ゲーム用のイヤホン・ヘッドホンを探してズブズブとオーディオ沼にハマって以来、ずっと考えていたことがある。
「ゲームを好きなイヤホン・ヘッドホンで、低遅延なワイヤレスで快適に遊びたい!」
もちろん、ゲーミングヘッドセットは真っ先に検討したが、ゲーミングデバイスという枠組みの中ではどうしても選択肢が限られる。
軽くて、長時間着けていても快適で、高音質かつ自分好みな音と、安定した低遅延を両立する……といった個人的な要求をかなえるのは難しかった。
また、Bluetoothヘッドホンでは、対応コーデックの違いに悩まされ、何よりも耳を塞がない開放型(オープンエアー)でワイヤレスのものはほんの一握りしかなく、ゲーム用途で求めるスペックを持つ製品はまだあまり無い。
そして、ああでもない、こうでもないと試行錯誤をしているうちに、気がついたらゲーム用という当初の目的は何処かへ消え去り、ただひたすらにリスニングのためのオーディオを追い求めて深淵なる沼にハマっていたわけだが……。
自分にとってのいい音を求める過程で出会った名機たち。いいDAC・アンプを通して聞けば最高の音で鳴らしてくれる。だがしかし、大きな問題がある。
ケーブルが邪魔すぎる!
そう、仕方がないとはいえ、とにかく有線であるがゆえに、ケーブルに繋がれて自由が利かないのは、ヒッジョ~~~に不便である。
そこで、原点に立ち返り、もう一度ゲームを快適に遊ぶための製品選びをすることに。
有線の最高にいい音を聴きながら、PCやゲーム機のある場所から開放されて自由に動きたい。席を立つたびに着脱するのが面倒なので、なんなら装着したままトイレに行けないだろうか……。
そんな怠惰で贅沢な悩みを抱えていたわけだが、ふと、
・低遅延コーデックに対応したクールでイケてるBluetoothアンプ
・低遅延コーデック対応のいい感じにグッドなオーディオトランスミッター
このふたつを組み合わせれば、この悩みは解決するのでは?と、思いついた。
そこで目をつけたのがiFi Audio「GO blu」とCreative「BT-W4」だ。
これらを組み合わせれば、ほとんどすべての機器を最新BluetoothコーデックのaptX Adaptiveでワイヤレス接続可能となる。
詳細はのちほどお伝えするとして、結論から先に言うと、“好きなイヤホン・ヘッドホン”で、“高音質かつ低遅延のワイヤレス接続”でゲームをするという目的は果たせた。
少々趣味性が高い方法ではあるものの、これがなかなかに実用的だったので、「好きな音で楽しみたいけど、ケーブルには繋がれたくない!」というアンチェイン(繋がれざる者)な人たちのために、せっかくなのでやり方をまとめてみたいと思う。
文/Leyvan
「GO blu」と「BT-W4」があれば、さまざまな有線イヤホン・ヘッドホンを低遅延ワイヤレス仕様にできる
夢のワイヤレスゲーミング環境を構築するにあたって、鍵となるのは、Bluetoothアンプの「GO blu」と、オーディオトランスミッター「BT-W4」のふたつ。
iFi Audio「GO blu」は、ジッポライターほどの小さなサイズにもかかわらず、モニターヘッドホンすら鳴らせるパワフルなBluetoothレシーバー(受信機)・アンプだ。
対応コーデックが幅広く、高音質かつ低遅延な最新コーデックのaptX Adaptiveに対応。また、極めて遅延が小さいaptX Low Latencyにも対応しているため、タイミングがシビアなゲームでも利用可能。
バッテリー駆動式で、連続再生時間は約8時間となっているが、実際に使用していると、それ以上にバッテリーの持ちがいいと感じる。また、しばらく使用せずに放置していても、放電による消費が少ないのもいい。
Creative「BT-W4」は、ゲーム機やPCのUSB端子に挿すだけで、簡単にBluetooth機器と接続できるオーディオトランスミッター(送信機)。こちらもGO bluと同じように、最新コーデックのaptX Adaptiveに対応している。
音声を出力したい機器のUSB端子にBT-W4を挿し、GO bluの電源を入れてペアリングすれば準備完了と、セッティングはきわめてシンプルだ。
ペアリングが完了すれば、「アプトエックス、アダプティーブッ!」とネイティブな発音で接続コーデックのアナウンスが流れる。複雑な配線で格闘したり、小難しい操作をする必要はない。
あとは、GO bluに繋いだイヤホン・ヘッドホンのケーブルを短くまとめて、GO bluをポケットにしまったり、ケーブルをピンで服に留めれば疑似ワイヤレス環境の出来上がりだ。
たったこれだけで、体の向きを変えるときにケーブルの位置や長さを気にしたり、携帯機から垂れ下がるケーブルにイライラすることがなくなり、ケーブル由来のストレスが大きく軽減される。
配線や細かい設定は不要!気軽に音声出力先を選べて、外への持ち出しも簡単
BT-W4は、PCやゲーム機に挿すと単独のオーディオインターフェースとして認識されるのがポイント。一度BT-W4とGO bluをペアリングすれば、あとはBT-W4をほかの機器にさしかえるだけでもかんたんに再接続できる。
これが非常に便利で、音声出力先の機器を変えるたびにいちいち配線を繋ぎ直したり、ソフトウェアでメニューを開いて再設定する必要がない。
たとえば、普段はPCに挿して使用し、PS5やSwitchのゲームを遊ぶときだけBT-W4を外してゲーム機に挿す、というような使い方ができる。
また、BT-W4とGO bluはどちらもコンパクトなので、外への持ち出しも楽チン。イヤホンやSwitchと一緒に持ち出して外出先で楽しむ、といったことも可能だ。
音ゲーやFPSなどは、aptX LL対応に対応した前機種「BT-W3」がおすすめ
ワイヤレスをゲーミング用途とするからには、避けて通れないのが遅延の問題だ。Bluetoothコーデックと音質、オーディオレイテンシー(遅延)の関係を、比較表でわかりやすくまとめてみたので、まずはこちらに目を通していただきたい。
ゲーマーが知っておきたいBluetoothコーデック比較早見表
コーデック | 音質 | 遅延 | 対応ゲームジャンル |
aptX Adaptive | ハイレゾ対応 (最大96kHz/24bit) | 小 (50~80ms前後※) | アクションでも遅延を感じにくい |
LDAC | ハイレゾ対応 (最大96kHz/24bit) | 大 (200ms以上) | RPG、ADVなど非アクションなら可 |
aptX LL | CD音質相当 (48kHz/16bit) | 最小 (40ms未満) | FPS、格闘ゲーム、音ゲーもいける |
aptX | CD音質相当 (48kHz/16bit) | 小 (70ms前後) | アクションだとやや遅延を感じる |
AAC | 高音質 (48kHz/16bit) | 中 (120ms前後) | Apple製品同士なら低遅延 |
SBC | 圧縮率が高く 低音質 | 大 (200ms以上) | RPG、ADVなど非アクションなら可 |
※可変ビットレート式のため、設定や通信状況によって音質・遅延の度合いが変動する
※遅延(レイテンシー)は使用デバイス、プロファイル、アプリなどにも依存するので、あくまでも参考値
一般的なBluetoothコーデックであるSBCでは、音の遅延は200ミリ秒以上といわれている。
これは、60fps動作のゲームだとすると、映像に対して12フレーム分、音が遅れることになる。時間にして0.2秒も音が遅れるとなると、ハッキリ言って、アクション要素のあるゲームではかなりツラい。
モンハンの回避性能スキルが付いた回避の無敵時間と同程度か、それ以上の時間が常にズレていることになる。ハナシにならない。
次に、Windows PCやAndroidスマホなどでよく使われるaptXは、70ミリ秒前後の遅延がある。SBCよりはかなりマシだが、それでも音が遅れているというのは多くの人が認識できるレベルだ。動画再生やRPGなどではそれほど気にならないと思うが、アクションゲームでは少々気になる。
そして、aptX Adaptiveで接続していれば、遅延はおよそ50~80ミリ秒(設定や通信状況によって変動する場合あり)となるので、通常のゲームプレイの範疇であるならほぼ気にならない。しかし、なんとなく遅延が発生していること自体は知覚できるといったところ。
とはいえ、タイミングがシビアなゲーム、特に音ゲーやFPSなどをプレイする場合は、このわずかな音のズレでもきびしいというのが正直なところだ。
これらのゲームをプレイする場合は、より遅延が少ないaptX Low Latency対応の「BT-W3」で接続するといい。こちらは遅延が40ミリ秒未満にまで抑えられており、音の遅れはよほどシビアに聞かない限りはほとんど意識しないだろう。
それでも遅延がゼロではないため、リズムゲームに関しては、ゲーム内オプションでノーツのタイミングを微調整するのが確実だ。
パワーが必要なヘッドホンでも大丈夫!ゲーム用にイイと思った機種を紹介
ワイヤレス化についての説明は以上となる。ここからは、実際にゲームで使用してみて、個人的にいいと感じたイヤホン、ヘッドホンをピックアップしたい。
オーディオテクニカ「ATH-R70x」
本体重量210gという軽さと、頭頂部を圧迫しないウイングサポートのおかげで装着感が素晴らしい。音に誇張や不自然な味付けがなく、低音はエネルギーに満ち溢れていて、音の定位がきわめて正確。
“どこから”、“どんな音が鳴っているか”をしっかりと聞き分けられるので、銃声や足音の方向、距離を確実に聞き取りたいFPS、敵の攻撃やギミックの予兆となるSEを聞き逃したくないMMORPGなどでパフォーマンスを発揮する。
聞き慣れた楽曲やゲームのサウンドでも、「この音、そんなところから鳴ってたんか……」と気付かされることが多々あるほど、音の解像度や原音再生能力が高い。それでいて、聴き疲れするような刺さりを感じないところもいい。
完全な業務用機器なのでインピーダンスが470Ωとかなり高く、性能を発揮するには出力の高いアンプが必要不可欠だが、GO bluなら十分にドライブできる。(もちろん、より駆動力のあるアンプに繋げれば、さらに精密で躍動感のある表現をしてくれる)
個人的に、音を正確に聴くためのツールとしては、もっとも快適で優れているヘッドホンなのでは?と感じている。
AKG「K701」
AKGの銘機「K701」をゲーム用ヘッドホンとして運用してみる。軽量かつ開放型で音抜けがよく、圧迫感が少ないので、長時間のゲームプレイもこなせる。
透き通るような中高域~高域が美しく、広々と響き渡る音で、『デス・ストランディング』のようなオープンワールド系など、明るく開放的な雰囲気のゲームと相性がいい。
インピーダンスは62Ωとそれほど高くないが、音圧感度が低いため、実はスペック以上に音量をとるのが難しい機種なのだが、GO bluの出力であれば実用レベルで鳴らせる。
2022年6月現在の国内販売価格は1万円台後半だが、値札を付け間違えているのかと思うほど音質がよく、コスパ機として魅力的だ。
『けいおん!』アニメ5話で秋山澪ちゃんが着用していたことから、「澪ホン」として一躍有名になった機種でもある。
beyerdynamic「DT880PRO」
DT990PRO、DT770PROとともに世界的に有名なドイツ製モニターヘッドホン。今なお「MADE IN GERMANY」であることにこだわり続けている製品で、見た目通りの実直な性能を持つ機種だ。
すべすべふかふかのイヤーパッドと、程よくフィットする形状、側圧で着け心地がよく、295gという実重量よりも装着感は軽く感じられる。
基本的な性質は先述の「ATH-R70x」と同じようにフラットなモニターヘッドホンだが、比較するとこちらの方が高音域がキラキラとしていて、やや金属的な響きを伴う。
メジャーなDT990PROも刺激的で楽しいヘッドホンなので、どちらを取り上げるか悩んだが、ドンシャリ傾向なDT990PROよりも、DT880PROの方がフラットな音質で聴き疲れしにくい。そのため、こちらの方がゲーム向きと判断した。
金属製のアームとハウジングでしっかりとした質感で、価格以上に造りがよく、手にとったときの満足感が高いのも愛される理由のひとつだろう。
水月雨(MOONDROP)「CHACONNE」
チタン合金で加工された筐体の美しさが目を引くインナーイヤー型(イントラコンカ型ともいう)のイヤホンで、密閉されないので耳が蒸れない。
とにかく明瞭で、どこまでも伸びる高音がひたすらに繊細で綺麗。低音は控えめなので、迫力を求めるゲームには向かないが、軽快な着け心地と驚異的な美音で長時間の使用が苦にならない。
音が漏れやすい構造なので、外での使用は音量に気を配る必要はあるが、自宅でゆったりとゲームをしたり音楽を聴くには非常にオススメ。
というか、あまりにも音がよすぎて、「この音が中古美品で20000円チョット?安すぎる!(金額そのものは安くない)」と思い、即ポチしてしまった。
ゼンハイザー「HD25」(カスタム品)
個人的に愛用しているゼンハイザー「HD25」を自作バランスケーブルでGO bluと接続。小型軽量で遮音性抜群、GO bluをヘッドバンドに固定して取り回しも良好な完全体となった。
密閉型で側圧が強いので長時間のゲームプレイには不向きだが、外部の音を遮断して1~2時間ほど集中的に使いたいときには役立つ。
DJ向けモニタリングヘッドホンというだけあって、低音の表現にキレとスピード感があり、リズムにノリやすい。BGMが魅力的なゲームや音ゲーをプレイするときなどはついHD25に手が伸びる。
ほとんどワイヤレスヘッドホンと変わらない使い心地で、外出先でも快適に使えるが、配線むき出しの物々しい見た目が人目を引くので、屋外使用は勇気が要る……。
有線の楽しさとワイヤレスの便利さを両方味わえる
まだまだほかにも紹介したいイヤホン・ヘッドホンはあるのだが、今回はひとまずここまでとしたい。
紹介したヘッドホンを見てもわかるとおり、GO bluはこんなに小さな筐体にもかかわらず、普通のDAP(ポータブルオーディオプレーヤー)や、スティック型DAC・アンプでは鳴らしにくいようなヘッドホンも鳴らせるパワーがある。
そのうえで、小型で取り回しがよく、有線イヤホン・ヘッドホンにワイヤレスの快適さをプラスしてくれる、夢のある製品だ。
BT-W4も、対応機器の少なさが泣きどころだったaptX Adaptiveをさまざまな機器で利用可能にしてくれる素晴らしいガジェット。
aptX Adaptive対応の完全ワイヤレスイヤホンをPCやゲーム機でフル活用したい場合などにも出番があるので、今回のようなゲーミング用途以外にも、幅広い用途で活躍してくれる。
さまざまなワイヤレスオーディオ、有線オーディオ、DAC、アンプなどに手を出してみて実感しているのは、当たり前なことではあるが有線には有線の良さ、ワイヤレスにはワイヤレスの良さがあるということだ。
純粋な高音質や、自分好みの音質を追求すると、やはり有線のメリットは大きい。そして、イヤホン・ヘッドホンの性質とDACやアンプの音色を組み合わせて味付けする楽しさは、ワイヤレスでは味わえない。
一方で、ワイヤレスはなんといっても手軽である、便利であることがきわめて大きな利点だ。そのうえ、近年の完全ワイヤレスイヤホンの進化はめざましい。
最新の完全ワイヤレスイヤホンは、もはやミドルクラスの有線イヤホンとそう変わらないほど音がいいと、個人的には感じている。
GO bluとBT-W4(BT-W3)は、そんな有線の楽しさ・音質の素晴らしさと、ワイヤレスの手軽さ・便利さをイイ具合にブレンドしてくれる。
いずれにしてもオーディオライフ、ゲーミングライフを豊かにしてくれること間違いなしのアイテムなので、少しでも興味をひかれた人は、機会があれば店頭などでぜひチェックしてみてほしい。
もしかしたら、あなたのゲーミング環境やリスニングスタイルに、新たな扉が開くかもしれない。
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最高のゲーム用ヘッドフォンを求めて──いたらオーディオ沼(初級)にハマった話。 総額100万円以上のさまざまな機器を渡り歩いたすえにたどり着いたのが、30年以上前からの名機『HD25』だった約1年以上にも及び、総額100万円以上をかけて、ヘッドフォン、イヤフォンなどのさまざな機種を渡り歩いたすえに、30年以上前に発売され、今なお生産され続けている名機『HD25』というヘッドフォンにたどり着いた。