我々が見てきた『サイバーパンク2077』は、“氷山の一角”でしかなかった──。
2012年に本作が正式発表されてから8年の間に、CD Projekt REDは公式番組やインタビューで幾度もその存在を示してきた。
ゲーム内の超広大な世界、圧倒的な密度、複雑に折り重なった設定。6月に行われた4時間のメディア先行体験会で、凄まじい物量と作り込みに「こんなスケールは正気ではない」と“恐怖”したことは、まだ鮮烈に記憶に残っている。
『サイバーパンク2077』を4時間プレイして残ったのは「恐怖」──。あまりにも複雑怪奇なナイトシティは、どんな“スタイル”のVも受け入れる
だが、それすらも“氷山の一角”でしかなかったのだ。1週間前にレビュー用のコードを手に入れ、50時間を掛けて熱狂しながらメインストーリーを駆け抜けてなお、私の目の前にはまだ膨大なコンテンツが無限に広がっている。
シナリオ、ゲーム内を構成する要素、どの面から見ても本作のボリュームは度を超えている。50時間もプレイすれば、普通のオープンワールドゲームなら全体のボリューム感はだいたい見えてくるはずだが、本作ははたしてどこまで続くのか、今でもわからない。
もちろん、細部まで情報がぎっちりと詰まったサイバーパンクの世界で、ひとりの住人としてミッションや生活をこなしていく体験の濃度が薄いわけではない。さらに言えばその物語の構造は、「自由度の高いオープンワールドRPG」がもたらすプレイヤーとキャラクターの関係性に対して、ひとつの答えをジャンルに提示してくれる作品とすらなっている。
ゲームの舞台である2077年を“次世代”と呼んでいいのなら、『サイバーパンク2077』はまさに次世代に残すべきマスターピース、傑作と言ってよい完成度を誇るだろう。
本記事では前半部分をゲームのシステム、後半部分はストーリーについてレビューしていく。ネタバレには極力配慮して執筆を進めるが、前情報なしでストーリーを楽しみたい方は、前半部分だけご覧になっていただきたい。
出自から下の事情まで、最高のナイトシティへダイブする前に
『サイバーパンク2077』は、2077年の近未来都市「ナイトシティ」を舞台とするオープンワールドゲームだ。プレイヤーは主人公の「V」を操作し、この街で自由に生きていく。あらためて『サイバーパンク2077』の導入部分から見ていくとしよう。
まずゲームを開始すると、男性的な身体か女性的な身体のどちらかから選び、出生を表す「ライフパス」をそれぞれ決定することになる。ライフパスには、ナイトシティで生まれこれまで生活してきた「ストリートキッド」、街の外からやって来た来訪者「ノーマッド」、そして大企業に務める「コーポ」の3種類が存在する。
3通りの中からどの視点でナイトシティを眺めるのか。これらはゲームを遊ぶプレイヤーが脳内妄想するための単なる設定ではなく、とくにライフパスは特有の会話の選択肢がゲーム中に多く出現するため、ここは一番“ノる”ことができるものを吟味して選択することが得策だろう。
続いてキャラクターメイクとなる。パーツの形状を数値で細かく操作する『Fallout』シリーズのような設定方法ではなく、いくつか用意されたパーツの中で組み合わせを楽しむようなものとなっている。スタイルの設定の自由度はそこそこと言ったところだろう。
ただし本作のキャラクターメイクで特筆しておくべきなのは、ナイトシティに多数の人種が存在するように、さまざまな地域やテイストに沿った外見作りが可能だということだ。とくにアジア圏外のオープンワールドゲームにありがちな、どう頑張ってもアジア人っぽい顔にならないという問題は一切ない。
このほか顔のパーツだけでなく、ピアスや入れ墨、メイクを選択できる。ほかのゲームのキャラクターメイクと比較すると、眼球の種類や髪型はかなり豊富でどちらも39種類から選択することができる。また本作独特の設定項目として、身体の性別的傾向に関係なく「女性器」と「2種類の形、3種類の大きさの男性器」を選択することができる。
出自から下の事情まで、自身のキャラクターを細かに作り上げると、ゲームがスタートする。3種類のライフパスでは、それぞれ独自の物語が描かれており、言ってしまえばチュートリアルなのだが、それですら数時間を要する密度となっている。
だが、どのライフパスでもVの永遠の相棒である「ジャッキー・ウェルズ」との出会いが描かれる。あまり友好的ではない出会いの可能性もあるが、出生も地位も見た目も一切関係なく、ジャッキーの態度は「誰をも受け入れる」ナイトシティのあり方を象徴しているようにも思える。
少々どんくさかったり、危うい部分もあるジャッキーとともに、Vはこの街でBIGになることを約束し、ともに依頼をこなしていくこととなる。最高の仲間と最高のナイトシティへようこそ。ここから先に待ち受けるのは、この冒頭部分が爪先ほどしか感じられないほどの、圧倒的に広大で没入的なワールドだ。
メインストーリーは、世界を牛耳る暗黒企業「大企業アラサカ」が開発した「Relic」と呼ばれるチップと、2020年代に活躍した謎のロック歌手「ジョニー・シルバーハンド」を中心として展開されていく。
アラサカは、人間の神経系に存在するデータをデジタルの記憶痕跡へと変換し、このチップに保存するプロジェクトを進めている。これが成功すれば、この世を去った人間とも会話が可能となり、「死」は実質、永遠の別れではなくなり、「不死」が実現する。
物語の冒頭でこのRelicをアラサカから盗み出すミッションを遂行するのだが、そう上手く話が進むわけがない。多くの夢や希望があっけなく終わってしまうのと同時に、主人公のVはジョニー・シルヴァーハンドと出会い、そしてアラサカの秘密と直面することとなる。
真に迫るナイトシティ、「そこで暮らしている」という圧倒的な人々の存在感
ライフパスのクエストを終え、街へと放り出されたプレイヤーの分身であるVがまず感じるのは、「ナイトシティではつねに何かと出会う」ということだろう。それは単純にクエストや物語だけではなく、見えるものや聞こえるものにも該当する。
自分の周囲を囲うギラギラ光る広告に、どこからどこへと行き交う人々、闇からこだまする悲鳴や銃声。くらくらするようなすさまじい物量のコンテンツが、ただただ眼前で繰り広げられていく。
それらはただ圧倒的な数で流れていくだけではない。『サイバーパンク2077』では、地域が変われば人々の生活様式や美意識がガラッと変わり、喋る言語も変化していく。
ゲーム中にはファッション性を重視した「KITSH」、必要最低限なミニマリズムを愛する「ENTROPISM」、機能性を追い求める「NEOMILITARISM」、そしてセレブ感溢れる「NEOKITSCH」の4種類のライフスタイルが、人々を個性豊かに染め上げている。
ジャンルとしてのサイバーパンクと言えば、クラブやカジノもつきものだろう。これらの施設を自由に遊ぶようなアクティビティが用意されていないのは残念だが、各所にはそういったお決まりのスポットも多数登場し、雰囲気は存分に味わうことができる。
こうして圧倒的な物量と複雑さでゲーム内で構築されていくのが、ナイトシティの住民である彼、彼女らがそこに“居る”という強烈な存在感だ。
なにを当たり前のことをと思うかもしれないが、ただそれらの存在を多彩かつ膨大に描かれることが、これほどまでに尊いと思えるなんて。これまでの主要なオープンワールドゲームと比較しても、ナイトシティは異常なまでに“真に迫っている”のだ。
ちょっとしたクエストで関係を持った登場人物と連絡先を交換し、やりとりすることもある。賭けボクシングで相手を打ち負かし勝利の報酬を奪い取ろうとしたら、「子供がもうすぐ生まれる」とか言うものだら、大目に見たシーンがあった。
後日、忘れたころに子供が生まれたという報告があり、あのとき「名前にVを付けようかな」とか調子に乗ったことを言ったなと思い出す。
こうやって、ほんの少しであるがナイトシティの住人の人生を垣間見ることによって、さらに“居る”という感覚が強調され、このゲームを立体的にしていく。
ここまで作り込まれていると、とにかく写真を撮りたくなってくるだろう。もちろん「フォトモード」もバツグンに楽しい。
ポーズや表情は豊富な上、「月に代わってお仕置きするポーズ」や「ゴトーを待つポーズ」など、細かなネタが散りばめられており、思うがままにVのイケてる写真やナイトシティの様子を写すことができる。
ただ、カメラの移動が若干ぎこちないほか、主観で写真を撮ろうとすると一切ズームが出来なくなってしまうため、コツが必要となってくる。フォトモードに入る前に画角を調整したりすればすぐに慣れるので、とにかくいじってみるのが一番だ。
また、この手のオープンワールドゲームでは「ラジオ」という存在は必須であろう。『ウォッチドッグス2』 では「Warp Records」の「ハドソン・モホーク」が多くの楽曲を提供し、作中では「エイフェックス・ツイン」や「メガデス」の楽曲を聴くことができた。
『サイバーパンク2077』も、もちろん例外ではなく、ラジオで聴くことができる楽曲数は豊富な上、痒いところに手が届くようなセンス抜群の選曲に脱帽だ。名前を上げればキリがないのだが、たとえば「ナマコプリ」という芸術家アイドルユニットが「Us Cracks」としてボーカルを担当している曲が登場する。
青春時代をアイドル現場に通うことで費やしていた筆者は「ロフト9などで観てたナマコプリの新曲が『サイバーパンク2077』で聴けるなんて!」と目頭を熱くした。
ジョニーがかつて所属していた「Samurai」と呼ばれるバンドの曲は、メタルコアっぽさを感じる曲で、この手のフィクションにおける古いメタルが1980年代以前から1990年代辺りに一回りアップデートしたような印象を受ける。
多くのオープンワールドゲームのラジオで流されるメタルは、ヘヴィーメタルやスラッシュメタルばかりで新鮮さを失いがちだったが、本作ではブラックメタル、ブルータルデス、マスコアなど、かなり攻めた選曲だ。
犯罪者を一掃してハックアンドスラッシュ!最強になるためのルーティン
本作の成長要素は従来のRPGと同じく経験値によって上昇する「レベル」が存在しており、レベルアップすると能力値ポイントとパークポイントを獲得することができる。このポイントを振り分けて自分のプレイスタイルを確立していく。
また「スキル」と呼ばれる成長要素は、武器やプレイヤーアクションの習熟度にあたる。銃器、近接武器それぞれでとにかくすさまじい種類が存在し、同じ種類の武器を使い続けることによって、より効果的に扱えるようになるのだ。
豊富なパーク、スキル、武器の中から自分で好きな組み合わせを作り戦闘に臨む。これらを全て試すのにどれだけの時間がかかるのだろうか。とにかく、好きなプレイスタイルを模索しているだけで時間はあっという間に過ぎてしまうだろう。
ゲームプレイとしてのナイトシティをさらに紹介するなら、本作では「ハック&スラッシュ要素」も魅力のひとつとなっている。
マップ上に表示される水色のアイコンが表示されている場所に向かうと、街の警察に協力したり犯罪グループを一掃するミッションが発生する。片づければ報酬が振り込まれ、レアリティの高い武器を手に入れることができる。
武器のレアリティは4段階に分かれており、もちろんレア度が高ければ高いほど武器の性能は良いため、自分好みの武器を入手するまでこの作業を繰り返すこととなるだろう。
ただ前述したように、自分のお気に入りのプレイスタイルを模索するため、さまざまな武器を試し打ち、試し切りしていくことになるので、単純作業のような感覚は少ない。
この行為自体がサブクエストに関連することもあるため、ただ強くなるために修行をしているわけではない。また武器以外にも、この世界の様子を知ることができるチップも手に入るため、この作業に飽きたらそちらを読むことに没頭してもよい。
犯罪者であれば問答無用に打ち殺して良いという、狂った倫理観の中でゲームを進めていくことになる。ナイトシティの傭兵稼業というものはそういうものだ。
会話での選択肢が重要となる快適なサブクエスト、「最適解がない」ことによるストレスフリー
そんなナイトシティでは、もちろんさまざまな事件や出来事が起きており、それらは「サブクエスト」という形で接することになる。
CD Projekt REDは、かつて『ウィッチャー3 ワイルドハント』を開発したデベロッパーでもあり、同作をプレイした人であればそれらのサブクエストですら重厚な作りとなっていることはわかるだろう。
ひとつひとつのサブクエストに登場人物が用意されており、メインクエストと見間違うようなシナリオが繰り広げられていく。サイバーパンク特有の世界や現代社会の問題をテーマにしたクエストももちろん存在している。
さらにサイドクエストでありながら、クエスト内で結果が複雑に絡みあい、メインクエストにも影響を与えていく。基本的に特定の重要人物から依頼され、それが一連の話として繋がっていく。ストーリーがいいところまで終わると、友情の証に車や武器をくれたり、「ラブロマンス」が発生することもある。
『ウィッチャー3』ほどクエストで各地への移動などでたらい回しにされることもなく、部屋での探索も比較的面倒ではないという点はありがたい。そもそも本作のクエストは探索というよりも、とにかく会話が重要視されている。そして選択によっては、重要人物を一瞬で殺すこともできてしまうためつねに緊張感が漂っている。
そんな選択肢があると聞くと、「最適解」を求める気質のプレイヤーは頭を抱え始めているかもしれない。なにかことが起きても、とにかく慎重に穏便に済ませ、誰もが利益を得る結末を見たい。そう思うプレイヤーは多く存在するだろう。私もそのような思考の持ち主だ。
しかし、本作ではそこにストレスを感じることは少ない。というより「全員と穏便に過ごすなんて甘い話はあるわけがない」と悟りの境地に達する。重要そうな雰囲気を一切出していないのにも関わらず、ほんの少し後回しにしてしまったせいで失敗に終わってしまうクエストも存在しているため、早い段階でわかることになるだろう。
誰かに肩入れすれば誰かが怒り、殺し合いに発展する。とにかくどんな行動や選択にも、“リスクとリターン”がつきまとう。だか世の中はそういうものだし、それでよいのではないか。
なお、現時点でのゲーム内の主要なアクティビティはクエストとハクスラのみ。これまで従来のオープンワールドゲームにおいては、アクティビティの多様さが評価されることも多かったが、それと比較すると本作ではストイックな設計となっている。
基本的に発生するイベントはナイトシティでの”ごたごた”に関連するものだけ。しかし、ほとんどがメインストーリーに関連するよう濃厚に描かれており、そこに物足りなさを感じることはないだろう。
ブレインダンスで視界をジャック、近未来の危ない娯楽
ゲームプレイにおいては、本作で重要な役割を持つ娯楽「ブレインダンス」も紹介しなければならない。
人間の記憶を感情や感覚まで含めて記録・編集し、ヘッドセットを用いて再生する高度なテクノロジーを利用したものとなっている。簡単に言ってしまえば「凄まじいVR」だろう。2077年時点ではかなりポピュラーな娯楽となっている。
スナッフビデオや犯罪の様子が映された違法なブレインダンスがギャングの稼業になっていて、もちろんそのために利用された人間はとてつもない精神的、肉体的ダメージを負うこととなり、最悪の場合死亡する。アラサカという大企業による搾取とはまた違うベクトルでの搾取がここでは描かれる。
また、他人の主観を簡単に再現し体験できてしまうという奇妙な感覚も忘れてはいけない。あくまで他人の主観であるために、下の画像のように顔がぼやけてしまう場合もある。
本作ではそんなブレインダンスを利用してクエストの謎を解いていくのだが、その探索パートは正直言って面倒であまり楽しいものではない。単調な作業で操作が分かりにくく、かといって派手な演出が施されているわけではないからだ。
本当にこれが2077年を代表するポピュラーな娯楽なのか心配になってくるが、重要なのはブレインダンスの面白さというよりも、なぜブレインダンスというモチーフが本作において意識的に使われているかである。
改造することのできない心、上書きされていく意識と失う自己
ここからは、シナリオの内容に踏み込んで本作のメインストーリーについて紹介していこう。本筋のネタバレを若干含むので、気になる読者はここで読むのを辞めて、来たるべきナイトシティでの生活に思いをはせて欲しい。
本作では「サイバーサイコ」と呼ばれる、改造しすぎた結果身体を壊してしまった人物のほかに、鬱によって心を壊してしまう人間たちが意図的に多く描写されている。
上記のブレインダンスの影響によって心を壊してしまう人物はもちろん、やりがいを失ってしまった元警官や、超有名なロックミュージシャンまでもがこの問題に直面する。
とあるシーンでは、「トラウマチーム」と呼ばれる医療団体に「自殺者が出た」と連絡するものの、後回しにされてしまう描写がある。つまりこの世界では自殺があまりにも多いため、いちいち相手にしていられないのだ。
唐突だが、「テセウスの船」というパラドックスをご存じだろうか。これは帝政ローマの思想家、伝記作家であるプルタルコスが語るギリシャの伝説である。
内容をざっくりと説明すると、いくつかのパーツでできた古い船を徐々に新しいパーツに置き換えていき、最終的に全てのパーツが新しいものに置き換わったとき、それは“元の船”と同じだと言えるのか、というものである。
このパラドックスは多くのフィクション作品にも使われており、手塚治虫の『火の鳥 復活編』を思い浮かべた人もいるだろう。
この作品では事故で脳みそをほとんど入れ替えられた主人公が、人間をガラクタとしか見ることができなくなり、逆に機械が美少女に見えるようになってしまうというストーリーだ。
前述したように、『サイバーパンク2077』で描かれているのもそういった「技術が進化したら起きうる問題」だ。たとえばゲーム内の世界には、デラマンというAIが運転するタクシーの組織が存在している。同組織をフィーチャーしたサブクエストは、自我を持ち始めたデラマンのタクシーたちを探して連れ戻すという内容となっている。
極度のエディケアコンプレックスを抱え自殺を試みるタクシー、フラミンゴの置物から“声”が聴こえてくると主張し怯えるタクシー、反逆し暴走するタクシーなど、それぞれAIなのにやけに“人間らしい”悩みを抱えている。
そしてメインストーリーにおいては、ジョニーは徐々にこの問題に別の角度から直面していくことになる。意識を持ち始めるAIに対し、明らかに自己の自由を失いつつあるVは、前述のサブクエストで逆に自由を得つつあるデラマンたちの手助けをしていく。
アラサカが開発するRelicとは、その問いかけを提示するためのガジェットとして考えても良いだろう。そしてアラサカが目指す「不死」の野望、Vとジョニーの関係はまさにテセウスの船のパラドックスと直面することとなる。
「Vの存在」と「自由度の高いオープンワールドRPG」、“FPS”で“見る”ことの意味とは?
「ロールプレイングゲーム」は文字通りロール(役割)をプレイするゲームのことを指す。ここ最近のオープンワールドタイプのRPG作品は自由度を維持しつつも、シナリオを強化しキャラクターの個性も確立させていっている。
それらの作品をプレイするたびに、ふと疑問に思うことがある。たとえば正義感にあふれるキャラクターを操作しているときに、道にいる人間たちを自由に殺害することができるが、「こいつがそんなことをするわけないだろう」という気持ちに駆られてしまう。
これは、自由度がある作品で物語を描きプレイヤーにロールさせるというオープワールドゲームの構造に介在する重大な欠点であると言えて、キャラクターを主軸とした物語が濃密になればなるほど大きくなっていく。
ここでは“ロールプレイの反転”、つまり「プレイヤーがキャラクターになりきって物語に入っていく」のではなく、「キャラクターがプレイヤーの分身になる」という現象が発生する。これによって、キャラクターは本来のゲームプレイでは重要となるはずのロールに反する行動を起こしてしまう矛盾が発生してしまうのだ。
自由度の高いオープンワールドRPGはやればやるほど、主人公はもはや入れ物でしかなくなってしまうのではないか、という疑問に対して『サイバーパンク2077』はひとつの視点を与えてくれる。
Relicを脳に挿入しジョニーに神経を上書きされてしまう様は、私たちプレイヤーがこのゲームを起動しVというキャラクターを操っていることと重なる。ゲームの冒頭ではVはたしかにVであった。しかし、Vの“意識”は物語の終盤になるにつれて薄くなっていく。肉体はVであるが、はたしてそれは本当にVだと自信をもって言うことができるのだろうか。
ラストはそのテーマに対してかなり示唆的なセリフをジョニーが残すので、ぜひ注目していただきたい。そしてここまで言っておいて身も蓋もないのだが、なにより恐ろしいのがこの考えは「私のプレイ」がこうである結果でしかないという点だ。
きっとエンディングは人によって受け取り方が違うだろう。なにを選択し、どのような態度でナイトシティやジョニーと接していたかによって、同じセリフでも全く違う解釈になるはずだ。
私のナイトシティでの体験は以上だ。正直まだ全体像が見えていない。50時間プレイしても“氷山の一角”しか姿を表さなかった。しかし『サイバーパンク2077』の世界と物語を最大限に体験するなかで、ストイックに洗練した要素、そしてテセウスの船を彷彿させるテーマは、オープンワールドRPGの総決算と言っても過言ではない片鱗を見せつけてくれる。
まだまだやり残したことはたくさんある。私もふたたびナイトシティでの生活を堪能することとしよう。
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