11月6日はホラーゲーム『SIREN』が発売された日だ。
PS2向けに初代『SIREN』がリリースされたのは、2003年11月6日のこと。当時のソニーコンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)より発売されたホラーゲームで、“昭和78年”の日本を背景とし、さまざまな神話や伝承を土台に作り込まれた独特の雰囲気を持ち味としている。
ディレクターを外山圭一郎氏、シナリオを佐藤直子氏がそれぞれ担当しており、両名とも『サイレントヒル』などを手がけたことで知られる。全体的な雰囲気には和製ホラー作品のドラマや映画からの影響が多く見られ、土着的なホラー演出や群像劇形式の構成などを特徴としている。ゲーム的な難易度も高く、そういった要素もあいまってキャッチコピーである「どうあがいても、絶望 。」は非常に有名だ。
初代『SIREN』では架空の寒村「羽生蛇村」を舞台に“赤い水”によって「屍人」(しびと)と呼ばれる怪物になってしまった村人たちから逃げ、隠れながらシナリオを進めていく。
プレイアブルキャラクターの多くは戦闘の訓練などを受けていない一般人であり、使用できる武器も鉄パイプなど日本でも手に入るようなもののみ。そのため、立ちはだかる敵をすべて倒して突破する、というスタイルが取り辛く、屍人との遭遇を避けることが求められるゲーム性は高い緊張感を生み出した。
本作特有のシステムで、『SIREN』の代名詞のようにも語られる「視界ジャック」はその名の通り、一時的に他人の視覚と聴覚を乗っ取る能力。自分以外の視点から周囲を見渡すことで戦闘を避けたり、攻略の糸口を掴んだりすることにつながる。
敵の位置や行動パターンを把握し、周囲の状況を把握しながら進む本作ならではのゲームプレイを作り上げている重要なシステムと言えるだろう。
上述の通りストーリーは複数の人物の視点から描かれていき、あるキャラクターの行動が別のキャラクターのシナリオに影響する場合もある。ストーリーを攻略し、屍人となってしまった人物の過去などを記した「アーカイブ」を集めることで深く作り込まれた物語を覗きこめるような構成となっており、謎に満ちたその世界は今なお多くのファンを惹きつけてやまない。
直系の続編である『SIREN2』は、同じくソニー・コンピュータエンタテインメントから2006年2月9日に発売された。「視界ジャック」も引き続き採用されており、過去の出来事を見たり、ジャックした相手を操ったりとキャラクターごとにバリエーションが追加。新たな戦略性を生み出している。
ストイックさが目立っていた初代『SIREN』とは異なり、序盤のステージではチュートリアルが用意されるなど遊びやすさを向上させる調整が行われている。舞台となるのは、ある事件から一夜にして無人島になってしまった日本近海の離島「夜見島」。群像劇風の構成や豊富なアーカイブが織りなすリアリティあふれる世界設計も受け継ぎ、“昭和”の雰囲気を表現したシナリオを描いた。
また『SIREN2』では敵が所持していた武器を倒して奪うことができるようになったため、初代『SIREN』ほど逃げる、隠れるといった行動が重要視されない。近接武器でもコンボが可能、ストーリー的にも自衛隊員が登場するなど、初代『SIREN』と比較して戦闘要素を重視した構造へ変化を遂げた。
『SIREN2』ではゲームのみならず、映画『サイレン 〜FORBIDDEN SIREN〜』やマンガ『サイレン 〜ETERNAL SIREN〜』といったメディアミックス展開も行われている。
その後、2008年7月24日には第3作にあたる『SIREN:New Translation』がPS3向けに発売。『SIREN』と同じく「羽生蛇村」を舞台とし、シナリオも初代作の登場人物を一新して再構成する形を取った。タイトルの「New Translation」(=新約)が意味する通り、初代『SIREN』の海外向けリメイク的な立ち位置とも語られる。
ストーリーは一本化され、全体が12のエピソードに分かれた構成へと変更。各エピソードにオープニングと次回予告が挿入されるなど、海外ドラマ風の演出が取り入れられている。またスタミナ制の廃止やダッシュ攻撃、フェイタルムーブの追加など戦闘面でのアクション性が強化されている。
『SIREN』のゲームとしての展開は『SIREN:New Translation』が最後となり、その後14年以上にわたって新作タイトルなどの発表は行われていない。
ゲーム以外のメディアミックス展開における代表的な作品としては、2014年に連載を開始したマンガ『SIREN 赤イ海ノ呼ビ声』が挙げられる。本作は残念ながら、作者の神尾亘氏の体調不良を理由にコミック第1巻のみの発売で終了してしまった。
その後、2018年には作画を浅田有皆氏が担ったマンガ『SIREN ReBIRTH』が初代『SIREN』の15周年を記念して連載された。こちらは2021年に発売された第8巻をもって無事に完結を迎えている。
同じく2018年には東京・中野ブロードウェイにて入場無料の展示イベント「『SIREN』誕生15周年記念特別企画 墓場の画廊『SIREN展』」が開催され、大きな盛り上がりを見せた。開催当時からすでになかば休眠状態ともいえる作品でありながら、なお熱狂的な人気を保ち続けていることがうかがえるエピソードである。
記事執筆時点の2022年においてもその人気は衰えておらず、8月3日には初代『SIREN』にて現世と常世の間にある「異界」へ迷い込む「異界入り」のアナウンスがプレイステーション公式Twitterアカウントにて行われた。同年には主人公のひとり「須田恭也」を演じた俳優の篠田光亮さんを中心に非公式ファンイベントが開催されるなど、8月3日は『SIREN』を愛するユーザーの間で記念日のような存在になっている。
2022年8月3日 0:00
— プレイステーション公式 (@PlayStation_jp) August 2, 2022
今年は「SIREN in NAMJATOWN」から、異界入りをお知らせします。#SIREN #SIREN2022 #異界入り #異界入り2022 #SDK pic.twitter.com/uCmknGey8x
また同じく2022年の7月から8月にかけては、バンダイナムコアミューズメントが運営する屋内型テーマパーク「ナンジャタウン」にてコラボレーションイベント「SIREN in NAMJATOWN」が開催。屍人(半屍人)との写真撮影が楽しめるフォトアトラクションや、「アーカイブの入手」をモチーフにした園内回遊型のラリーゲームなどが展開された。
グッズやフードの販売も行われ、なんと「赤い水」を表現したドリンクや、初代『SIREN』の舞台である羽生蛇村の名物「羽生蛇蕎麦」を味わうことができた。“輪ゴムのような麺”にパイナップルやキムチ、苺ジャムがあわさった羽生蛇蕎麦のお味については、ぜひ以下の関連記事を参照されたい。
初代作の発売から19年が経過し、ゲームとしては14年ほど動きがないにもかかわらず、今なお強い人気を保ち続ける『SIREN』シリーズ。そのディレクターを務めた外山圭一郎氏は現在、自ら立ち上げたBokeh Game Studioにて『野狗子: Slitterhead』(野狗子は「やくし」と読む)を制作中である。
同作の詳細はまだ明確にされていないものの、アジアを舞台としたホラーゲームとなることは予告されている。『SIREN』シリーズの今後の展開はもちろんのこと、『野狗子: Slitterhead』にも注目していきたいところだ。