韓国のゲーム会社NEOWIZ社による新作ソウルライクRPG『Lies of P』(偽りのP)。11月17日より開催された韓国のゲームショウ「G-STAR 2022」にて、本作が出展されました。
本稿では「G-STAR 2022」会場にて開催された、『Lies of P』アートディレクターのノ・チャンギュ氏による講演をお届けします。
取材・文/実存
「奇妙だが、美しい」というコンセプト
『Lies of P』の企画が動き始めた当初、「ソウルライクにしよう」とだけは決まっていましたが、ほかは何も決まらず漠然としていました。
ノ氏ははじめ、氏の好きなSFジャンル──『ブレードランナー 2049』や『ウエストワールド』、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』といった、人間の本質に迫るようなテーマを取り入れようとしていました。
そんなときに出会ったのが童話『ピノッキオの冒険』。人間のモラルを問う、風刺的な物語はノ氏の考えるテーマにピッタリでした。
しかも、ちょうど同じタイミングで本作プロデューサーのチェ・ジウォンさんが同じく『ピノッキオ』を題材とした企画書を持ってきたとのこと。それに運命を感じたノ氏は、『Lies of P』のモチーフを『ピノッキオ』とすることに決めました。
『ピノッキオ』をモチーフとするうえで課題だったのは、原作をどうやって現代風に再解釈するか、というものでした。
そこでノ氏がたどり着いたのは、同じく19世紀にフランスで起こった「ベル・エポック」のスタイル。
「科学が全てを解決する」という楽観的で雰囲気をまといながら、一方で暗く退廃的な側面をもつこのスタイルに、「サイエンス/スチームパ」のスパイスをひとさじ。
こうして、「奇妙だが、美しい」というコンセプトのもとに、『Lies of P』は「ベル・エポック・パンク」と呼ばれるビジュアルスタイルを目指すことになりました。
ゴシックホラーとサイエンスが融合する「ベル・エポック・パンク」というスタイルが参考にしたのは、『フランケンシュタインの怪物』、『スリーピー・ホロウ』、『パンズ・ラビリンス』、『クリムゾン・ピーク』、『スチームボーイ』、『プレステージ』といった映画や、『バイオショック』、『ディスオナード』といったゲーム作品など。
「ベル・エポック・パンク」の建築物ではオスマン/ロマネスク/バロック様式から、ロマンティックながらも暗く重い雰囲気を取り入れています。
また19世紀の暗い部分として、仕事を奪われた労働者が機械を打ち壊した「ラダイト運動」や、見世物小屋としてのサーカスといった要素のイメージを散りばめているそうです。
印象的なキャラクター造形
続いて、『Lies of P』のキャラクター造形について。
主人公となる「P」は「奇妙だが美しい」の「美しさ」の部分を象徴するのがコンセプトとなる美少年に。
そして原作でピノッキオを制作したゼペットじいさん(Giuseppe Geppeto)は、本作でも重要な人物のひとり。ちなみに、ノ氏の義父はスペイン-ユダヤ系の人物で、ゼペットじいさんの造形のモデルになったとのこと。
ほかにも、原作『ピノッキオ』の冒険に登場するキャラクターたちも続々登場。いずれも『Lies of P』の世界観にマッチするよう脚色されています。
たとえば、原作でまだ丸太だったピノッキオを最初に見つける「アントニオ」は、鋭い眼光が目を惹く素敵なマダムに。女性としたことで、名前も女性風に「アントニア」としています。
サーカス団長は恐ろしいクリーチャーに。原作ではプレゼントを集めているカゴが、『Lies of P』では死体を集める鉄のカゴに様変わり。
棺を運ぶ4匹の黒うさぎは、「BlackRabbit Brotherhood」というウサギ風のマスクをかぶる4人組のキャラクターに。異形マスクフェチの筆者としては大変興奮するデザインです。
コントラストが高く、重厚感のあるビジュアル
全体的なビジュアルについては、「Bleach Bypass/ENR現象技法」というスタイルを用い、コントラストが高く重厚感のある雰囲気を描き出しています。
また、昼/夕/夜の時間の変化や、晴れ/雨の天候の変化も取り入れ、ダークで退廃的な雰囲気をさらに緻密なものとしています。下記の画像のように、「晴れの日の昼」でもこれほど薄暗くて陰気な感じが出るのか!と驚くほどです。
そうしたいろいろな表現技法を適用した、実際のゲーム画面がこちら。
煙が光に反応するようにしたり、夕日に映えるような光表現にこだわったり。ノ氏は、ここまで忠実に19世紀らしさを表現したのは、韓国では『Lies of P』が初めてではないか、と自信をもって語っていました。
そんな『Lies of P』は2023年内に発売予定。日本語は字幕対応がなされる予定です。
なお、電ファミではG-STAR2022で開催された試遊プレイレポート、ならびにプロデューサーインタビューも掲載しています。ぜひこちらも合わせてご覧ください。