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イスラエルでは諜報局がゲーム産業に出資! インドでは『PUBG』が禁止されたあと、すったもんだで復活! 新興アジア諸国のゲーム産業・市場の実態【CEDEC 2021レポート】

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 2021年8月24日~26日に開催となった、ゲームに関わるすべての人のための技術講演イベント「CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2021」。

 本稿では開催3日目、8月26日に行われた「新興アジア諸国のゲーム産業・市場の現在:東南アジア、南アジア、中東」のレポートをお届けする。

 昨今、とくにインディーゲームにおいて、これまでゲーム開発ではあまり聞くことのなかった新興国に拠点を置くスタジオの手掛けたゲームが、日本でも好評を博し、話題となることが少なくない。

 このセッションは、日本から比較的近いはずなのになかなか内情を把握しづらい、新興アジア諸国のゲーム産業・市場に焦点を当て、「東南アジア」、「南アジア」、「中東」の3つの地域に分類して、その特色を解説。これらの地域に日本のゲーム産業がどのようなアプローチを取るべきかを示すものとなった。

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図1:本日のアジェンダ

 新興アジア諸国のゲームと聞いてもピンと来ない方が多いかもしれない。しかしインドネシアに拠点を置くToge Productionsが手掛けた話題作『コーヒートーク』が該当すると言えば、一気に実感が沸いてくる方もいるかと思う。本作のような日本や欧米のものとはひと味違うゲームが今後さらに増えていくとしたら、それはユーザーとしてもワクワクすることではないだろうか?

 講演者はルーディムス株式会社の代表取締役・佐藤翔氏。中東のゲーム業界団体に在籍していた経験を活かし、新興国のコンテンツ市場を10年近くに渡り現地にて調査。現在ではマーベラス主催の日本初となるゲーム産業インキュベーションプログラムの事務局長としても活動を行っている。

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図2:ルーディムス株式会社、佐藤翔氏について

 これからますます影響力を増していくであろう新興アジア諸国のゲーム事情を、少しのぞいてみよう。

取材・文:小林白菜


新興国のゲーム市場概況

 まずはアジアのみに留まらない新興国全体のゲーム市場の現在について説明する佐藤氏。

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図3:新興国のゲーム市場概況

 まず新興国全体の市場規模は、佐藤氏らが調査を始めた6年前と比べても、倍増しているとのこと。それでも、世界中の新興国のゲーム市場の売上を合計しても、約1兆8000億円。2020年度の日本国内のゲーム市場が約2億円なので、すべての新興国の売上を合わせても、先進国一国分と並ぶかどうか、といった規模なのだ。

 なお、世界人口2位にも関わらず、6年前のインドはほかの新興国と比べても市場規模が1ケタ少ないくらいだったという。これについては、後ほど理由の説明があった。

 市場規模の倍増には、新型コロナウイルス感染症の影響で、これまでゲームを遊ばなかったユーザーにもPCゲームやモバイルゲームが広まってきている背景もあるという。ただし、プレイの人口や総プレイ時間の増加と比べると、課金額はそこまでの伸びは見せていないのだとか。

 遊ばれているゲームは中国企業のものが圧倒的に多く、5割から、地域によっては7割ほどが中国産のタイトルなのだという。一見、中東の文化を取り入れた、現地で作られたように見えるゲームでも、中身は中国産というパターンも多いとのこと。

 ここまでのデータだけを見た限りでは、まだ新興国が魅力的な市場だという根拠には乏しいように思える。次に佐藤氏は、新興国の市場の真の価値を捉えるために、向き合わなければならない特殊な事情について掘り下げていった。

なぜ新興国か? 「3つの矛盾」に向き合う必要性

 佐藤氏によれば、これから新興国の「ゲーム」についてさらに考えを深めていく上で、押さえておきたい「3つの矛盾」というものが存在するという。

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図4:なぜ新興国か?「3つの矛盾」に向き合う必要性

 ひとつ目が「ゲーム」そのものの矛盾。新興国ではカジノなどの金銭のやりとりがある遊びと、ゲーム市場との違いが、多くの人の認識として先進国よりも曖昧なものになっているという。

 ふたつ目がニーズの矛盾。多くの新興国では、インフォーマル――要するに海賊版など、本来の権利者の利益にならないビジネスの規模が、フォーマル(正規)のビジネスを圧倒しているということ。

 3つ目はユーザーの矛盾。まだまだ市場規模的には優先される先進国だが、潜在的なユーザーが圧倒的に多いのは新興国のほう。佐藤氏は、ゲームの最新情報は英語など、先進国の公用語での発信が主であり、新興国の言語への対応が遅れていることへの大規模な抗議が以前にあったと実例を挙げた。こうした摩擦をどのように埋めていくかを考えなければ、ビジネスへの悪影響が出る恐れは大きいとした。

 これらを踏まえた上で、新興アジア諸国のゲーム市場・ゲーム産業にいまどのような変化が起きているのか――佐藤氏は地域別にその動向を明らかにしていった。

東南アジアのゲーム市場・産業

 まずはタイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど、東南アジアのゲーム市場・産業について。家庭用ゲーム市場も拡大しているものの、主流となっているのはモバイルゲームだという。

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図5:東南アジアのゲーム市場

 とくに人気のモバイルゲームは、バトロワゲーム『Garena Free Fire: パーティーの時間よ!』や、MOBA『モバイル·レジェンド: Bang Bang』など。いずれも日本でも遊べるタイトルだ。ほかにハイパーカジュアルゲームを楽しむユーザーも増えている一方で、ひとりでガッツリやり込むようなタイトルの人気はまだあまり出ていないという。

 ゲームに関するイベントも盛況。新型コロナウイルス感染症の影響で延期になったイベントもあるものの、シンガポールで開催された「Free Fire World Series」というeスポーツイベントは、ピーク時視聴者数が541万人に達したのだとか。これはeスポーツイベントとしては、世界的にも稀なレベルの規模だ。

 図5の左下にある円グラフは「Free Fire World Series」の総視聴時間を、言語別に分けたもの。最も多く、全体の1/4以上を占める青い部分はポルトガル語で、2番目に多い赤い部分はヒンディー語、3番目の黄色い部分はスペイン語とのこと。それ以降、インドネシア、タイ、ベトナム、アラビアと続き、英語は2%程度だという。新興国の非英語圏のeスポーツファンの規模が、相当大きなものであることが分かるだろう。

 これらの国で人気のタイトルでは、それぞれの文化圏のファンに楽しんでもらうための施策も盛んで、一例としては『Garena Free Fire: パーティーの時間よ!』にインドネシアで人気の俳優が操作キャラクターとして登場しているという(図5の中央下にある画像がこのキャラクター)。

 図5の右下の画像は、韓国とインドネシアの貿易協定の様子。二国の貿易品目の中にはオンラインゲームも入っており、政策面でもゲーム市場をバックアップしていることが分かる。

 新興国にとって、ゲーム産業を支援することは「IT産業新興」、「文化産業新興」、「起業家育成」とメリットが多く、政府や教育機関による育成・サポートプログラムが作られている国も増えているという。

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図6:東南アジアのゲーム産業

 その注目度は、新型コロナウイルス感染症の影響下にも強い産業ということで、ここ1年でますます高まっている。今年から始まったタイの「depa ゲーム・アクセラレータープログラム」は、その動きを象徴するプログラムのひとつだ。

 また、『コーヒートーク』のToge Productionsなど成功を収めた制作スタジオが、後発企業を支援するための基金をつくったり、パブリッシングの機会提供を行うなど、スタジオ同士の協力関係が築かれているのも東南アジアの特徴だという。

東南アジア発の注目のゲームタイトル

 そんな東南アジアで開発され、発売となった、もしくは今後発売される注目タイトルをいくつか紹介する佐藤氏。市場はeスポーツ的なタイトルやカジュアルなモバイルゲームが席巻しているものの、先の支援プログラムなどの要因もあって、開発に関してはそれらに囚われない独自性の高いものが増えてきているようだ。

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図7:東南アジア発の最近の注目タイトル

 図7の左上のタイトルはマレーシアのスタジオが現在開発中の『Midwest 90: Rapid City』。緻密に再現されたアメリカの中西部が舞台となっており、注目を集めている。

 中央上はSteamで早期アクセスが始まっている『大怪獣大決戦(Daikaiju Daikessen: Versus)』。タイのデベロッパーによる作品だ。タイ産のインディーゲームといえばロボットアクションゲームの『Project Nimbus : プロジェクト・ニンバス』もあり、日本文化の影響が大きい国柄なのかもしれない。

 右上はここまでにも何度か名前が挙がったインドネシア発の『コーヒートーク』。PC版のほか、Nintendo SwitchやPlayStation 4のパッケージ版も販売されているので、知っている人は多いだろう。

 左下の『Parakacuk Raise Your Gang』もインドネシアのスタジオによるタイトル。佐藤氏いわく「インドネシアの学校で『喧嘩番長』をやるゲーム」とのこと。国が異なれば、不良学生の日常もいろいろと違いがあるのだろうか? 気になるタイトルだ。

 中央下の『Pwal Kyam(プワルクヤン)』はなんとミャンマー発のMOBAだという。世界中で遊ばれている同ジャンルのタイトルと比べればまだクオリティには大きな差があるとのことだが、ミャンマー発のタイトルとしては過去の作品から大きく進化しているとのこと。ちなみにGoogle Playなどでダウンロードすれば、日本からでもプレイできるようだ。

 右下の『GNOME MORE WAR』はフィリピン発のカジュアルアクションゲーム。ノームといえばヨーロッパの妖精なのでフィリピンらしさはあまりないが、そこは日本で作られる西洋的なファンタジー作品と変わらないのかもしれない。

 このように、非常に多種多様なスタイルのゲームが開発されている東南アジア。もちろん、ここで紹介されているのはごく一部に過ぎず、現在は毎月複数の注目タイトルがリリースされているほどだという。

南アジアのゲーム市場・産業

 お次は、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカなど、南アジアのゲーム市場・産業について。この地域でとくに注目すべきは、やはりインドになるという。

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図8:南アジアのゲーム市場

 インド市場は前述の通り、ずっと伸び悩んでいる状況が続いていた。理由のひとつには、やはり映画をはじめ、ゲーム以外のエンタメがあまりに強かったこと。もうひとつ大きな壁となっていたのが、通信インフラの整備が遅れ、オンライン決済がなかなか普及しなかったことだという。

 通信インフラの整備が遅れた理由としては、通信キャリアの認可が地域ごとにバラバラで、結果としてキャリアが乱立。インド全土をカバーできるキャリアがずっと登場しなかったことが主な原因なのだとか。

 この状況が変わってきたのは、通信の規格が3Gから4Gになったとき価格競争が起き、多くのキャリアが淘汰されはじめたため。加えて、モディ政権が施行した「国民皆銀行口座プロジェクト」により、現金取引が中心だった社会が変化していったことも後押しになったという。

 そんなインドで圧倒的に流行ったゲームは『PUBG MOBILE』。しかし、サイバーセキュリティへの対策のため中国製アプリを禁止する政策により、Tencent Gamesが配信していた本作も遊べなくなってしまう。

 その後、本作は開発元である韓国のPUBG Corporationが自ら配信する形で『BATTLEGROUNDS MOBILE INDIA』(図8、左下の画像)として復活。復活後、5000万ダウンロードを達成している。復活の前後問わず、インドにおいて「ゲームといえばPUBG」というくらい圧倒的な人気を誇っているのは間違いないという。

 インドには20種類以上の公用語が存在し、それぞれに合わせたゲームのローカライズというのは現実的ではない。PUBGのインド版も基本的にインターフェースは英語となっているが、これをゲーム実況者がさまざまな言語を使って実況することで、言葉の壁を超え、インドのみならず南アジア全土にも本作が広がっているというのがこの地域の現状だという。

 ゲームの大きな流行自体がここ数年の話である南アジア。まったく新しい文化であることから、人々への悪影響を危惧し、特定のタイトルの禁止を求める政治家も出てきているという。佐藤氏は、彼らに歩み寄り誤解を解く姿勢も、これからのゲーム市場の発展のためには必要なのではないかという見解を示した。

 産業としての南アジアにおけるゲームは、これまでITのアウトソーシングビジネスの延長線上として、アメリカのエレクトロニック・アーツやアクティビジョンからインド企業への外注という形が中心だったとのこと。しかしこれもここ5年で変化しているという。

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図9:南アジアのゲーム産業

 5年ほどまえまでは、インド最大のゲームカンファレンス「The India Game Developer Conference(IGDC)」でも、欧米企業の外注による出展が多くを占めていた。国内の独自IPを展開するインディーデベロッパーもゼロではないものの、肩身が狭そうな印象だったとか。しかし、最近はその印象も逆転してきているという。

 また、eスポーツという言葉の意味するところが我々とはだいぶ異なっているのも南アジアの特徴だという。インド独自のeスポーツプラットフォームを名乗る『Mobile Premier League』は、我々の感覚ではeスポーツの定義に当てはまらないが、インド国内ではヒットし、新興アジア諸国に向けて国際展開も始まっているとのこと。

南アジア発の注目のゲームタイトル

 南アジアでも、東南アジアほどではないものの、新たなゲームが生まれてきているという。

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図10:南アジア発の最近の注目タイトル

 左上の『FAU-G: Fearless and United Guards』は、「ファウジー」というタイトルの響きからも分かる通り、『PUBG』(パブジーと呼ばれることも多い)のフォロワータイトル。しかし、クオリティとしてはまだまだ『PUBG』に並ぶとは言えない出来であるという。日本からでもダウンロードして遊んでみることは可能だ。

 右上の『Raji: An Ancient Epic』はインドの神話をモチーフにしたアクションRPG。グラフィックのクオリティも高く、Steamでの評価は「非常に好評」と上々だ。

 左下の『Lovely Planet』はキュートな世界観のカジュアルFPS。開発元のquicktequilaは、シリーズ最新作『Lovely Planet Remix』を、年内リリースに向けて開発中。

 右下の『Cricket Career: Super League』は、タイトルの通りクリケットを題材にしたゲーム。珍しいバングラデシュ発のゲームだという。

中東のゲーム市場・産業

 続いては、アラブ諸国、イラン、トルコ、イスラエル、カフカス諸国など、中東のゲーム市場・産業について。中東でゲーム市場の成長がとくに著しいのはアラブ圏であり、近年、サウジアラビアだけで1000億円の大台に乗ったとのこと。

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図11:中東のゲーム市場

 これは中国関連のゲーム会社の影響力が強いこと、Twitterや独自プラットフォームによるローカルなコミュニティマネジメントで収益を上げていることなどが要因だという。

 図11の右下にある『WIZZO』がまさにその独自プラットフォーム。プラットフォーム内のゲームで競い合い、ランキング上位になったプレイヤーは最新のスマートフォンなどがプレゼントされるチャンスがあるのだとか。

 アラブ圏以外の国で佐藤氏が注目しているのはイラン。2020年にイランで人気だったゲームは『あつまれ どうぶつの森』、『The Last of Us II』、『Ghost of Tsushima』、『Doom Eternal』、『Fall Guys』、『Among Us』だったという。意外と日本や欧米で人気のゲームがそのままイランでも親しまれているようだ。

 産業としても、さまざまな動きがある。最近話題となったのは、サウジアラビアの皇太子が立ち上げたMiSK財団(The Mohammed bin Salman Foundation)が、SNKの株式の大部分を取得したことだ。

 また、同じくサウジアラビアの公的投資基金も、エレクトロニック・アーツやテイクツー・インタラクティブ、アクティビジョンなどに巨額の投資をはじめている。こうした先進国のゲーム会社への新興国からの出資も、今後は増えていくかもしれないという。

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図12:中東のゲーム産業

 イスラエルも、インディーゲーム、スマートフォン用のカジュアルゲーム、eスポーツなどを中心としたゲーム関連ビジネスが、アメリカなどの投資を受けて拡大中。

 とくにおもしろい例として、佐藤氏は図12の中央の画像が何を示しているのか説明。こちらも東南アジアの項目で出てきたのと同様、ゲーム開発を支援するサポートプログラム。支援対象はイスラエルにいるアラブ人のゲーム開発者なのだが、スポンサーはなんとイスラエル参謀本部諜報局が率いる8200部隊なのだという。

 アラブ諸国とイスラエルは長年、宗教に端を発する対立が続いていたが、これが変化しつつある余波が、ゲーム産業にも影響を与えているということのようだ。

 また、トルコではカジュアルゲームによる大きな成功が続出しているという。この中核を担ったのはPeak Gamesという、『Toon Blast』や『Toy Blast』といったタイトルを手掛けた企業。この企業から転職したスタッフがほかの企業でさらにハイパーカジュアルゲームを開発するなどして、注目を集めているのだとか。

中東発の注目のゲームタイトル

 アラブ圏のゲームは地域内での市場先行型といった印象が強いと佐藤氏。世界に打って出る求心力としてはいま一歩という印象とのこと。今後政府の支援などが活性化して、クリエイティブなタイトルが増えることを期待したいとした。

 一方で中東全体で見れば独自性の高いインディーゲームは出てきているとのこと。佐藤氏が注目タイトルとして挙げたのは図13の5作品。

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図13:中東発の最近の注目タイトル

 左上の『Abo Khashem』はサウジアラビア発のオープンワールドRPG。サウジアラビアのディアボという地域の一区画を舞台にしているという。

 右上の『GRIME』はイスラエル発の2Dアクションゲーム。美麗なグラフィックも目を引く秀作で、日本語ローカライズも行われている。

 左下の『THE TRUTH』はアゼルバイジャンのスタジオが開発中のゲーム。「2020年ナゴルノ・カラバフ紛争」を題材とした社会派ゲームになりそうだという。トレーラーには「2020年11月8日、アゼルバイジャンのシュシャにおいて」という言葉が出てきており、実際の歴史では、この2日後に紛争は終わりを迎えている。

 中央下のタイトルは、『チルドレン・オブ・モルタ ~家族の絆の物語~』のタイトルで日本でも販売されているローグライクアクションRPG。法人登記はアメリカ・テキサスだが、クリエイターはイラン出身。世界で通用するタイトルを手掛けたということで、このクリエイターはイラン国内ではヒーローのような扱いを受けているとのこと。

 右下はトルコ発のカジュアルゲーム『Basketball Arena』。トルコといえば続編も早期アクセス中の戦略アクションRPG『Mount & Blade: Warband』が人気・評価ともに高いが、これ以降、カジュアルゲーム以外の人気作は出ていないというのが現状だという。

まとめ:新興国はどう変わったか、どう付き合うべきか?

 新興アジア諸国の現状をひととおり解説したところで、佐藤氏はまとめに入った。

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図14:新興国はどう変わったか、どう付き合うべきか?

 まず、正規・非正規に関わらず、新興国でもゲームはすでに生活の一部として浸透している。ここに現在、レーティング制度なども含めた秩序づくりの動きもやっと追いつき始めているというのが現状だ。ノウハウがある日本企業などが関わっていけば、秩序づくりがよりスムーズに行われていくのではないかとした。

 また、サポートプログラムなどのゲーム産業育成事業が、複数の地域で成功しはじめている。日本や欧米の場合はすでに大企業があり、そうした企業の方法論にならう施策が多い。新興国はすべてのゲーム産業がインディーゲームから始まっているようなもので、後発ならではの柔軟な発想だからこその成功も多いのが強みなのだという。

 最後に、先進国から新興国への投資だけではなく、新興国から先進国への投資もあり得る時代になってきている。はじめは簡単に利益には繋がらなくとも、「小さく始めて大きく育てる」つもりで関係を継続していくことが、先進国のゲーム産業としては重要なのではないかとし、講演を締めくくった。

ライター
ゲームメディアでアニメの話をしたりしている人。ゲームライターと名乗ってよいものか分からず、かといってアニメライターではない気がする。いい感じの肩書き募集中。両ジャンル追いかけるには人生はあまりに短い。ゲームは和・洋・大作・インディーなんでも楽しみ、アニメはとりわけ『アイカツ!』シリーズや『プリキュア』シリーズなど、女児向けのものを好む。
Twitter:@Kusare_gamer

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