いま読まれている記事

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話。「奇妙だが、美しい」をコンセプトに作られたビジュアル「ベル・エポック・パンク」とは

article-thumbnail-221119a

 韓国のゲーム会社NEOWIZ社による新作ソウルライクRPG『Lies of P』(偽りのP)。11月17日より開催された韓国のゲームショウ「G-STAR 2022」にて、本作が出展されました。

 本稿では「G-STAR 2022」会場にて開催された、『Lies of P』アートディレクターのノ・チャンギュ氏による講演をお届けします。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_001
ノ・チャンギュ氏。NEOWIZの開発スタジオ「Round 8 Studio」に所属。ゲーム業界に入って19年目になるという

取材・文/実存


「奇妙だが、美しい」というコンセプト

 『Lies of P』の企画が動き始めた当初、「ソウルライクにしよう」とだけは決まっていましたが、ほかは何も決まらず漠然としていました。
 ノ氏ははじめ、氏の好きなSFジャンル──『ブレードランナー 2049』『ウエストワールド』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』といった、人間の本質に迫るようなテーマを取り入れようとしていました。

 そんなときに出会ったのが童話『ピノッキオの冒険』。人間のモラルを問う、風刺的な物語はノ氏の考えるテーマにピッタリでした。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_002

 しかも、ちょうど同じタイミングで本作プロデューサーのチェ・ジウォンさんが同じく『ピノッキオ』を題材とした企画書を持ってきたとのこと。それに運命を感じたノ氏は、『Lies of P』のモチーフを『ピノッキオ』とすることに決めました。

 『ピノッキオ』をモチーフとするうえで課題だったのは、原作をどうやって現代風に再解釈するか、というものでした。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_003
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_004
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_005

 そこでノ氏がたどり着いたのは、同じく19世紀にフランスで起こった「ベル・エポック」のスタイル。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_006

 「科学が全てを解決する」という楽観的で雰囲気をまといながら、一方で暗く退廃的な側面をもつこのスタイルに、「サイエンス/スチームパ」のスパイスをひとさじ。
 こうして、「奇妙だが、美しい」というコンセプトのもとに、『Lies of P』は「ベル・エポック・パンク」と呼ばれるビジュアルスタイルを目指すことになりました。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_007
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_008
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_009
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_010
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_011
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_012

 ゴシックホラーとサイエンスが融合する「ベル・エポック・パンク」というスタイルが参考にしたのは、『フランケンシュタインの怪物』『スリーピー・ホロウ』『パンズ・ラビリンス』『クリムゾン・ピーク』『スチームボーイ』『プレステージ』といった映画や、『バイオショック』『ディスオナード』といったゲーム作品など。

 「ベル・エポック・パンク」の建築物ではオスマン/ロマネスク/バロック様式から、ロマンティックながらも暗く重い雰囲気を取り入れています。

 また19世紀の暗い部分として、仕事を奪われた労働者が機械を打ち壊した「ラダイト運動」や、見世物小屋としてのサーカスといった要素のイメージを散りばめているそうです。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_013
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_014
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_015
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_016
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_017
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_018

印象的なキャラクター造形

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_019

 続いて、『Lies of P』のキャラクター造形について。
 主人公となる「P」は「奇妙だが美しい」の「美しさ」の部分を象徴するのがコンセプトとなる美少年に。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_020
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_021
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_022

 そして原作でピノッキオを制作したゼペットじいさん(Giuseppe Geppeto)は、本作でも重要な人物のひとり。ちなみに、ノ氏の義父はスペイン-ユダヤ系の人物で、ゼペットじいさんの造形のモデルになったとのこと。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_023
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_024
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_025
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_026
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_027

 ほかにも、原作『ピノッキオ』の冒険に登場するキャラクターたちも続々登場。いずれも『Lies of P』の世界観にマッチするよう脚色されています。

 たとえば、原作でまだ丸太だったピノッキオを最初に見つける「アントニオ」は、鋭い眼光が目を惹く素敵なマダムに。女性としたことで、名前も女性風に「アントニア」としています。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_028
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_029

 サーカス団長は恐ろしいクリーチャーに。原作ではプレゼントを集めているカゴが、『Lies of P』では死体を集める鉄のカゴに様変わり。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_030
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_031

 棺を運ぶ4匹の黒うさぎは、「BlackRabbit Brotherhood」というウサギ風のマスクをかぶる4人組のキャラクターに。異形マスクフェチの筆者としては大変興奮するデザインです。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_032
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_033

コントラストが高く、重厚感のあるビジュアル

 全体的なビジュアルについては、「Bleach Bypass/ENR現象技法」というスタイルを用い、コントラストが高く重厚感のある雰囲気を描き出しています。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_034
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_035
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_036

 また、昼/夕/夜の時間の変化や、晴れ/雨の天候の変化も取り入れ、ダークで退廃的な雰囲気をさらに緻密なものとしています。下記の画像のように、「晴れの日の昼」でもこれほど薄暗くて陰気な感じが出るのか!と驚くほどです。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_037

 そうしたいろいろな表現技法を適用した、実際のゲーム画面がこちら。

童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_038
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_039
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_040
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_041
童話『ピノッキオ』×『ブラッドボーン』なソウルライク『Lies of P』のアート開発秘話_042

 煙が光に反応するようにしたり、夕日に映えるような光表現にこだわったり。ノ氏は、ここまで忠実に19世紀らしさを表現したのは、韓国では『Lies of P』が初めてではないか、と自信をもって語っていました。


 そんな『Lies of P』は2023年内に発売予定。日本語は字幕対応がなされる予定です。
 なお、電ファミではG-STAR2022で開催された試遊プレイレポート、ならびにプロデューサーインタビューも掲載しています。ぜひこちらも合わせてご覧ください。

デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ