって「爽快感」という、およそ「ホラーゲーム」に似つかわしくない、恐怖感とフィットしないプレイフィールが生まれている。

 ゾンビと対峙しているとき、ボスと対峙しているとき、あらゆる敵と遭遇している時にプレイヤーが感じるのは恐怖心と緊張感であることは間違いないにせよ、その緊張感はジャスト回避成功の快感と強く紐付けられている。

だがこれも『バイオ』。ホラーゲームとアクションゲームの天秤

 だがこれらのアクション要素の増加は、同時にアクションというジャンルにあるシリーズ作品としての「差別化」に成功をもたらしている。『バイオハザード RE:2』と『バイオハザード RE:3』は、ほぼ同じシステムとUIを搭載した、“別ジャンルのゲーム”というのがしっくりとくるだろう。

 そのジャンル名のつけ方はそれぞれだろうが、『バイオハザード RE:2』がギリギリのところでホラーであったのに対し、『バイオハザード RE:3』はギリギリのところでアクションゲームに近い。

 両者は極めて近しい存在だし、どちらも間違いなく『バイオハザード』ではあるのだが、それらは違うものだ。アクションとしての完成度が一歩進めば、ホラーとしての完成度が一歩後退する。そこには「ホラーゲーム」というジャンル特有の、スムースで爽快な、そして優れた操作感がその特質を棄損してしまうという、通常のゲームではあり得ない一種のジレンマが垣間見える。

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 ゆえにゲームとして『バイオハザード RE:2』と『バイオハザード RE:3』を比べた場合、どちらが優れているのかを断ずることは出来ない。

 おそらく周回の意欲という意味では、多くのプレイヤーが『RE:3』を選ぶのではないかと思う。「ジャスト回避」のシステムと、スコアによるアイテムアンロックの方式は周回を前提にしており、2周目は1周目とまったく違うプレイングが楽しめる。アクション性の深みとプレイスキルの習熟は、より高難度へ挑戦する意欲にも繋がり、リプレイ性は極めて高い。

 前述したように『バイオハザード2』に対しての『バイオハザード3』のアプローチは、今回の『バイオハザード RE:2』と『バイオハザード RE:3』とほとんど同じニュアンスであり、アクションに寄り過ぎない上で、適度な緊張感と恐怖感、爽快感を併せ持つ。
 『ホラーゲーム』という括り方ではなく、作品ごとにさまざまな色を持つ『バイオハザード』という括りなら、この調整は間違いなく正解だと言える。

 可能であればもう少しだけ、蘇ったラクーンシティでジルとカルロスの脱出劇を楽しみたかったという点を差し引いたとしても、今世代最高のリメイクである『バイオハザード RE:』シリーズの冠に恥じることのない作品であることは疑いようがない。

ライター
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Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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